電力先渡・気温デリバティブポートフォリオによるヘッジモデル

筑波大学 ビジネスサイエンス系
山田 雄二

日本卸電力取引所(JEPX) における卸電力取引は,2018 4-6 月期における約定量が総需要の18%程度を与えるなど,近年,その規模が拡大しつつある.特に,新電力事業者にとっては,総調達量に対するJEPX の割合が50%近くに達し,電力調達手段としての卸電力市場利用が急速に普及している.JEPX から電力を調達する小売事業者は,将来の需要量を予測し買い入札を行うのであるが,電力需要は気温等気象条件に大きく依存する.さらに,取引価格も,総需要や供給予備力の影響を受けるのであるが,株式等金融資産と異なり,電力は貯蓄して将来受け渡すことが困難であるため,全ての取引が予測と計画ベースで行われる.このように,電力市場には様々な不確実性が存在し,市場参加者にとって,ヘッジ手段の導入は必要不可欠である.一方,JEPX から電力を調達する小売事業者の調達コストは卸電力価格と取引量の積によって与えられるため,これらの値を個別に予測しヘッジを行うのでは,予測値にバイアスが生じ十分なヘッジ効果が得られない可能性がある.

本研究報告では,JEPX から電力を調達する事業者を想定し,調達コストが事前に見積もった予測値を上回る際に生じる損失を,電力価格と気温を原資産とするデリバティブによって構成されるポートフォリオを用いてヘッジすることを考える.特に,交差変数付き一般化加法モデル(GAM) を適用することで,電力需要および価格に対する気温の影響が,夏場等気温の高い時期と冬場等気温の低い時期で逆方向になり,かつ周期性をもつという周期性相関を反映したヘッジ手法を提案する.また,取引実績データを用いて提案手法のヘッジ効果を検証し,需要量と価格の積のばらつきを低減化する同時ヘッジ問題に対して,気温予測誤差によるデリバティブを利用することにより,需要予測誤差による変動が抑制されることを示す.