Research

研究領域: 水圏生態学・水圏物質循環

研究テーマ

水圏における物質循環と有機物の生産・分解・輸送過程

研究の概要

海洋・湖沼など水圏の表層において植物プランクトンの光合成により生産された有機物の一部は植物プランクトン自身の呼吸により消費されるとともに、動物プランクトン・バクテリアなどの従属栄養生物群集により分解され無機化される。また残りの有機物は沈降粒子として表層から中・深層へと輸送される。有機物はこの様な生産・分解・輸送の諸過程を通して、水圏の物質循環の主役を演じている。 有機物は構成する元素、元素の結合状態、また分子量の違いなどにより、多様な構造を持っている。また、その構造の違いを反映して生体内での機能を異にしており、さらに従属栄養生物の分解作用に対する安定性にも大きな違いが認められる。このため、水圏の物質循環における有機物の動態を解明するためには、単に量的な評価だけではなく、質的な評価を合わせて研究を進める必要がある。 この様な考え方の基に、主として以下の研究を実施している。

  1. 有機物の生産過程に関する研究
    植物プランクトンによる有機物生産過程の解析のため、炭素安定同位体(13C)をトレーサーとした13C法を用いることにより、主に西部北太平洋域における有機物生産量とその支配要因について研究を進めている。また、生産される有機物の質的な情報を得るために、 13C法とガスクロマトグラフ/質量分析計とを併用した方法を導入し、有機物組成と環境条件との関係について解析を行っている。
  2. 溶存態有機物の生物化学的研究
    地球における有機物の大きなリザーバーの一つである溶存態有機物について、その濃度と有機物の組成、さらに植物プランクトンによる生産速度、有機物組成などを通した解析を行っている。これらの情報から、溶存態有機物を安定性の違いにより評価し、水圏物質循環における溶存態有機物の生物地球化学的な役割を明らかにする。
  3. 揮発性有機化合物を介した海洋―大気間相互作用
    海洋表層で生産された有機物のうち、硫化ジメチルやイソプレン、アセトンなど揮発性をもつ有機化合物がある。例えば、植物プランクトンやバクテリアによって生成される「硫化ジメチル」は磯の香の主成分として知られる。硫化ジメチルは、海表面から大気へ放出すると大気中で酸化され、雲の前駆体となることで、気候に影響を及ぼす。このように海洋生態系から生成される揮発性有機化合物の海洋ー大気間の収支や、海洋表層における濃度分布、生成・分解の過程を評価することで、海洋生態系が大気環境へ及ぼす影響を理解する。