2025.7.30, ver. 1.0 ウェブページ公開 (2025.7.25 論文公開)
2025.8.2 基準長選定や誤差を抑えるポイントなどを追加
地衣類は菌類と藻類から構成される共生体であり、樹木や岩など安定した基物の表面でゆっくりと成長します。都市や海岸、山岳など、幅広い環境に生育し、大気汚染をはじめとする環境の変化を敏感に反映するため、世界中で環境指標生物として活用されています。これまでの研究から、地衣類の成長速度は環境ストレスの程度や種の違いによって異なることが知られています。しかし、成長速度を調べるためには通常、何年にもわたる地道な観察が必要であり、多大な時間と労力がかかるために、成長速度が分かっている種はごく一部に限られていました。このページでは、過去のGoogleストリートビューの画像を活用することで、効率的に地衣類の成長速度を推定する手法(Kubo & Ohmura, 2025)を紹介します。
方法概要
過去のGoogleストリートビュー画像と現在の地衣類サイズを、安定した基準長(樹木の節や幹の分かれ目など、時間経過に伴って変化しにくい対象物との距離)を用いて比較し、成長速度を推定する方法です。推定にあたっては、画像のぼやけや撮影角度、レンズによる歪みなどの誤差が考慮されて、推定値が算出されます。計算に関わる数式や根拠についてはKubo & Ohmura (2025)をご参照ください。
手順
1.Excelシートをダウンロード
日本語版 (Japanese version)
英語版 (English version)
このエクセルシートでは、Googleストリートビュー(GSV)の画像および現地での計測値に基づいて、地衣類の半径あたりの成長速度(mm/年)を自動的に算出します。
2. 入力セルの確認
緑色でハイライトされたセルのみに、数値を入力していきます。
3. 現地での測定
・実測基準長(rm) [mm] 基準となる長さを実測し、それを画像上で測定されるピクセル長と比較することで地衣類コロニーの大きさを推定します。基準長として用いる対象は、できる限り地衣類コロニーに近い位置にあるものを選んでください。地衣類コロニーと基準長の対象とでカメラからの距離や角度に大きな差があると、推定値の誤差が大きくなるためです。また, ストリートビューの画像は, 撮影時の歪みに加え, 表示される時点でも画面の端にいくほど歪みが大きくなります。 基準長の例: 1. 他の地衣類の2コロニー間の距離 同じ基物上に複数の地衣類コロニーがあれば、2個のコロニーの中心の高低差(縦方向)を基準長とする方法が有効です。 2. 枝の分かれ目や節の縦方向の距離 樹木の枝は、2年目以降、節間は原則として伸びないため、安定した基準になります。 3. 対象地衣類の中心点と、上記1または2の一点との距離 4. 対象コロニー近くの安定した構造物 樹木名プレート、添え木、コンクリート、岩など。 ・地衣類コロニーの縦方向の実測値(vi) [mm] ※地衣類コロニーの横幅は、幹の肥大成長によって変化しやすいため、測定には縦方向の長さを用いてください。 |
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画像の歪みによる誤差を最小限に抑えるポイント ・地衣類コロニーと基準長の対象は、できるだけ画像の中心付近に表示されるように測定してください(画面の端では歪みが大きくなります)。 ・地衣類コロニーと基準長が、カメラからの距離や角度において大きく異ならないように選んでください。 ・基準長が長すぎないように注意してください(長いほど歪みの影響を受けやすくなります)。 さらに、地衣類が着生している基物の表面が垂直でなかったり、大きく凸凹している場合には、視差や陰影の影響により、画像からの長さの推定が不正確になりがちです。そのような場合は、より安定した対象に変更するか、測定値にある程度の誤差が含まれることを前提に解釈してください。 |
4. 各画像について以下の値を入力
表示画像の年 (yi), 月(mi)をセルに入力。
対象の地衣体が見えない、あるいはぼやけすぎている画像は除外してください。
・画像内の基準長(rs,i)
・地衣コロニーの幅 (ws,i) ± コロニー縁のぼやけ幅 (ew,i)
ぼやけ部分を含めた外側の幅 (ws,i+ew,i)
ぼやけ部分を除いた内側の幅 (ws,i-ew,i)
※rs,i および ws,i の単位はピクセルでも他の単位でもかまいませんが、重要なのはその比率です。
5.自動計算される成長速度と誤差(水色セル)
・半径あたりの成長速度 (mm/年)
・誤差 (mm/year)
例: 3.55 ± 0.21 mm/年
と表記します。
6. 自動生成グラフ
別シートに自動的にグラフが作成されます。
7. 注意事項
・地衣体周辺の基質が剥がれ落ちている場合、そのデータは連続した系列として使用できません。
・対象となる地衣類は、平面的に広がる葉状地衣類や固着地衣類が適しており、樹枝状地衣類など立体的に成長する種(例:ハナゴケ属、カラタチゴケ属など)では適用が難しい場合があります。
・GSVで未踏地域の測定対象の地衣類を探索するよりも、現地で見つけた地衣類を後からGSVで確認して、この方法を適用する方が容易です。
・本ページの方法を研究等で利用される場合は、以下の論文の引用をお願いします。
Kubo, K. and Ohmura, Y. 2025. Estimation of lichen growth rates using archived
Google Street View images. The Bryologist, 128(3): 514-521.
https://doi.org/10.1639/0007-2745-128.3.514
8. お問い合わせ先
大村嘉人 ohmura-y[at]kahaku.go.jp ([at]を@に変換)
©2025 Yoshihito OHMURA and Kiyoshi KUBO