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2019年度 応用言語学特講Ⅰa |
3. Causal-Comparative and Correlational Research
【Issues Involved in Causal-Comparative and Correlational
Research(因果比較・相関研究に含まれる問題点)】
・信頼性、妥当性、実用性が担保された従属変数の測定法を見出す必要性は相関研究にも応用できる
→しかし、ほとんどの相関研究は研究とは別に保証されたテストによって言語能力の測定を行ってきた。
この他にも特に因果比較・相関研究に関連する問題は起こる
<Creating
Groups in Causal-Comparative Research(因果比較研究におけるグループ分け)>
グループ化の難点
・性の違い(教えられてきたことや社会からの期待がそもそも異なる)
・学習に影響しうる全ての変数におけるデータを収集することは困難
→研究が評価されるためにも実験で用いたグループを丁寧に説明することが重要
[Kim(2012)]
韓国語の第二言語習得者とheritage learner(継承語学習者)に2つのライティングタスクを課した
※継承語…親から受け継いだ言葉。(中島知子, 2013,「 JHLの枠組みと課題−JSL/JSLとどう違うか」, 名古屋外国語大学.)
例:在日米軍の子供の継承語は英語と考えられる。この場合日本語は「現地語」である。
しかし、言語の熟達度と社会経済的ステータスに基づいてグループを一致(match)させることは困難であった
→「ライティングの熟達度」という観点では差が見られなかった
ライティングの発達に関するCross-sectional studies(横断的研究)は実際にはgroup differences(グループ間の相違)の研究にもなっていた
・生徒はプレイスメントテストや入学以前の言語学習経験などの決まりに従ってグループ分けされる
・レベル分けされたグループ内の生徒同士では言語の熟達度の変数はほとんど同じと考えられる
ライティングの発達に関する因果比較研究の代替案としては長期的な研究を行うことが挙げられる
→異なる時点で、同じ測定テストを用い、同じグループを比較する
[Bulte & Housen (2014)の研究]
文構造の複雑さとエッセイの得点の変化は必ずしも比例するとは限らないことを発見
→エッセイの得点やライティングの熟達度を測るテストを用いた研究では、同じグループで異なる時間やレベルで行われた研究とは異なる結果が現れる
<Using
Questionnaire Data>
Questionnaire(アンケート)…大量のデータを扱う多くの相関研究でテストに加えて用いられる
アンケートを用いるならば研究者は信頼できる良いアンケート作りをする際の問題点を知っておく必要がある
[Yang & Plakans (2012)]
生徒のライティングストラテジーを判明させるためにアンケートを使用
信頼性の薄い項目は除外していくことによって要因分析を行い、大量の変数の中から6つの要因まで絞った
‘良い’アンケートは広範囲にわたって(piloting)試験的に行われ、項目を解釈できるように進んだ統計学を用いる必要がある
<Using
and Interpreting Statistics(統計学の使用と解釈)>
相関研究の問題点
①
複数ある測定値の中からどの値を使用すればいいかが明らかでなかったこと
因子分析の方法が多様に(principal component analysis(主成分分析), exploratory factor analysis(探索的因子分析),
confirmatory factor analysis(確認要因分析))
→研究者は最適な因子の組み合わせが可能に
しかし、※SEMのような進んだ統計分析を行うには研究者が十分にトレーニングされておかなければならない
※Structural equation modeling(共分散構造分析)…重回帰分析や因子分析、パス解析などの機能を併せ持つ一歩進んだ解析手段
②
研究者による相関係数の解釈の仕方
相関は統計において重要ではあるが必ずしも有意義な数値とは限らない
[Kokhan(2012)]
TOEFL iBTと大学のプレイスメントテストの相関を調査
→ほぼ同じ時点でテストを行えば非常に強い相関を示す
→大学のプレイスメントテストをTOEFL等に置き換えるのは有効な場合がある
[Box3.1 Focal Study(焦点研究)]
リサーチクエスチョン
1.
中等学校(第8~10学年)のL1オランダ語とEFLの作文能力は向上するか、また、初期段階の作文能力はのちの作文能力の向上をどのように予測するのか
2.
言語知識や言語処理効率、メタ認知はL1オランダ語とEFLの作文能力に関連しているか、つまり作文能力の発達には、どのような言語知識と処理速度の寄与があるか
3.
言語知識、処理効率、メタ認知の役割に関して、L1オランダ語とEFLの作文の間にはどのような発達の違いがみられるか
4.
作文能力の発達の中でL1の作文能力はEFLの作文能力にどのように関連するのか
実験デザイン
・389人の英語を学ぶオランダ人の生徒に、3年間のうちに1連のライティングタスクを課した(L1とL2両方)
・用いた変数はメタ認知、語彙知識、文法知識、スペリングの知識、語句検索のスピード、文章構築のスピードである。
結果
・EFLの作文能力は時間の経過とともにL1に比べて大きく向上
・EFLはL1に比べ言語の知識と流暢さの相関が高くなった
・L1とL2の作文には相関はあったが、時間の経過による発達の仕方は異なっていた
【Discussion
of a Correlational Study: Schoonen, van Gelderen, Stoel, Hulstijin, and de
Glopper(2011)】
Schoonenらは、作文能力は’multicomponential(多成分的)’であり、L1とL2両方に影響を与えるさまざまな認知的、言語的要因をもつと考えた
Box3.1の研究においける問題点
①
長期的な研究かつサンプルの量が莫大な点
→参加者のロスが発生(397人から389人に減少)、ただ減少数は少なかった
重要なポイントは、L2の長期的研究にはデータのロスがつきもの
→低い熟達レベルにあるL2学習者がテストを避けるため
しかし、失ったデータは利用するデータからある程度の予測が可能
②
オランダは多言語社会であったため、29パーセントの生徒が他のL1をみにつけていた
オランダ語が支配的であり、幼少期からオランダ語を公教育で学習するため問題ないと考えた
<変数>
研究で使用された変数ははっきりと説明され、丁寧に測定された
独立変数は11個;メタ認知、L1・L2語彙知識、L1・L2文法知識、L1・L2スペリング知識、L1・L2語句検索スピード、L1・L2文章構築スピード
<アサインメント>
・3つの課題を用意、各課題に3つのデータ収集ポイント
・20分で構想から執筆を終えなければならない(刺激としては生態的妥当性があるが、作文環境としては生態的妥当性がない)
<ライティング熟達度の測定>
測定に当たって研究者はどのようにライティングを評価するかを考える必要がある
→どんな方法をとるにしても丁寧な説明と採点者の信頼性に関する議論は必須
・採点者には基準となるテキストを付与
・エッセイの採点者は二人で、英語・オランダ語ともに高い採点者内信頼性を持つ
・採点はそれぞれのデータを収集してからであり、全く同じ採点者が採点するとは限らない
→採点者はどの採点ポイントに注目すればいいかわかった状態
<11の予測因子変数>
・メタ認知的知識を測定するために生徒たちにアンケートを課した(リーディングやライティング、テキスト構成などについて)
・語彙、綴り、文法知識を問うテストは別々に行われ、信頼性は確保されていた
・語句検索スピードと文章構築のスピードはコンピュータでリアクションタイムを計るテストによって測定され、L1とL2の両方で行われた
<SEMの手順>
Schoonenらは最初にオランダ語と英語のライティング熟達度のモデルをテストした
→ライティング熟達度に関わる個人差はオランダ語においては変化がなかったが、英語では変化が見られた
次に、backward deletion(回帰)を用い、どの変数が両者の熟達度を予測しうるかを見た
→連続的に削除することで節約モデル(複数の変数を持たない)を見出した
→英語のモデルはより複雑であった(時間の経過とともに変数の関係が変化するため)
→語句検索スピードなどの因子も熟達度に関連しており、なおかつ時間とともに変化するため
最後にオランダ語と英語のモデルを組み合わせる
→オランダ語でのライティングが英語のライティングにいかに貢献したかを明らかに
<因子分析の目標>
・相関のある変数の数をなるべく減らすこと
・データに含まれる複数の因子から直接測定されたわけではない潜在的な変数を創出する
Schoonenらの研究は時間をかけて作り上げられていたため、エラーも少ない研究デザイン
→その後のライティング能力の発達に関する実験的研究の下地に
より詳細で洗練された相関研究につながる
ディスカッションポイント
・日本語の作文能力は英語の作文能力に影響を与えるか
・ライティング能力が高いと思われる文章は?(語彙、文法など)