2019/20暖冬 オーストラリアの旱魃について

2021.9.15 追加  筑波大学広報「注目の研究」

2020.1.30 

 昨年の秋から日本では高温傾向が続き、この冬は大暖冬という表現も見られるようになってきました。昨年の秋からはオーストラリアでの乾燥化による森林火災も深刻化しています。このような気候変動を引き起こす要因について整理を試みます。時間の都合上、各所での説明時に用いたスライドをそのままupしています。

 スライド1枚目:気象庁より1.24に報道発表がなされました。この資料は、私も委員と務めさせていただいています異常気象分析検討会での議論も反映されています。右下のポンチ絵にありますように、日本付近は高気圧性の大気循環偏差が発現しています。このことは、寒気の南下が弱いことを意味しています。

 スライド2枚目:このような大気循環を引き起こした要因については、ポンチ絵のインド洋での対流活動の活発/不活発の表現にあるように、インド洋ダイポールモードが関係しています。この現象は、熱帯インド洋の西(東)部において、平年に比べて海水温が高(低)く、直上の降水活動が活発(不活発)になるという、太平洋のエルニーニョ現象に類似した大気海洋結合現象として、理解が進んでいます(詳細は拙著等を参照していただければ)。

スライド3枚目:次に、日本付近の高気圧性循環偏差の強化の要因を考えます。大気のテレコネクション(定常ロスビー波による遠隔影響)を評価する波の活動度フラックスを見ると、西インド洋の対流活発行域から北東に波束の伝播が確認されます。つまり、この高気圧性循環の起源の一つとして、インド洋ダイポールモードの西側の大気と海洋の変動が関与していた可能性が考えられます。



 スライド4枚目:ここでインド洋ダイポールモードの東極の影響を考察します。ダイポールモードの反対の状態(正確にはラ・ニーニャ現象発現時)では、海洋大陸(インドネシア周辺)を中心に、対流活動が活発化することにより、大気の熱源応答を介して、中国南部で高気圧性循環偏差、そして日本付近は広く低気圧性の循環偏差に覆われます。この低気圧性循環の西側にあたり山陰から北陸は、北西気流が強化されることにより、降雪量が顕著に増加することが、データ解析とモデル実験で明らかになっています。

 このように、「海洋大陸周辺で対流活動が活発→日本付近の低気圧性循環の強化」という関係を反転させると、「海洋大陸周辺で対流活動が不活発(現在の状態)→日本付近の高気圧性循環の強化」ということが容易に想像されます。この状態は、スライド1枚目で示した、日本付近の高気圧性循環偏差とも整合的です。このことは、インド洋ダイポールモードを論じる際に、その西極と東極の双方を考慮することが重要であることを示唆しています。

スライド5枚目:オーストラリアの旱魃を引き起こす下降気流を強化した要因を探るため、対流圏上層の発散場(速度ポテンシャル)を描いてみました(下図;異常気象分析web使用)。オーストラリアから海洋大陸さらには東インド用にかけては、対流圏の上層で風が収束しています。収束した大気は下降気流となるので、観測事実とも合致しています。それでは、この風はどこから来たのでしょうか。下図の青色の陰影で示す発散場(活発な対流活動に伴う上昇気流の強化域)を見ると、その一つは中央〜西インド用に確認できます。これは、インド用ダイポールモードの西極の状態を反映していると言えます。

 その一方で、太平洋に目を転じると、中央太平洋で発散偏差が見られ、その領域の海面水温は平年に比べて高くなっていることに気づきます。現在は、エルニーニョもラニーニャも発生していない通常の状態ですが、東大・JAMSTECの研究グループによって発見されたエルニーニョもどきという現象が発現しているとも考えられます。つまり、中部熱帯太平洋の海水温の上昇と対流活発化に伴う遠隔影響によって、オーストラリアの旱魃が深刻な状態になったのではないかと考えています。

 いずれにしても、一連の気候変動は、インド洋と太平洋の大気海洋結合現象に起因しているということは間違いなさそうです。なお、インド洋ダイポールやエルニーニョ現象は、決して異常な現象ではなく、自然変動現象として認識され、そのメカニズムについては、様々な課題も残されているものの、急速に理解が進展しています。これについては、別途ご紹介できればと思います。


 End of Text 2020.1.30