筑波大学 人文社会科学研究科                                                現代語・現代文化専攻                                           平井 明代研究室



2019年度  応用言語学特講Ⅰa

l  担当箇所

9章 Interviews

Table 9.3 A Typology of Interview Questions~章末

 

<Table 9.3 A Typology of Interview Questions>

Type

Caracteristics

Why use it

Examples

Closed

応答の形式が限定されている(ex. “yes” or “no”)

特有の情報を対象とする

理解が正しいかどうか確かめる

Xは役立つと思うか?

Xを意味しているのか?

open

潜在的には応答が無制限

Whクエスチョン、指示、要求として構成される

参加者に参加者自身の言葉で応答を述べることを許容する

Xに関してどのように感じるか?

Xを説明してください

direct

トピックに直接的に焦点を当てる

率直な方法でトピックに関して尋ねる

Xに関して何を考えたか?

なぜあなたはXをしたのか?

indirect

間接的にトピックに焦点を当てる

プロンプト(刺激するもの)を用いることがある(ex. テキスト、物語)

繊細、あるいは抽象的な問題に関して尋ねる

一般的、あるいはありふれた応答を避ける

これらの例のうちどれが最もXを表しているか?

opening

インタビューを公開するための一般的なクエスチョン

 

参加者を気楽な状態にする

さらなるクエスチョンを通して探究される可能性のある道を切り開く

Xに関して教えてください


・インタビュアーは精巧な応答ではなく短い応答を促進したり、インタビュイーが、実際は曖昧な立場であるにもかかわらず、応答をいずれかに決定しなくてはならないという責任感を感じてしまわないよう、閉鎖的な質問を避けるよう助言されることが多い。しかしながら、インタビュアーの理解や焦点を当てている特有の情報を検証する際などに、閉鎖的な質問は機能するとする研究者もいる。

→インタビューは開放的な質問を中心に構成し、特異な目的のために閉鎖的な質問も備えておくことが必要とされる。

 

・直接的な質問はトピックが繊細、あるいは抽象的であるときには適していない。

 

・プロンプトを用いることは、抽象的な概念を具体的にするための1つの方略である。

・インタビューガイドを作成する際には、インタビューの流れを円滑にし、自由で開放的な交流を促進するためにどのように質問を配列するかを考慮しなければならない。

Spradley(1979)は、インタビュイーに自由に応答を行うことを許容し、長く応答することを促すgrand tour questions(大きなターンでの質問)を推奨している。

 

・インタビューガイドを実行する前に、試験的な実施を行ったほうがよい。試験的な実施によって、どの質問が理解しやすく、意味のある質問なのかやどのような質問が有用なのかを知ることができる。また、インタビューのテクニックを練習することもできる。

 

<Conducting Interviews>

・インタビューをするということは、インタビューガイド上の質問以外にも様々な事項を含んでいる。

さらなる発話を求める頷き、相槌

解釈を確認するための質問

さらなる情報を求め、インタビュイーの発話をそのまま聞き返す

包括的な質問

・方略的に用いられた場合、沈黙もインタビューの技術として妥当である。沈黙はインタビュイーに質問を理解し、応答を形成するための時間を与える。

・インタビュアーがインタビュイーのさらなる発話を促進するためには短い沈黙を設けるべきであり、Kruger and Casey(2000)5秒間のポーズを推奨している。

 

・インタビュアーはインタビュイーの応答を妨げないよう考慮すべきであるが、どの行為が妨害として分類されるかはインタビュアーによって異なっている。

・目標の発見を生み出すための、ポスト実証主義の客観的な目的から行われる研究においては、インタビュイーの信条や経験の実際の報告がこうあるべきであるという偏った考えを持つことを避けるべきであるとされている。

 

・ポストモダニズムのアプローチが背景にある、知識の共同構築に関する前提は、インタビュアーの知識の産出やインタビュイーとの協調における活発な役割を想定している。

active interview(活発なインタビュー): 異なった役割に挑戦する、異なった観点から問題を考えるなどの方法を通して、インタビュアーが意味の産出を刺激することを目的とするもの。

 

・応答は必ずしもインタビュイーの考えを反映するものではないかもしれないが、active interviewは参加者が応答するという役割に従事した時、従事する前、従事している間、従事した後の経験をつなぎ合わせるための補助となるものである。

 

・インタビューは複雑であるため、初心者は試験的な実施やロールプレイで技術を向上させる必要がある。

 

<Analyzing Interview Data>

・インタビューの目的が実際の情報の発見であるとき、研究者はデータのveridical readingを採用するかもしれない。

 →veridical reading(事実一致の解釈): 内容に焦点を当て、その内容を現実の影響として扱うもの。

experimental reading(経験的な解釈): インタビュイーの個々の観点や経験に関して明らかにしたことという観点からの分析。

symptomatical reading(徴候的な解釈): トピックとの関係性の観点からの分析。

presentational reading(表象的な解釈): トピックを表現するためにインタビュイーが用いた言語の分析。ライティングプロセスや態など。

 

 

・インタビューのデータは典型的に、以下の2つにおいて分析される。

  thematic analysis(主題の分析): 主な主題を区別するためにデータがコード化される分析。

  discourse analysis(ディスコース分析): 内容よりも発話の構造や機能に焦点を当てた分析。

 

thematic analysisは最も用いられる方法である。この分析においてトランスクリプトは帰納的に読み取られ、後に純化し主な分類や主題、副主題の階層を構成するcoding scheme(符号化配列)へと組織されるcodes(コード)に割り当てられる。この分析は、パターンを明らかにし、インタビューの参加者、あるいは多数のデータソースのつながりを作るために、異なっていて扱いにくいデータに順序を与えている。この分析はたやすく不正確な解釈が得られてしまうという点で批評されることがあるが、分析をはじめやすいためよく用いられる。

 

・ディスコース分析は、表象的な視点を用いることや、インタビューを「意味創造の出来事」として分析することに関心のある研究者のための代案を提供する分析である。ディスコース分析者は、個人が他人との協同の中で発話をどのように構築するのかに関心を持ち、文化的、社会的、あるいは歴史的な力の影響に関しても考えている。また、この分析はライターの個性や信条、態度といった分野に焦点を当てた研究のための潜在能力を持っている。しかしながら、インタビューデータのディスコース分析はL2ライティングの研究ではまだあまり用いられていない。

 

<Discussion of a Focal Study: Shi(2008)>

 

Shi, L. (2008). Textual appropriation and citing behaviors of university undergraduates. Applied Linguistics, 31, 1-24.

 

Research Questions

       なぜ生徒は原文を盗用し、自らのライティングに引用するのか。

       なぜ生徒は原文を盗用しているのにもかかわらず自らのライティングに引用しないのか。

       生徒はどのように、引用文やパラフレーズ、要約に対してテキスト借用の原則を応用しているのか。

 

Method

データは北アメリ大学の様々な専攻やL1を持つ16名の学部生のディスコースベースのインタビューで構成されている。3名のL2英語話者は留学生であり、残りは移民の子どもか、教育のすべて、あるいはほとんどを北アメリカの学校で受けてきた学生たちであった。参加者たちには最近書き上げた論文と用いた原文をインタビューに持参してもらい、原文を用いたパッセージを確認し、コメントしてもらった。coding schemeは、生徒たちが使用したキーワードを基に構築された。

 

Results

結果は記述的な統計と説明的な引用文によって報告された。引用した理由として最も多かったものは、(a)主張をサポートするため、(b)他人の言葉や考えを信用しているから、の2つであった。引用しなかった理由として最も優位なものの中には(a)一般的な知識と同一であるから、(b)引用のし過ぎを避けるため、というものが含まれていた。Shiは、適切でないように見えたとしても、生徒の引用の選択はある信念に基づいたものであるように思われると結論付け、彼女は意図しない盗用は学術的なライターになる過程の早期段階の特徴であるとした。

 

 


Shiは引用の正当化に働いた教育的、言語的背景に関して議論していない。

・参加者がすべて同じ大学の生徒で、インタビューが1度しか行われていないという点で、信用に欠ける。

・生徒が執筆した論文の中の引用は文脈づけるのに用いられてはいたものの、それ自体は分析されていない。

・参加者のL1の幅や専攻、居住期間の長さが、この分析から発生した主題がこの特有の集団との関連性を持つということを示唆している。

Shiの分析を通して他の同様の研究とShiの研究の結果を比較することができれば、彼女の発見は研究の文脈を越えることができただろう。

・この研究は透明性に長けていて、インタビューガイドなどが誰でも見られる状態になっている。

・応答形成における自由度をさらに高めることができれば、この研究における質問はさらにShiの目的を達成するのに役立ったと考えられる。

・生徒は自分の引用に関して回顧的に応答しなければならず、さらにそれを権力のある人物(Shiは北アメリカ大学の教授であった)の前で行わなくてはならなかったことが潜在的な問題である。このインタビュアーとインタビュイーの関係性が結果に影響を与えた可能性がある。

Shiの研究はインタビューのみの研究の限界を示唆している。

 

 

<Discussion Point>

研究においてインタビューを行う際に、インタビュイーの発話を最大限に引き出すためにはどのようなことに注意すべきか。