雅楽に用いられる葦材の物性


雅楽とは?
雅楽は、大陸諸国から伝来した音楽と舞が融合してできた日本古来の芸術です。10世紀に完成し、皇室の保護の下、1000年にわたって伝承されてきました。宮内庁楽部の楽師が演奏する雅楽は、国の重要無形文化財に指定され、楽師は重要無形文化財保持者に認定されています。また平成21年には、宮内庁楽部の演奏する雅楽がユネスコ無形文化遺産保護条約「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に記載されました。これにより日本の雅楽は、人類が将来に渡って継承すべき文化と認められました。雅楽は、楽器を使った管絃、舞を主とする舞楽、声楽を主とする歌謡の全てを含んでいます。その意味で雅楽は、西洋のオペラに近い「総合芸術」と言えるでしょう。

篳篥(ひちりき)と蘆舌(ろぜつ)
雅楽の管絃に用いられる楽器には、琴や琵琶などの弾物(撥弦楽器)、鞨鼓や太鼓などの打物(打楽器)、笙や篳篥などの吹物(管楽器)があります。このうち篳篥(ひちりき)は、オーボエと同様、ダブルリードの振動によって発音する縦吹きの管楽器です。
篳篥のリードは蘆舌(ろぜつ)と呼ばれ、日本の河川流域に広く生息するPhragmites australisという種類の葦で作られます。古来より、蘆舌用の葦には淀川流域・鵜殿地区の葦が最適であると言われており、現在もなお、宮内庁で使用される篳篥には、鵜殿地区の葦が使われています。


蘆舌用の葦を取り巻く状況
近年、蘆舌用の良材が採れにくくなっていると言われています。そこには、河川周辺の都市化や外来種の侵入など、様々な環境の変化が影響していると考えられます。ただ、そもそも「良質の葦とはどのような葦なのか」がわかっていないため、蘆舌用の葦を保全しようにも、その対象を絞ることができません。

葦原に侵入したつる性の植物


そこで2014年、蘆舌用葦材の持続的かつ安定的な供給と、効率的な選別手法の確立に向けて、葦の基礎物性に関する研究がスタートしました。宮内庁楽部のみなさまを始め、篳篥や雅楽に関わる多くの方々の協力のもと、1)生育環境が組織構造や物性に及ぼす影響、2)葦の組織構造と物性の関係、3)蘆舌の品質と物性の関係(どのような葦が篳篥の蘆舌に適しているか)、などを明らかにしようとしています。また、蘆舌用葦の人工栽培にも取り組んでいます。

葦の生育状況の調査

伝統的な蘆舌の製作技術に関する調査

蘆舌用葦の人工栽培

蘆舌用葦材の組織構造
蘆舌に使われる節の上部は、表皮柔細胞層(CP)
が薄いため、肉厚が薄く、外皮付近の密度が高い。

様々な葦材の密度と横圧縮強度
地下水位の高い(水浸しの)環境で育った葦(UW)は、細く、低密度で、脆いため、蘆舌には使えない。蘆舌に使われるのは、乾いた土壌で生育する高密度の葦のうち、つぶれにくい葦もの(UD1)である。密度や強度に関しては、鵜殿産(UD)と向島産(MD)の間に大きな違いはない。


参考
蘆舌用葦材のページ
中西遼, 小幡谷英一:篳篥の蘆舌に用いられる葦(Phragmites australis)材の物性(第1報), 材内の密度分布と稈の横圧縮強度. 木材学会誌 62(6), 259-265 (2016)
小幡谷英一, 中西遼:篳篥の蘆舌に用いられる葦 (Phragmites australis) 材の物性 (第2報), 奏者によって選別された葦材の振動特性. 木材学会誌 印刷中

西洋楽器のリードについてはこちら(PDF)をご覧ください。


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