筑波大学 人文社会科学研究科                                                現代語・現代文化専攻                                           平井 明代研究室



2018年度  異文化言語教育評価論


Summary 1

 

Mora, J. C., & Valls-Ferrer, M. (2012). Oral Fluency, Accuracy, and Complexity in Formal Instruction (FI) and Study Abroad (SA) Learning Contexts. TESOL Quarterly, 46(4), 610-641. doi: 10.1002/tesq.34

 

Research Questions

RQ1.         What is the effect of a 3-month SA period on the dimensions of learners’ oral performance (fluency, accuracy, and complexity)?

Hypothesis:   robust gains in fluency and little or no gains inaccuracy and complexity

RQ2.         How do FI at-home and SA learning contexts differ in terms of the impact they have on learners’ oral performance?

Hypothesis:   SA period, as opposed to the FI period, would have a significant impact on fluency, whereas accuracy and complexity might benefit more from FI than SA

 

Research Method

Data collection was conducted at three different points: T1 (before FI), T2 (after FI and before SA), and T3 (after SA). The study targeted European (bilingual Spanish/Catalan) learners of English with an advanced level of proficiency to limit the use of first language (L1) and promote individual communicative experiences within the target language (TL) community. Two materials were used for data collection: an oral guided interview conducted in pairs about participants’ university life, and a questionnaire asking participants about their linguistic profile, attitude, and motivation in FL learning and the conditions of their stay. Participants’ fluency, accuracy and complexity were measured by analyzing these data using numerous indices.

 

Conclusion

The main goal of this study was to assess the impact of SA period on the acquisition of English as a second or foreign language and to explore the differential contribution of SA and a previous FI period to the development of learners’ oral performance. From the investigation, the following findings were revealed; (1) SA had significant oral fluency gains in time-related aspects of speech production (e.g., speech rate, mean length of run, pause frequency and duration, and composite fluency index), (2) SA provided learners with extensive L2 exposure and practice, leading to a more efficient integration of the cognitive processes underlying the production of fluent L2 speech, and (3) accuracy and complexity of the learners’ oral productions appeared to remain largely unmodified through both learning context periods.


 

Summary 2

 

Leonard, K. R., & Shea, C. E. (2017). L2 speaking development during study abroad: Fluency, accuracy, complexity, and underlying cognitive factors. The Modern Language Journal, 101(1), 179–193. doi: 10.1111/modl.12382

 

Introduction

本研究では、L2スピーキング能力の発達について多面的に捉え、3ヶ月の留学を経てL2スピーキング能力が発達する中で、言語的・心理言語的・認知的な側面と複雑さ・正確さ・流暢さ(CAF)の関係がどのように変化するのかを検証する。

 

Research Questions

RQ1.         留学の前後で、CAF・言語知識・言語処理速度に変化はあるのか。

RQ2.         留学前あるいは留学中におけるL2CAFには、どのような関係性があるのか。

RQ3.         言語知識・言語処理速度によって、留学前あるいは留学中におけるL2CAFを予測することはできるのか。

 

Research Method

対象者

アルゼンチンの私立大学3校に3ヶ月間留学したNSの学部生39名を対象とした。

アメリカ:33、カナダ:4、オーストラリア:2

 

実験

留学直前と3ヶ月後(M = 89.5, SD = 7.4)に事前・事後テストを行った。

L1のモノローグタスク以外はすべて同じタスクを使って実験を行った。

 

タスク

n  Monologue

L1(英語)とL2(スペイン語)で3回ずつモノローグタスクを行い、CAFを測定した。

調査対象者は、指示を与えられてから30秒間で考え、2分以内に回答した。

n  Grammatical knowledge(文法知識)

調査対象者は30問の文法テストを時間制限なしで解き、文法的な誤りを訂正した。

n  Vocabulary knowledge(語彙知識)

調査対象者は30問の語彙テストを時間制限なしで解いた。

テストは、Diploma de Español como Lengua ExtranjeraDELE)を基に作成された。

n  Language processing speed(言語処理速度)

l  Picture naming task

調査対象者は、描かれている50個の物体の名前をスペイン語で答えた。

l  Sentence–picture verification task

調査対象者は文章を聞き取り、その内容が示されている絵を適切に表現しているかを40問にわたって判断した。

 

尺度

n  Complexity

l  lexical variety(語彙的多様さ):

調査対象者の回答を100語まで書き出し、CLANVocDプログラムを使ってD値を算出した。

l  syntactic complexity(統語的複雑さ):

調査対象者のmean number of words per T-unitmean number of subordinate clauses per T-unitを測定した。また、Tスコアを使ってこれら2つの尺度を合わせ、composite syntactic complexityのスコアを算出した。

l  lexical complexity(語彙的複雑さ):

Guiraud advanced indexを用いて、調査対象者が頻出語(2000語)以外の単語をどれほど使っているかを測定した。

n  Accuracy

調査対象者のnumber of errors per 100 wordsを測定した。

n  Fluency

調査対象者の録音データを各タスクから30秒ずつ抽出し、フィラーやポーズの悪影響を排除した上で、次の項目について測定した。

(a)      Articulation ratenumber of syllables per second

(b)      Repair per 100 syllables

(c)      Pauses

(d)      Mean length of runmean number of syllables spoken between pauses

(e)      Composite fluency scores (T scores)

 

Discussion

Changes in CAF, Linguistic Knowledge, and Processing Speed

n  本研究の結果は先行研究と一致し、留学はL2学習者の統語的複雑さ・正確さ・流暢さの向上に有効であり、留学が流暢さだけではなく正確さの向上にも効果的であることが示唆された。

n  語彙的複雑さが有意に向上した一方で、語彙的多様さが向上しなかった理由としては、留学は低頻度語と接する機会を上級者に多く提供してくれるが、これは必ずしも語彙的多様さにはつながらないと考えられる。

n  repairについては有意な差が見られなかったが、本研究と先行研究の結果を照らし合わせると、repairの頻度は非線形に発達すると仮定できるため、これは変化の様子がL2学習者によって異なることに起因すると考えられる。

n  また、留学を経験することでL2のポーズがL1と同じように節の最後で見られるようになり、より自然な形で発生するようになった。

 

The Relationship Between Fluency, Accuracy, and Complexity

n  留学前の統語的複雑さ・正確さ・流暢さは有意な相関関係にあったことから、長い目でみれば、これらの側面はある程度同じように発達することが示唆された。

n  統語的複雑さ・語彙的複雑さ・正確さ・流暢さの変化には有意な相関関係はなかったため、短い目で見れば、これらの側面は互いに独立して発達していることが示唆された。

 

Linguistic Knowledge and Processing Speed as Predictors of CAF

n  留学前により高い言語知識や言語処理速度を有していることは、複雑さと正確さを向上させる上で少しだけ有利だが、流暢さの向上においては効果的ではない。これは流暢さが他の側面とは異なるスキルに依拠しているからだと考えられ、留学前の流暢さを最も予測していた変数が言語処理速度であったのに対し、複雑さと正確さの場合は言語知識であったという本研究の結果もこれを裏付けている。

n  スピーキングのautomaticityが上がることで流暢さも向上するため、留学によってスピーキングを練習する機会が増えたことで、留学前の言語知識に関わらず調査対象者の流暢さが向上したと考えられる。また、留学前に高い言語知識を有していた学習者は、その知識をより頻繁に使ったことで、複雑さや正確さにも向上が見られた。

n  一方で、複雑さや流暢さの変化を言語知識と言語処理速度の変化から予測することはできなかった。この理由としては、文法知識・語彙知識のテストにおける分散が十分ではなかった、また3ヶ月という留学期間が変化を予測するには十分ではなかったことが考えられる。このことから、比較的短い留学でも有意な向上を望むためには、留学前にL2の文法知識や語彙知識を十分に蓄えておく必要性があると示唆された。

 

 

【考察】

結果を総合すると、Mora & Valls-Ferrer (2012)では流暢さが有意に向上していたのに対し、正確さと複雑さは大部分が変化していなかった。一方で、Leonard & Shea (2017)では、留学が統語的複雑さ・正確さ・流暢さの向上に有効であることが示された。この理由としては、調査対象者の英語熟達度に違いがあったことが考えられる。Mora & Valls-Ferrer (2012)では上級者を対象としたのに対し、Leonard & Shea (2017)では中級者を主な対象としていた。Leonard & Shea (2017)も指摘するように、留学前の英語熟達度が高いことで有意な差が表れにくくなる側面が存在し、Mora & Valls-Ferrer (2012)においては留学前の英語熟達度が既に高かったため正確さと複雑さの向上があまり観測されなかったと予想される。翻って、留学前の英語熟達度が留学効果の効果的な予測変数であることが示唆されたとも言えるだろう。

また、特筆すべき点として、どちらの論文も留学によるautomaticityの向上を指摘していた。Mora & Valls-Ferrer (2012)では、留学によって学生のL2インプットとアウトプットの量が増加し、それによってL2スピーチにおける認知プロセスがより効率的に行われるようになったと述べている。Leonard & Shea (2017)でもautomaticityの重要性を説いており、留学によってスピーキングを練習する機会が増えたことで、スピーキングのautomaticityが向上し、留学前の言語知識に関わらず調査対象者の流暢さが向上したと論じている。授業内でも議論した通り、L2スピーキングをinteractによって測る大きな利点の1つが学生のautomaticityを向上させることであり、今回の研究結果の比較によって留学がこの点においても有効であるということが示唆された。そのため、今後日本の英語教育においてL2スピーキング力の向上を図る上でも、留学が重要な機会の一つになってくると言えるだろう。

一方で、共通する限界点もあったと言える。Literature Reviewでは、先行研究で使われていた尺度やその結果について積極的に論じられていたが、留学を経験することでなぜ英語の熟達度が向上するのかという根本的な問題についてはあまり述べられていなかった。Introductionにおいて、「learning contextの違いによって効果がもたらされる」とさわり程度には書かれていたが、具体的な理論については言及されていなかった。これは、留学によるL2習得・喪失の分野における多くの研究に共通する課題だと考えられる。特に私が研究を予定している喪失の分野においては、その傾向が顕著である。先行研究によって結果が一貫していないことが多く、背景となる理論がそもそも定まっていないため、理論的な根拠を基に結果について論じることが難しい。今回の研究においても「この先行研究と結果が一致した」という程度でしか論じられておらず、Discussionにおいて深く議論できていないと言える。博士論文では、分析の結果を一般化し、研究内容について定性的な理解を得ることが求められるため、L2習得・喪失の理論に基づいて仮説を立てた上で研究を進めることが必要だろう。また、仮説とは異なる結果が得られたとしても、その理由を理論的に述べられるようにしなければならない。

気になった点としては、分析において非正規分布しているデータについて対数変換を使って対処するという点が興味深かった。修士論文で使ったデータの中にも尖度が高すぎるものがあったため、このような場合でも対数変換を使うことで対処ができるのかを調査したい。