2019年台風19号について(その1;気候監視)

2019.10.15

速報(暫定版)

甚大な災害をもたらした台風19号については、その被害の全容が明らかになっていませんが、このHPを通して背景となる気候監視情報の共有を試みます。


【1. 海水温】

10月上旬の海面水温の偏差を見ると(図1)、日本の南に高い海面水温域(平年より1~2℃ほど高い)が確認できます。暖かい海面からの豊富な水蒸気の供給を受け、ゆっくりと台風が通過したことが、強い勢力を保ったまま日本に接近した要因の一つと考えられます。台風の発生域である日付変更線(180°)以西の5°N~20°Nあたりに着目すると、この海域の海面水温も高い傾向となっています。


図1 10月上旬(第26半旬[10/3/7]の海面水温偏差) (Source;気象庁)


統計的には、エルニーニョ現象が発生した際の台風の発生位置は、ラニーニャ現象に比べて東にシフトすることが明らかになっています(図2)。台風は日付変更線付近で発生した後に、貿易風(東風)に流される形でフィリピン付近まで暖かい海面上を移動します。この場合、台風の発達段階における移動距離・時間は、エル・ニーニョ時の方が移動距離・時間が長くなるので、結果的に台風強度は強くなる傾向が明らかになっています(図3)。


図2 エルニーニョとラニーニャ時の台風発生位置(陰影は海面水温偏差;濃い陰影は正偏差;Wang and Chan, 2002; JCLIM)


図3 台風強度のENSOによる違い(エルニーニョ−ラニーニャ);Camargo and Sobel, 2005; JCLIM。エルニーニョ時の台風強度は、ラニーニャ時に比べて140°Eを中心に強くなっている。


図4に示すように、今年の夏から秋は、2018/2019冬のエルニーニョを経て、ラニーニャに遷移する途中にあたり、エルニーニョ監視領域(NINO3)の水温偏差も−0.3度と、ラニーニャ的な状況を示していますが、中央太平洋で正偏差、熱帯西太平洋での負偏差という空間パターンは(図1)、どちらかというと図2上段のエルニーニョ時に似ており、日付変更線以西で次々と発生している台風と整合的な関係にあります。


図4 エルニーニョ監視領域(NINO3)における海面水温偏差(source;気象庁)


【2. 太平洋高気圧】

次に太平洋高気圧の状況を見ていくことにします。2019年9月の海面気圧(図5上)の平年からの偏差を見ると、日本付近の太平洋高気圧は例年に比べて強く、秋になっても西に張り出していることが読み取れます。この状況は風ベクトル偏差でも明瞭に確認されます(図5下)。

つまり、日本の南の海上では東風(偏差)によって台風が東に移動しにくい(太平洋上へ抜けにくい)状況となっていたのです。通常であれば、夏の終わりから秋にかけて太平洋高気圧が東方へ後退するため、台風の軌跡も東にシフトしますが、今年の状況は、暖かい海水温偏差も合わせて考えると、10月ではありますが、実際には8月から9月の気候に近い状況になっているとも言えます。因果関係については数値モデル等で確認はしていませんが、少なくともこのような気候状況が、台風19号のゆっくりとした動きと猛烈に発達した背景にあると考えられます。



図5 2019年9月の地上気圧偏差(上段)、風ベクトル偏差(下段)。JRA-55に基づく。


次のページでは、温暖化による影響に関する考察を展開します。

© 2012 植田 宏昭 研究室.