平成29年夏の天候について

2017.08.17

今年の夏は雨が多く、関東では8月に入ってから雨が続き、このHPを書いている8/17時点でも、夏らしい天候とは言えない状況が続いています。日本の夏の天候は、主に(1) 中緯度に卓越する偏西風の変動(シルクロードパターンと呼ばれる定常ロスビー波)、(2)オホーツク海高気圧の張り出し、(3)熱帯の対流活動に伴うテレコネクション(*PJパターン)によって規定されます。ここでは、専門としている熱帯からの視点(3)から解説を試みます。

まず、日本の天候の観測記録を見ていきましょう。図1は、過去1ヶ月間の気温、降水量、日照時間の平年との違いを比率で示したものです。気温や降水量は地域による違いが見られますが、日照時間は全国的に平年より少なくなっていることが読み取れます。


図1 気温、降水量、日照時間の平年差・比(前4週間)(Source;気象庁)


次に、PJパターンを引き起こす熱帯の対流活動に着目します。図2は、人工衛星によって観測されたOLR(外向き長波放射量)と呼ばれる対流活動(雲・降水活動)を示す指標の平年からの偏差を示しています。詳細は省きますが、OLRの値が大きい雨が少ないという関係があるとお考えください。大きいOLRの値は、黄色系で示されています。

PJパターンを励起する西太平洋、とりわけフィリピンの東方海上の対流活動を見ると、暖色系の正偏差が120Eから日付変更線まで10-20Nの緯度帯で確認されます。これは、PJパターンが発生していないことを示すもので、そのことと日本付近の低気圧性の循環偏差(≈長雨)とは整合的な関係にあります。


図2 OLRの平年からの偏差(2017.7.17-8.15)(Source:NOAA)


もう少し噛み砕いて説明します。図3の模式図は、PJパターンが励起された時の様子を示しています。フィリピン東方海上での雲活動が活発化すると、その影響で日本付近の高気圧性循環が強化されていることが描かれています。この夏の状況は、端的に言うと、このPJパターンの大元となる熱帯の対流活動が弱いことと矛盾していません。少し奥歯に物が挟まった言い回しになったのは、冒頭で触れた(1), (2)の寄与については、まだ調べていないからです。しかし少なくとも、熱帯からのPJ強制が弱いということは現時点で明瞭に確認されます。


図3 PJパターンの模式図 (Nitta 1987)


次に、熱帯の対流活動を規定する海面水温の様子を確認します。同じ期間の海面水温偏差(図4)を見ると、赤道域では西太平洋で若干水温が高い状況ですが、気象庁発表のエルニーニョ監視速報(2017.87.10付)でも明記されているように、現在は「エルニーニョでもラニーニャでもない通常の状態」となっています。


図4 海面水温の平年からの偏差(2017.7.17-8.15)(Source:NOAA)


近年注目されているインド洋も含めて、各海域での海面水温の推移を確認すると(図5)、2015-16のエルニーニョが終息した後は、平年に近い状態が続いており、インド洋の昇温(エルニーニョから数ヶ月から半年遅れ生じる現象;Capacitor効果[Xie et al. 2009; JC])も起きていないようです。


図5 各監視領域における海面水温偏差の推移(Source;気象庁)


【まとめ】

このところの天候不順について、熱帯からのPJ強制という視点で見ると、少なくとも猛暑を引き起こすPJパターンはここ1ヶ月は確認できず、そのことと、広く日本付近を覆う低気圧性の循環場は整合的な関係にあります。ただし、フィリピンの東方海上の海面水温は高い状況にあるので、今後、その領域での対流活動が活発化することも考えられます。その場合には、残暑という形で日本付近にシグナルが現れる可能性もあり、引き続き状況を注視していきたいと思います。

天候不順については、マスコミ関係者の皆様をはじめ、多くの方からお問い合わせをいただいております。今年は、エルニーニョでもラニーニャでもないので、海面水温に帰着させたメカニズムという形では、はっきりしたことが言えませんが、少なくとも不明瞭なPJパターンという趣旨で、本解説を展開した次第です。今後、(1), (2)の視点で専門家よりインプットがあると嬉しいです。

© 2012 植田 宏昭 研究室.