雅楽に用いられる葦材の物性
雅楽とは?
篳篥(ひちりき)と蘆舌(ろぜつ)
雅楽の管絃に用いられる楽器には、琴や琵琶などの弾物(撥弦楽器)、鞨鼓や太鼓などの打物(打楽器)、笙や篳篥などの吹物(管楽器)があります。このうち篳篥(ひちりき)は、オーボエと同様、ダブルリードの振動によって発音する縦吹きの管楽器です。
篳篥のリードは蘆舌(ろぜつ)と呼ばれ、日本の河川流域に広く生息するPhragmites
australisという種類の葦で作られます。古来より、蘆舌用の葦には淀川流域・鵜殿地区の葦が最適であると言われており、現在もなお、宮内庁で使用される篳篥には、鵜殿地区の葦が使われています。
蘆舌用の葦を取り巻く状況
近年、蘆舌用の良材が採れにくくなっていると言われています。そこには、河川周辺の都市化や外来種の侵入など、様々な環境の変化が影響していると考えられます。ただ、そもそも「良質の葦とはどのような葦なのか」がわかっていないため、蘆舌用の葦を保全しようにも、その対象を絞ることができません。
葦原に侵入したつる性の植物
そこで2014年、蘆舌用葦材の持続的かつ安定的な供給と、効率的な選別手法の確立に向けて、葦の基礎物性に関する研究がスタートしました。宮内庁楽部のみなさまを始め、篳篥や雅楽に関わる多くの方々の協力のもと、1)生育環境が組織構造や物性に及ぼす影響、2)葦の組織構造と物性の関係、3)蘆舌の品質と物性の関係(どのような葦が篳篥の蘆舌に適しているか)、などを明らかにしようとしています。また、蘆舌用葦の人工栽培にも取り組んでいます。
葦の生育状況の調査
伝統的な蘆舌の製作技術に関する調査
蘆舌用葦の人工栽培
蘆舌用葦材の組織構造
蘆舌に使われる節の上部は、表皮柔細胞層(CP)
が薄いため、肉厚が薄く、外皮付近の密度が高い。
様々な葦材の密度と横圧縮強度
地下水位の高い(水浸しの)環境で育った葦(UW)は、細く、低密度で、脆いため、蘆舌には使えない。蘆舌に使われるのは、乾いた土壌で生育する高密度の葦のうち、つぶれにくい葦もの(UD1)である。密度や強度に関しては、鵜殿産(UD)と向島産(MD)の間に大きな違いはない。
参考
蘆舌用葦材のページ
中西遼, 小幡谷英一:篳篥の蘆舌に用いられる葦(Phragmites australis)材の物性(第1報),
材内の密度分布と稈の横圧縮強度. 木材学会誌 62(6), 259-265 (2016)
小幡谷英一, 中西遼:篳篥の蘆舌に用いられる葦 (Phragmites australis) 材の物性 (第2報),
奏者によって選別された葦材の振動特性. 木材学会誌 印刷中
西洋楽器のリードについてはこちら(PDF)をご覧ください。