41. Kawamata R, Sato Y, Suzuki M, Kainoh Y (2018) Color Preference and associative color learning in a parasitoid wasp, Ascogaster reticulata (Hymenoptera: Braconidae). Journal of Insect Behavior 31: 523-534.
近年では、農作物の害虫をコントロールをするために、化学農薬だけでなく、害虫を食べてくれる天敵の利用が広まっています。しかし、生物をコントロールするために生物を利用するわけですから、化学農薬のように適したタイミングで適量まけばいい、という訳にはいきません。天敵にがんばってもらうには、利用する天敵の能力や好みなど、生態や行動を知って、それを利用する必要があります。本研究では、お茶の害虫であるチャノコカクモンハマキの天敵として重要視されている寄生蜂、ハマキコウラコマユバチの、産卵時における色の好みと、色学習能力について調べました。もともとの色の好みを知るべく、まずは産卵経験をもたない雌に色紙(チャノコカクモンハマキ卵付き)を2択で選ばせたところ(常に選択肢の一つは葉っぱの色である緑)、黒と青は好きではないが、赤と黄は緑並みに好き、という結果が得られました。ハマキコウラコマユバチは比較的新しいチャノコカクモンハマキの卵に産卵すべきですが、チャノコカクモンハマキの卵は古くなると黒っぽくなります。そのため、この色の好みは理にかなった行動であると思われました。次に、色学習能力を知るために、特定のチャノコカクモンハマキ卵付きの色紙を事前に経験させた雌を用いて、同様の2択実験を行いました。その結果、黒と青を経験させると、未経験の雌に比べて、黒と青を選ぶようになることがわかりました。しかし、もともと嫌いではない色、赤と黄に関しては、事前に経験させても、未経験の雌よりも選ぶようになる、という傾向はみられませんでした。色によって学習できたりできなかったりする理由については、ハマキコウラコマユバチの色覚センサーを調べるなど、更なる研究が必要だと思われました。
40. Hinomoto N, Sato Y, Yara K, Shimoda T (2018) Population structure of the phytoseiid mite, Neoseiulus womersleyi, in an experimental organic tea field. IOBC-WPRS Bulletin 134: 54-59.
日本の茶畑で害虫となっているハダニ類を防除するためには、化学農薬の使用は避けられません。しかし環境を考えると、できるだけその散布回数を減らしたいところです。そこで、害虫ハダニ類を食べてくれるカブリダニ類が頼もしい存在となるのですが、上手にカブリダニ類を害虫管理に使うためには、彼らがどれだけ移動分散しているのかを知る必要があります。本研究では、バンカー植物(農作物の病害虫防除に役立つ天敵を保護するために耕作地周辺に植えられる植物)を使ってケナガカブリダニを有効活用することを最終目的に、農薬が使われていないお茶圃場における本種集団構造を、マイクロサテライト遺伝マーカーを使って調べました。その結果、このような撹乱要因の少ない圃場では、ケナガカブリダニの活動範囲はせいぜい5m圏内であり、それほど移動していないということがわかりました。たとえバンカー植物でケナガカブリダニを温存したとしても、その恩恵は圃場中心までには届かないであろうことから、茶畑にてケナガカブリダニを使った害虫管理をするためには、バンカー植物の利用だけでなく、人工的にケナガカブリダニを分散させるなどの工夫が必要と考えられました。
日本における生物的防除(病害虫の天敵を使って作物などの害虫をコントロールする方法)の発展と普及を支える3人の研究者(農業・食品産業技術総合研究機構)が中心となって行った研究です。
38. Saito Y, Sato Y, Chittenden AR, Lin J-Z, Zhang Y-X (2018) Description of two new species of Stigmaeopsis, Banks 1917 (Acari, Tetranychidae) inhabiting Miscanthus grasses (Poaceae). Acarologia 58 (2): 414-429.
ハダニ類は、クモ綱ダニ目ハダニ科に属する、体長0.5mm未満の植食性の節足動物です。どこにでもいる生き物ですが、観察にはルーペや実体顕微鏡が必要であり、大学で生物学を専攻しないと扱うことの無いような生物です。しかし、その行動・生態はとても興味深いのです。今回、新種記載したのは、ススキに寄生し、集団で共同営巣する社会性のハダニ、ススキスゴモリハダニ(Stigmaeopsis miscanthi (Saito))の仲間です。これまでの研究により、ススキスゴモリハダニの雄は、雌だけでなく巣をめぐって殺し合いをし、ハーレムをつくること、この雄同士の殺し合いの頻度(=雄同士の攻撃性)には地理的変異があることが、さらには、攻撃性の異なる集団間では遺伝的にも分化していることが明らかになりました。そこで本研究では、形態の違いを見出して、雄同士の攻撃性が低く、西日本の標高の高いところや東日本といった寒冷なところに分布するタイプをトモスゴモリハダニ(S. sabelisi Saito et Sato n. sp.)、攻撃性はよくわかっていないけれど、形態的には中間的な攻撃性を示すと思われる中国福建省に分布するタイプをビンスゴモリハダニ(S. continentalis Saito et Lin n. sp.)として、記載しました。前者のトモスゴモリハダニは、殺し合いをするだけでなく、雄同士が協力して、巣に侵入する天敵(主に捕食性のダニ)から巣の仲間を守る行動が観察されています。そのように、優しく頼もしい性格をもつハダニであることから、命名には、私の恩師であり、第一著者の齋藤裕先生のご友人でもある、アムステルダム大学(オランダ)教授のモーリス・サベリス博士(Prof. Maurice W. Sabelis、2015年1月に他界)から名前をいただきました。
33. Sato Y, Alba JM, Egas M, Sabelis MW (2016) The role of web sharing, species recognition and host-plant defence in interspecific competition between two herbivorous mite species. Experimental and Applied Acarology 70: 261-274.
ナス科植物に寄生するミツユビナミハダニは、南アメリカ原産ではあるものの、ここ20 年間で急速に世界中に分布を広げ、侵入害虫として世界各国で問題となっているトマトの害虫です。一方、同属に属するナミハダニもトマトの害虫であり、(主にヨーロッパで)野外や温室にて両種が一緒にいるところを観察されていることから、ミツユビナミハダニが侵入害虫として成功する際に乗り越えなければならないハードルの一つに、ナミハダニとの寄主植物をめぐる競争があると考えられています。そこで本研究では、ミツユビナミハダニとナミハダニの競争関係について、シェルター共有(ハダニ類の多くは、クモ類のように糸を吐くことができ、その糸を複雑または規則的に張ることにより外敵から身をまもるシェルターを作り利用しています)と植物の誘導防衛の視点から調べてみました。外敵から身を守ることができるため、同種間だけでなく異種間でもシェルターを共有することが、ナミハダニやカンザワハダニで報告されています。しかし、ナミハダニはミツユビナミハダニともシェルターを共有する一方で、ミツユビナミハダニは同種とナミハダニを区別し、ナミハダニとのシェルター共有は避けることがわかりました。また、ミツユビナミハダニの方がナミハダニと比べて集合性が高いこともわかりました。ナミハダニの多くの系統は、トマトを加害することにより植物体の防御反応を誘導し、植食性節足動物にとって不適な(質の低い)植物体にしてしまうけれど、ミツユビナミハダニは誘導された防御反応を制御し、好適な植物体を維持することができます。この識別能力や高い集合性は、ミツユビナミハダニが好適に保っている植物体をナミハダニに利用されずに仲間うち(同種)で共有するためのものであり、この協力関係でもってナミハダニとの競争に打ち勝っているのではないかと考えられました。
32. Sato Y, Rühr PT, Schmitz H, Egas M, Blanke A (2016) Age-dependent male mating tactics in a spider mite - A life-history perspective. Ecology and Evolution 6: 7367-7374.
子孫を残すために雌をめぐって雄同士が戦う行動は、ライオンやサケ、クワガタなど、様々な動物でみられます。一方で、スニーキングやサテライトといった、ライバルを欺くことで戦わずに雌に近づき子孫を残す行動(代替戦術)も、しばしば観察されます。戦うのか、それとも代替戦術をとるのかは、遺伝的に決まっている場合も多々ありますが、一般的には状況や環境によって決まるケース(条件戦略)の方が多いと考えられています。特に、条件戦略の場合、体が小さいなど戦いに不利な形質や状況にあると代替戦術をとるといったように、戦いに負けるような弱い雄が少しでも子孫を残すために進化した行動(Best of a bad job、悪条件の中最善を尽くす行動)として捉えられることが多いです。しかし、ナミハダニでは、若い雄がスニーカー雄(代替戦術をとる雄)になる傾向があるのだけれど、これは若い雄が弱いからではなく、闘争のコストやリスクを軽減することにより将来の繁殖を促進し、生涯の繁殖成功度を高めているのではないかということが、本研究により示唆されました。
当センターに配属されて3年目となりますが、ここに来なければ出会うことのなかった異分野で異国の研究者たちとのコラボにより、実現した研究です。
26. Sato Y, Alba JM, Sabelis MW (2014) Testing for reproductive interference in the population dynamics of two congeneric species of herbivorous mites. Heredity 113: 495-502.
いくつかの動物種では、異種との繁殖行為が容易に起こり、時には、同種個体よりも異種個体を好む行動が観察されています。多くの場合、異種雄からのアプローチにより、雌は正常な繁殖活動ができないといったコストを被るため(繁殖干渉)、この異種間の繁殖行為は、種間の空間的・時間的分布関係に影響をあたえうることが、多くの理論的・実証的研究により提唱・支持されています。しかし多くの実証的研究では、繁殖行動と個体群動態の関係からのみ繁殖干渉の重要性を説いており、他の要因が排除されていません。特に、植食性の節足動物においては、直接的な相互作用だけでなく、植物を介して影響を与え合っていることが近年の研究により明らかになっています。そこで本研究では、トマトの害虫であるハダニ2種を対象に、植物防御機構が一部欠如したトマト変異体を用いて植物を介した間接的相互作用をコントロールすることにより、また、ハダニでは最初の交尾で得られた精子が優先的に使われるといった特徴をいかして繁殖干渉の強度を変えることにより、2種間の競争関係に与える繁殖干渉の影響を抽出して評価しました。本研究で用いたミツユビナミハダニとナミハダニのの写真が、掲載雑誌Heredity Vol.113の12月号(No.6)の表紙に本研究の写真が選ばれました。
25. Sato Y, Sabelis MW, Egas M (2014) Alternative male mating behaviour in the two-spotted spider mite: dependence on age and density. Animal Behaviour 92: 125-131.
24. Lesna I, da Silva FR, Sato Y, Sabelis MW, Lommen STE (2014) Neoseiulus paspalivorus, a predator from coconut, as a candidate for controlling dry bulb mites infesting stored tulip bulbs. Experimental and Applied Acarology 63: 189-204.
<2013>
23. Sato Y, Sabelis MW, Egas M, Faraji F (2013) Alternative phenotypes of male mating behaviour in the two-spotted spider mite. Experimental and Applied Acarology 61: 31-41.
22. Sato Y, Egas M, Sabelis MW, Mochizuki A (2013) Male-male aggression peaks at intermediate relatedness in a social spider mite. Ecology and Evolution 3: 2661-2669.
21. Sato Y, Sabelis MW, Mochizuki A (2013) Asymmetry in male lethal fight between parapatric forms of a social spider mite. Experimental and Applied Acarology 60: 451-461.
20. Saito Y, Kanazawa M, Sato Y (2013) Life history differences between two forms of the social spider mite, Stigmaeopsis miscanthi. Experimental and Applied Acarology 60: 313-320.
<2012>
19. Kawazu K, Mochizuki A, Sato Y, Sugeno W, Murata M, Seo S, Mitsuhara I (2012) Different expression profiles of jasmonic acid and salicylic acid inducible genes in the tomato plant against herbivores with various feeding modes. Arthropod-Plant Interactions 6: 221-230.
18. Sato Y, Mochizuki M, Mochizuki A (2012) Introduction of non-native predatory mites for pest control and its risk assessment in Japan. Japan Agricultural Research Quarterly 46: 129-137.
<2011>
17. Sato Y, Mochizuki A (2011) Risk assessment of non-target effects caused by releasing two exotic phytoseiid mites in Japan: can an indigenous phytoseiid mite become IG prey? Experimental and Applied Acarology 54: 319-329.
16. Yano J, Saito Y, Chittenden AR, Sato Y (2011) Variation in counterattack effect against a phytoseiid predator between two forms of the social spider mite, Stigmaeopsis miscanthi. Journal of Ethology 29: 337-342.
<2010>
15. Haruyama N, Mochizuki A, Sato Y, Naka H, Nomura M (2010) Complete mitochondrial genomes of two green lacewings, Chrysoperla nipponensis (Okamoto, 1914) and Apochrysa matsumurae Okamoto, 1912 (Neuroptera: Chrysopidae). Molecular Biology Report 38: 3367-3373 (all authors contributed equally to the study).
14. Sato Y, Miyai S, Haraguchi D, Ohno S, Kohama T, Kawamura K, Yamagishi M (2010) Population dynamics of the West Indian sweetpotato weevil Euscepes postfasciatus (Fairmaire): a simulation analysis. Journal of Applied Entomology 134: 303-312.
11. Sato Y, Saito Y, Chittenden AR (2008) The parapatric distribution and contact zone of two forms showing different male-to-male aggressiveness in a social spider mite, Stigmaeopsis miscanthi (Acari: Tetranychidae). Experimental and Applied Acarology 44: 265-276.
10. Sato Y, Saito Y (2008) Evolutionary view of waste-management behavior using volatile chemical cues in social spider mites. Journal of Ethology 26: 267-272.
<2007>
9. Sato Y, Saito Y (2007) Can the extremely female-biased sex ratio of the social spider mites be explained by Hamilton's local mate competition model? Ecological Entomology 32: 597-602.
8. Sato Y, Kohama T (2007) Post-copulatory mounting behavior of the West Indian sweetpotato weevil, Euscepes postfasciatus (Fairmaire) (Coleoptera: Curculionidae). Ethology 113: 183-189.
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7. Sato Y, Saito Y (2006) Nest sanitation in social spider mites: interspecific differences in defecation behavior. Ethology 112: 664-669.
<2004>
6. Horita M, Chittenden AR, Sato Y, Saito Y (2004) Function of the web box as an anti-predator barrier in the spider mite, Schizotetranychus recki. Journal of Ethology 22: 105-108.
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5. Sato Y, Saito Y, Sakagami T (2003) Rules for nest sanitation in a social spider mite, Schizotetranychus miscanthi Saito (Acari: Tetranychidae). Ethology 109: 713-724.
4. Zhang Y-X, Saito Y, Lin J-Z, Chittenden AR, Ji J, Sato Y (2003) Ambulatory migration in mites (Acari: Tetranychidae, Phytoseiidae) to new leaves of moso bamboo shoots. Experimental and Applied Acarology 31: 59-70.
<2000>
3. Saito Y, Mori K, Chittenden AR, Sato Y (2000) Correspondence of male-to-male aggression to spatial distribution of individuals in field populations of a subsocial spider mite. Journal of Ethology 18: 79-83.
2. Sato Y, Saito Y, Mori K (2000) Patterns of reproductive isolation between two groups of Schizotetranychus miscanthi Saito (Acari: Tetranychidae) showing different male aggression traits. Applied Entomology and Zoology 35: 611-618.
1. Sato Y, Saito Y, Mori K (2000) Reproductive isolation between populations showing different aggression in a subsocial spider mite, Schizotetranychus miscanthi Saito (Acari: Tetranychidae). Applied Entomology and Zoology 35: 605-610.