弾力の喪失(へたり)


下の図のように、鉄板を押せばたわみます。押すのをやめれば、たわんだ板は元に戻ります。加えた力に応じて変形するが、力を加える速さや時間に関わらず、力を抜けば元に戻る、それが弾力性(弾性)です。その意味では、鉄板もゴムボールも「弾性体」です。



葦や木も、力を加える時間が短いなら弾性体と見なせます。ところが、下図のように長時間力を加え続けた場合、変形が徐々に進行し、おもりを取り除いた後も変形が残ることがあります。


時間とともに徐々に進行する変形を「クリープ変形」、そういう性質を示す材料を「粘弾性体」と言います。プラスチックは代表的な粘弾性体です。葦や木も、特に湿った状態においては顕著な粘弾性を示します。木の棚が徐々にたわむ、紙を巻いたままにしておくとクセがつく、これらは木や紙のようなセルロース系材料が粘弾性体であることを示しています。



リードは、下唇によってマウスピース側にたわめられ、音を出している間中、その状態が維持されます。しかも不幸なことに、葦や木といった植物材料は、湿度一定の状態よりも湿度が変化する過程でより大きく変形します。つまり、乾く過程であれ、湿る過程であれ、湿気が出入りする最中に力が加わると、より大きくへたるのです。リードがへたると、リードとマウスピースの間の隙間が保てなくなり、音が詰まったり、コントロールの幅が狭くなったりします。


次のグラフは、葦の薄い板に一定の力を加えたときのたわみの変化を表しています。最初の1時間は湿度を60%に保ち、次に90%に上げ、2時間経ってから除荷します。新品の葦(赤線)は、木(黒線)に比べて、常に変形が小さいことがわかります。つまり、葦は木よりへたりにくいと言えます。ただ、葦を水浸しにして糖を除去すると、明らかにへたりやすくなります(青線)。

いったん水浸しにするとへたりやすくなる、という現象は、葦の仲間である竹でも認められています。糖を抜いたからそうなるのか、あるいは糖が抜ける過程で他の成分に変化が生じるのか、詳しいことはまだわかっていません。ただ、リードを水浸しにするとへたりやすくなることだけは間違いなさそうです。


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