2020/21年の豪雪・寒冬について

2021.1.12

 昨年(2020年)末から平年に比べて低温傾向が続いており、日本海側では記録的な豪雪となっています。本解説では、【1】現在の気候の状況、【2】寒冬・豪雪を引き起こした大気循環(要因)、【3】予測可能性、【4】内外の研究の動向について整理を試みます。

【1】日本の気温の状況は、平年に比べて全国的に低温となっており、日本海側では降水量が多いことが確認されます(図1)。

 この低温傾向は、日本だけではなく、シベリアなどを含むユーラシア大陸の広域に見られます。地上付近の風の流れは平年に比べて、北西気流が北日本を中心に強い傾向が読み取れます(図2)。 

【2】寒冬・豪雪を引き起こした大気循環(要因)

 地上気圧(図3左)の偏差パターンは、北太平洋の高緯度に気候学的に見られる「アリューシャン低気圧」の深まり(青い陰影)、さらには西シベリアでの高圧偏差を示しており、図2の循環場(風)と整合的な関係になっています。対流圏の中上層(図3右)においても、地上付近と類似の偏差パターンになっています(順圧構造)。

  このような状況は、亜寒帯ジェットと亜熱帯ジェットが南へ蛇行することに伴う、寒気の日本付近への流入強化を示すもので、観測されている寒冬が広域の大気循環の影響を受けていることを示すものと考えられます。


 亜熱帯ジェットの南への蛇行については、熱帯太平洋上で発生するラ・ニーニャ現象(エル・ニーニョ現象とおおよそ反転した状態)が関係していることが明らかになっています。図4(下図)は、日本海側の気象官署データに基づき、多雪年における大気循環の特徴を示したもです(プロットしている値は実測値)。ラニーニャ現象に伴う対流活発化によるテレコネクションを介して、日本付近は広く低気圧性の循環が強化されます(註)。この低気圧性循環の西側では、冷たい高緯度からの北西気流を強める方向に働くため、相対的に暖かい日本海上から多くの水蒸気が供給され、結果として日本海側での多雪が引き起こされると考えられています。詳細は原著論文(Ueda et al. 2015)あるいはプレスリリース←大学広報HP改変につき調整中をご参照ください。

註:上述の冬のテレコネクションは、夏のPacific-Japanパターンとは、背景風である亜熱帯ジェットの位置と強度の違いにより符号が反転すると考えられ、当該研究室のB4の平井陸也君が卒業研究として取り組んでいます。

                図4 日本海側の多雪とラニーニャの関係


 現在の海水温(図5上段)、および降水量(図5下段)の偏差をプロットすると、太平洋は典型的なラ・ニーニャの状況になっていることが確認できます。降水量偏差の空間分布は太平洋上では概ね水温偏差と対応しており、西太平洋では対流活発化している一方、中央太平洋では対流活動が強く抑制されています。この状況は、図4で示される統計的な「日本海側の多雪とラ・ニーニャ現象」の関係を支持するものであり、継続する寒冬(多雪)の主要因の根拠資料と言えます。

【3】予測可能性

 このラニーニャ現象は、いつ発生し、いつ頃から予測可能であったのかを振り返ります。図6は気象庁のエルニーニョ監視報告に基づく海洋内部の水温偏差を2020年の1月からアーカイブしたものです。参考までに海面水温偏差を右に示しています。エルニーニョとラニーニャ間の遷移は、赤道付近の大気海洋結合波動(ケルビン波・ロスビー波)によって規定されています。詳細は拙著などを参考にしていただくことにして、話を進めます。

 まず、気象庁のエルニーニョ監視速報では、2020年8月に「ラニーニャ現象が発生したとみられる」となっており、それ以降はラニーニャの状態であるとされています。海洋内部を仔細に見ると(図6左)、2020年1月に西太平洋(120-150E)の海洋上層(水深〜200m)存在していた冷水塊が、季節進行とともに徐々に東に移動している様子が確認できます(正確には海洋冷水ケルビン波の伝播)。この冷水塊は3月までは日付変更線付近に向かって沈降していますが、4月移行は温度躍層に沿って熱帯東太平洋に向けて上昇する傾向を示しており、5月に海面付近まで冷水偏差が浮上し、これに呼応する形で負の海面水温偏差(図6右)が出現しています。7月以降は西太平洋では、暖水偏差が明瞭になり始め、それ以降は現在まで(図5上段)典型的なラニーニャの状態が続いています。

 以上の観測事実は、ラニーニャ現象が半年以上のリードタイムを持って予測できる可能性を示しています。


【4】内外の研究の動向(インド洋の昇温に伴う西太平洋での対流抑制;インド洋蓄熱効果、IPOCモード、Kelvin-WIEDメカニズム)

 21世紀に入り、インド洋の全域昇温やダイポールモードのメカニズムの解明が進むと同時に、それらの影響に関する理解も急速に深まっています。紙面の関係上、インド洋の昇温の影響を概説するとともに、今般の寒冬との関係を整理します。

 図7は、インド洋はエルニーニョに対して半年遅れで昇温すること(左側)、また昇温による大気のテレコネクション(Kelvin-WIED[Wave-Induced Ekman Divergence] メカニズム)を介して、西太平洋の中でも北半球側のフィリピン東方海上において、対流活動が著しく抑制されることを示しています。

 図4、5で確認したように、日本海側の多雪を引き起こすテレコネクション(通称、冬のPJと呼んでいます)は、西太平洋から海洋大陸にかけての対流活発化と関係しています。もしインド洋が昇温していたら、冬のPJの励起源である西太平洋付近の対流活動は弱められるので、日本付近の寒気流入量も減少することになります。このような問題意識を持って、インド洋の海面水温の時間発展を図8で見ていきます。

                    図7 インド洋蓄熱効果


 図8に示すインド洋の海面水温の時系列を見ると、2020年の1月頃をピークに、水温は徐々に低下傾向にあることが確認されます。このことは、インド洋の昇温に伴う、西太平洋付近での対流抑制が弱化してることを示唆するもので、今般のラニーニャに伴う西太平洋から海洋大陸付近での対流活発化(図5下段)とも整合しています。つまり、インド洋の昇温が収まってきた一方で、西太平洋の海面・海水温度が上昇している状況は、「下から熱せられて、上か押さえつけるものがなくなった」2017年のポテチショック前の状況と、季節は違うものの、類似しています(図9は参考図)。

           図9 インド洋と太平洋の海盆間相互作用模式図。原著論文は下記をご参照ください。

References

《雪関係》

(1) Ueda, H., A. Kibe and M. Saitoh and T. Inoue, 2015: Snowfall variations in Japan and its linkage with tropical forcing. Int. J. Climatol., 35, 991–998 DOI: 10.1002/joc.4032.  pdfはこちら

《インド洋と太平洋の海盆間相互作用》

(2) Ueda, H., Y. Kamae, M. Hayasaki, A. Kitoh, S. Watanabe, Y. Miki and A. Kumai: 2015: Combined effects of recent Pacific cooling and Indian Ocean warming on the Asian monsoon. Nature Communications, 6, 8854.  pdfはこちら

(3) Ueda, H., K. Miwa, and Y. Kamae, 2018: Seasonal modulation of tropical cyclone occurrence associated with coherent Indo-Pacific variability during decaying phase of El Niño. J. Meteorol. Soc Japan, 96, 381-390.     pdfはこちら

(4) 植田宏昭・釜江陽一, 2018: 2015, 2016年における台風発生数の季節的な変調, 天気, 65(11月号), 65, 749-753.   pdfはこちら


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