筑波大学 人文社会科学研究科                                                現代語・現代文化専攻                                           平井 明代研究室



2018年度  異文化言語教育評価論

Introduction

n  リスニング指導は、音声信号と関連づけられ行われてきた。

n  音声信号は、今や科学技術の発達により記録され、繰り返し使用できるようになった。

n  DVDやその他オーディオ機器の開発によりその技術を活かしてリスニング指導がなされ、先行研究では、教育的示唆として二つの事がリスニングに関して述べられている。

n  (1) 科学技術の進歩はL2リスニング教育の進歩と関連しているのだろうか。          

(2) 新しい科学技術の側面におけるどの要因がL2リスニング教育に有益に寄与しているのだろうか。

本章では、マルチメディアのリスニング教育への寄与の可能性を述べていくことにする。

 

Impact of Visual Media for Listening Instruction

n  リスニング教育発達を可能にした科学技術の発達により、視覚的な要素をリスニング指導に加えることで、よりオーセンティックな教室英語のリスニング指導を可能にした。

n  この発達により、視覚的な要素が、実生活に則したリスニング指導における基礎を作り出し、より良いリスニングにおける理解につながる。

n  先行研究 (e.g., Mayer, 2001)において、テキストはもちろん、オーディオやビデオなどによる視覚情報が学習のための認知プロセスを促進することがわかった。

n  学習において、言語情報とそれに関連した非言語情報がより良い心的表象を構築し、互いに認知プロセスを高める。

n  L2学習者は、リスニングにおいて視覚情報と言語情報が互いにWM内で情報を処理しあう過程の中でより理解を深めていく。

 

Impact of Visual in Listening Instruction: Research Evidence

n  リスニング指導における視覚情報の追加は、実生活に即したリスニングに近いオーセンティックな側面をもたらし、先行研究 (Verdugo & Belmonte, 2007)においてもリスニング指導ではオーディオだけではなく視覚的メディア(インターネットを経由したものでも良い)を使用するべきだと提唱されている。

n  オーセンティックなリスニングの経験をする中で、話者の表情やジェスチャーなども動作学的観点からより良いリスニングを手助けする。

n  Sueyoshi & Hadison (2005): 低熟達度の学習者にとって、話者の表情やジェスチャーを見ることで、学習者が理解していないことを補うような手がかりを提供することから、最もリスニングスコアの向上に寄与した。

n  高熟達度の学習者に関しても、唇の動きや表情から意味の手がかりを得ることで高いスコアにつながっていた。

n  ビデオクリップなどのメディアは、学習者にシナリオやリスニングに関連する語彙表現の理解を促進するため、学習者のリスニング準備のために使用され得る。

n  しかしながら、先行研究 (Ginther, 2002)では、結局のところリスニングにおける理解は、直接的な音声情報がもたらす情報と強く関連しているため、視覚的コンテンツはリスニング理解を促進するが、理解に関する効果を低下させる可能性があるともしている。

 

Impact of Visual Input in Listening Instruction: Summary

n  視覚情報と音声信号を組み合わせることはリスニング理解を促進するが、その研究結果は決定的なものではない。

n  視覚情報がリスニングにポジティブな影響をもたらすことはわかってはいるが、どの程度視覚的要因が理解に繋がるかは明らかではない。

n  コンテクストを提示することによって視覚情報を用いることは問題なく、学習者が言語知識を補うシナリオとストラテジーを感知するためにメタ認知的知識を活性化させることができる。

n  教室英語のリスニング指導のためにマルチメディアを使用することで、教師自身が指導に有効なメディアを選ぶことができ、学習の広がりをもたらす。

 

Listener Choices in Multimedia Environments

n  記録、再生、印刷の3つの単純なツールを用いることで、学習者はリスニングと語分割 (word segmentation)を実践するために6つのステップの行う事ができる。

n  (1)録音を聞くこと(2)彼らが聞いたことを理解したかどうかを尋ねること(3)録音を何度も聞き返すこと(4)たった今聞いたものを読むために、それらが書かれたテキストを見ること(5)学習者が理解した内容について認知すること(6)テキストなしに何度も録音を再生できること

 

Support Options in Multimedia Listening: Research Evidence

n  先行研究によると、低熟達度の学習者は、よく「全文の内容や録画・録音を繰り返す」メディアの機能を使用し、これはリスニングのパフォーマンスに良い影響を与えない。

n  高熟達度の学習者ほど、音声のみに頼る傾向がある。

n  たくさんのメディアの選択肢がある状況では、学習者がリスニングを行う上で主に異なる4つの行動をすることがわかった。

n  (1)何度もポーズ、巻き戻しを行う(2)ポーズを用いて分割して聞く(3)細かいところに注目せずまとめて聞く(4)多くの一定ではない巻き戻しを行い、まとまって聞かない

n  学習者が行える技術的な選択肢として、機器を用いることでリスニングのスピードを変えることが挙げられ、先行研究 (Zhao, 1997)によると、学習者がスピードを変えることで発話率を変えた場合、理解問題においてより良いパフォーマンスを示した。

n  マルチメディア環境におけるリスニング理解のための視覚情報のサポート(図や注釈のサポート)に関して、ある先行研究では、図や注釈のサポートがどちらもあるときの語彙テストや再話のスコアは、それぞれが単体であるときのスコアよりも高かった。(遅延テストにおいても同様の結果が得られた。)

 

Support Options in Multimedia Listening: Summary

n  マルチメディアの使用に関する研究は、学習者がリスニング理解の中で何が効果的だと感じているかを決定づけるのに役立つ。

n  マルチメディアを学習者が選択することは非常に学習者によって様々であることは間違いないが、学習者(特に低熟達度の学習者)がリスニング理解を向上させるためにどのようにマルチメディアを使用したら良いかに気づいていないという意味で、それらが常に学習者にとってavailableなものであるとは限らない。

n  教師は、生徒達が効果的な選択をするために事前の指導が必要である。

 

Captions and Subtitles

n  複言語再生や、キャプション付き(視覚障害者のリスニングをサポートするもの)のTVなどはリスニング理解を向上させるための正書法的サポートとなる。

n  字幕やキャプションは、L2リスニング理解と語彙学習に有益であることを次から述べていく。

 

Captions and Subtitles: Research Evidence

n  最もリスニング理解に効果のある正書法的サポートは何かということについての先行研究では、スペイン語のDVDを例に検証され、L1でのキャプションがもっとも理解に寄与し、次点でL2のキャプション、そしてキャプション無しが最も理解から遠かった結果となった。

n  Guichon & McLornan (2008)では、同レベルのL2学習者を(1)音声のみ(2)音声付き映像(3)L2字幕、音声付き映像(4)L1字幕、音声付き映像を与える4グループに分けてどの程度理解したかを自由記述プロトコルを使用して測定したところ、L2字幕を用いたグループが映像の意味的まとまりを最も理解していた結果となり、L2字幕を見ることで正確な語彙使用を促進することがわかった。

n  他の先行研究において、キャプション付きの映像を2回見たグループは、1回しか見ていないグループよりも新出語に関する語彙テストや読解理解テストにおいてスコアが上回った。

n  字幕・キャプションは、学習者が理解することをはっきりとさせ、学習者が注意をおくべきところにインパクトを与え、語分割に寄与し学習者の理解の支えとなる。

 

Captions and Subtitles: Research Evidence

n  リスニング理解における字幕とキャプションに関する先行研究において、L2での字幕が語彙認知や語彙学習に大きな寄与を与えることを示している。

n  しかしながらリスニングの内容に関しては、理解を促進するL2のキャプションと字幕について、実生活に即した形でメディアを用いないような測定法を考慮しながら再考察されるべきだと述べられている。

n  リスニング理解を促進するキャプションや字幕の有用性について全肯定する前に、それらを用いた実験群とそうではないと統制群とで長いスパンの実験がなされるべきである。

 

Other Multimedia Tools for Listening Development

Podcast

n  ポッドキャストとは、インターネット経由で作られたビデオファイルのことでL2リスニングの練習や指導に用いられる。

n  リスニングストラテジーの獲得と、講義の理解を高めるためにポッドキャストを使用した研究によると、読解理解の促進はもちろんのこと、学習者はコンテンツの中身に興味を持つようになった。

n  ポッドキャストの実際の使用に関する研究はまだ始まったばかりで、今後は特に学習者の熟達度やタスク、テキスト難易度との関連によってどのように理解と学習を最大にするのかについて調査する必要がある。

 

Oral Computer-Mediated Communication

n  Oral Computer-Mediated Communication (CMC)とは、世界中で急速に広まっているSkypeのような、メディアを通した学習者同士の相互交流の形態である。

n  ハイクオリティで、国境を越えたメディアの登場によりspeakinglisteningの発達、L2リスニング研究を向上させる。

n  Yanguas (2010): 動画を用いたCMC、音声を用いたCMCFace-to-Faceでの活動を使用した際のタスク比較を行い、Face-to-Faceでの活動を行った学習者の結果が最も高く、ここでも表情やジェスチャーの介入による動作学の恩恵を受ける結果となった。

 

Meta-technical Skills for Listening in Multimedia Enviornments

n  リスニングにおけるマルチメディアの使用に関しては、参道の声も多いが疑問の声もある。(e.g., マルチメディアは魅力的ではあるが、直接的に学習向上につながるかは疑問である。)

n  学習者はマルチメディアの使用法についてのガイダンスを受けるべきであり、先行研究 (Mills et al.,2004)によると、メディアについての指導を受けながらメディアを使用した群のほうがそうでない群のよりもスコアが有意に高く、これは学習者の自己効力感が関係していると結論づけられている。

 

Listening in Multimedia Environments: Synthesis

n  マルチメディアを通したリスニング教育に関しては未だ明らかになっていないことが多い。

 

Considerations for Teaching and Learning L2 Listening in Multimedia Environments

Visual media

n  マルチメディアを通して、学習者のポジティブな感情的反応を引き出すことができる

n  視覚的インプットを用いてリスニングのための準備として使用することができる

n  特に低熟達度の学習者に関して、オーラルインプットに即した視覚的インプットをもたらすコンテンツを含むマテリアルを選択することが効果的である。

n  マルチメディアは、マテリアルとの視線の移動を伴うことから集中力を書かせることがあるため、視覚的インプットを用いるべきかどうかに注意する必要がある。

n  カリキュラムの中にメディアリテラシーに関する指導を含むべきである。

 

Help Options

n  学習者に、これらの機器がどのように理解を促進するかなどの説明を加えるべきである。

n  語彙学習が目的の場合, 助言的説明が結果によい影響を及ばす。

n  L2リスニングの向上が主な目的の場合、助言的説明の使用がリスニング能力向上に導くということを示すことの証拠がほとんどないことを考慮しなければならない。

 

Captions and Subtitles

n  オーラルテキストの理解を強化し、確かなものにするためにキャプション付きのマテリアルを使用する。というのもキャプションを用いることで学習者自身が聞いている音声と、同じ内容を示すキャプションとの間の違いを示すことで生徒の注意を引くことができる。

n  キャプションを用いることで、語分割能力を向上させ、エラーに気づくことができる。

n  キャプションを用いることで、正しいリスニングストラテジーを向上させるというよりはむしろ読解能力の使用を促進する。

 

 Podcast

n  適切なマテリアルの準備・選択には慎重にならなければならないが、教室外での多調活動にも活用できる。

n  PodcastL2リスニングとノートテイキングのスキルについてメタ認知知識を享受するのに有用なツールである。

 

Oral Computer-Mediated Communication

n  相互交流的リスニング練習は、広がりやすく、face-to-faceリスニングによって強化される。

 

Developing Metacognitive Knowledge about L2 Listening in Multimedia Environments

n  リスニング指導において、実生活に即したオーセンティックなリスニングをすることが重要である。

n  学習者自身が何を聞いているかを理解し、自身の理解についてモニターすることを学習者に奨励することで、実生活に即した認知プロセスを活性化、発達させることができる。

n  学習者は、sound-symbol1のつながりを見い出すためにそれぞれの部分をよく聞き、これが語分割能力の向上につながる。

 

Summary

n  マルチメディアがリスニング指導にもたらす影響は大きく、リスニング理解にポジティブな効果があった。

n  学習者が最大限マルチメディアの恩恵を受けたいならば、教員によるmeta-technicalの指導が必要である。

n  マルチメディアなどの科学技術は、学習者の実生活に即したリスニング指導の可能性を広げるものである。

 

 

 

 

n  Discussion Questions and tasks

 

1.                       A common teaching technique with video is to first have learners view the video without audio and then, in subsequent listens, listen with both video and audio. What would be the justification for such an approach to listening instruction? Based on what you know about listening comprehension, is this theoretically justifiable? Why?

>>>特に低熟達度のL2学習者は、L2リスニングへの不安や嫌悪を持っている可能性があるため、視覚情報を最初に取り込むことでリスニングに関わる情報を事前に習得しリスニングへの背景知識として活性化できる場合は非常に効果的な指導になると考えられる。その場合教師がリスニングタスクに影響を及ぼさないような適切な情報提供をすることで学習者の視覚情報の活性化に導くことができると考えられる。

 

2.                       This activity has three parts:

(a)  Choose a videotext and listen to it first with audio only and then listen/view with both audio and video. What enhanced or interfered with comprehension during the first listen? What strategies did you use? What strategies did you use for the second listen?

(b)  Choose a different video and, this time, listen/view this first time using both audio and video, followed by a second listen to the audio only. Note the strategies you used for each listen.

(c)  Discuss differences in facility of comprehension between the two approaches. Discuss any differences in strategy use prompted by the order of presentation.

>>>aural→visual: 背景知識の活性化をもたらし。生徒はより注意深く内容を聞くと考えられる。しかし、内容を理解するに当たって実際難しすぎる内容だと低熟達度の学習者にとっては厳しい側面もある。また、ビデオを最初に用いた場合、情報を与えすぎてしまう側面もあるので内容に注意が必要であると考えられる。

 (2)visualaural: 最初に視覚情報を取り込むことで、次のリスニング活動の基盤になる。また、低熟達度の学習者にとってリスニングへの負担を低め、情意フィルターをできる限り下げることができると考えられる。また、動画などの視覚情報は学習者にとって「エンターテイメント」的な存在なので授業で取り扱いやすい。

しかしながら、動画を用いることで視覚情報に注意が行き過ぎる可能性もあるため目標言語への注意をそらしてしまったり、それだけで満足してしまったりする可能性もあるため教師自身もマテリアル選定に十分注意する必要がある。

Eさんは授業の中で取り入れる際に(1)のパターンを取り入れることの方が多いと述べていた。教師自信が何を目標にリスニングさせ、どのようにリスニング能力を向上させたいかの目的によってその使用や順序を考慮していかなければならないと感じた。

3.                       If using captions for listening support, which would be most effective: captions in L1 or captions in L2? Justify your answer by referring to your knowledge about cognitive processing in L2 listening and the attentional constraints of working memory.

>>>本チャプターの先行研究によると、L2でのキャプションをつけることが理解の促進や語彙学習につながることがわかっている。しかしながら、学習者の熟達度や学習sの目的に合わせて適宜その方略を変えながらの指導を行う必要がある。

 

4.                       Compare the process approach used by Ms. Nguyen in the opening scenario, referring to Table 6.1 on p. 110. Explain how this activity guides learners through the process of listening by (1) indicating where the stages delineated in Table 6.1 occur, and (2) how the different metacognitive processes at each stage are developed. Develop a worksheet that might accompany such an activity.

>>>(1)6.1におけるFirst verification stageにおいて、最も効果を発揮するのではないかと私は考える。教師が学習者に対し、リスニングの評価やストラテジーを学ぶ段階でこの活動を行うことによって学習者がどのようにリスニングをし、何を目的にリスニングをするのかということを自身ではっきり理解する中でリスニング活動を行うことが大切であると考える。また、(2)に関して、各段階においても認知プロセスの理解を教師、生徒自身も共に理解していることが非常に重要であるが、同じリスニング活動を複数回行う中で生徒自信が認知プロセスについてself-monitoringすることの重要性とそれを活かした事後タスクを教師が用意し、各段階において、聞いた回数に応じた活動をいこなっていく必要があるので、ただ聞くのではなく、回数を追うごとに学習者が文字情報を聞きとるだけでなく、聞いていく中で獲得した知識を活性化できるように留意しなければならない。

5.                  Danan (2004) concludes her review by confirming the use of subtitles and captions    for improving listening “as long as viewers learn to take advantage of relevant strategies” (p. 76). What might be the relevant strategies (which Danan fails to provide)?

>>>先行研究の結果から、キャプチャーがリスニング理解を促進すると断定しがちであるが、必ずしもそうとは言えない。今後、より先行研究が長いスパンでの実験を行って実験群と統制群とを比較した研究を行っていかなければならないという意味でDanan (2004)の結論は時期尚早である。ここから、実践的な結果を求めるのもそうであるが、メタ認知的側面に関わるストラテジーの有用性について検証すべきである。