方法
Twitterを通じて、葦アレルギーが疑われるリード楽器奏者を募集したところ、9名の奏者から協力の申し出があった。これらの奏者(以下、被験者と呼ぶ)にリードの試奏を依頼した。
オーボエのリードについては、リード製作に長じたプロ奏者に依頼し、あらかじめアセチル化した葦材を使ってリードを作製してもらった。それ以外の楽器
(クラリネット、サキソフォン、ドゥドゥク)については、被験者が普段使用しているリードを筑波大学に送付してもらい、実験室でアセチル化した。
葦のアセチル化には、木材分野で一般的な高温液相法を用いた。すなわち、リード用葦材もしくはリードの完成品を無水酢酸に一夜浸漬した後、120℃の無
水酢酸中で8時間加熱した。アセチル化された葦を流水で1週間以上洗浄し、剰余の無水酢酸と副生成物である酢酸を除去し、さらに室温で風乾した。このアセ
チル化による重量増加率は18~20%であった。
被験者にアセチル化したリードを送付し、のべ1週間以上使用してもらい、症状の有無や程度を報告してもらった。
結果
Twitterで告知した際の表示回数は10万回、動画再生数は1.9万回であった。閲覧者の全てが楽器奏者とは言えないが、少なくともかなりの数の楽
器奏者の眼に触れたと考えられる。詳細情報へのリンクをクリックした552人のほとんどはリード楽器奏者と思われ、そのうち9名から研究協力の申し出が
あった。詳細情報の閲覧者を単純に母数とすれば、葦アレルギーに悩む奏者の割合は1.6%となる。一方、国立音楽大学のオーボエ専攻では、在籍する学生
16名中2名が既に葦アレルギーを発症しており、この場合、アレルギー奏者の割合は13%となる。もちろん、これらの数値は厳密な(疫学的な)発症率では
ない。厳密な発症率を求めるには、無作為に抽出された多数のリード楽器奏者に対して調査を行う必要がある。ただ、100人に1人以上という割合は「ごくま
れに」とは呼べないレベルである。
試奏の結果を
表1に示す。被験者はいずれも葦のリードに触れるとアレルギー症状(腫れ、かゆみ、痛み、水疱など)が現れるが、アセチル化リードを使った場合には、症状が出ないか、もしくはごく軽微であった。アセチル化により、症状が著しく改善すると言える。
なお、軽微ながら症状が現れたのはいずれもシングルリード楽器(サックス、クラリネット)の奏者であった。ダブルリード(オーボエやファゴット)とシン
グルリードでは同じ葦が使われるが、前者には径の小さい葦が、後者には径の大きい葦が使われる。また、前者は外皮に近い部分を使うのに対し、後者は内側に
近い部分を使う。径や部位の違いによってアレルギー原因物質(アレルゲン)の量が異なる可能性も考えられるため、今後、アレルゲンの特定を行う際には、ダ
ブルリード用とシングルリード用の葦を分けて検討する必要がある。