楽器用木材の「枯らし」 NEW!


枯らしとは?
楽器や工芸品を作る職人は、通常、伐採後数年以上乾燥(放置?)した木材を使います。この工程は「枯らし」と呼ばれ、この間に木材の乾燥が進み、良く鳴るようになったり、材質が安定したりする、と「信じられて」います。しかし、小さく切り分けられた木材を乾燥するのに数年もかかるはずがありません。また、木材は化学的にとても安定した成分でできているので、数年の間に著しい化学変化が起こることはありません。では、この枯らし効果(seasoning effect)は迷信でしょうか?いいえ、違います。


枯らしと乾燥は違う
生の木材を小さく切り、一定の温湿度で乾燥すると、水分量はすぐに(下のグラフでは2日間で)一定になります。つまり、この木は2日間で「乾燥」します。でも、楽器の性能に影響する音速や内部摩擦は、その後も少しずつ変化します。具体的には、音速が徐々に増加し、内部摩擦が徐々に低下します。これは、酸化や分解といった化学変化に伴うものではなく、木材を構成する分子が徐々に安定した構造に変化する物理エージングによるものと考えられます。これまで科学的に説明されていなかった楽器用木材の「枯らし効果」を世界で初めて証明したものです。

↑枯らしに伴う物性変化(クリックで拡大)

枯らし効果はリセットされる
さて、「枯らし」は化学変化=元に戻らない変化ではなく、物理エージング=分子鎖の配置替えだと考えられるので、その効果は木材を湿らせることによってリセットされると予測されます。そこで、新しい木から古い木まで、世界中の楽器職人から集めた木を使って、湿らせる前と後で振動特性を比較してみました。予想通り、湿らせることにより音響特性が大きく変化しました。
数年以上の枯らしによって、木材は良く「鳴る」ようになりますが、それをいったん高い湿度で吸湿させると、枯らしの効果は消失し、「鳴らなく」なります。枯らしの効果を維持する意味でも、弦楽器を高い湿度に放置するのはやめた方が良いようです。

↑吸湿処理による物性変化(クリックで拡大)


参考
E.Obataya, et al.: Effects of seasoning on the vibrational properties of wood for the soundboards of string instruments. J.Acoust.Soc.Am. 147(2), 998–1005 (2020)
K.Endo et al.: Effects of heating humidity on the physical properties of hydrothermally treated spruce wood. Wood Sci.Technol. 50, 1161-1179 (2016)
E.Obataya: Effects of natural and artificial ageing on the physical and acoustic properties of wood in musical instruments. J.Cultural Heritage DOI 10.1016/j.culher.2016.02.011 (2016)
錢谷菜々未ほか:古材および熱処理材の吸湿性および振動特性. 木材学会誌 62(6), 250-258 (2016)
T.Noguchi et al.: Effects of ageing on the vibrational properties of wood. J.Cultural Heritage 13S, 521-525 (2012)


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