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Wei, L. & Moyer, M. G. (2008)
PART
I: Researching Bilingualism and Multilingualism (pp. 3-31)
1.
Research Perspectives on Bilingualism and Multilingualism (pp. 3-17)
n bilingualism/multilingualism(以下BM-L)は今や世界の日常であり、多くの疑問や関心事が存在する(例:1つ以上の言語を同時に学ぶことは子供の知性の発達に貢献するか?)。これらは科学的手法により解明することができる。
n BM-Lには社会的な側面と個人的な側面があるが、これは分け難いものである。つまり、公的にはBM-Lな国でも(社会的)、そこにいる個人はモノリンガルな場合もあり(個人的)、逆の場合もまた存在する。
n BM-Lについての研究の歴史は古く、17世紀にまで遡るが、主要な研究分野として地位を築いたのは1970年代に入ってからである。主に、次の3つの観点から研究される。
(1) 言語学的観点(linguistic perspective):
個人において、複数言語の言語知識(語彙や文法など)がどのように存在し、用いられ、また獲得されるのかを主として調査。code-switchingの研究やone-system-or-twoの議論(文法や語彙は各発達段階において1つのシステムなのか、2つなのか)など。
(2) 心理言語学的観点(psycholinguistic perspective):
記述的な(1)とは違い、実験的・科学的手法でバイリンガルの行動を説明しようとする。バイリンガルの語彙-概念関係を示したConcept Mediation
ModelやLexical Association Model、Differential Access Hypothesis?などが開発されたのもこの分野。
(3) 社会言語学的観点(sociolinguistic perspective):
多言語使用とバイリンガルのアイデンティティーの関わりを調査。経済階級・性別・出自など様々な社会要因も考慮に入れるが、モノリンガル的な先入観(themとus)が影響を与えやすいのも事実である。
n これらの研究分野の枠を超えて、包括的にBM-Lを捉える場合の問題は以下の4点である。@「言語」の定義が分野ごとに異なる可能性がある、A研究手法の違いにより、他学問分野の調査結果をすぐには応用できない可能性があること、B多学問的な(multidisciplinary)研究が必ずしも旧価値観の刷新(innovation)にはならないこと、C実用的な「応用研究(applied
research)」に傾倒し、「基礎研究(basic research)」をないがしろにする傾向がみられること。
2.
Research as Practice: Linking Theory, Method, and Data (pp. 18-31)
2.1 Introduction
n 本節では研究の手法について述べるが、2.2ではバイリンガルデータの特徴について、2.3では批判的・分析的思考のための質問に、2.4では研究過程を構成する基本的要素や活動についてそれぞれ言及する。
2.2 Data and Knowledge on
Bilingualism and Multilingualism
n BM-Lの言語知識データの特色は以下の4点で特徴づけられる。
(1) 形式や構造としての言語:言語観察をし、特定の文法事象に注目。数量化をして分析。
(2) Competenceとしての言語:観察不可能な言語知識を測定。被験者の直感や判断に基づき、文法事象をデータに用いる。
(3) 産出と認知としての言語:脳内の言語処理の仕組みを統制された実験によって明らかにする。
(4) 社会的行動としての言語:社会的関係を築く手段としての言語に注目。社会的・文化的・政治的文脈における言語的データが主な対象。
2.3 Questions for Critical
Thinking
n リサーチは熟練の必要な活動で、以下の5つの質問は研究計画を立てる際に役立つものである。
(1) あなたが研究したいBM-Lの現象は広く捉えると何ですか?
(2) どういったデータが任意のBM-L現象を説明するのにふさわしいですか?
(3) より具体的なテーマ(=intellectual puzzle)は何ですか?
(4) この研究の目的(=研究結果の実践への応用可能性)は何ですか?
(5) どのような倫理的配慮が必要ですか?
2.4 Linking Research
Questions, Theory, Method, and Data
n リサーチは必ずしも一定の手順で実施されるものでなく、ダイナミックなプロセスなので、研究者は必要に応じて臨機応変に、研究質問・理論・研究方法・データ・分析などの一連の研究過程(p.26のFigure
2.1参照)の再評価を行わなければならない。
n トピックを選択することは重要である。それにより「調査する/できる対象の範囲(個人orグループ)」や「研究の種類(量的or質的)」も決まってくるからである。
n 仮説(hypotheses)や研究質問(research questions)を立てるには、トピックを狭めることが肝要である。資料にあたること等がその方法の1つであるが、実際に調査を行うことで課題が見つかる場合もある。研究の初期段階においては、何時でも仮説や研究質問を狭めなければならない。
n BM-Lの研究では様々な研究方法を混合するのが望ましい。理論を基にした研究方法には2種類ある。1つは「仮説演繹法(hypothetico-deductive
way)」と呼ばれるもので、個々の事象を説明するための仮説を事前に立て検証するもの。もう1つは「理論構築(theory building)」と呼ばれるもので、観察された個々の事象から普遍的原則を導く場合である。後者は帰納的方法である。
n データ収集において重要なのはそのデータが、(1)一般化できるか(generalizable?)、(2)信頼できるか(reliable?)、(3)妥当か(valid?)の3点である。
n データ収集がされたら、後に続く分析のためにデータを整理して処理する必要がある。この過程ではcodingや数量化などが行われる。
n 結果の提示方法は研究の目的によって変えなければならない。目的が非常にアカデミックであれば手法の細かい情報が要求されるし、仲間内でのレビューであれば要点の抜粋でもいいだろう。
2.5 A Summary of Research as
an Ongoing Process
n このようにリサーチには慣習がある。ゆえにその手順については馴染み深くならないといけない。
PART
II: Procedures, Methods, and Tools (pp. 35-72)
3.
Types and Sources of Bilingual Data (pp. 35-52)
n
bilingualism/multilingualism(以下BM-L)の研究で必要になるデータは目的により異なる。この章ではデータの採集方法やデータ採集時に考慮すべき事項について言及する。
(1)
Census
and Sample Surveys(macro-level):
一斉調査(census)は対象とする集団全員に、サンプル調査(sample surveys)は対象とする集団より任意に抽出した代表個体に対して調査を行うことを言う。多肢選択式・Yes/No質問・5/7件法・セルフレポート等が用いられるが、code-switchingなどの行動(behavior)の調査には向かず、主に話者の態度(attitudes)を調べることが目的。
(2)
Questionnaires(meso-level):
被験者の社会言語的情報(sociolinguistic profile)を採取し、後の分析や行動の予測に役立てることができる。以下の4つの情報が含まれる。言語歴史(例:いつ学習を始めたか)、言語選択(例:社会的文脈によりどちらの言語を選択するか)、言語支配(例:日常生活でどちらの言語が優勢か)、言語態度(どちらの言語を綺麗だと感じ好んで用いるか)。
(3)
Observations(micro-level):
観察によってどのような集団や場面が研究目的に合うかを見極めることができる。自然な会話を観察するには研究者自身がその会話に参加することである(participant observation)。これによりcode-switchingの種類(intra-,
inter-, extrasentential)もわかる。language diaryをつけさせ、観察するのも1つの方法である。
(4)
Matched-Guise Tests:
(5)
Spontaneous
and Semi-Spontaneous Conversations:
自発的会話は自然なもので、BM-Lの研究には最適である。会話が途切れがちだったり、うまく進まないときには、絵やテーマを与えたりして会話を誘発することも可能である。その場合も開始から10-20分もすれば自然な会話となる。書き起こし(transcription)などの手間がかかり大変、目的の言語構造が観察できる保証がないなどの短所もある。
(6)
Elicited
Information in Experimental Settings:
自発的会話は多大な労力を要するので、理論や仮説などが明確である場合には、実験によって意図した発話を効率よく引き出す(elicit)ことも可能である。その1つがsentence
repetition taskであるが、これは文法的に誤りを含む文を反復させ、被験者がその誤りに気づき修正するかどうかを観察するというものである。
(7)
Written
Sources: Books, Song Lyrics, and the Internet:
バイリンガルの言語データは調査で採取したもの以外にも存在する。本、歌詞、新聞、広告、インターネットなどに見られる言語も活用できる。
4. Bilingual
Speech Data: Criteria for Classification (pp. 53-72)
n
バイリンガルデータと一口に言っても形式・分野(心理言語学・文法・SLA等々)ともに様々で、我々は注意深く分類しなければならない。
n
モノリンガルデータ同様、バイリンガルデータも様々なレベル(語彙的・統語的・音韻的・形態的)で分析ができる。例えば、音韻レベルではなまりなどがその対象となる。
n
分野ごとで扱うデータも変化。その両極端にある「心理言語学」と「社会言語学」の分野では、前者では言語処理過程の側面をできるだけ統制し、後者ではできるだけありのままのデータを得ようとする。
n
実際のバイリンガルデータは複雑で、code-switching(CS)とborrowingをどう区別するか、CSはcode-mixingの一形態に過ぎないなど、用語についての様々な定義がされてきた(詳細はMilroy & Muysken, 1995; Li Wei, 2000を参照)。
n
用語の詳しい議論はともかく、CSは通常single-word,
multi-word, inter-/intrasentential, turn-switching におおざっぱに分類されるが、その区別が難しい場合もある。
n
CS分析の「文法的なアプローチ」では、制約(constraints)をはじめ様々な観点で分析が行なわれ、生成文法理論やミニマリストの立場をとる者もいる。Myers-Scotton(1997,
2002)のMatrix Language Frameは革新的な考え方だったが、全てのCSに単一の文法が存在するという主張には無理があった。
n
CS分析の「社会言語的アプローチ」では、領域(教育や宗教などの社会的場面でCSが起るか)やCSの有標性(有標である=普通なら多数派言語にスイッチする場面で少数派言語を用いる)の研究などを行う。CSの能力と社会におけるネットワーク構築の関係を述べた著者らによるSocial Network Theoryもこの分野におけるCS研究の1つ。
n
CS分析の「語用論的アプローチ」では、言葉の持つ意味以上の役割について研究する。CSがpreference
organizationの役割を持つ(=CSにより言語をスイッチしてほしいという信号を送る)というのもこの分野の考え方。
n
以上はバイリンガルデータの複雑さを示している。従って次のような分析手順が妥当である。
1.
言語的な観点から発話の分類や記述を行う
2.
発話をそれが起った、できるだけ多くの文脈(地域や言語地位)に関連付ける。
3.
複雑な産出データを話者の言語能力や態度、会話の特徴に関連付ける。
そして様々な分野のデータや要因を考慮に入れることは大事である。