【英語科教育学】 2013/6/10
英語リーディングの科学・文献紹介 第4章 音読
Miyasako, N. (2008) “Is The Oral Reading Hypothesis Valid?” Language education and Technology, 45, 15-34. 外国語教育メディア学会

S.A


■ 音読の効果  

・高橋(2007) 
読解力の低い読み手にとって,音読は個々の単語へ強制的に注意を配分することを促し,結果として黙読よりも理解度を高めることになる。
・門田(2007) 単語認知の自動化機能
学習者は音読を繰り返すことで,文字や文字列を分析・書かれた単語を発音したり単語の意味を取り出すといった,リーディングの下位プロセス を自動化することができ,流暢な読みに近づくことができる。
<論文から> 音読指導で英語力は伸びるのか?

1 概要

 この研究は,音読が英文読解力を向上させるかどうかを検証するために,日本の高校生に2つの実験を行っている。最初の被験者内実験では,英語の熟達度が低い生徒の方が音読を通して読解力が向上することが明らかになった。第二の被験者間実験では,音読重視の授業の方が他の授業よりも英語力向上に効果的であることが明らかになった。この研究により音読の効果が部分的に実証された。


2 研究理論

■ 文章を理解するために

 文章を黙読して理解するまでには,文字を見た後に①その文字の塊(単語)を長期記憶内のスペリング情報と照合し,その単語が検索され,②単語を頭の中で発音(音韻符号化)する,③その単語の意味を想起する,という順序で単語認知が行われる。この過程を低次処理過程(ディコーディング)と呼ぶ。その次は高次処理(文章理解)過程で,統語・意味・スキーマ・談話などの各処理が行われて文章の意味を理解することができる。
■ 音読を重視する根拠
 母語話者や上級外国語学習者は上記の①~③を瞬時に行えるほどその処理が自動化しているので,ほとんどの注意を文章の内容理解のために使うことができ,内容を速く正確に理解できる。母語話者でも小学生などの熟達していない読み手や,初級外国語学習者は①~③が自動化しておらず,注意力のかなりの部分が低次処理に使われ,文章理解(高次処理)がゆっくりで不正確なものになってしまう。文章をよりよく理解するには①~③の処理が高速に行われることが不可欠で,音読はそれを可能にする。音読ではイントネーション,区切り,強勢を文章理解のヒントとして使うことができ,黙読と比較してより読解力向上に効果的だと考えられる。


3 実験①

■ 目的
RQ 1 日本の高校生の読解力向上に音読は効果があるか。
RQ 2 どのような音読が読解力を高めるために効果的か。

RQ 3 音読効果はどのレベルの熟達度の生徒に効果的か。

■ 被験者

 日本人の高校2年生3クラス111人に実施。RQ2に関しては英語の指導法を3種類用意し,そこに生徒をランダムに割り振った。RQ3に関しては英語のBACEリーディングテストの結果をもとに熟達度を3段階に分けて検証した。
■ 検証方法
・2004年に6週間かけて実験。
・被験者内実験で実験の前と後で内容理解テスト(BACEリーディングテスト)を行い検証。
・RQ2とRQ3については音読方法と生徒の熟達度も合わせて検証した。
■ 実験方法
・1週間に2度15分~20分の教科書の音読を行った。
・授業の手順 
①CDでモデル音読を聞く→②文章に関する応答→③文法・語彙の説明→④音読→⑤タスク
音読に関しては,グループにより方法を変えた。
Aグループ 多様な方法(コーラス・リーディング,バズ・リーディング,パラレルリーディング,リードアンドルックアップなど) 音読速度を毎週測定
Bグループ Aと同じリーディングを行いスピードの計測はなし。
Cグループ モデルリーディング,バズ・リーディング後リピート
■ 結果
RQ1に対して・・・事後テストで,全体としてみると被験者の読解力テストの平均値が上がっている。
RQ2に対して・・・音読の仕方による効果に差は見られなかった。
RQ3に対して・・・読みの熟達度が低い生徒に対して,音読は読解力を高めるのに効果的であった。
■ 考察
・熟達度の低い生徒に音読指導が効果的であったのは,音読により文字と音のつなりが作られからだと考えられる。学力が一定以上の者はすでにこのつながりができているため,音読指導の効果が見られなかったと思われる。(被験者全体の事後テストの平均値が上がっているのは,被験者内で熟達度の低い生徒の割合が最も高かったためである。)
・音読の仕方による効果に差が見られなかったのは,音読はその種類に関わらず音韻符号化の訓練であるからだと考えられる。
・一定以上の熟達度の生徒に効果が見られなかったのは,機械的に音読したために意味や文法に注意が払われなかった可能性がある。より高次処理を身に付けられるような指導法を工夫する必要である。
4 実験②

■ 目的
RQ1 音読中心の指導は,日本人高校生の読解力を向上させるか。
RQ2 音読中心の指導は,読みの流暢さの向上に効果があるか。
RQ3 音読中心の指導は,音韻符号化能力を高めるか。
■ 被験者
 2005年に日本人の高校生1年生2クラス74人対象に実験。実験群と統制群にランダムに分けられ,読解力テストの結果は2グループで同レベルに合わせてある。
■ 検証方法
・読解力は実験1と同様にBACEリーディングテストを用いて測定した。
・読みの流暢さは読みの速度と読解能力指数( reading efficiency index)で測った。読みの速度は1分に何語黙読できるかを計測し,読解能力指数は(読みの速度)×(文章に関する4つの質問の正解数+1)÷(4+1)で計算した。分子と分母に1が加えてあるのは,たとえ読解後のテストで全部不正解になった生徒でも,文章に関して何らかは理解をしていると考えたからである。
・音韻符号化能力は英語の疑似単語を読み上げる速さで測定された。
■ 実験方法
・生徒は実験群・統制群とも6週間にわたり週3回50分の実験授業を受けた。音読  中心の授業も通常の授業も同じ教員が指導した。
・授業の前半(30~35分)は①CDによるモデルリーディングのリスニング→②日本語で文章に関する応答→③文法と語彙の説明→④難しい文の訳 で教授法を統一
・授業後半(15~20分)は音読中心の授業(実験群)と,リスニングや語彙・文法に関するタスクを行う授業(統制群)で進め方を変えた。
・それぞれのグループは家庭学習として15~20分音読または課題を与えられた。
■ 結果
RQ1に対して・・・音読中心の授業を受けた生徒の方が読解力テストの得点 が伸びた。
RQ2に対して・・・音読中心の授業を受けた生徒の方が読みの速度が大幅に 向上した。 また,読解能力指数も上がった。つまり, 音読中心の授業を受けた生徒は内容理解を伴った読みの速度が上がっていると考えられる。
RQ3に対して・・・音読中心の授業を受けた生徒の方が疑似単語を見て音読する能力(音韻符号化能力)に向上が見られる。
■ 考察

・音読中心の授業は読解力・読みの流暢さ,音韻符号化能力を向上させると言える。 ・問題点
① 読解力テストに関しては,音読中心の生徒の得点はわずかに伸び,通常の教授法の生徒の得点は下がっている。これは,授業前半で行った2グループ統一の授業の進め方に問題があると考えられる。もっと効果的な授業の進め方を考える必要がある。合わせて,音読と黙読,他の教授法の効果をさらに検討していく必要がある。
② 学校現場では6週間という実験期間が限界であるが,今後もっと長い期間で音読の効果を検証する必要がある。


5 結論と今後の課題

■ 結論
① 6週間の実験期間において,音読は熟達度の低い生徒の読解力向上に役立った。

② 音読は音韻符号化能力を向上させた。
③ 音読中心の指導法はリスニング・語彙・文法タスク中心の指導法より読解力を向上させた。
以上から,音読が日本人英語学習者の英文読解力を向上させるという "Oral Reading Hypothesis”が基本的に妥当であると結論づけている。


■ 今後の課題
① どのくらい(1日の練習量や期間)音読すれば語彙・文法・ワーキングメモリの機能に効果的なのか検証する必要がある。
② どのような音読活動がより高次の処理を活性化するか,さらに検証する必要がある。
③ 熟達度のレベルにより,読解力を向上させる音読の練習量と方法が変わるのか明らかにする必要がある。
④ 音読が他のタスクと比べてどのように効果があるのか。黙読との比較を行う必要がある。