2018年(平成30年)の天候について(その1)

 平成30年の夏は梅雨明けが早く、7月に入ってから日本列島の多くの地域で非常に暑い日が続いています(図1)。



                    図1 気温偏差(気象庁より)


 猛暑の要因については、拙著「気候システム論」の155ページでも解説していますが、要点を述べると「フィリピン付近の対流活発化に伴うP-Jパターンと呼ばれるテレコネクションの発現により、日本付近は高気圧性の循環が強化され、結果として猛暑が引き起こされる」ことが統計的・力学的に明らかにされています(図2の模式図参照)。


                 図2 PJパターン(Nitta 1987による)

  

 このテレコネクションの励起源は、フィリピン付近の活発な対流活動に伴う大気への潜熱解放です。平たく言えば「熱帯西太平洋の降水活動が活発になると、日本は猛暑になる場合が多い」ということが知られています。それでは、現時点でのこの関係を確認してみましょう。

                    図3:米国NOAA HPより


 図3は、人工衛星から観測された外向き長波放射量(OLR)の平年からの偏差を示しています。詳細は、他の解説記事等を参照いただくことにして、大事な点を先に述べると、「フィリピン周辺の対流活動(雲・降水活動)は非常に活発になっている」ことが、負のOLR偏差(紫色)として確認されます。つまり、2018.7.18現在から遡ること1週間前後の高温偏差の遠因は、おそらく熱帯の活発化した対流活動と言えそうです。


 今後もこのような状態が続くか、引き続き注意深くモニターしていきたいと思います。

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追記2018.7.19:熱帯の対流活動の強弱は、海面水温、海水温の変動に大きく支配されています。現在(過去1ヶ月)の海面水温の状況を見ると(図4)、熱帯西太平洋の海面水温偏差は正の値を示しているものの、その振幅はそれほど大きくありません。

                図4海面水温の平年からの偏差  米国NOAAより

 

それでは海の中はどうでしょうか。熱帯太平洋の赤道での水温偏差を図5に示します。図4と経度の範囲が異なっていることに注意して比べてみましょう。フィリピンの東方に相当する150~170Eの経度帯では、海面から温度躍層(~250m)まで暖水偏差となっています。また、熱帯東部太平洋では、深さ50~200m付近に+3度以上の暖水偏差が確認できます。

 

      

             図5赤道に沿った海水温の平年からの偏差  米国NOAAより

エルニーニョは、気象庁の気候系監視報告によると、現在は、 エルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生していない平常の状態で、 今後、夏は平常の状態が続く可能性が高く(70%)、秋はエルニーニョ現象が発生する可能性と平常の状態が続く可能性が同程度である(50 %)との予報になっています(図7)。2017/2018の冬はラニーニャ現象が発生し(図6)、冬のPJ応答による日本海側の豪雪が引き起こされたとされています(参考)が、現在はそのラニーニャ的な状況から徐々にエルニーニョへとシフトしている状況にあるようです。いずれにしても、引き続き熱帯の海水温と対流活動の動向をモニターしていきたいと思います。


        図6 エルニーニョ監視海域(NINO3)の海面水温時系列(観測)

           気象庁エルニーニョ監視速報310号より[web公開資料]より


       図7 今後のエルニーニョの予測

          気象庁エルニーニョ監視速報310号より[web公開資料]より


追伸:なお、6月後半に生じた梅雨明けは、偏西風の中を東に進むシルクロードパターンと呼ばれるテレコネクションの発現で、日本付近の高気圧性循環が強まったことが、要因ではないかと専門家の間で認識を共有しています。これについては、改めて説明の機会を設けたいと思います。


         参考図:現在、植田が執筆中の「気候の形成と変動」より一部抜粋


         「その2」に続く