葦のかたさ


リードを選ぶときによく使う「かたさ」は、一定の(わずかな)量だけ変形させるために必要な力の大きさを表す「堅さ」です。リードの場合、曲がる(たわむ)変形が主体となるので、ここでは、一定のわずかな量だけ曲げるときに必要な力を表す「曲げ(たわみ)ヤング率」を「堅さ」と考えます。曲げヤング率の単位には、圧力の単位であるパスカル(Pa)が使われます。

では、乾いた葦の堅さを他の材料と比較してみましょう(下表)。葦は、プラスチックよりかなり堅いのですが、その堅さはキリと同じくらいで、建物に使われるスギや、ピアノなどの響版に使われるスプルースに比べると3~5割ほど柔らかいことがわかります。葦はどちらかと言えば「軽くて柔らかい」材料の部類に入ります。

振動させて使う場合、材料の重さも重要です。堅さが同じなら、より軽い材料の方が、少ない力で大きく振動させられるからです。上の表に示したように、堅さを密度で割った値(比ヤング率)で見ると、葦や木などの植物材料がかなり高い値を示します。葦やキリではプラスチックの約10倍、楽器響板用のスプルースにいたっては、鉄やジュラルミンに匹敵します。葦や木が「軽い割に堅い」のは、堅いセルロース結晶繊維が木目方向に整列していることによります。このような構造は、繊維強化材料(CFRPなど)のお手本であるとも言われています。


スジが多いほど堅い
 前述したように、葦は維管束鞘の間を柔細胞が埋めた構造になっています。そして、維管束鞘の堅さは柔細胞の10倍くらいです。したがって、下のグラフに示すように、スジが多いほど堅くなります。


葦のヤング率Eとスジの割合の関係

先端部分で「スジ」の分布が偏ったリードが、左右均等に振動しないのは当然のことと言えるでしょう。


湿らせると柔らかく、濡らすと重くなる
リードを水で濡らすと柔らかくなります。ただ、濡らせば濡らすほど振動しやすくなるとは限りません。リードの質は、葦が湿気を吸って柔らかくなる(変形しやすくなる)効果と、水を吸って重くなる(振動しにくくなる)効果のかねあいで決まるからです。
葦が湿気を吸って柔らかくなるのは、細胞壁を構成する分子の間に湿気(=水分子)が割り込んでいくからです。葦の細胞壁に入れる水の量は20%程度なので、それ以上の水は、「液体の水」として細胞の穴ボコに溜まります。穴ボコに溜まった液体の水は、葦の材質に影響しません。したがって、下のグラフのように、葦は含水率20%までは徐々に柔らかくなりますが、それ以上では堅さが変化しません。つまり、葦を湿らせる(~含水率20%)と柔らかくなるが、濡らす(含水率20%~)と重くなる、というわけです。

 

葦のヤング率Eと含水率の関係

「リードの表面をこすって気孔(穴ボコ)をつぶすと、リードがすぐに柔らかくならない」という人がいますが、気孔が閉じていようがいまいが、湿気(気体状の水分子)はいずれ葦の中まで到達します。つまり、葦が柔らかくなるのを防ぐことはできません。ただ、表面の気孔をつぶすことにより、穴ボコへの水の浸透が妨げられ、リードが重くなるのを「遅らせる」効果はあるでしょう。

さて、木の細胞壁は、葦の細胞壁よりもたくさんの湿気を含むことができます(葦は20%、木なら30%)。このことは、湿気を吸ったときの堅さの変化が、葦より大きいことを意味しています。葦は木に比べて「湿気を吸ったときの堅さの変化が小さい=材質が安定している」と言えるかもしれません。


糖を取り除くと柔らかくなる
買ったばかりのリードを、どっぷり水に浸けたり、続けて何時間も吹いたりすると、葦に含まれていた水可溶物(糖)が溶け出し、乾燥状態の堅さが低下します。つまり、いったん水浸しにすると、リードはかなり柔らかくなります。それを再び乾かしても、堅さは元に戻りません(下図)。

 

上のグラフからわかるように、含水率20%以上では糖の影響がありません。したがって、すぐに水浸しになってしまうリードの先端部では、糖の有無はリードの質に影響しません。ただ、シングルリードの場合、唇が当たる部分(いわゆるハート部分)は、すぐには水浸しになりません。つまり、糖がハート部分の堅さを維持しています。リードをいったん水浸しにすると「コシ」がなくなる。と言われますが、これは糖の除去によってハート部分が柔らかくなり、唇の圧力に対してリードがより大きくたわむことを意味しているのだと考えられます。

奏者の中には「リードを水に浸けたらカタくなる」と言う人がいますが、少なくとも堅さ(ヤング率)について、そのような兆候は認められません。ただ、糖を除去すると音色が「硬く」なることがわかっているので、それが「カタさ感」に影響している可能性はあります。

一方、上のグラフからわかるように、糖を除去すると含水率の変動に対する堅さの変化が小さくなります。つまり、水浸しにして糖を除去した方が、リードの堅さが「安定化」すると言えます。


奏者向け情報

アルバム

お問合せ