独立後のソロモン諸島において、最大の政治的課題は経済開発に関する問題である。 とくに、国民の約85%は焼畑耕作や漁撈による自給自足的生業活動を日々の経済活動
の柱にしており、彼らをいかにして貨幣経済部門(フォーマル・セクター)に参加さ せるかが、同国の大きな課題である。 実際に経済開発プロジェクトに携わる国民は極 わずかであり、開発以外の現金収入源としての賃金労働に従事する者も全国人口の約 8%(28,512人)にすぎない。しかも、賃金労働者の約20%(5,702人)は国家公務員も しくは地方公務員である。国内民間部門の脆弱性、そして何よりも近代的経済活動に 日常的に従事する人の絶対数の少なさが、同国の経済状況を根本的に規定してきた。 |
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このような現状に対して、1994年11月に誕生した第3次ソロモン・ママロニ政権は、1995年から1998年までの「国家開発5カ年計画」において、(1)真の経済成長の達成、
(2)ソロモン諸島国民のための賃金労働機会の創出、(3)開発利益のより公平な分配の 達成、(4)財政的安定、(5)国民レベルの結束と共通のアイデンティティの創出を目標
として掲げている。 この内容は、基本的に独立以後の各政権が発表してきた開発計画 にも共通する内容である。今日までソロモン諸島は、オーストラリア、日本、ニュー ジーランドなどからの無償援助や直接投資、欧州連合 (European Union) やアジア開 発銀行(Asian Development Bank)、欧州開発基金 (European Development Fund) などからの融資に依存する体質を脱しておらず、上記の目標をひとつも達成できていないのが実情である。 たしかに、1990年代に同国の産業の柱となった林業は、1993年 度以降、ソロモン諸島の貿易収支を黒字に導いた。1996年度における黒字額は、1億 1,800万ソロモンドル(約35億円)に達したという。しかしその高成長も、海外の木材 市場価格が上昇したことによるものである。同国は、中心的輸出産業をかつてのコプ ラや水産加工品から林業へと移してきたが、つねに市場の激しい変化にさらされる特 定の一次産品に依存している。 |
そこで政府は、近年、一次産品以外の産業として、観光業に注目しはじめている。 1989年7月に発表された『ソロモン諸島観光政策』("National Tourism Policy of Solomon Islands")では、ソロモン諸島固有の自然、文化、歴史に根ざした観光を、ソ ロモン諸島の重要な産業のひとつとして発展させていく方針を打ち出した。その後、 1993年以降、その基本的な考えに基づいて「エコツーリズム」(eco-tourism)を積極 的に推進しようとしている。同国のエコツーリズムは、(1)村落社会をとりまく山や 海などの自然を観光資源として利用し、(2)村民自身が地元で簡単に調達できる資機材 を使って宿泊施設を用意する点に特徴がある[MCTA 1997]。自然環境を破壊することな く、国民自身が周囲の環境を利用しながらこの種の事業に参加できるところから、同 国の開発計画に盛り込まれた目標の一部を、将来において達成できる可能性をもつも のといえる。だが、エコツーリズムを実際にはじめた地域はいまだ全国で数村だけで あり、それが世界経済の現実の中にあるソロモン諸島の開発としてインパクトをもつ ことができるかどうかは、未知数である。 | ![]() |