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2019年度 応用言語学特講Ⅰa |
◎担当箇所
Doing
Qualitative Discourse Analysis~章末
◎Doing
Qualitative Discourse Analysis(質的談話分析を行うこと)
〇Recording
Interaction(記録の相互作用)
・会話の談話分析は、まずオーディオやビデオの記録の収集から始まる。
・記録の相互作用は話された言葉の大まかなトランスクリプトの作成やその詳細を追加することを含む。
・会話で起こるノンバーバルな側面(例:ポーズ・リスタート・オーバーラップなど)はいろいろな種類のトランスクリプト用の記号で表されるが、やはり記録者によって様々な違いがあるとの指摘もある。(例:”there are almost as many ways to transcribe speech as there are
researchers who do so”(Johnstore,2008))
・用いられたの記号はトランスクリプトの最後に一覧として載っていることが多い。
・ビデオの記録に基づいたトランスクリプトを作成する場合は、どのくらい視覚的情報(例:ジェスチャー・視線・表情・体の位置・書かれた文章を指で指し示すなど)を含め、どのようにトランスクリプト上に記載するのか決めなければならない。
・トランスクリプトの言語が違うことによる問題がある。
英語が用いられているトランスクリプトが多いが、トランスクリプトはただ翻訳すれば良いというだけではないので、違う言語を分析するには様々な障壁がある。(例:ロシア語、日本語、アラビア語などローマ字を使っていない言語や、中国語などの音調、違う韻律をどう表すのかなど)
〇Developing
an Analysis(分析の展開)
データの収集の次は分析をする。
(1)
・談話分析の多くは帰納的なアプローチをとっている。つまり、対象のテーマやパターンを前もって決めておくのではなく、焦点を絞らずにデータを見ていくのである。
・談話分析の初心者のためのアプローチのガイドラインもある。
・そのひとつはK.Richards(2003,pp.185-191)のもので、口頭のデータを以下の4つのステップで分析する手法を提案している。
①データを見直し、エピソードを分類する
②それぞれのエピソードに関するいくつかの一般的な観察をする
③誰がその場の中心となっているのか、会話はどのようにまとめられているのか、などの特徴を考慮する
④最初の3つのステップで作られた準備の分析を広げる
(2)
・関心のある部分が決まったら、次は頻発するパターンを探す。
・ソースとなった文章や先生の話、生徒のエッセイからパターンを探そうとする研究もあれば、特定の相互作用のタイプやそれを形作る要因を特徴づけるパターンを探す研究もある。
・パターンを確認していくことによって、次の分析の焦点となる問題が起こることもある。
(3)
・最後に、評価的な観点を伴ったデータの解釈を反映させることが必要不可欠である。
・文章の特定の解釈への最初の印象は、綿密な調査の下では通用しないこともあり、研究者はパターンに合わない事例を探す準備が必要である。
・分析の成果に反する事例を考察することは、信頼性を高めるだけではなくより深い洞察や調査の新しい方法を生むことに繋がる。
〇Using
Software(ソフトウェアの使用)
談話分析に使われるソフトウェアには様々なものがある。
【Transana】
・最も口頭のデータの談話分析に直接的に関連するもの
・当初はChris
Fassnachtによって作られ、今はWisconsin-Madison大学の教育研究のためのWisconsinセンターで整備されている。
【CAQDAS】
・Transanaよりも機能性は劣るが談話分析に用いられるソフトウェア
・TransanaのトランスクリプトはRich Text(「.rtf」)かplain
text(「.tet」)のフォーマットでなければならない(Word(「.doc」・PDF「.pdf」のフォーマットには適応していない)ため、これらのフォーマットでないトランスクリプトにはCAQDASが用いられる。
Box 11.1 Focal Study
Pomerantz, A. & Kearney, E. (2012). Beyond
‘write-talk-revise-(repeat)’: Using narrative to understand one multilingual
student’s interactions around writing. Journal of Second Language Writing, 21,
221-238.
◎Background(背景)
L2の著者たちが会話を繰り広げていく中で、その会話がL2の著者の発達でなんの役割を果たしているのかを明らかにしようとした。
◎Research Focus(研究の焦点)
・プロジェクトは「どのように多言語話者が英語での多様な会話を理解し反応しているのかを理解する」目的で行われた。
・この論文は特に、どうしたら物語の分析は会話(talk)と筆記(writing)の関係における代わりの観点を与えることができるのかを論証することを目的としている。
◎Method(方法)
〇中心の参加者はアメリカの大学でのTESOLプログラムの6人の多言語話者のうち、
台湾からの卒業した留学生(Victoria)
〇データは以下のものを含んでいる
・Victoriaとの3つのインタビュー
・彼女のとっていた二つの個人授業のセッションとアカデミックライティングの3つの授業の記録
・ライティングコースへのジャーナルのエントリー
・ライティングに関するメール
・ライティングのコースと言語の社会化に関する他のコースの5つの課題(下書きやメモを含む)
・彼女のライティングに関する考えや気持ちを表すためにVictoriaが自発的に作った「ストーリーのような図」
〇このデータの設定から現れた物語はOchs and Capps(2001)に提唱された枠組みを用いて分析されている
〇Results(結果)
結果はVictoriaの”My Writing”という図の3つの質問によっ展開される。
(1)英語の談話コミュニティでの「良いアカデミックライティング」とは何か?
(2)「通常の」ライティングの過程とは何か?
(3)多言著者としての私はだれか?
1年間に渡る違う観点からの物語の分析は、彼女が何が「良い」ライティングに必要なのか、また、著者としての自信をどのように向上させたかを調査した。研究者は物語の分析が”write-talk-revise”のモデルを超えて研究の拡大に効果的であることを結論付け、L2の著者のさらなる適応について述べた。
◎Discussion
of a Focal Study (Pomerantz & Kearney, 2012)
・物語の分析には以下の5つの要因が関連している。
(1)誰がその物語を伝えているか
(2)参加者の観点から、なにが物語を価値づけているか
(3)どのように物語が進行している会話や活動に埋め込まれているか
(4)どのように物語は体系づけられているか
(5)物語のモラルの関係への態度
・物語の分析は主題分析によって導かれた結果よりも深く、洞察力に満ちた示唆を示すことができる
・しかしインタビューに基づいた分析はインタビューを行う人との様々な要因に関連するので注意が必要である
◎ディスカッションポイント
談話分析(会話分析)を行ってみて、言語を越えた分析にはどのような障壁があるか?また、それを解決するにはどうしたらよいか?