楽器用木材の「老化」


古材研究の必要性
数十~数百年にわたる木材の経年変化は「老化」、老化した木材は「古材」と呼ばれています。近年、住宅の耐用年数を延長するための様々な取り組みが行われていますが、古い木造住宅の性能を正しく評価するには、老化の影響を考慮に入れなくてはなりません。また、古寺(の構造材)や古仏、名画(の画板)といった貴重な木製文化財を適切に保存するためにも、古材の性質を詳しく知る必要があります。


木材が古くなるとどうなるか
老化に伴い、木材(の木目方向)は堅く、強くなりますが、同時に破壊歪が小さくなります。つまり、しなやかさや粘りがなくなります。老化によって脆くなるのは、非晶多糖成分の分解によると考えられますが、老化に伴って堅く、強くなる理由についてはまだよくわかっていません。非晶セルロースが結晶化して強くなる、と言う人もいますが、それを示す実験結果はありません。
一方、楽器用木材の市場では、古材が新材の10倍以上の値段で取引されています。実際、古寺から採取されたアカマツ古材(~290年物)の振動特性を丹念に調べたところ、古材の方が音響変換効率が高いことがわかりました。

ただ、木材の性質には大きなばらつきがあるので、新しい木と古い木を単純に比較しただけでは、老化の効果を議論することができません。


時間-温度-湿度換算則
当研究室では最近、様々な温度や湿度で木材を処理した時の性質の変化から、温度や湿度の効果を時間に換算する方法を確立しました。これにより、室温での老化による様々な物性変化をかなり正確に予測することができるようになりました。木材を永く使う際の劣化予測だけでなく、質の高い楽器や文化財補修用の「人工古材」の製造にも応用できるのではないかと期待されています。 

老化に伴う質量減少(換算則を用いて予測)

熱処理による質量減少
プロットは実測値、曲線は予測値

老化に伴う色(明度)の変化
プロットは実測値、曲線は予測値


参考
T.Noguchi et al.: Effects of ageing on the vibrational properties of wood. J.Cultural Heritage 13S, 521-525 (2012)
K.Endo et al.: Effects of heating humidity on the physical properties of hydrothermally treated spruce wood. Wood Sci.Technol. 50, 1161-1179 (2016)
E.Obataya: Effects of natural and artificial ageing on the physical and acoustic properties of wood in musical instruments. J.Cultural Heritage DOI 10.1016/j.culher.2016.02.011 (2016)
錢谷菜々未ほか:古材および熱処理材の吸湿性および振動特性. 木材学会誌 62(6), 250-258 (2016)
N.Zeniya et al.: Application of time–temperature–humidity superposition to the mass loss of wood through hygrothermally accelerated ageing at 95–140°C and different relative humidity levels. SN Appl.Sci. 1 (2019)
https://link.springer.com/article/10.1007/s42452-018-0009-8
N.Zeniya et al.: Changes in vibrational properties and colour of spruce wood by hygrothermally accelerated ageing at 95–140°C and different relative humidity levels. SN Appl.Sci. 1 (2019)
https://link.springer.com/article/10.1007/s42452-018-0004-0
N.Zeniya et al.: Effects of water-soluble extractives on the vibrational properties and color of hygrothermally treated spruce wood. Wood Sci.Technol. (2019)
https://link.springer.com/article/10.1007/s00226-018-1069-z


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