2015~2016年の暖冬・少雪

2016.01.13

朝日新聞デジタルニュース(一般公開)より転載 2015.12.12


2015~2016年の暖冬・少雪


平成27/28年の年末年始は、例年よりも暖かく、スキー場の雪も少ない状態が続いていました。この理由については、エル・ニーニョ現象と関連付けた説明がなされています。

ちょうどclimate 研究室では、ラ・ニーニャ時に多雪(豪雪)になることを、データ解析と数値実験で明らかにしており、その結果をまとめた論文が、平成27年の5月に掲載されていましたので、この機会に、日本の雪と熱帯の海面水温の関係について、できるだけ噛み砕いて説明したいと思います。詳細については、原著論文


Ueda, H., A. Kibe and M. Saitoh, and T. Inoue, 2015: Snowfall variations in Japan and its linkage with tropical forcing. Int. J. Climatol., 35, 991–998 DOI: 10.1002/joc.4032 =>pdf download (open access)

・大学広報からのプレスリリース 筑波大学広報HP


を見ていただければと思いますが、このブログでは、上記リンク内の情報と重複しないように配慮しつつ、要点をお示しします。


(イ)本当に暖冬なのか

まず、日本列島の気温の推移を見ていきましょう。図1は、気象庁の統計情報です。平年に比べて全国的に気温は高めに推移していることが読み取れます。


図1 日本の地上気温偏差(気象庁HPより)


(ロ)少雪の時の日本付近の大気循環

Ueda et al. (2015; IJC)の論文では、主に多雪年について調べていますが、少雪年の時の様子も掲載していました(ヨカッタ)。図2は、少雪年の850hPa(上空約1500m)付近の気温と風の場の特徴を示しています。気候平均値に比べて、日本の上空から中国大陸にかけての広い範囲で気温が高く(黄色からオレンジの陰影)、全体として高気圧性の偏差(時計回りの循環)に覆われていることが読み取れます。このことは、少雪年≈暖冬という関係があることを示しています。


図2 図1:少雪年における850hPa(対流圏下層;高度1,500m付近)の風(矢印)と気温(等値線)。平年値からの差を示す。


(ハ)日本付近の大気循環場を変調させるメカニズム

それではどうして、図2のような状況が作り出されたのでしょうか。もう少し視野を広げ、熱帯全体の様子を観察します。図3aは、この冬の熱帯における対流活動(雲活動)の強弱を示しています。図3bに示す海面水温偏差に対応する形で、赤道付近の東太平洋上では、対流活動に非常に活発化(青~紫の陰影)する一方で、西太平洋上では、対流活動が抑制(黄色~茶色の陰影)されています。

熱帯との関係については、多雪年の方が感覚的にわかりやすいので、次ぺージにて、まず多雪を引き起こすメカニズムを紹介します。少雪時のメカニズムは、多雪時と反対とすれば頭にすっと入ってくると思います。ワンクッションおきますが、最後までついてきていただければと思います。


図3 熱帯の対流活動(雨)指数(OLR)偏差。負(正)の値は、平年に比べて対流活動が活発(不活発)であることを示す。上段(a)は、2015/16の年末年始平均、下段(b)は同期間の海面水温偏差。



多雪年の特徴とその要因


次に、多雪年における広域の対流活動と大気大循環の様子を確認します(図4)。フィリピン周辺の西太平洋上から海洋大陸にかけて、平年に比べて対流活動が活発になっており(青色の陰影)、この熱源に対する大気の応答として,中国大陸南部の上空では高気圧性の循環が強まっています。なお,日本付近を広く覆う低気圧性循環の強化は、先の高気圧性循環の北東側に位置していることから、中国大陸南部の渦度を起源とした定常ロスビー波の北東方向への伝播(テレコネクションと呼ばれている)と考えられます。


図4 多雪年の冬期(12~2月)における熱帯の対流活動(OLR,陰影)と300hPaの流線関数(等値線,単位は10^62[m/s])の気候値からの偏差。OLRは値が小さい(負;青陰影)ほど降水量が多いことを示す。


このように、多雪時には、西太平洋からインド洋にかけての対流活動(雨)が活発であることが重要ということがおわかりいただけかと思います(北からの影響[北極振動など]については、論文本体やプレスリリース資料をご覧ください)。

話を少雪≈暖冬年、つまり現在の状況に置き換えてみます。図5は、過去の少雪年の合成偏差(統計値)を示します。図4の多雪年とは対称的に、西太平洋上での対流活動は平年に比べて弱い(黄色の陰影)ことがわかります。


図5 図4に同じ、ただし少雪年。


ここで、前ぺージでお見せした、今年の対流活動偏差(図3a)と比べてみましょう。どうでしょうか、図の範囲が異なるので、少しみづらいのですが、フィリピン周辺の対流活動が弱い(エル・ニーニョ的状況)という点で、両者はよく似ていることが読み取れます。つまり、2015/2016の冬は、西太平洋での対流活動が弱く、その影響で、日本付近は高気圧性の循環が強まり(≈気候学的な北西モンスーン気流の弱化)、結果として、暖冬≈少雪になったと考えられます。


図3a(再掲)



<まとめと今後の展開>

夏に西太平洋の対流活動が強まると、P-Jパターンと呼ばれるテレコネクションによって、日本付近の高気圧が強化され、暑夏になるということは、このブログでも以前紹介しました。ところが、冬に同じように西太平洋の対流活動が強まった場合には、日本付近は反対に低気圧性の循環が強まるため、北西モンスーン気流の強化を介して、寒冬・多雪になるのです。同じ熱帯の熱源でありながら、中緯度で異なる応答になる理由については、現在、修士課程の学生が研究をしていますので、明らかになりましたら、またご紹介したいと思います。


これから先のエル・ニーニョの動向も含め、気候変動から目を離せない状況が続きます。ここまでおつき合いくださり、ありがとうございました。なお、この内容については、2016.1.28(木)の筑波大学の公式記者発表・学長レクという形で、発表(プレゼン)します。

© 2012 植田 宏昭 研究室.