葦の構造と成分


ここでは、リード材料としてのArundo donax、つまり「死んだ葦」の構造や成分について説明します。「生きた葦」の性質(生育環境など)については、植物図鑑等をご参照ください。また、シングルリードの場合、最も大きく振動する部分は、葦の内側の部分(内層部)に当たるので、ここでは内層部の構造を中心に述べます。

 

リードを光にかざすと「スジ」が見えます。これは維管束(下写真bの部分)です。正確には、維管束の周囲を取り巻く「維管束鞘」の細胞がスジのように見えています。一方、スジ以外の目の細かい部分は、柔細胞という種類の細胞でできています(下写真p)。

 

この構造を簡単に表すと、下図のようになります。つまり、長さ方向に連続した維管束鞘(b)の間を、スポンジのような柔細胞(p)が埋めています。

柔細胞は直径が大きく、壁が薄いのに対して、維管束鞘の細胞は逆に直径が小さく壁が厚くなっています。そのため、両者の密度は大きく異なります(柔細胞が約 0.3 g/cm3、維管束鞘が約 1.2 g/cm3)。結果的に、スジが多い(または太い)ほど、葦は重くなります。また、スジの量はリードのかたさを大きく左右します。


さて、葦と竹の構造はよく似ています。ただ、下に示すように、竹の維管束鞘は葦のそれに比べてより大きく発達しています。また、硬い表皮の部分が葦に比べて厚いので、竹でリードを作った場合、非常にかたく(振動しにくく)なります。


葦(左)とモウソウチク(右)の横断面


葦の成分

葦や竹や樹木の体を支えているのはセルロースです。セルロースとは、ブドウ糖がいくつもつながってできた堅い高分子です。木綿や紙も、主にセルロースからできています。セルロースの繊維を鉄筋とすると、コンクリートに当たるのがリグニンです。リグニンは一種のポリフェノールで、分子が網目状につながってできています。そして、セルロースとリグニンをつないでいるのが、ヘミセルロースという成分です。

これら3つの主成分に関して言えば、葦も竹も木も大した違いはありません。一方、葦や竹は、水で溶け出すような成分(水可溶物)が非常に多いという特徴を持っています。竹の場合、この水可溶物はデンプンが主ですが、葦の水可溶物は、主にブドウ糖、果糖、ショ糖(砂糖)からなっています。維管束鞘が多いほど水可溶物が少ないことから、水可溶物の多くは、葦の柔細胞に含まれていると考えられます。


木の場合、水で溶け出るような成分が材質に大きな影響を与えることはありませんが、葦や竹の場合には、水可溶物の有無によって、振動特性や吸湿性が大きく変化することがわかっています。葦に含まれる水可溶物は、低い湿度ではほとんど湿気を吸いませんが、高い湿度では大量に湿気を吸います。新品のリードを湿度の高いところに放置すると、ジトッと湿った状態になりますが、これは、こぼれた砂糖やインスタントコーヒーが勝手に湿気を吸ってベタつくのと同じです。

リードをすぐ使える状態に保つために、高い湿度を保つような「リード保管ケース」が市販されていますが、カビが生えやすくなるので、あまり好ましいとは思えません。そもそも、唾液で濡らして使うリードの場合、あらかじめ高い湿度で保管しておく意味はあまりないように思います。

なお、リードを長時間水につけて水可溶物を取り除くと、カビが生えにくくなりますが、
リードの質が変わる(柔らかくなる、音色が硬くなる、へたりやすくなる)ので注意を要します。


シングルリードの場合、表皮に近い部分はリードの振動にほとんど関与しないので、あまり重要とは思えませんが、参考までに、表皮付近の構造と特徴的な成分について説明します。

葦の中で最も密度が高いのは、最も外側の表皮、いわゆる「カワ」の部分だと思われがちですが、最も密な部分は、実はちょっと内側に入った部分です。下の写真からわかるように、最外層にはまだ空隙(穴ぼこ)がありますが、それより少し内側の部分は、細胞壁の穴ぼこを無機物が埋めた状態になっており、空隙が全くありません。

表皮付近には、ケイ素(シリカ)が沈着しており、それより少し内側にはカルシウムが沈着しています。これらの無機物は、内層部にはあまり含まれていません。このような無機物が葦の振動特性にどのような影響を与えるのかは、まだよくわかっていませんが、その部分をより硬く(または堅く)している可能性があります。

表皮付近がリード先端部に当たるダブルリードでは、無機物の多寡がリードの質を左右するかもしれません。ちなみに、無機物が多く含まれた材を切ったり削ったりすると、刃物の寿命が短くなります。ご注意ください。


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