第7章 「森から木へ」の授業例
■レッスン全体像
教師はまず授業で扱うテキストの全体をみて、構成、内容、重要なポイントを整理しておく必要がある。今回紹介されていたテキストはWater Crisisをテーマとした高校の英語教科書に載っているものである。以下に簡単なパートごとの主題と活動を示す。
「森から木へ」の授業案の全体像は以下のようなものである。図左側の番号はラウンド数を示している。
全体の流れは、トップダウン活動→ボトムアップ活動→発展的活動となっているが、その背景には第6章で述べた、全体→細部→全体、意味→形式→意味、インプット→インテイク→アウトプットの流れがある。
n トップダウン活動
Ø ラウンド1:オーラル・インタラクション
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本文に入る前に写真などを使って生徒のスキーマを活性化させ、テキストの内容への好奇心を抱かせることで本文を読むための心の準備を整えさせる。
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具体的な活動としては、第一段階は教師主導で生徒に発問をし、第二段階で5W1Hを板書して生徒主体のペア活動を行わせる。
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各課の導入時点では重要な役割を果たすが、その後の各パートでは省略可能。
☞レッスン導入のバリエーションとしては、キーワードの単語と写真を提示するキーワードから推測読みへつなげる方法、身近な話題に関して発問させるスモール・トーク、図表を使うペアや小グループの話合いを通させて考える方法がある。
Ø ラウンド2:スキャニング
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速読して必要な情報だけを拾っていく活動。
Ø ラウンド3:スキミング
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特定の情報を探すのではなく、全体の要旨をつかむことを目的とする読み方。
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難しい活動なので、まず段落ごとに行っていき、徐々にパートごとの要旨に挑戦していくとよい。
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最初は日本語で要旨をまとめ、慣れるに従って英語の要旨へ変えていくとよい。
n ボトムアップ活動
Ø ラウンド4・5:ワード/フレーズ・ハント(日→英・英→日)
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語彙を探すスキャニング活動の一種。ここではコンテクストや語形から語彙を推測する訓練活動として活用。
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ある程度予測が可能なものを選ぶ必要がある。
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多義語(report)、派生語(shortage)などにも意識を向けさせることができる。
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生徒が推測で困っている場合はジェスチャーや言い換えなどでヒントを与える。
Ø ラウンド6:文法・語法フォーカス
“One eighth of the world population cannot drink safe water.”
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ティーチャー・トークを駆使して、生徒に問いかけながら板書で示す。
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全体で文法事項などを確認した後は、個別で文法練習問題(和文英訳)に取り組ませる。このときの内容もできるだけテキストに関連のあるものを選ぶ。
“Economic wealth does not always mean a lot of
water.”
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テキスト内で出てくる表現について、使い方をオーセンティックなインプットを活用して生徒たちに考えさせる。
図1 ”does not always mean”を含んだ例@
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内容を生徒にしっかり理解させるなら「なりきり和訳」の手法がよい。
(例)図1の例を映画のセリフにように訳した場合
「謝るってことは必ずしも自分が間違っていて、相手が正しいってことを認めることじゃないんだよ。ちっぽけなプライドよりお互いの関係を大事にしてるってことさ。」
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英訳したあとはこれらのセリフがどんな場面で言えるかを考える活動をするとよい。
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十分に例を示した後で、最終的には生徒自身がこの表現を使って独自の文を作成するところまでもっていけるとよい。
Ø ラウンド7:チャンク・リーディング
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文を読みやすくするため、意味と文法のまとまりで区切って読んでいく読み方。
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個人で区切る箇所を考えさせてからペアで確認、全体でチェックという流れ。
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全体チェックの際はパワーポイントなどを使って見せるとよい。
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文章が読みづらくなることを避けるために、個人作業では黒、ペアでは青、全体では赤といった色違いのペンでスラッシュをいれるように指示するとよい。
Ø ラウンド8・9:チャンクトランスレーション(英→日・日→英)
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チャンクをもとに和訳を行って内容の理解確認を行う。
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日本語として不自然であっても、英文をチャンクごとの順序で訳させる。
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ラウンド9では日本語から英語に訳していく。
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A4の用紙をたてに半分に折って、右半分に日本語部分、左半分に英語部分を載せ、ラウンドごとに半分を隠して活動を行うとよい。
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活動に慣れてきたら「なりきり翻訳」の手法を使って指示を与えるとより一層現実味が増して、やる気が出る。
n 発展的活動:ラウンド10
発展的活動では、改めて「森」をみて、さらに深い解釈と応用を試みる。これらの活動は、課のパートを終えるごとに行うことも可能であるし、全てのパートを終了させてから行ってもよい。
Ø パート1:世界の水問題について考える
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パート1で学んだテキスト本文の背景についてより一層理解を深める。
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水は地球の循環資源なので、総量は変化することがないが、世界の人口増加が原因となっているという観点から生徒へ問いかけていく。
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図や表を用いて教師主導で問いかけをした後、生徒同士に話し合わせる。
Ø パート2:仮想水について考える
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飲料水や生活用水をreal water、食物や商品の生産に使われる水をvirtual waterと定義した上で、我々の1日の水の使用量から考えてもらう活動を行う。
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適宜図や表を示しながら、生徒に仮想水の実態をよく考えさせる。
Ø パート3:仮想水貿易と日本について考える
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日本が仮想水輸入大国であることを踏まえて、世界の輸入国・輸出国をそれぞれ考えてもらう。その上で仮想水のバランスなども考えさせ、ライティングの宿題を課してもよい。
Ø パート4:将来の見通しと我々の責任について考える
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テキスト内では研究者や技術者が海水の淡水化技術に取り組んでいることに焦点を当てていたが、これでは技術開発に直接関係のない生徒には縁遠い話になってしまう。一人一人の意識を高め、この問題にどう責任を持っていくかを考えさせる機会をつくる。
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我々になにができるのかについて生徒に質問を投げかけていく。
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内容の復習をまず生徒主体で行い、それを教師がまとめていく。その後、皆で水問題の解決策を話し合ってもらう。
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ペアでブレイン・ストーミングをさせてから小グループで話し合ってもらい、そこでグループがいいと考える解決策を全体に発表してもらう。
n 「森から木へ」の授業作成の留意点
Ø その他の活動
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音読
−チャンク・リーディングと組み合わせた音読練習
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プレゼンテーション
−国や地域ごとに事情を調べさせ、プレゼンをさせる活動
−教科書に掲載されているコンセプト・マップをつかって英語でサマリーを書いて発表させる活動
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ロールプレイ活動
Ø 教案作成のヒント
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CLILを志向した授業では、内容学習は言語学習と同等か、それ以上に重要になることがあるため、教材研究においても言語とともに内容にも十分配慮する。
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インターネットにキーワードを入力するとたくさん情報が得られる。
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文字情報が面倒なら画像情報から調べ始めるとよい。
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最初から英語で調べるのが大変なら、まずは日本語で情報を入手するとよい。
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同僚や生徒たちと共同で取り組むと、さまざまな角度から発展させることができる可能性がある。
n まとめ
本章では、高校英語教科書をベースにCLIL、フォーカス・オン・フォーム、ラウンド制指導の考え方を融合した「森から木へ」の指導例を紹介してきた。中学校の英語授業で使用する際は、タスクの難易度の調整とともに、より多くの視覚的な教材の活用も考慮するべきであろう。今回の水問題のみではなく、世界規模で考えなければならない問題はまだまだたくさんある。CLILの指導とは内容と言語を統合し、生徒の思考を刺激して協学を推進するものである。英語授業を通して意識を高めた生徒が将来、政治、経済、科学技術、国際貢献などあらゆる分野で活躍する人材になることを期待したい。そのときこそ、彼らが身につけた英語力が真に役立つときでもあるのである。
ラウンド6の活動例
翻訳家になったつもりで以下のセリフを和訳してみましょう。
○More convenience doesn’t always mean
a better life.
↓お父さんが娘に言い聞かせるように言うと…
○Helping doesn’t always mean giving
money!
↓乱暴に怒っている風に言うと…
○Being busy doesn’t always mean being
productive.
↓先輩(女性)が後輩へアドバイスをあげている場面であると想定すると…