Chapter 4 What is Language Learning?
4.1 Language as a special case (p.48)
言語学習には以下の役割がある。
・L1の場合、言語学習(母語)は個人的な成長の鍵となるものであり、読み書き能力の伸長を促し、広くかつ高次な文化的能力に通じることができるものである。
・L2の場合、言語学習(外国語)は言語を明示的または暗示的に理解することを促進し、より広い世界の文化へ通じることができるものである。
・学校での外国語学習は、教科として学ぶために必要なものであり、ノンネイティブの言語習得に影響を与えるものである。
言語学習は、幅広い社会的な目的を与えてくれるものである (Cumming, 2009)。
移民や難民の子どもたちにとって、学術的な成功を得るためには、高度な言語能力を身につけることが前提条件となる。
言語学習は、学習者の属性(つまり認知能力や情緒面など)の中で独特な位置づけを占めている (Coleman, 2004)。
Davison and Leung (2009)は次のように述べている。TBAは、言語能力を評価する外部試験においていくつかの利点があるとしている。その理由は、効果的な言語習得とは、知識ではなく、幅広い状況やコミュニケーションの場におけるスキルを必要とするものだとしている。
【4.1の結論】 ・言語能力は、学校現場で獲得されるものでなく、学校の外の世界で使うことで得られるものである。 ・言語は、学習項目の目録のようにして教わるものではない。 ・「言語はどのようにして学ぶのか」という考えがより重要なのである。
彼らは、言語学習を音楽や芸術、演劇といったパフォーマンス中心の教科になぞらえている。
4.2 The Common European Framework of Reference for Languages (p.49)
CEFLでは、次の2点について言及している。
・複数言語を必要とするヨーロッパでは、言語学習の目標として、コミュニケーション能力が挙げられる。
・熟達度のレベルを明確に示す必要があり、言語をどの程度まで理解または習熟すればよいのかという共通理解になる。
コミュニカティブタスクに携わることによって高まる学習者の認知能力についてここでは言及している。それが言語使用における社会認知モデル (socio-cognitive model) である。
CEFLで示されるgeneral competenceは以下の通りである。
・宣言的知識
・技術とノウハウ
・実存主義の能力
・学習能力 (Council od Europe, 2001)
4.3 Natural language acquisition (p.51)
言語について最も明らかな事実とは、誰もが幼少期に第1言語(母語)を獲得していることである。
第2言語教育(外国語学習)も母語獲得と同じように試みられていた経緯と歴史がある。
言葉を学ぶために海外に行ったり、ネイティブスピーカーの教師に教わることは効果的なことではある。
イマージョン教育(没入法)も似たような教育方法ではあるが、カナダのフランス語教育のようにごくわずかな環境下でのみ、実現可能なものである。
【疑問点】acquisition-oriented
approach (言語獲得中心主義の教授法)は果たして学校現場では有効なのか?
社会構造主義モデルは、インタラクションを通じての意味形成に力点をおいている点で言語獲得中心主義の教授法に近いといえる。
また、テクノロジーは、学校現場にオーセンティックな言語を数多くもたらすことを可能にする。
しかしながら、習熟すべき規則を含む形式的な体系として言語を学ぶことは、学校現場に本来備わっている特性ともいえる。
自然に言語を獲得することは、学校ではほとんど実現不可能である。学校現場で欠けていることは自然な言語習得に関する理論である。
4.4 Second Language acquisition research (p.51)
4.4.1 Processing accounts
Input
processing
(VanPatten, 1996, 2004, 2007, 2008)は、それ自体が完全なSLAのモデルというわけではなく、SLAのある一つの側面を示したものである。
Input
processingについて中心的な疑問点は、学習者がインプットの過程において、どんな言語的データを処理していくのかということである。
【Input processing】
Definition
of processing
processingは形式と意味(機能)の関係を形成することを表すものである。processingはperceptionやnoticingとは異なるものである。Processingでは、学習者が新しい言語形式に出会った時に、意味と形式を結びつけることを必要とはしていない(認知しなくてもよい)。つまり、学習者は動詞の語尾の-ingに気づくことはあるかもしれないが、形式と意味の関係 (a form-meaning
connection)を情報処理することはない。
Primacy
of content words
学習者は、インプットの過程において他の何よりもまず「言葉の意味」を情報処理する。つまり、学習者が理解するためには、まず意味を知ることが最も近道だということである。
Lexical
preference principal
仮に文法的形式が意味を表すとするならば、学習者は、語彙的な形式と文法的な形式が合致してはじめて、文法的な形式の情報処理をするのである。
これらの基本原則は、情報処理する過程において「意味が重要」であることを示すものであり、「processing instruction」として知られる教育的介入の中でこの原則は作られてきたのである。
4.4.2 Complexity theory (CT) (p.52)
Complexity Theory (CT) に関する基本的な概念とは、多くのインタラクティブな要素を含むcomplex system の概念である。
このシステムは、組織化された複雑性によって一般的には特徴づけられるものである。
CTは言語を複雑で適応性のあるシステムだとみなし、それらは話者のインタラクションから生まれるとしている (Lee & Schumann,
2005)。
言語がもつ適応性は、最終的な形として現れる「言語構造」が脳の認知能力と結びつくことを意味している。
それゆえに、言語形式は、生得的かつ心的なプログラムではなく、言葉の使われ方を反映しているのである (Universal Grammar 普遍文法)。
これらの認識は、言語習得が、単に「抽象的な規則」を処理するものではなく、「real timeの中で言語能力が出現すること」であるとしている (Evans, 2007)。
Larsen-Freeman (2012) は教授法について、次のような示唆を述べている。
・教授とは、「学習力学を管理すること (managing the dynamics of learning) 」つまり、教室内のインタラクションで起きる適応性を保証してあげることが、学習を促進させることになる。
・教師は、学習をコントロールすることはできないが、教えるということは学習に強い影響力を持つものである。
・CTと調和する教授法は、カリキュラム中心主義でもなく、学習者中心でもなく、「学習中心主義」なのである。
第2に、私たちは伝統的な文法ドリルのような非オーセンティックな活動はやめるべきである。
Larsen-Freeman (2012) は、grammaring を P53のように主張している。
最後に、CTはある特定の文法形式を学ぶためには、学習者の学ぶ意欲を伴って発達していくという「有機的な」シラバスが必要である。
そのようなシラバスは、学習者にある特定の言語形式の使用を促すような活動に取り組む機会を与えるものである。教師は、特定の文法形式を学んだり、学習者が避けてしまうような文法項目に対する学習者の心構えを診断するのである。
上記の3つの示唆は、Learning Oriented Assessment (LOA) の核心である社会構造主義的アプローチと調和するものである。
4.4.3 Frequency-based accounts (p.54)
言語における「頻度中心主義の解釈」とSLAは「構造主義言語学 (structural linguistics)」(Saussure, 1916)と「認知心理学 (James, 1890)」の2つに起源を持つ。
構造主義言語学→言語を「試行と音の中間段階」とみなす (Saussure, 1916)。
言語的な記号とは、形式と機能が組み合わさったものである。
言語的な構造は、語法のパターンから生み出されるものである。
Frequency(頻度・パターン・繰り返し)は、人間の認知に影響を与える。
心理言語学の研究によれば、使用頻度が言語の獲得に影響を与える。
頻度は、言語習得において決定的な要素である。
Ellis (2012) はコーパスと認知言語学的な分析が、どの構造を教えるに値するのかを判断するのに有益だとしている。
4.4.4 The interaction of multiple principles in SLA: CASP (p.55)
Cambridge Learner Corpusから得られたL2データの経験的分析に基づき、複数の研究者によってSLAの法則が示された。
これらの規則は、統語的・意味論的な現象、あるいは学習やプロセスに関連するものである。
「正の転移」を最大限に生かす。
「高頻度で起きるL2の特性」を最大限に生かす。
構造的にも意味的にも「シンプルな特性」を最大限に生かす。
コミュニケーションを阻害しないのであれば、文法ミスなどの負の転移は許容することで、学習負荷を最小限にすることも重要。
【4.4.4の結論】
・言語とは、複雑で適応性の高い体系をもつものである。言語は、語法から徐々に生まれるものであり、他の話者とのインタラクションを通じて、L2学習者が形成していくものである。
・複数の要素(言語・認知・心理学・社会的コンテクスト・教授法)がL2学習に影響を与える。
・教えることとは、学習力学の管理と関係がある。カリキュラムは、学習中心にすべきである。
・シラバスは、学習意欲を促進させるような柔軟で有機的なものにすべきである。
・言語のインプットや使用においては、正しい選択(認知・頻度・適切な例など)が望ましい。
・L1はL2学習を支援するという重要な役割を果たす。
4.5 In Summary (p.56)
言語は、教育の中でも特殊な事例である。何故ならば、言語は手段であり、全ての学習はその手段(言語)を通じて影響を受けるからである。
学校教育で、言語を習得する上での問題点は、移民などの非母語話者だけではなく、母語話者にとって課題となりうるものである。
他の教科と違って、言語は学校で習得できるものではなく、学校の外の世界で使用することで習得されるものである。
CEFLは、行動中心主義アプローチ (action-oriented approach) を提示している。
→社会的インタラクションの中で起きるコミュニカティブタスクを行うことで、学習者の言語的能力の伸長を図ろうとするものである (socio-cognitive model)。
言語の自然な習得とは、母語を習得する時に起きると考えている。このことは、学校教育における言語教育では現実的かつ実用的なことでないが、「社会構造主義的モデル」は母語の言語習得に近いのではと考える。これは、目的のあるインタラクションを通じて意味を形成していくという重要性を強調するモデルである。