筑波大学 人文社会科学研究科                                                現代語・現代文化専攻                                           平井 明代研究室                                          Hirai Laboratory, Graduate School of Humanities and Social Sciences, University of Tsukuba.

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2021年度 春学期 応用言語学特講1-a (1-c)

第6章「授業を支える指導技術(教師編)」

6.1 教室の中の教師
 「子どもたちにこうなってほしい」「子どもたちにこんな力をつけさせたい」という教師の想いや指導観は、何気ない仕草や口調、子供たちへの対応、教室の雰囲気に現れる。授業のルールは暗黙のうちに共有されていて、教師の指示がなくとも子どもたちは自ら動くことができる。
 本章では、授業を行ううえで教師が身に付けておきたい基礎・基本を「教師としての立ち振る舞い」「発問・指示・説明」「黒板・資料の提示」の3つの視点から解説する。

6.2 教師の立ち振る舞い
 歩き方、話すときの口の開け方、何気ない言葉遣い、服の着方等々児童・生徒の立ち振る舞いは教師に似る。授業や学校の中で意識することよいことを以下に述べる。

@声
・大声ではなく、よく通る「張りのある声」と抑揚ある喋り方
・盛り上げるところ、大切なところ、ほめるところは「ちょっとキーの高い声で強く」
・机間指導でまだ理解できない子には「優しい声で柔らかく」
・雑談などで気持ちを休めるときには「明るい声で楽しく」
→これらの色々な声を使い分ける。また、よく口が開いている

A目線
・全体に目を配る(若手の教師や実習生は教室の前や後ろの方だけを見がち)
 →授業設計の段階で子どもの姿を思い浮かべていると、自然と多くの子どもたちに視線を向けることができる

B表情
・笑顔の多い教師のクラスは児童・生徒も自然と笑顔が多くなる
・表情と声はセット。口を大きく開けると通る声になり、頬が上がり、明るい表情になる
・教師自身が常に明るい表情で授業に臨む ←心身ともに健康な状態を保つことが大切

C服装
・児童・生徒同様教師の服装チェックも必要
・中学・高校では男性はネクタイ着用、女性はそれに準ずる清潔な服装
・小学校では子どもたちと活動することが多いのでジャージで過ごすことが多い

D姿勢
・猫背など、人に不快感や違和感を与えるような動作をしていないかどうか要チェック
・積極的な態度、前向きな姿勢こそが子どもの信頼を呼ぶ

6.3 発問・指示・説明
 岸(2014)による授業中の発話のカテゴリ

 →授業実施の上での基本要素「説明」「発問」「指示」

@発問:知識を確かめたり思考を促したりするための教師からの「問いかけ」
「閉じた発問」……一問一答形式で、児童・生徒の理解を確かめる
「開いた発問」……様々な答えを交わす中で、本質的な学習内容が見えてくる
最も核になる発問:「中心発問」

A指示:教師から子どもにしてほしい行動を伝えること
・5W1Hが明確な指示を心がける
例)ガニェの9教授事象「6.練習の機会を設ける」際の指示
 「練習問題を解く」
 →どの問題をするのか、何分の時間を確保するのか、解き終わった子どもはどうするのか
 →難度の高いものであれば教科書やノートを見返しながら取り組ませる場合も
「グループ活動」
 →何について話し合うのか、話し合う時間、司会役など役割分担はどうするか、話し合ったことをミニホワイトボードや画用紙にまとめるのか、まとめる際はどのように書くのか
⇒黒板に指示を描いておく、プリントにして渡すなど、口頭で伝わらない場合の代替手段も考えておく

・授業設計の段階ではうまくいくと考えていても、実際にはトラブルがおきる(指示が足りない、時間が足りない、など)
⇒事前に子どもの立場になり、不安なく活動に取り組めるか確認しておく

⇒活動内容をパターンにして継続的に実施することで最小限の指示で活動を行える
 →指示していた内容を子どもと話し合う事で主体的に取り組む機会を増やしていくことで、自立した学習者を育てることができる

B説明:学習内容をよくわかるように伝えること
・知識や技能、考え方を言葉だけでなく板書、図表、資料などを組み合わせて伝える
 →ただし、子どもたちが学習目標に到達するために何を説明し、何を考えさせたり練習させたりするべきかの見極めが重要

〇「発問」「指示」「説明」のバランスは学習内容による。
言語情報・運動技能→明快な説明と指示、閉じた発問による確認が中心
知的技能・認知的方略・態度→考える土台を要領よく説明し、開いた発問にじっくり向き合わせ、自分の考えをまとめるための指示を明確に行う

6.4 黒板・資料の提示
 黒板:教師から伝えたい情報を整理して示す場であり、子どもたちの意見や考えを交流・共有する場

@板書計画:事前に黒板のどこに何を書くのかイメージしておく

・3色の色分けで一目で学習内容が分かるように整理する(色覚チョークを使うと多様な色覚特性を持った子どもたちにも読みやすい)
・小学校の場合、1時間の授業で何枚分もの板書をすることは稀。授業後に黒板を見たときに導入からまとめまでの流れが見える構造的な板書になるよう配慮する
・教師が事前に整理したことを一方的に伝えるだけが板書の役割ではない。発問にどんな反応が返ってくるか、意見にどんな広がりがあるかを想定することで、授業の流れや提示したい資料をイメージできる
・誤字脱字・筆順の間違いには注意

A資料提示
・授業設計の時点でどのような教材を用いるか吟味しておく必要がある。
 →子どもの興味・関心や実態、地域や学校の特色や時事の話題などを元に、説明や資料をきっかけにした発問を工夫する
・選んだ教材をいつ、どのように見せるか
 →ICTの活用、拡大表示や資料への書き込みなど
  →ただし見せることにばかり意識しすぎない
・イメージ通りの教材探し
 ・自分で作る?→市販の教材や資料を自分の授業に生かせるように工夫する技術




                                         


章末問題

問2 実際の授業(小学校〜高校でも大学でも構いません)を見に行きましょう。教師の振る舞いや、「発問」「指示」「説明」の仕方、板書の組み立て方など授業を見る視点を決めて観察し、気づいたことをレポートにまとめましょう。




                                         

ディスカッションポイント
本文中に「教科書の図を見るよう指示するよりも拡大した図を掲示した方が効率的だ」という旨の記述があった。現在教室にタブレット端末が整備されようとしているが、逆に手元のタブレット端末を用いた方が効果的な資料提示を行える例としてどのようなものがあるだろうか。

黒板やICTによる資料提示に対するタブレットの優位性は、児童・生徒個々人が別々のコンテンツを見られることにある。タブレットに表示した資料に書き込みをすれば、自分だけの学習記録を残すことができる。このとき、地図やグラフなどの手書きで書きとるには難しい(あるいは手間がかかる)ものであっても、タブレットならば難なく表示できる。また、数学や理科などでグラフを扱う場合、変数の入力によってグラフの形が変わる様子をリアルタイムに表示できる。これは、表とグラフの相関関係に直感的な理解を与えるであろう。他にも、タイムラプス式の映像を見たいタイミングで止めたりなど、総じてタブレットはインタラクション性のある資料と相性が良いといえるだろう。