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2. 日本の半自然草原の管理と生物多様性の関係.

我が国は温暖湿潤気候下に位置するため、植生は遷移すると裸地から草原、やがては森林へと変化します。かつて日本人が積極的に植物資源を利用していた時代には人間の管理によって維持される草原、すなわち「半自然草原」が広がっていましたが、現在では人間の管理から離れた草原が森林へと遷移し、意識して管理しないと草原が失われる時代になりました。草原環境に生育している植物は森林では生きられず、日本の草原性植物は生育地の喪失による絶滅の危機に直面しています。

 草原の主な生物資源は草です。とくにイネ科多年生草本類はバイオマス生産も大きく、「茅(かや)」としていろいろな形態で利用されてきました。茅は利用する人々の自然的・文化的な背景と関係し、日本には多様な茅利用の文化が発達しました。茅葺屋根のある情景は、実際に茅葺屋根に住んだことがない日本人にも心理的望郷感として備わっており、国民性のアイデンティティとも関係しています。すなわち日本文化を保全するにあたり、草原の存在を含めた保全が不可欠であることを意味します。

 一方で茅葺屋根は維持費用が高いため、茅葺屋根の家屋は減少しています。その結果、茅葺き職人の減少や茅を生産する草原の喪失など、日本の伝統文化の継承や草原性植物の生物多様性が課題となっています。半自然草原の減少に対する本質的な課題解決を目指すには、文化的・経済的な背景も含めた総合農学的な課題を解決しなければなりません。

 私は横断的な課題の中で生物資源の利用促進に注目し,茅の利用による半自然草原の生態系の保全を推進したいと考えています。とくに半自然草原の管理によって茅の生産量と生物多様性のバランスや茅の品質に及ぼす影響などを明らかにし、半自然草原の持続的な資源管理に活用していきたいと思います。