神津島エクスカーション報告
東京湾南方の海上に位置する伊豆諸島には、本土と異なる島の環境に適応した、多くの固有種・準固有種が生育しています。このような植物種が様々な植物群落の構成種となっていることから植生学上の関心が高い一方、伊豆諸島の植生をまとめた報告書はいまだに作られていません。そこで伊豆諸島植生研究グループでは、伊豆諸島の植生誌を作ること、島民の人たちに島での研究成果と各島の自然愛好会の活動の報告することを目的とした講演会と植生観察会を行ってきました。これまでに御蔵島、三宅島、新島で実施され、今回は6月15日から17日の3日間、神津島で行いました。
6月15日の午後、植生誌を作るための基礎資料を得る植物社会学的植生調査法を、東京農工大学の星野義延先生から七島花の会神津島の人たち、東京農工大学と筑波大学の学生たちにご指導いただき、神津島のめいし公園で海浜植生の模擬的な植生調査を行いました。
その夜、神津島の開発センターで島民の人たちを対象とした講演会が開かれました。始めに元神津高校の石橋正行先生から、講演会の趣旨に関する説明がありました。
筑波大学の上條隆志先生からは、植生誌を作ることは植物種の保全に役立つという視点から、保全活動や研究がなされている事例として絶滅危惧種のタチスミレとコシガヤホシクサを紹介しました。
星野義延先生からは、島のサイズが大きいほどに植物の種数や群落の種類数が多くなること、伊豆諸島固有の植物群落は崩壊地、林縁、伐採地等に多いことなどに加え、伊豆諸島はエコリージョンとして世界に誇る貴重な植生を有しているとの見解を披露されました。本土と伊豆諸島の植物の違いについては、タマアジサイとラセイタタマアジザイの葉の大きさ、タラノキとシチトウタラノキの刺の有無、長さの違いを、実物・標本を回覧して感じてもらう試みも行なわれました。
元新島高校の八木正徳先生からは新島自然愛好会の活動紹介と、新島と神津島の植物・植生を比較して、近隣の島でありながら新島に生育していて神津島にはない種、新島にはなくて神津島に生育している種があることについて興味深い指摘がありました。植物に詳しくない方でも興味を魅かれる内容で、終始活気にあふれた講演会でした。
講演会の様子
翌日、天候に恵まれませんでしたが、七島花の会神津島の石田賢也さん、前田厚子さん、清水妙子さんに案内して頂き、神津島最高峰の天上山に登って多くの神津島の植物を観察することができました。
植物観察をする参加者
今回の神津島訪問では七島花の会神津島のみなさんと交流を深めることができ、講演会には多くの島民の人たちに参加して頂き、大変有意義なセミナーとなりました。
文章:前田海門,写真提供:黛絵美