筑波大学 人文社会科学研究科                                                現代語・現代文化専攻                                           平井 明代研究室



2019年度  応用言語学特講Ⅰa

5. Mixed Methods Research (混合研究法)

 

Mixed Methods Research(以下MMR)…実験において定性的研究と定量的研究が組み合わされた研究法。

近年社会科学の分野において注目されており、ハンドブックやジャーナルが出版されている。

→応用言語学者やTESOLが、第二言語習得や教授法にある多層プロセスの広く、深い理解をもたらすものとして可能性を見出す

 

もともとは三角測量の形式で考案された

→発見したものの妥当性を高め、複雑な社会現象の理解を強めるかもしれない問題の調査を行うための観点や研究法に取り入れられるという仮定のもと

 

また、それ以外にも各方法論の長所と短所の相殺、定量的や定性的方法では問題点に対処できない場合のツールキットの拡大、他の方法に基づく研究の開発のための方法論の使用(機器のサンプリングやデザインの向上)、他の方法を使用し調査することによりある方法から派生・分岐した調査結果に対処することを目的とする。

 

MMRは学際的分野に大きな可能性を秘めているかもしれない(例:L2ライティングにおいて複雑にからみあう認知的、社会的要因)

L2学習者の知識にある量的側面(文法の正確性など)や質的側面(アカデミックな論文の書き方の理解など)の変化を見るのに有効な可能性

 

しかし、定量的アプローチと定性的アプローチの混合は理論的、方法論的、実践的な疑問を生む

→いつ、どのように定性的方法と定量的方法を組み合わせるべきか、また、どのように研究を評価するのか

 

An Over View of Mixed Methods Research

MMR

・基本的は1つ以上の定性的、定量的要素を持つ

・定性的・定量的データや方法だけでなく、段階的なそれらの統合が必要である

→少しの定量的データを含む定性的研究、ある程度数量のある定性的研究よりも上位にある

 

MMRの可能性を最大限に引き出すためには実質的な方法で定性的、定量的アプローチが研究に貢献する必要がある

 

Types of MMR design

     Timing(データの収集と分析の順序)

Simultaneous(or concurrent)共起デザインの場合>

定性的データも定量的データも一度に収集され、別々に分析、最終段階で統合

 

Sequential連続デザインの場合>

データは段階的に収集、分析され、前の段階での発見を次の段階に生かす

→重要なのは順序だけでなく、研究内の2つの段階の間に何らかの関係性を持つという点

     Status (1つの方法論が支配的または複数の方法論に平等に重きが置かれているかどうか)

支配的な方法論を大文字で表す(例:QUAN-qual 量的要素が強い)

  どちらにも重きが置かれる場合はQUAN-QUAL

 

A Typology of Mixed Method Design

 

Type

Category

Characteristics

Why use it

Convergent parallel

QUAN+QUAL

Concurrent(同時的)

・データは同時に収集

・方法論の重きは平等

・分析は別々に、最終段階で組み合わされる

三角測量による解釈の伝達または検証

Explanatory QUANàqual

Sequential(順次的)

・まず定性的データの収集

・結果を追う形で定量的データの収集・分析を設計

結果の説明、定性的データの収集と分析の問題点を明らかに

Explanatory

QUALàquan

Sequential(順次的)

・定性的データの収集が先

→その結果が定量的データの収集・分析に影響

・詳細な現象の調査とより広いスケールでの測定

・鍵となる変数の特定と手法の開発

Embedded

QUAN(qual)

QUAL(quan)

concurrent/sequential

・どちらかのデータが先

・先のデータデザインに埋め込まれる

・2つ目のデータは最初のデータの先、間、後のいずれかに収集

・異なるリサーチクエスチョンには異なるタイプのデータが必要

・結果だけでなくプロセスも調査

・二次データのタイプを先のデータタイプによる細く結果に使用

Transformative

(Varies)

concurrent/sequential

・研究は変容的な理論的枠組みに組み込まれる

timingstatusなどの問題を決定する

・社会問題に対応、それを特定するMMRの実施

Multiphase

QUAN+QUAL

concurrent/sequential

・何度も段階的に実施される大規模な研究計画の範囲内で同時に進行する一連の要素を組み合わせる

研究目的は複数の段階を要する

(例:段階プログラム評価)

 

<連続的埋め込み型デザイン>

フィードバックに気づいたか、またどのように解釈したかを参加者にインタビュー

<説明的デザイン>

1つの方法(たいていは定量的)によって判明した結果をさらに調査、説明するために別の方法(たいていは定性的)が用いられる

<発見的デザイン>

定量的データの結果が定性的研究の開発に使用される

<変容的デザイン>

 MMR研究は批判的理論、フェミニスト理論、解放教育学などの理論的枠組みの中に位置する

<多相デザイン>

プログラム評価などの大規模な研究で最も一般的に見られ、時間の経過に合わせ段階的に実装

 

L2研究では同時デザインが最も主流。多くの研究目的に適応するため

 

MMR on L2 Writing

研究を選択する際には、MMRについて広範囲からの視点を持ち、全体的な知見を充実させるように定量的および定性的方法を統合する研究を含めることにした

 

L2ライティング研究におけるMMRの多くの場合の目的は調査の対象となる現象のより深い、または代替的な見解を生み出すことである。研究者の(通常定量的)分析を研究参加者のインタビューを通して得た結果で補完する。

 

代表的な混合法研究

研究者

参加者、背景、データ

リサーチクエスチョンと焦点

研究デザインへのコメント

Sasaki (2007)

・日本人のEFL学習者2グループ

     7人:留学

     6人:家庭学習

どちらも期間は1

 

・熟達度テスト、誘発したエッセイ、刺激想起(以下SR)に用いるために構成されたセッションのビデオレコーディング、インタビュー、留学した生徒のレポート

 

・熟達度テストとライティングスコアの定性的分析

・インタビューとレポートの定量的分析

・留学経験はどのように作文能力と文章構成プロセスに影響を与えるか

・ほとんどのデータは3度にわたって収集。インタビューが最後。

 

・インタビューから定性的結果が得られた

 

 

Kobayasi&Rinnert (2013)

・日本の大学に在籍するマルチリンガル(英語、日本語、中国語)の学生対象の長期的なケーススタディ

 

・各言語でエッセイを課し、2度にわたって収集;SRのためのビデオレコーディングは各言語で3つのセッションを設けた;インタビューは6回

 

・エッセイの流暢さと複雑さには定性的分析を実行

SRセッションとインタビューには定量的分析

     言語の発達という観点において、約2年半という期間で、マルチリンガルのL1とL2のライティング能力は変化するか

     マルチリンガルのL1、L2、L3での文章構築と構成プロセスにはどんな類似点と相違点があるか?

     態度やアイデンティティといった個人的、社会的因子はL1、L2、L3のライティングにどのように関連しているか

・複数のデータ資源が統合された

・2つの研究期間の間で、流暢さと複雑さの測定は統計的には行われていなかった

Lee&Coniam (2013)

・香港の中等学校の生徒167名と教師2

・研究前後の生徒のライティングに対する姿勢とプレテスト、ポストテストの生徒のライティングに関する6項目リッカート尺度アンケートを実施

・二つの教室の観察記録と教師と12人の生徒の面談

・アンケートとライティング(正確さ、語彙、文章構成、複雑さ)の定性的分析

・インタビューの定量的分析

     教師は、何を、どのようにEFLのライティングの授業の学習評価に用いているか

     教師は何を用いて生徒の動機付けやライティングのパフォーマンスに影響を与えようとしていたか

     EFLライティングの授業で学習評価の因子となっていたものは?

RQ2は定量定性的分析が用いられたが、それ以外は定量的分析に重きが置かれていた

・教師の面談の妥当性のチェックに使用された観察は分析対象となっていなかった

Williams (2004)

・ライティングセンター(WC)のチューター4名とL2ライター5

・生徒はWCセッションのビデオ録画の原稿を書く;WCチューターとの面談や刺激想起セッション

・改訂を測定するための原稿の定性的分析。全ての原稿は総合的に評価

・録画されたWCセッションの定量的分析

     WCでのセッションの後、L2ライターは原稿を改訂するか

     どのような種の改訂が行われやすいか

     原稿の改訂はクオリティを向上させるか

     セッションで行われることと生徒の行う改訂作業に関連はあるか

     セッションでは問題になっていなかった重要と思われる改訂は見られるか

     セッション内で問題がどのように処理されたかということと改訂されたもの(項目)に関連はあるか?

・改訂の分析手順に関しては詳細な説明されていた

 

・発見したことのレポートは改訂に関する定性的分析を統合していた

 

・インタビューやSRに関する議論がなされておらず、わかったことをどのように知らせていたかは不明

 

ディスカッションポイント

     共起デザイン(concurrent design)の問題点は?

     どのようなことに留意すれば留学は有意義なものになるか?