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2019年度 応用言語学特講Ⅰa |
担当: 6章Learner Text Analysis 最初からOther Types of
Measures and Analysesまで
・学習者のテキスト分析は様々な方法と結びついている。
・この章では特に、限定的で客観的な測定に焦点を当てる。
・First
section: 学習者のテキスト分析の様々なゴール
・Second
section: 技術の選択・使用に関する問題の議論とともに学習者のテキスト分析の方法を分類
・Third
section: 様々な測定やテキスト分析技術に関する問題に着目
<Purposes
for Analyzing Learner’s Texts(学習者のテキストを分析するための目的)>
L2ライティングの研究では、学習者のテキスト分析の目的が多様である。
Table 6.1
テキスト分析を用いた研究のサンプル
Citation |
Participants, context, and
writing task |
Research questions |
Comments |
Chan(2010) |
・香港の大学及び中等学校の387名の広東語話者 ・2度のフリーライティングタスク |
英語のライティングにおいて香港の広東地方の学習者はどのようなタイプの語彙文法的エラーを引き起こすのか |
・テキスト分析はエラーのソースに関するグループインタビューによって補われている ・エラーのソースは推測されたが、異なったL1を持つ比較群がなかった |
Bardovi-Harlig(2002) |
・集中的な英語のプログラムにおける16名の低いレベルのEFL学習者 ・7つのコースにけるテキストタイプの多様性を17.5か月に渡って追った |
EFL学習者は定型的まとまりを用いて未来時制を説明し始めるのか、そして習得順序はどのようなものか |
・未来時制の使用や出現が比較できるように、オーラルテキストの収集も行われた。 ・ライティングデータは論文、試験、構成、物語を含む |
Benevento & Storch(2011) |
・5年間フランス語を学習しているオーストラリアの中等学校の生徒15名 ・1年間の課程における、3つの異なるトピックとジャンル |
・中等学校のフランス語学習者のライティングは発展、もしくは向上するのか ・ライティングの側面とは何か。もしあるのであれば、それは発展、もしくは向上するものか |
・トピックやジャンルは平衡ではなかった ・エッセイは複雑さや正確さのために符号化された ・詳細な記述は正確さを担保できるような信頼性を得た ・チャンクのコード化におけるいくらかの詳細も含まれていた |
Crossely & McNamara(2009) |
・アメリカのおよそ200名の英語母語話者と200名のスペイン人EFL学習者 ・説明文 |
エッセイの中での語彙的差異はL1ライターとL2ライターを区別するのか |
・エッセイは比較可能なトピックにおいて書かれた説明文を含む、2つのコーパスから用いられた ・多くの測定は語彙要素間の結合とよく関連づけられていたが、よく語彙の複雑さの測定として用いられる語の流暢さも計算された |
Lu(2011) |
・9つの中国の大学の、英語科専攻の中国人 ・16の異なったプロンプトにおける3つの異なるジャンル |
与えられた統語的複雑さの測定において、慣習、ジャンル、タイミングの状態を含むサンプリングコンディションの影響とはどのようなものか |
・Luの統語的複雑さの分析手段によって多くの異なる測定が行われた ・手作業での符号化は行われなかった ・データは学習者テキストの膨大なコーパスから用いられた |
Shintani & Ellis(2013) |
・アメリカの大学における49名のEFL学習者 ・紙芝居タスク |
学習者の不明瞭な項目の使用における直接的な修正フィードバックの影響と、フィードバックなしのメタ言語的説明の影響とはどのようなものか |
・不明瞭な項目の使用の正確さは正しい使用の数/乱用された形式を加えた拘束力のある文脈の合計で点数がつけられた ・生徒のライティングを試験することに加えて、この研究はエラーを正すテストの結果を基盤とした生徒の明示的知識を調べた |
McCarthy & Jarvis(2010) |
学習者によるものではないテキストを含む広い範囲での英語のライティングテキストをカバーする2つのコーパス |
何が語彙多様性の最も妥当な測定なのか |
この研究はL2ライティングそのものの研究ではなく、L2ライティングにおいて使用されている測定を検証しようとしている |
Verspoor, Schmid, & Xu(2012) |
・5つの段階の熟達度におけるオランダ人EFL学習者 ・学習者の年齢に沿った、異なるトピックにおける短い物語 |
様々なテキスト特性は時間を経てどのように変化するのか、そしてそれは異なる熟達度段階を区別するのか |
・64の測定が行われた ・レベルによってライティングタスクが異なっていた ・測定の信頼性は担保されなかった |
・記述的研究: Chan(2010)、Bardovi-Harlig(2002)
この2つは言語学習の起源の観点では大きく異なっている。Chanはエラーとエラーの根源に焦点を当てているが、Bardovi-Harligは特定の時制の出現と使用に焦点を当てている。
・構成体を測定することによって特定の文脈で学習者のテキストを説明しようとしている研究: Benevento & Storch(2011)、Crossley & McNamara(2009)
・経験的研究:
Lu(2011)、Shintani & Ellis(2013)
経験的研究は学習者がテキストや干渉を産出する際の状況に変化を与え、その状況はテキスト特性に影響する。
・測定そのものに焦点を当てた研究: McCarthy & Jarvis(2010)、Verspoor, Schmid, &Xu(2012)
<Types
of Text-Based Analyses(テキストベースの分析のタイプ)>
研究の焦点は以下のカテゴリーに分類される。
全体の質、言語的正確さ、言語的複雑さ、語彙特性、内容、構造、結合とディスコースの特性、流暢さ、修正
Table 6.2 テキストベースの測定と分析の分類
Construct or focus |
Specific measure or analysis |
Example |
正確さ |
エラーのない節の割合 |
Ellis & Yuan(2004) |
正しい動詞形態の割合(時制、アスペクト、法、主語と動詞の一致) |
Ellis & Yuan(2004) |
|
エラーの数/語の数 |
Truscott & Hsu(2008) |
|
統語的複雑さ |
文の長さ(語/文) 節の複雑さ(限定された動詞/文) 等位(接続詞の等配置/100語) 従属接続(接続詞の従属配置/100語) |
Vyatkina(2012) |
統語的複雑さの分析方法を使用する測定の多様性 |
Lu(2011) |
|
密度 |
Li(2000) |
|
多様性(Guiraud索引) |
Verspoor, Schmid, &
Xu(2012) |
|
多様性(D値) |
Kormos(2011) |
|
精巧性(語の長さの平均) |
Gebril & Plakans(2013) |
|
精巧性(語の使用の流暢さ) |
Kormos(2011) |
|
流暢さ |
Tユニット/テキスト 節/テキスト |
Strorch(2015) |
音節/分 訥弁(消えてしまった語の数) |
Ellis & Yuan(2004) |
|
定型的配列 |
語彙フレーズ |
Li & Schmitt(2009) |
単語連鎖 |
Cortes(2004) |
|
名詞修飾のコロケーション |
Durrant & Schmitt(2009) |
|
結合 |
結合力のあるデバイスの多様性 |
Liu & Braine(2005) |
Coh-Metrixを用いた測定 |
Crossley Weston, Sullivan, & McNamara(2011) |
|
言い換えとテキストの模倣 |
引用の数とタイプ |
Petric(2012) |
言い換えタイプの4つの分類 |
Keck(2006, 2014) |
|
間接的なソース、直接的なソース、逐語的なソース等のTユニットの使用 |
Gebril & Plakans(2013) |
|
修正プロセス |
文法的フィードバックコードに対する応答における変化 |
Lavolette, Polio, & Kahng(2015) |
語レベルの変化 文レベルの変化 ディスコースレベルの変化 |
M. Suzuki(2008) |
|
成功的 vs 非成功的修正 |
W. Suzuki(2012) |
<CALF
Measures(複雑さ、正確さ、語彙的複雑さ、流暢さの測定)>
l Accuracy(正確さ)
・正確さは定義しやすいこともあれば、定義しにくいこともある。
・エラーの数を数えることが正確さを測定する最も良い方法のように思われるが、異なったエラーの数を導く様々な文の修正が行われているため、この方法は難しい。エラーのカウントを用いる研究者もいるが、多くの研究者はエラーのない節やTユニットをカウントする方法を選ぶ。
・複雑さの測定とは異なり、すべての正確さの測定はエラーの数に関係した類似の構成体を測定し、それぞれ相互関係を示す。そのため、どれか1つの測定が最も妥当であるということはできない。
l Complexity(複雑さ)
・統語的、語彙的複雑さはL2ライティングの研究において長い期間議論されてきた。
・異なった部分や文に着目している場合、統語的複雑さの測定は、複数同時に同じ構成体を測定することはできない。
・語彙的複雑さは着目されることが多い。語彙の多様性と語彙の精巧性はおそらく最も議論される構成体である一方で、語彙の密度、内容後の割合も用いられている。
・上記の測定の分析はコンピューターによって行われ、一般的に語が正しく用いられたか否かを考慮していない。
l Fluency(流暢さ)
・流暢さは与えられた時間の中でライターが書いた語の数を調べることによってしばしば測定される構造体である。書かれたT-unit(Tユニット)や節の数を含む研究もある。
T-unit(Tユニット): 文の複雑さを示す指標。一文を構成するための最小単位。
・流暢さの定義はかなり簡単であるが、ライティングテキストの中で現れる流暢さに 関する議論は存在している。
・我々はテキストに着目するだけで、完全にライティングプロセスを獲得することはできない。これは、ライターは紙の上に何かを書かずして、脳内で組み立てや再公式化を行うことが可能だからである。
<Other
Types of Measures and Analyses(測定と分析の他のタイプ)>
分析には様々な種類があり、Table 6.2ではCALF Measuresの他にも一般的な測定がリスト化されている。
l Formulaic sequences(定型配列のこと。Chunk(チャンク)や単語連鎖、決まり文句とも呼ばれる)はL2ライティングの研究でよく用いられる。
Chunk(チャンク): 大きな塊。ある程度の量がまとまったもの。特に意味を持った言葉のまとまり。
・どのようにチャンクを分けるのかは簡単な問題ではない。何をlexical phrases(語彙フレーズ)として区別するのかを学習者に判断させる、共起的表現をコンピューターに判断させる、コロケーションに着目する等、様々な手段がとられている。
l 節同士の関係をみるために、結合の測定に着目する研究者もいる。
・多くの研究は特にCoh-Metrixという自動化されたプログラムを通して、結合を分析している。
Coh-Metrix: 複雑さや語彙の精巧さの分析、内容語の重複(ある内容語が文を越えてどのような頻度で用いられているのか)の測定ができる。
l しばしば研究される他のディスコース特性は、学習者がどのように外部のソースを用いているのかに関係している。
・ソースとなるテキストが提供されている、集約されたライティングテキストの文脈の中で、学習者が他のテキストから逐語的に言葉を用いる方法に着目する研究が増えてきている。
l 学習者の修正プロセスを理解するために、テキストを調べてきた研究がある。
・あるテキストからもう1つのテキストへの変化を調べてきた研究者もいる。
・修正のコード化は明確なunit of analysis(分析単位)がないため、非常に難しい。限定できる分析単位は文かTユニットである。
l まとめ
・学習者のテキストを分析する方法は多くある。
・多くの方法が数量化のタイプに分けられるのに対して、質的な記述のタイプとして 分けられるものもあり、他のデータソースに結び付けられることもある。
・しばしば口頭言語の中で調査されているSLAからの構成体に関係する測定もあるが、書かれてわかるきまり(書かれた法)に着目する測定もある。
<Discussion
Point>
・流暢さを分析する際、語/テキスト、Tユニット/テキスト、節/テキストを測定するが、これらはそれぞれ特に何を表しているのか。
・日本における英語教育のニーズにおいて、今後さらに重視されるライティング研究は何に焦点を当てたものか。