6月下旬の梅雨明けと引き続く暑夏について
(PART II:大気循環偏差)

2022.6.30                                  Part Iはこちら

 Part Iでは、夏の天候予測についてご紹介しました。このページでは、6月下旬の海洋や大気循環の様子を見ていくことにします。まず、熱帯の海面水温ですが、引き続き太平洋ではラニーニャ的状態(西太平洋で暖水偏差、東太平洋で冷水偏差)、またインド洋ではスマトラ沖の東インド洋で暖水偏差、ソマリア沖の西インド洋での冷水偏差(つまり負位相のインド洋ダイポールモード)が発生していることが読み取れます。

 次に、雨量(対流活動)の増減、対流圏上層(200hPa)の高度場の様子を確認します。下図(2枚目)の青の陰影は、平年よりも雨が多いことを示しています(厳密には外向き長波放射量[OLR]から推定)。これを見ると、上図の海面水温が平年よりも高い領域、特にインドネシアからニューギニアにかけて対流活動が活発になっています。一方、フィリピンの東方海上の西太平洋では広く降水が抑制されています。

                                                 

                                                             iTacs利用での描画

 ラニーニャ時には、統計的には西太平洋上で対流活発化することが期待されますが、今年の場合は東インド洋から海洋大陸にかけての対流活発化によるWIEDメカニズム(Xie et al. 2009;Part IスライドNo. 4参照)によって対流活動が抑制されていることが考えられます。実際に、対流圏下層(1000hPa)の循環を見ると、日本の南の海上での亜熱帯高気圧の強化が見て取れます(下図2枚目)。

シルクロード202206

                                            

                                                            出典:TCC

 話を一旦、上図に戻します。対流圏上層の高度場の偏差を見ると、アラビア海の北から日本にかけて、H、L、Hという波列が確認できます。波の活動度フラックス(ベクトル)も顕著に確認できることから、シルクロードテレコネクションと呼ばれるロスビー波束の伝播が生じていることがわかります。

                                                             出典:TCC

 結論:盛夏期に向けては、熱帯インド洋・太平洋での水温偏差に起因した、対流活動による大気の熱源応答により、熱帯西太平洋上では高気圧性循環が強化される傾向にあり(註参照)、これに加え、6月下旬に発現したシルクロードテレコネクションが日本付近の上層高気圧を強めたことが、チベット高気圧(メカニズムの観点から近年は南アジア高気圧と呼ばれている[Ueda et al. 2022; JC])、と小笠原高気圧が組み合わさった順圧的な高気圧の形成要因と考えられます。

(註:西太平洋上の亜熱帯域では、赤道から離れるため前述のケルビンWIEDメカニズムでは高気圧性循環の強化が説明できないので、他の説明が必要になります。プレリミナリーな解析では、西太平洋の広域での偏東風の強化に伴う発散場の形成が鍵のようで、その背景にはインド洋での季節内振動(BSISO)の北進に伴う西太平洋上での偏東風の強化が関連しているようです)

 今後の展開:日本の南海上の亜熱帯高気圧(サブハイ)は、令和2年7月豪雨時、令和3年の8月の大雨「もどり梅雨(私が勝手に呼んでいる)」の時も出現していましたが(Ueda et al. 2021; SOLA同解説ページ)、この時のサブハイの位置は、今年よりも南にシフトしていたため、サブハイの西側を迂回するように大量の水蒸気が日本付近に流れ込み、大雨となったことが複数の研究で明らかになっています(詳細は同解説別ページ)。

 つまり、このサブハイの位置が南にシフトする、言い換えると弱まるタイミングで、豪雨が発生する可能性もあり、今後猛暑と大雨に引き続き警戒が必要とみています。

 短時間での執筆につき、乱文お許しください。

 文責:植田宏昭

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