固体表面に生まれる光の準粒子

表面プラズモンの超高速ダイナミクス、スピン、トポロジー

図:金属表面を進むフェムト秒SPP波束(本文の式に基づく計算)。金属中の電子(白い点)の粗密で形成される電荷密度(表面の青‐茶の帯)の波面が位相速度で、波束の包絡線が群速度で進みます。誘電体側の色は電場の面直成分、矢印は電場ベクトルで、場の強度は表面から離れるにつれ指数関数的に減衰します。

目次
  1. はじめに
  2. SPP の基礎
  3. 光を SPP に変える
  4. フェムト秒の SPP 波束
  5. 時間分解顕微鏡法
  6. 電子、角運動量、トポロジー
  7. スペース・タイム SPP
  8. この研究室で学ぶこと
  9. おわりに

はじめに:固体表面に生まれる光の準粒子

金属中の伝導電子は、光の電場に揺さぶられると、集団となって振動します。この電子の集団励起が光と結びついて生まれる準粒子が、表面プラズモンポラリトン(SPP)です。私たちは、この準粒子が生まれ、伝わり、最終的に個々の電子の励起へと崩壊していくまでを、フェムト秒(1 fs = 10−15 秒)の時間分解能で直接観測し、固体中の電子と光の相互作用を研究しています。

プラズモンは、電子ガスのプラズマ振動を量子化したものとして、1950 年代に Bohm と Pines が電子多体系の理論の中で導入した概念です。SPP はその表面版であり、電子の集団運動と電磁場が一体となった、二つの顔を持つ準粒子です。

電磁場としての SPP は、金属と誘電体の境界に閉じ込められ、光の波長(可視光で 400〜800 nm 程度)よりはるかに小さい、最小で数ナノメートルの領域にエネルギーを集めます。そして光速に近い速さで表面を伝わった後、電子-正孔対(ホットキャリア)へと崩壊し、エネルギーを個々の電子に渡します。集団励起から一電子励起への崩壊という、物性物理の中心的な非平衡ダイナミクスを、実空間・実時間で直接観ることのできる舞台です。

近年は「ストラクチャード・ライト(構造化された光)」の研究を通じて、SPP の新しい性質が次々と明らかになっています。SPP は進行方向に垂直な「横スピン角運動量」を生まれつき持ち、金属中の電子に円環電流を誘起するなど、物質中の電子やスピンと深く関わります。さらに、SPP の干渉場の中には、磁性体の磁気スキルミオンやメロンと同じトポロジカルなスピン構造が現れることも分かってきました。光の場と、物質中のスピンやトポロジーの物理が交わる、新しい研究領域が広がっています。

こうした基礎研究は、社会での応用とも地続きです。SPP は、ナノ構造の配列で光の性質を人工的に設計する「メタマテリアル」や「メタサーフェス」の物理的な基礎でもあります。後で紹介する一般化スネルの法則やホイヘンス原理による波面設計は、メタサーフェスと共通の原理です。化学・バイオセンサー、高感度な光検出器、プラズモン光触媒なども、同じ物理の上に成り立っています。とくに近年注目されているのが、電気信号と光信号を高速かつ低消費電力で相互に変換する「光電変換」技術です。データ通信量が急増するなか、光電変換はデータセンターや通信網をはじめとする次世代の情報通信(ICT)インフラを支える基盤技術と位置づけられています。プラズモンは光を電子回路と同じナノメートルの寸法に閉じ込められるため、光と電子を一体化したデバイスの有力な担い手です。実際、金属-絶縁体-金属(MIM)型導波路とグラフェンを組み合わせたプラズモニック光変調器では、1 回のスイッチ動作に必要なエネルギーがフェムトジュール台まで下がっています。

以下では、基礎から最新のトピックまでを、数式もなるべく省かずに順に説明します。学部で電磁気学と量子力学の初歩を学んだ人なら、読み進められるはずです。

表面プラズモンポラリトン(SPP)の基礎

金属と誘電体の境界には、光(電磁波)と電子の粗密波(プラズモン)が結びついた準粒子(ポラリトン)が存在します。この準粒子は、物質の内部(バルク)ではなく表面に局在して伝わることから、「表面プラズモンポラリトン(SPP)」と呼ばれます。ここでは、\(z < 0\) が金属(m)、\(z > 0\) が誘電体(d)で、境界面 \(z = 0\) を \(x\) 方向に進む平面波の SPP を考えます。

電磁場の形

マクスウェル方程式から導かれるヘルムホルツ方程式を、境界面での連続条件のもとで解くと、電場 \(\mathbf{E}\) と磁場 \(\mathbf{H}\) は次の形になります(添え字 \(i\) は m または d)。

\[ \mathbf{E}(\mathbf{r},\omega) = A_i \frac{1}{\omega \varepsilon_0 \varepsilon_i(\omega)} \begin{pmatrix} i k_{z,i} \\ 0 \\ k_x \end{pmatrix} e^{i k_x x - k_{z,i} |z|} \]
\[ \mathbf{H}(\mathbf{r},\omega) = A_i \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix} e^{i k_x x - k_{z,i} |z|} \]

ここで \(A_i\) は磁場の振幅、\(\varepsilon_0\) は真空の誘電率、\(\varepsilon_i(\omega)\) は比誘電率、\(\omega\) は角振動数です。磁場は面内(\(y\))方向だけを向くので、SPP は TM 波です。また、電場は伝搬軸(\(x\))成分と面直(\(z\))成分を持ち、境界から離れると指数関数的に減衰します。つまり、エネルギーは境界面のごく近くに閉じ込められています。

分散関係

SPP の性質は、面内の波数 \(k_x\) の振動数依存性、すなわち分散関係に集約されます。

\[ k_{\mathrm{SPP}}(\omega) \equiv k_x = \frac{\omega}{c}\left(\frac{\varepsilon_d(\omega)\,\varepsilon_m(\omega)}{\varepsilon_d(\omega)+\varepsilon_m(\omega)}\right)^{1/2} \]

金属は光を吸収するので、\(k_{\mathrm{SPP}}\) は一般に複素数 \(k_{\mathrm{SPP}} = k'_{\mathrm{SPP}} + i k''_{\mathrm{SPP}}\) です。実部と虚部から、次のような量が求まります。

\[ \lambda_{\mathrm{SPP}} = \frac{2\pi}{k'_{\mathrm{SPP}}}, \qquad v_p = \frac{\omega}{k'_{\mathrm{SPP}}}, \qquad v_g = \frac{\partial \omega}{\partial k'_{\mathrm{SPP}}}, \qquad L = \frac{1}{2 k''_{\mathrm{SPP}}} \]

それぞれ SPP の波長、位相速度、群速度、伝搬長(強度が \(1/e\) になる距離)です。

SPP が存在する条件

SPP が境界に閉じ込められるには、面に垂直な波数 \(k_{z,i}\) が境界の両側で減衰を表す必要があります。この条件から、次の存在条件が導かれます。

\[ \varepsilon_d(\omega) + \varepsilon'_m(\omega) < 0 \]

空気の \(\varepsilon_d\) はおよそ 1 なので、金属の誘電率の実部 \(\varepsilon'_m\) が −1 より小さい負の値でなければなりません。もし自由電子の応答(ドルーデ応答)だけであれば、この条件を満たす波長域は、アルミニウム(Al)のように近紫外域まで伸びます。しかし、プラズモニクスでよく使う銀(Ag)や金(Au)では、d 電子のバンド間遷移がこの波長域を制限し、その影響の強さが両者で異なります。Ag では波長およそ 400 nm 以上でこの条件を満たし、可視光の全域から赤外域にわたって SPP を担持します。Au では影響がより強く、SPP を担持するのは波長およそ 600 nm 以上、つまり可視光の長波長側の一部と赤外域です。

なぜ金属の誘電率は負になるのか

負の誘電率の起源は、フェルミ準位近くにある自由電子の応答(ドルーデ応答)です。絶縁体中の束縛電子(ローレンツモデル)とは違い、自由電子には変位を元に戻そうとする復元力が働きません。そのため、電子の変位は外から加わる電場の波形をそのままなぞります。ただし電子の電荷は負なので、分極は電場と逆向き(逆位相)になり、これが誘電率を負にします。

この「波形をそのままなぞる」性質は、外場がフェムト秒の光パルスでも変わりません。これが、後で述べるフェムト秒 SPP 波束が作れる理由です。

光を SPP に変える:結合器と波面の設計

平らな金属に光を当てるだけでは、SPP は励起されません。SPP の波数は、同じ振動数の光の波数より常に大きいからです。この波数の不一致(\(\Delta k\))を埋めるのが「結合器」です。

\[ \Delta k = k_{\mathrm{SPP}} - \sqrt{\varepsilon_d(\omega)}\,\frac{\omega}{c} \]

結合器には、ナノスケールのスリット、溝、段差、回折格子などが使われます。プリズムを使うクレッチマン配置やオットー配置、近接場プローブによる励起もあります。構造での回折が足りない運動量 \(\Delta k\) を補い、光を SPP に変換します。

フェムト秒パルスを「複製」する結合器

金属表面に多数の溝を刻んだ回折格子は、特定の波長・入射角の光に対して SPP への高い変換効率を示します。しかし、波長依存性が鋭くなり、それから外れる光の変換効率が落ちてしまうため、フェムト秒パルスのように広いスペクトル幅を有する光の結合器には向きません。この場合、回折格子の溝の数を減らしていき、究極的には 1 本の「溝」にすることを考えます。溝の中でのファブリー・ペロー共振など、共振による意図せぬ波長依存性の発生に注意して設計すれば、フェムト秒パルスの広いスペクトル全体で、ほぼ一定の結合効率と位相応答を持つ結合器が作れます。このような結合器からは、励起光の搬送波の波形を写し取った「SPP 波束」が生成されます。実験でもシミュレーションでも、単純な直線型ナノスリット結合器から、励起光パルスと同じ時間幅の SPP 波束が伝搬する様子が確かめられています。

一般化スネルの法則

\(y\) 軸に沿って伸びる直線状の結合器(\(x = 0\))を考えます。この構造は \(x\) 方向の並進対称性を壊すので、そこで波面の不連続が許されます。一方、\(y\) 方向には並進対称性が残っているので、励起光と SPP の間で \(y\) 方向の波面はつながっていなければなりません。

つまり、結合の前後で面内の横波数 \(k_y\) が保存されます。これは屈折のスネルの法則を一般化したものです。この原理から、光を斜めに当てたときに SPP がどの向きに進むかが決まります。単純な直線構造でも、この原理を使えば二次元の SPP 波面を精密に整形できます。

ホイヘンス原理で考える複雑な波面

円環、らせん、円弧、ウェッジ、二次元格子、ホログラム、メタマテリアルなど、さまざまな結合器が報告されています。どれも「小さな SPP 点波源を並べたもの」と見なせば、ホイヘンスの原理で全体の波面を理解できます。微小構造の配列で、入射光の円偏光の向き(右回りか左回りか)によって SPP の進行方向を切り替える例もあります。

フェムト秒の SPP 波束:広がり、変形し、減衰する

結合器から出た SPP 波束は、光速に近い群速度で金属表面を進みます。その間に群速度分散で形が変わり、吸収で弱まっていきます。時間領域差分(FDTD)法や有限要素法(FEM)のシミュレーションは強力ですが、材料の誘電率モデルやメッシュの切り方で結果が変わります。解析解や簡単な物理モデルで「答えの見当」をつけておくことが大切です。

光パルスの分散からの類推

吸収が無視できる誘電体中を、ガウス型の包絡線を持つフーリエ限界パルスが進む場合を考えます。二次の分散があると、低振動数成分が前進し、高振動数成分が遅れることによって、パルスが進むにつれて時間幅が広がり、同時に搬送波の振動数がパルスの前方から後方にかけて上昇する、チャープ(アップチャープ)と呼ばれる現象が生じます。初期の時間幅 \(T_0\) のパルスが距離 \(x\) 進んだときの時間幅は、解析的に次のように書けます。

\[ T(x) = T_0 \sqrt{1 + \frac{4 D^2 x^2}{T_0^4}}, \qquad D = \frac{1}{2}\left.\frac{d^2 k}{d\omega^2}\right|_{\omega_0} \]

\(D\) は中心角振動数 \(\omega_0\) での分散係数です。分散が大きいほど、また最初のパルスが短いほど、急速に広がります。この傾向は SPP 波束にもそのまま当てはまります。

SPP ならではの難しさ

SPP では、金属のオーム損失のため \(k''_{\mathrm{SPP}}\) が大きく、しかも振動数ごとに値が異なります(虚部の分散)。つまり、色によって届く距離が違います。さらに、SPP 共鳴振動数の近くでは分散曲線が大きく曲がり、三次以上の高次分散も効いてきます。

10 fs、中心波長 800 nm のパルスでは、スペクトル幅が約 100 nm に達します。これほど広帯域だと、SPP 波束の伝搬に伴い、スペクトル形状の変化、中心振動数のずれ、包絡線の複雑な変形がはっきり現れます。

複素分散(CD)モデル

こうした効果を扱うため、私たちは「複素分散(CD)モデル」を用いています。考え方はシンプルで、波束を振動数成分に分け、各成分を複素波数で別々に伝搬させてから足し戻します。まず、\(x = 0\) での波形をフーリエ変換します。

\[ F(0,\omega) = \int_{-\infty}^{+\infty} E_{\mathrm{SPP}}(0,t)\, e^{-i\omega t}\, dt \]

この係数の絶対値を \(R(0, \omega_i)\)、偏角を \(\phi(0, \omega_i)\) とすると、位置 \(x\) での各成分の振幅と位相は次のようになります。

\[ R(x,\omega_i) = R(0,\omega_i)\, \exp\!\left[-k''_{\mathrm{SPP}}(\omega_i)\, x\right], \qquad \phi(x,\omega_i) = \phi(0,\omega_i) + k'_{\mathrm{SPP}}(\omega_i)\, x \]

最後に逆フーリエ変換すれば、位置 \(x\) での波形が得られます。

\[ E_{\mathrm{SPP}}(x,t) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{+\infty} R(x,\omega)\, e^{i[\omega t + \phi(x,\omega)]}\, d\omega \]

この方法は任意の次数の分散を扱えるので、MIM 構造の導波モードのように分散の強い系にも使えます。

フェムト秒で「観る」:時間分解顕微鏡法

SPP が位相をそろえて振動していられる時間(コヒーレンス寿命)は、伝搬型 SPP で 100 fs 程度以下、ナノ粒子などの局在型プラズモンでは数 fs しかありません。これを追いかけるには、時間幅が数〜20 fs 程度の超短パルスレーザーを使った「ポンプ-プローブ法」を顕微鏡と組み合わせます。典型的には、干渉計で一つのパルスを二つに分け、遅延時間 \(\tau\) だけずらしてから同じ軸上に合成することで、ポンプ-プローブパルス対を形成し、試料に照射します。近接場光学顕微鏡(NSOM)、光電子顕微鏡(PEEM)、二光子蛍光顕微鏡などで、SPP の時間分解観察が実現しています。

鍵は SPP と光の「干渉ビート」

観察の要は、試料表面で SPP 波束と光パルスが干渉することです。光パルスを入射角 \(\theta\) で広い範囲に一様に当てると、位置 \(x\) での光の波形は、\(x = 0\) での波形を少し遅らせたものになります。

\[ E_{\mathrm{Light}}(x,t) = E_{\mathrm{Light}}\!\left(0,\; t - \frac{x \sin\theta}{c}\right) \]

表面の全電場は \(E_{\mathrm{Total}} = E_{\mathrm{SPP}} + E_{\mathrm{Light}}\) です。SPP と光が時間的・空間的に重なるところでは、両者の波数の差に対応するうなり(ビート)が生じます。

\[ \lambda_{\mathrm{beat}} = \frac{2\pi}{k'_{\mathrm{SPP}} - k_0 \sin\theta} \]

顕微鏡で見えるのは、このビートの空間パターンです。ビート波長を測れば、SPP の波長が実験的に決まります。

ポンプとプローブの二つのパルスを使うと、ビートには三種類の干渉が現れます。ポンプが作った SPP とポンプ光、ポンプが作った SPP とプローブ光、プローブが作った SPP とプローブ光という、三つの組み合わせによる干渉です。このうち二番目だけが遅延時間 \(\tau\) に応じて動くので、そこから SPP 波束の動きを読み取れます。\(\tau\) を \(\Delta\tau\) 増やしたときのビート波束の移動量 \(\Delta x\) から見かけの速度 \(v_\tau = \Delta x/\Delta\tau\) を求めると、SPP の群速度は次のように決まります。

\[ v_g = \left(\frac{1}{v_\tau} + \frac{\sin\theta}{c}\right)^{-1} \]

光を垂直に当てた(\(\theta = 0\))場合は \(\lambda_{\mathrm{beat}} = \lambda_{\mathrm{SPP}}\)、\(v_\tau = v_g\) となり、ビート像は SPP 波束そのものによく似た姿になります。

時間分解光電子顕微鏡法(TR-PEEM)

TR-PEEM では、表面の電場で真空中にたたき出された光電子の分布を電子レンズで拡大し、蛍光スクリーンに映してカメラで撮影します。光源には、チタン・サファイアレーザーの基本波(800 nm、1.55 eV)や二倍波(400 nm、3.1 eV)、非同軸光パラメトリック増幅器(NOPA)などを使います。

光子一個のエネルギーは金属の仕事関数より小さいので、電子は複数の光子を吸収して飛び出します(多光子光電子放出)。次数 \(N\) が上がるほど信号は急激に弱くなるため、二光子過程がよく使われます。\(N\) 光子過程の PEEM 信号は、現象論的に次のように表せます。

\[ I(x) = \int_{-\infty}^{+\infty} \left| E_{\mathrm{Total}}(x,t) \right|^{2N} dt \]

Ag の蒸着膜に 10 fs パルスで励起した SPP ビートの観察では、この式に CD モデルを組み合わせた計算が、実験とよく一致しました。

得られるデータは、画像の二次元に遅延時間を加えた三次元データです。ある一点の信号を \(\tau\) の関数として見ると、干渉自己相関に似た振動波形になります。これを \(\tau\) 方向にフーリエ変換し、基本振動数 \(\omega_0\) の成分だけを取り出して逆変換すると、背景のない SPP のビート像が得られます。こうした解析には、遅延の刻み幅を光の一周期の 1/10 程度に細かく取るのが理想です。

時間分解二光子蛍光顕微鏡法(TR-2PFM)

TR-PEEM はナノメートル級の分解能を持つ一方、装置が大がかりかつ高価で、超高真空が必要です。TR-2PFM は大気中で使える、より手軽な方法です。金属表面に厚さ約 20 nm の色素入り PMMA 膜を塗り、表面の電場を蛍光に変えて、対物レンズとカメラで撮影します。

色素には、励起光を一光子では吸収せず、二光子で光るものを選びます。こうすると、色素が SPP のモードを乱しにくく、発光の波長が短くなるぶん空間分解能も上がります。20 nm 程度の膜なら、SPP の分散への影響も小さく抑えられます。近赤外光や、波面を整形した光を励起に使いやすいのも大きな利点です。

観察例:ナノ共振器を通り抜ける SPP 波束

Au 表面に MIM 型のナノ共振器を置き、フェムト秒 SPP 波束を通過させる様子を TR-2PFM で可視化しました。MIM 構造では厚さ数十 nm の絶縁体層に電場が集中し、SPP の波長が強く縮みます。共振器は両端で SPP が反射するファブリー・ペロー型で、とびとびの固有振動数を持ちます。

共振器の固有モードが波束スペクトルの高エネルギー側と重なると、透過した波束のピークは、平らな面を進み続けた場合より後ろにずれました。低エネルギー側と重なると前にずれ、二つのモードが重なるとピークは二つに分かれました。Au 表面を進む間にアップチャープした波束から、共振器が特定の色だけを選んで通したためと解釈できます。

これは、フェムト秒・マイクロメートル領域で、時間と空間の構造が結びつく「時空間結合(STC)」を直接捉えた例でもあります。

SPP の新しい顔:電子、角運動量、トポロジー

SPP から電子へ:プラズモエミッション

電磁気学では SPP と光を「場」として足し合わせますが、電子の立場から見ると両者は別物です。SPP は電子の集団励起、光への直接応答は電子一個の励起(電子-正孔対)にあたります。二光子 PEEM で放出される電子は、SPP が熱い電子(ホットキャリア)に崩壊してから光で励起されたもの、SPP のエネルギーから直接出たものなど、複数の経路に由来すると解釈されています。

これを見分けるため、PEEM で電子の位置だけでなくエネルギーと運動量も測る「光電子運動量顕微鏡」が使われています。円環状の結合器を刻んだ金属表面にフェムト秒レーザーを照射し、「円環」の中心に向かって伝搬する SPP を励起すると、中心では、励起パルスが去った後に SPP どうしが干渉して集まり、SPP 由来の電子放出(プラズモエミッション)が主役になります。そこでは、高エネルギーの電子が増え、面内の運動量分布が狭まることが観測されました。集光した SPP 場で 7 次に及ぶ高次の励起が起こる「プラズモン誘起フロッケ状態」も報告されています。こうした SPP の励起と緩和の機構を理解することは、電子多体系の物理の解明のみならず、金属ナノ粒子を担持した光触媒でプラズモンから電子(キャリア)が注入される現象など、化学・産業的応用の基礎を理解するうえでも重要です。

光のスピンと軌道角運動量

光は角運動量を運びます。円偏光は光子一個あたり \(\hbar s\)(\(s = \pm 1\))のスピン角運動量(SAM)を持ちます。1992 年に Allen らは、ヘルムホルツ方程式の(近軸近似での)解であるラゲール・ガウスビーム(光渦)が、位相を方位角 \(\phi\) に対して \(E \propto \exp(il\phi)\) とらせん状に回転させ、光子一個あたり \(\hbar l\) に相当する軌道角運動量(OAM)を運ぶことを示しました。光波の場の構造を吟味することで、偏光が担う SAM とは別に、光波の OAM が定義できることが明らかになったのです。これにより光波の SAM と OAM が出そろい、量子系におけるスピン角運動量・軌道角運動量との類似関係が明確になりました。

さらにストラクチャード・ライトの理論研究から、光の進行方向に直交する向きを持つ「横スピン角運動量(t-SAM)」が見つかりました。SPP は生まれつき t-SAM を持っており、その向きは進行方向に対して常に決まった側を向きます(スピン-運動量ロッキング)。金属内部では逆ファラデー効果による円環電流を誘起するなど、際立った性質があります。

SPP 渦

OAM を持つ SPP 場が SPP 渦です。半径が次のように変わるアルキメデスらせん型の結合器に、円偏光を垂直に当てて作ります。

\[ r(\phi) = r_0 + m\,\frac{\lambda_{\mathrm{SPP}}\,\phi}{2\pi} \]

\(m\) は「幾何学的チャージ」で、らせんの本数に相当します。生じる SPP の面直電場は、\(l\) 次の第一種ベッセル関数で表されます。

\[ E_z(r,\phi) \propto J_l(k_{\mathrm{SPP}}\, r)\, e^{i l \phi}, \qquad l = s + m \]

\(l\) は渦のトポロジカルチャージ(OAM)です。らせんの形が \(m\) を、入射光の円偏光が \(s\) を与え、両者が足し合わされます。結合器を介して光のスピンが軌道角運動量に変わる「光学的スピン-軌道相互作用」の一例です。NSOM による観察では、\(m = 4\) のらせんに \(s = 1\) の円偏光を当てると \(l = 5\) になることが確かめられています。

TR-PEEM で SPP 渦を観察すると、らせん中央で円環状に並んだ節が回転する様子が見えます。興味深いことに、\(m = 3\) のらせんでは、右回り・左回りどちらの円偏光でも観測された OAM は 3 でした。\(l = s + m\) と一見矛盾するこの結果は、電子が実際に励起される金属内部で、SPP 渦の OAM とプローブ光の SAM が混ざり合うためと解釈されています。

トポロジカル・プラズモニック・スピン準粒子

磁性体には「磁気スキルミオン」と呼ばれる、スピンが渦を巻いた安定な粒子状の構造があります。構造化された SPP 場でも、これに対応する構造が作れます。その性質は、各点の SAM ベクトルで記述されます。

\[ \mathbf{S} = \frac{1}{4\omega}\,\mathrm{Im}\!\left[\varepsilon\, \mathbf{E}^* \times \mathbf{E} + \mu\, \mathbf{H}^* \times \mathbf{H}\right] \]

局所的な偏光状態と SAM の向きは一対一に対応します。円偏光ならポアンカレ球の極(北極・南極)、直線偏光なら赤道上を向きます。規格化したベクトル \(\mathbf{S}' = \mathbf{S}/|\mathbf{S}|\) を使うと、トポロジカルチャージ密度 \(D\) と、領域 \(L\) にわたるトポロジカルチャージ \(Q\) は次のように定義されます。

\[ D = \frac{1}{4\pi}\, \mathbf{S}' \cdot \left(\frac{\partial \mathbf{S}'}{\partial x} \times \frac{\partial \mathbf{S}'}{\partial y}\right), \qquad Q = \iint_L D\; dx\, dy \]

\(Q\) は、\(\mathbf{S}'\) がポアンカレ球を何回覆うかを数える整数(またはその分数)です。スピン・スキルミオンでは \(Q = 1\)、スピン・メロンでは \(Q = 1/2\) になります。光渦ビームの集光によるネール型スキルミオンのほか、ブロッホ型、ツイスト型スキルミオン、メロン、メロン格子などが報告されています。

これらの準粒子は SPP 波どうしの干渉で生まれるので、SPP が去れば消えてしまいます。だからこそ、生まれてから消えるまでを追える、TR-PEEM などのフェムト秒時間分解顕微鏡が威力を発揮します。

Ag 膜上の \(m = 2\) のらせんに直線偏光のフェムト秒パルスを当てた実験では、中心部で回転する SPP 渦が観測されました。さらに、SPP が干渉している間、偏光の境界線(L-ライン)に縁取られたスピン・メロンが三つつながった構造が現れました。構造が形成されてから完全に消え去るまでの間、トポロジカルチャージの値は 3/2 で一定に保たれ、準粒子の安定性が示されました。直線偏光は右回りと左回りの円偏光の重ね合わせなので、OAM が 1 と 3 の二つの渦が重なった結果と解釈されます。

円環型結合器に円偏光を当てたツイスト型スキルミオンの観察では、時間分解映像からトポロジカルチャージの時間変化を求めると、準粒子がある間は \(Q \simeq 1\)、その前後はほぼ 0 で、中間の値はとりませんでした。トポロジーが「0 か 1 か」で守られていることを示す、美しい結果です。

時空間を設計する光:スペース・タイム SPP

ストラクチャード SPP

ストラクチャード・ライトには、広がらずに進む非回折ビーム、光渦、ポアンカレビーム、スキルミオンビームなど多くの種類があります。これらに対応する SPP を「ストラクチャード SPP」と呼びます。ベッセルビームに対応するコサイン・ガウス SPP や、曲がった軌道を進むエアリービームに対応するエアリー SPP が知られています。ただしこれらは単色光で作られ、進行方向には局在していません。横方向だけでなく進行方向にも閉じ込められた光は「ライトバレット(光弾丸)」と呼ばれ、実現には高度な波面整形が必要です。

スペース・タイム光波束

スペース・タイム光波束(ST-WP)は、パルス光を使って作るストラクチャード・ライトです。空間光変調器(SLM)を組み込んだ 4f 光学系で、振動数成分ごとに横方向の波数を独立に決めます。その結果、振動数と波数の関係(時空間スペクトル)は、ライトコーンと傾いた平面との交線になります。

こうして作られた波束は、形を変えずに進み(伝搬不変性)、群速度を自由に設計でき、分散媒質中でも広がりを抑えられます。

ST-SPP:金属表面の「ライトバレット(光弾丸)」

ST-WP に対応する SPP がスペース・タイム SPP(ST-SPP)です。SPP はもともと面に垂直な方向に閉じ込められているので、面内の二方向と合わせて三次元的に局在した「光弾丸」が実現します。

ST-SPP は理論的には提案されていましたが、金属表面上で精密な時空間スペクトルを作る方法は分かっていませんでした。私たちは、整形したフェムト秒 ST-WP を直線状のナノスリットに当てることで、ST-SPP の励起と可視化に成功しました。先に述べた一般化スネルの法則を使うと、伝搬光から SPP への時空間スペクトルの変換を定式化できます。

実験では、マイクロメートル周期で並ぶ多数の縞状 SPP ビーム(ストライプ型 ST-SPP)を Au 表面に作りました。この時空間スペクトルは、SPP のライトコーンと、平行な二枚の平面との交線で表されます。二枚の平面の横波数の差 \(\Delta k_x\) と、ストライプの周期 \(\lambda_x\) の間には、次の関係があります。

\[ \lambda_x = \frac{2\pi}{\Delta k_x} \]

2PFM 像から求めた周期は設計値と一致し、隣り合うストライプは減衰しきるまでくっきり分かれたまま進みました。光源は 10 fs、800 nm(スペクトル半値全幅 110 nm)のパルスで、超広帯域なフェムト秒 ST-SPP 波束が実現しています。

これからの課題

理論研究から、形を変えずに進む ST-SPP 波束の面直 SAM は、波束の縁を囲む L-ラインで区切られた構造を持ち、SPP のコヒーレンス寿命を大きく超えて安定に保たれることが示されています。波束内部にはエネルギーの渦状の流れがあり、有限のトポロジカルチャージ密度が生じるため、金属中の電子スピンとの新しい相互作用も期待されます。スピンの運び手としてのストラクチャード SPP、物質の電子スピンとの相互作用、そしてその時間分解ダイナミクスは、これからの興味深い研究テーマです。

この研究室で学ぶこと

私たちの研究は、理論・数値計算・実験のすべてにまたがります。研究室に入ると、次のような内容を段階的に身につけていきます。

分野主な内容このページでの登場箇所
固体物理・量子力学電子の集団励起と一電子励起、光電子放出、角運動量、非平衡電子ダイナミクスSPP の基礎、TR-PEEM、プラズモエミッション、SPP 渦
スピン・トポロジーポアンカレ球、トポロジカルチャージ、スキルミオン・メロン、ベクトル解析スピン準粒子、ST-SPP
電磁気学・光学マクスウェル方程式と境界条件、誘電関数、分散関係、偏光SPP の基礎、結合器
超短パルス光学フーリエ変換、群速度分散、チャープ、スペクトル位相SPP 波束、CD モデル
数値計算FDTD 法・FEM、解析モデルとの比較、画像・信号処理SPP 波束、ビート抽出
実験技術フェムト秒レーザー、干渉計、顕微光学系、波面整形(SLM)時間分解顕微鏡法、ST-SPP

どれも最初から知っている必要はありません。学部で学んだ電磁気学と量子力学を土台に、ゼミと実際の研究を通して一つずつ深めていきます。このページの数式を「自分で導ける」ようになることが、最初の目標の一つです。

こうした経験で身につくのは、物理モデルを立てて検証する力、精密な光学実験を組み上げる力、大量のデータから有意な結論を引き出す力です。これらは光学・半導体・計測・情報通信などの産業分野でも、そのまま活かせます。

おわりに・さらに学びたい人へ

光と物質はどのように相互作用し、物質中の電子は光のエネルギーや角運動量をどのように受け取るのか。この問いは、物性物理学の根本的なテーマの一つです。私たちは、固体表面に生まれる光の準粒子である表面プラズモンを「窓」として、この問いに取り組んでいます。表面プラズモンは、光を電子の集団運動と一体化させてナノメートルの領域に閉じ込め、そのエネルギーを個々の電子の励起へと受け渡します。同時に、構造化された光の場として、スピンやトポロジーを持つ電磁場のテクスチャを固体表面上に作り出します。こうした過程を、フェムト秒の時間分解イメージングによって実空間・実時間で直接観ることができるようになりました。

光と物質の相互作用を軸にした物性研究は、さらに大きく広がっています。グラフェンなど二次元物質のプラズモンポラリトンや励起子ポラリトン、光と物質の強結合、光で物質の性質を制御するフロッケ工学、非エルミート系の物理などは、いずれも活発に研究が進む分野です。そしてこうした基礎物理は、メタマテリアルや光電変換など、次世代の情報通信や化学技術の土台にもなっています。

電磁気学、量子力学、固体物理を土台に、実験と理論の両面から新しい物理を探ってみたい方は、ぜひ気軽に研究室を訪ねてください。

入門書

  • 岡本隆之, 梶川浩太郎: 『プラズモニクス―基礎と応用』(講談社サイエンティフィク, 2010)
  • 梶川浩太郎, 岡本隆之, 高原淳一, 岡本晃一: 『アクティブ・プラズモニクス』(コロナ社, 2013)
  • S. A. Maier: Plasmonics: Fundamentals and Applications(Springer, 2007)

総説・関連論文

  • W. L. Barnes, A. Dereux and T. W. Ebbesen: Nature 424 (2003) 824.
  • A. V. Zayats, I. I. Smolyaninov and A. A. Maradudin: Phys. Rep. 408 (2005) 131.
  • K. Y. Bliokh, D. Smirnova and F. Nori: Science 348 (2015) 1448.(SPP のスピン)
  • A. Forbes, M. de Oliveira and M. R. Dennis: Nat. Photonics 15 (2021) 253.(ストラクチャード・ライト)
  • M. Dąbrowski, Y. Dai and H. Petek: Chem. Rev. 120 (2020) 6247.(時間分解 PEEM)
  • M. Yessenov et al.: Adv. Opt. Photonics 14 (2022) 455.(スペース・タイム光波束)

研究室の関連論文

  • A. Kubo, N. Pontius and H. Petek: Nano Lett. 7 (2007) 470.(SPP 波束の TR-PEEM 観察)
  • N. Ichiji, Y. Otake and A. Kubo: Nanophotonics 11 (2022) 1321.(MIM ナノ共振器と SPP 波束)
  • Y. Dai et al.: Nature 588 (2020) 616.(プラズモニック・スピン・メロン)
  • N. Ichiji et al.: ACS Photonics 10 (2023) 374, Nat. Commun. 16 (2025) 10697.(スペース・タイム SPP)
  • N. Ichiji et al.: Phys. Rev. A 107 (2023) 063517.(ST-SPP 波束のスピン構造)

(このページは、久保敦・伊知地直樹「表面プラズモンの基礎と時間分解イメージング」, 光学 53 (2024) 274 をもとに作成しました。)