筑波大学 人文社会科学研究科                                                現代語・現代文化専攻                                           平井 明代研究室



2019年度  応用言語学特講Ⅰa

# Research synthesis

研究統合(Research synthesis)

質的研究だけでなく量的研究をも含む、応用言語学の様々な蓄積された知識を統合する、研究統合のポテンシャルを利用することを望む(Norris & Ortega; 2010)

 

L2ライティングにおける研究統合の例

Hyland and Hyland(2006)

Language Teachingstate-of-the-art articleのフィードバック研究についてレビュー

・研究を統合するだけでなく、批評し将来の研究の方向を提案

・フィードバック研究を4カテゴリーに分類(書きことばによるフィードバック、口頭によるフィードバック、ピア・セルフ、コンピューター)

 

Pecorari and Petric(2014)

state-of-art articleの剽窃について

・生徒の意見、教師の意見、専門の違いについて分類

 

以上どちらの研究も包括性を意図しているが、すべてを網羅しているわけではなく、また文献調査の詳細もない。このアプローチはManchon, Murphy, and Petric(2007)の、ライティング中の語彙想起に関する研究と比較される。これはnarrative reviewとよばれるもので、研究プロセスを詳しく述べるものである。Ortega(2003)のアカデミックライティングにおける統語的複雑さに関する研究の統合(synthesis)では、構造的に文献がレビューされ、熟達度による複雑さの指標の違いを図表を用いて示している。ただし、メタ分析の統計値は用いていない。

 

メタ分析(meta-analysis)

それぞれの研究結果を要約するための統計的方法を含むという点で、他の研究統合とは区別される。

メタ分析の手順

・どの研究を含むかの範囲を決める

・どのようにして調査が行われたか、対象となった研究とそうでない研究の理由を説明

・文脈や指標といった特徴によってコーディング

 

L2ライティングにおけるメタ分析の例

Kang and Han(2015)

Kao and Wible(2014)

Russell and Spada(2006)

Truscott(2007)

これらの研究で興味深いところは修正的なフードバック影響についてかならずしも同じ結論にいたっていない点である。

Truscott(2007)

少数の研究を分析、フィードバックと時間について着目し、1つの試行のみの研究を除外した

van Beuningen et al(2012)

修正フィードバックの影響を発見した研究を除外したかもしれない。5つの実証的研究についてレビューし、エラー訂正に関するネガティブな効果は小さかった。総合的なエラーに関してみるため、比較研究ではない研究のみ対象としている。

 

Russell and Spada(2006)

修正フィードバックについてポジティブな影響を得た。ただし、オーラルフィードバックも含んでいる。

 

メタ分析では異なる方向で行うことにより同じテーマでも異なる結果が得られることがあるため、慎重に読み、評価する必要がある。

 

質的研究

メタ分析は質的研究で行うことは不可能だが、関連したアプローチとしてメタ統合(metasynthesis)と呼ばれるものが行われている。

メタ分析と同様に、それぞれの研究の結果を分析し統合するため、研究を選定し評価するプロセスがある。

さまざまな手法があるが、多いものとしてはテーマ分析のようにテーマごとにコーディングを行う。

応用言語学で行われている例は少ない

Tellez and Waxman(2006)

K-12における英語学習者のティーチングプラクティスの有用性について

25の教育学の研究(TESOL Quartelyのような応用言語学のものも少数含まれる)

4つのプラクティスが有用だと突き止めた

有用性の定義についての論が不足しているが、質的研究におけるメタ統合の位置づけやその手法を示している。

 

# Reporting L2 Writing Research

## Replication

追試(Replication)

量的研究には必要

応用言語学領域では、Santos(1989)によって明るみになり、以下のことが議論されてきた。

・追試の定義

・どんな追試が可能か

・詳細を記載することの重要性

 

exact replication

条件を変えずに行う

応用言語学では不可能

approximate/systematic replication

一つの変数を変える(母語や熟達度)

 

質的研究における追試

質的研究では目的が一般化ではなく、特定の文脈における効果を特定する場合がある。

似た手続きであっても、研究者やその目的設定によって注目する点が異なっているため異なる結果を生み出す。そのため厳格な意味での追試は不可能である。

→質的研究は非科学的で不確かで価値のないものであるという主張へつながる。

 

質的研究でも一定の役割を果たす場合がある。

例)剽窃に関するインタビュー

異なる対象に対し同じ質問を行う

→最初の研究と組み合わせることで、より深い考察を行うことができる

 

# Documentation of the Research Process

追試を行うためには研究をどのように行ったかを詳細に記述する必要がある。昔は紙面の都合があったが、現在ではインターネットがあるため、より詳細なデータセットや分析手順、コーディングスキーマを紹介可能である。

Instruments for Research Into Second Language(IRIS)ではデータ収集に使用した道具や分析ツールなどを投稿可能である。IRISは、研究の透明性の向上を目的として作られた。

 

質的研究では、すべてのデータを公開し、追試しようとすることは不可能であり、すべきではない。(研究倫理的な問題:個人情報の保護)

データの解釈が妥当であることを示す必要はある。どのようにデータを解釈したのか、その過程を記述する。

 

# Reflexivity and Credibility in Qualitative Research

 

Reflexivity:研究における研究者の役割

エスノグラフィーが中心だが、他の形式の研究にも関連

インタビューにおけるインタビュイーとインタビュアーの関係

ディスコース分析における研究者のバックグラウンド

データの集め方やトランスクリプトの作成、データの解釈に影響を及ぼす。

 

質的研究の研究手法の妥当性について

研究者がそのアプローチについて詳しくないことが分かる場合(grounded theory, conversation analysis)や方法論を応用するのに失敗していることがある。この問題を克服するためには選んだ手法の基礎的な文献を含む先行研究を読み込み、その手法が適しているかを考慮する必要がある

会話分析では、「人々がなぜ(why)そのように行動するのかを説明するのではなく、どのように(how)するのかを明らかにする」

 

選んだアプローチの議論や他の研究ではどのように用いられているかを記述することは妥当性の検証に役立つ。

 

# Conclusion

・本書では様々な研究手法を紹介してきたが、より深い議論の始まりに過ぎない

・方法論のレビューが増え、認知と社会の両方からライティングをとらえる混合研究が増えることを望む

・応用言語学だけでなく、教育や心理学、人類学といった様々な方面でL2ライティングをとらえる必要がある

・研究を報告する際は研究手法を詳細に記述することが重要である

 

 

 

Discussion point

会話分析の手法をL2研究に応用することはできるだろうか。(できるとしたら)どのように応用することができるだろうか。