令和2年7月の梅雨前線に伴う大雨について

2021.9.15 追加 筑波大学広報「注目の研究」

2020.7.8 

 梅雨期間の後半に入ってから梅雨前線に伴う大雨が続いており、各地で甚大な被害が発生しております。被害を受けられた皆様には謹んでお見舞い申し上げるとともに、被災地域の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。このページでは、既往研究と現在の気候診断結果を元に、このような気候変動(異常気象)を引き起こす要因について整理を試みます。

1)7/1~7/6の気候状態について(植田)

 7月1日から6日における日本列島での降水活動は、図1に示すように広域にわたって平年に比べて活発化していることが読み取れます(緑の陰影)。また、対流圏下層の風を見ると、気候学的な南西風がさらに強化されていたことが確認できます。つまり、この南からの暖かい風に乗って、多量の水蒸気が日本列島に運ばれたことが、大雨をもたらした環境場として重要であったと考えられます。

 日本の東方海上に目を転じると、高気圧性の循環(時計回り)が強化されていることに気づきます。高気圧性の循環の西側では、循環を取り巻くように南風が強まります。このことは、高気圧性循環の存在が、西からの水蒸気輸送を北側(北東方向)に変更させていたことを示唆しています。つまり、日本の東方海上での高気圧性循環の強化が、日本付近への水蒸気輸送の強化・集中を通して、梅雨前線活動を活発化させていたのではと推測されます。

 上記の関係は、気候学的な梅雨の活発期の特徴と似ています。参考までに、図2に梅雨前線が最も活発化する期間の様子を示します。梅雨前線の南側には東西方向に高気圧性の循環が強化されており、その西縁を迂回するように水蒸気に日本列島に運ばれています。気候学的な描像としては、フィリピン東方海上での熱帯収束帯(ITCZ)の活発化によって、日本の南側の高気圧が強められることがわかっています(詳細はUeda et al. 2009; JCLIM参照)。

 図3に直近一ヶ月の海面水温偏差を示します。現在のところエルニーニョ監視領域の水温からは、エルニーニョもラニーニャも発生していない状況ではありますが、熱帯東部太平洋で負偏差および西太平洋における高温偏差はラニーニャ的な傾向を示しています。インド洋は、2019/2020年の冬に正のインド洋ダイポールモードが発生したこともあり、西インド洋を中心に高温偏差が残っています。


*このような特徴は、次項2)で紹介するエルニーニョからラニーニャへの遷移パターンと似ており、高気圧性循環偏差の出現とも整合的ではないかと見ています。

 

2)太平洋・インド洋の海水温変動に起因した日本への水蒸気供給について(釜江)

 大気再解析とアンサンブル実験の結果に基づく研究によると(Naoi et al. 2020)、インド洋が暖まる一方で、太平洋が冷えるときには、フィリピン付近に高気圧偏差が生じ、組織化した水蒸気輸送帯が中国南東部から日本にかけて活発に流れ込むことが明らかになりました(図4)。


 実際、2020年の梅雨末期はこのような気圧配置が卓越していました(図5)。つまり、湿った南西風の流入が強まったことが、線状降水帯が九州を襲うなど、各地で豪雨災害が発生する要因となっていたと考えられます(図6)。


 

参考文献

Ueda, H. M. Ohba and S.-P. Xie, 2009: Important factors for the development of the Asian-Northwest Pacific summer monsoon. J. Climate, 22, 649–669. Open access pdf 

Naoi, M., Y. Kamae, H. Ueda, and W. Mei, 2020: Impacts of seasonal transitions of ENSO on atmospheric river activity over East Asia. J. Meteor. Soc. Japan, 98, 655-658, doi:10.2151/jmsj.2020-027. Open accsess pdf


以上、駆け足ではありますが、今般の状況をまとめてみました。今後、データ解析とモデリングの観点から、仔細に研究・調査を進めていければと考えております。長文、お付き合いありがとうございました。


<専門家向け補足>

Naoi et al. (2020)の図表を一部抜粋して展開します。


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