筑波大学 人文社会科学研究科                                                現代語・現代文化専攻                                           平井 明代研究室



2018年度  異文化言語教育評価論


Introduction

■本章では,L2リスニングに関係すると考えられている要因を精査するため,listening successに影響を及ぼすと考えられている認知的な要因や,リスニングにおいて重要だと考えられている情意的要因について検証する。そして,listening successに影響しうるいくつかの文脈的な要因についても考慮し,これまで2章と3章で述べられてきた認知処理の概観を述べる。

■これら要因と,どのようにそのような要因がlistening comprehensionを阻害したり促進したりするのかを知ることは,L2リスニングを指導する上で重要なことである。しかし,多くの要因がL2リスニングに影響していると考えられている一方で,その因果関係を検証した研究は少ない。

Imhof and Janusik (2006) は,学習過程のモデルを聴覚からの情報処理の過程とリスニングの過程に応用し,枠組みを提唱している (Biggs, 1999)。この枠組みでは,相互に関係し合う3つのステージがあると言われている: person- and context-related factors, process, and results

■この3つのステージは,リスニングの構成要素を理解する上で有用な考え方である; 学習者要因とリスニングの文脈,様々な結果との関係性がより明確に視覚化できるためである。

Figure 4.1が示すように,この枠組みは学習者要因とリスニングの文脈が過程 (認知処理の質) や結果 (理解,学習,自己効力感といった情意的要因) に与える影響を示す,統合的なシステムである。

 

 

■学習者要因は,listening successにおいてマクロ・ミクロレベルの両方の観点から重要であると言える。

・マクロレベル: 学習者要因はリスニングにおける自己調整 (モニタリング,努力,動機づけ) に影響を与えている (Imhof & Janusik, 2006)

・ミクロレベル: 学習者要因は使用可能な認知処理の質や量 ( ワーキングメモリの容量) に影響を与えている

Figure 4.1からもわかるように,学習者要因は認知的/情意的な要因を含み,リスニングの文脈にもそれぞれ異なる認知的/情意的な負荷がかかるとされている。

 

Cognitive Factors

Vocabulary Knowledge

L2 listening successには語彙知識が重要であると考えるL2学習者は多いが,実際に語彙知識の重要性を検証した研究は少ないとされる。

Lund (1991) がドイツ語の学習者を対象に行った研究では,自由筆記再生課題において,熟達度が低い読み手は聞き手よりも詳細情報をより多く再生していた一方で,熟達度が低い聞き手は読み手よりも重要な情報をより多く再生していたと報告している。

■また,Mecartty (2000) は,スペイン語の学習者を対象に,語彙知識がリスニングとリーディングにおける内容理解に与える影響を調査したところ,語彙知識はリスニングにおける内容理解のうち14%を,リーディングにおける内容理解のうち25%を予測していたと報告している。

■このことから,Mecartty (2000) は以下のような結論を述べている。

(1) リスニングとリーディングにおける理解過程は似た特徴を持つ可能性が高い

(2) L2リスニングにおいて語彙知識はあまり重要ではないと考えられる (L2リーディングと比較して)

(3) L2リスニングの他の変数について説明しうる要因も特定することが重要である

■さらに,日本人英語学習者を対象としたBonk (2000) は,語彙知識とL2 listening comprehensionとの関係性に焦点を当て,Lund (1991) と同様に自由筆記再生課題を用いて調査した結果,語彙知識とL2 listening comprehensionに高い相関が見られたと報告している。

■しかし,75%以下の目標語しか知らなかったにもかかわらず高い内容理解度を示した学習者もいたことから,リスニングにおいては推論などのproductive strategyを用いて理解できない単語や文を補う場合がある可能性が示唆された。

■より最新の大規模な研究としては,デンマーク人英語学習者を対象としたStaehr (2009) が挙げられる。Staehr (2009) は,相関分析を用いてリスニングテストの得点と語彙サイズ,語彙知識の深さの関係性を調査したところ,リスニングテストの得点と語彙サイズの相関は.70,リスニングテストの得点と語彙の深さの相関は.65だったと報告している。

■ただし,回帰分析を用いてリスニング能力を予測する変数を調査した際には,L2の語彙知識がリスニングの変数のうち51%を,L2の語彙サイズ (語彙知識の広さ) 49%を説明していた一方で,語彙知識の深さはたったの2%しか説明していなかったと報告している。

■加えて,Bonk (2000) Graham, Santos, and Vanderplank (2010) は,聞き手は言語的な基礎知識がない場合に,理解できない内容を推論することで補う傾向があると報告している。しかし,聞き手が理解のgapを補うために推論する場合には,ある程度の正しい言語的認識が必要であることも主張している。

■どの程度の正しい言語的知識があれば推論が可能になるのかという疑問について,リーディングの研究においては調査が進んでいるものの (Lee & Schallert, 1997),リスニングの研究においては未解明な部分が多い。

L2の語彙サイズ (語彙の広さ) はリスニングにおける内容理解にとって重要な要素だと考えられるが,その他にも要因は多くある。また,分からない語彙知識があったとしても,リスニングの課題に沿ったストラテジーを使って言語的知識を補うことができるL2学習者も存在する。

 

Syntactic Knowledge

■統語的知識は,リスニングの認知負荷と内容理解の深さ,音韻認識における意味の重要性の観点から,リスニングにおける内容理解にとってはあまり重要な要素ではないと考えられる (Field, 2008a, 2008b)

■むしろ,聞き手が統語的知識に注意を向けすぎると,意味を理解するために割かれる認知資源が少なくなり,内容理解が阻害される可能性が高い。

 

Discourse Knowledge

■談話に関する知識とは,script knowledge (Dunkel, 1986) とも呼ばれ,リスニングのテキストにおける情報のタイプや構成,内容を理解するために必要な情報を認識することを指し,lecture comprehensionにとって重要な役割を果たしていると考えられる。

■談話に関する知識の具体例としては,previews (“First, let’s look at”), summarizers (“To sum up so far”), emphasis markers (“and, to repeat, this is why preparation is so important”), logical connectives (“first,” “second,” etc.) などのdiscourse signaling cuesが挙げられる。

Jung (2003) は,上記のような手がかりを知っている聞き手は,自由筆記再生課題において上位レベルの情報 (主情報) と下位レベルの情報 (詳細情報) をより多く再生していたと報告し,こうした手がかりから聞き手がメリットを得る条件について,以下のような結論を述べている。

(1) テキストの構造が明示されていない場合

(2) 聞き手にテキストタイプが知らされていない場合

(3) 聞き手がテキストのトピックについて背景知識を持っている場合

(4) テキストが文章で書かれていない場合

■談話に関する知識を対象とした研究は少ないが,言語学習者はテキストタイプを認識することを重要なストラテジーと捉えていることが報告されている (Wolff, 1989)

■また,Young (1994) L2学習者のlecture comprehensionを促進する最も良い方法として,マクロ・ミクロ的特徴に関する構造を教え,講義内容の全体的な構造を理解させることを挙げている。

■加えて,異なる分野における談話の型について知っていることも効果的であると言われている (Dudley-Evans, 1994)

successful L2 listeningにおける談話に関する知識の役割を調査した研究は限られているが,学習者はdiscourse signaling cuesによって情報の構造や重要な情報に注意を向けることが可能となると考えられている。

 

Pragmatic Knowledge

■語用論的知識とは,字義的な意味を超えた話し手の意図に関する情報を理解するために用いられる知識を指す (Rose & Kasper, 2001)

■内容を理解するためにL2の語用論的知識を要するテキストをリスニング教材として用いる場合には,学習者のレベルが中程度またはそれ以上であるか,あるいはプレリスニング活動の一部として語用論的知識を導入することが必要となる。

■ただし,L2リスニングに必要な語用論的能力における教授法については,背景知識の役割と同様にあまり検証されていない。

 

Metacognition

■メタ認知能力は内容理解において重要な要素であり,特にL1リーディングにおけるメタ認知能力の重要性については多くの研究者によって検証されている (e.g., Block & Pressley, 2002; Hacker, Dunlosky, & Graesser, 2009) が,successful L2 listeningにおけるメタ認知能力の役割についてはあまり検証されていない。

■メタ認知能力とsuccessful L2 listeningの関係性については,skilled listenersが使用するストラテジーについての研究から示唆を得ることができる。

■例えば,発話思考法を用いてskilled and less skilled listenersのストラテジー使用における違いを調査した研究 (Goh, 2002a; O’Malley & Chamot, 1990; O’Malley, Chamot, & Küp- per, 1989; Vandergrift, 1998, 2003a) は,skilled listenersless skilled listenersの約2倍のメタ認知ストラテジー (特に理解モニタリング) を用いていたと報告している。

■また,発話思考法の分析に基づく質的研究では,successful L2 listeningにはリスニングの過程を制御するストラテジーを使用して理解することが関係していると報告されている (Vandergrift, 2003a)

■最後に,Metacognitive Awareness Listening Questionnaire (MALQ) の妥当性について検証したVandergrift et al. (2006) は,質問紙によって得られるメタ認知の知識は大学生レベルの言語学習者のL2 リスニングのパフォーマンスのうち,約13%を決定づけていると示している。

○先行研究による検証は十分ではないが,ある程度のlistening successはメタ認知能力によって説明されうる。

 

Prior Knowledge

■聞き手は足りない情報を埋めるために概念的な枠組みとしてschemataを用いると考えられているため,既有知識はリスニングにおいて重要な役割を果たしていると言える。

L2 listening comprehensionにおける既有知識の影響については,Macaro et al. (2005) のレビューにもまとめられているように,多くの研究者が異なる文脈下で検証を試みている。

■例えば,Long (1990) はアメリカ人スペイン語学習者を対象としてL2 listening comprehensionにおける既有知識の影響を調査した結果,既有知識があるテキストの方が既有知識があまりないテキストよりも内容を28%多く思い出すことができていたと報告している。

■しかし,言語的知識が豊富な聞き手はテキストに書かれていない情報まで推測して誤って解釈してしまう場合もある (Macaro et al., 2005) ため,既有知識に頼りすぎないよう,questioningmonitoringなどを通して理解を確認することが重要である (Vandergrift, 2003a)

■その他に重要な研究としては,standardized high-stakes examinationにおける背景知識の影響を検証したTsui and Fullilove (1998) が挙げられる。彼らは,non-matching schema typematching schema typeに分類した2つの短いテキストと,テーマの理解や推論を測るglobal-type questionsと詳細情報の理解を測るlocal-type questionsを用いて調査し,non-matching schema typeのテキストにおいてskilled listenersの方がless skilled listenersよりも両質問で高い得点をとっていたと報告している。

■この結果は,less skilled listenersmatching schema typeのテキストにおいて高い得点をとっていたとするVandergrift (2003a) の結果と一致している。Vandergrift (2003a) は,この理由として,学習者が理解できていない部分を既有知識を用いて補ったためと考察している。

■既有知識がlistening comprehensionを促す原因の一つに,文脈情報を与える効果が考えられる。プレリスニング活動を通してテキストを概念化することによって,聞き手は既有知識を活性化し,トップダウン処理を行って,内容理解に必要な努力を予測したりモニターしたりするためのan advance organizerを得ることができるようになると考えられる。

■また,an advance organizerを通してトピックを理解することによって,言語的なインプットが効率的になるため,ワーキングメモリの容量を別の資源に割くことができるというメリットも報告されている (Tyler, 2001)

○既有知識はlistening comprehensionにおいて重要な役割を果たしている。既有知識を活性化させることは,人生経験が豊富な大人に教える際には有効であるが,人生経験が少ない若い学習者に教える際にはプレリスニング活動を通して情報を与えることが必要になる。

 

L1 Listening Ability

L2 comprehensionにおけるL1の影響についてはリスニングよりもリーディングの分野において調査が進められている (Schoonen, Hulstijn, & Bossers, 1998)

■フランス語学習者を対象にL1のリスニング能力がL2のリスニング能力に与える影響を調査したVandergrift (2006) は,L1のリスニング能力はL2のリスニング能力のうち14%を説明していたと報告している。

■同様に,ドイツ人英語学習者を対象にしたHulstijn (2011) は,語彙・文法知識,処理速度,メタ認知的知識,その他のlanguage-independent skillsにおいて,L1L2の読み書き能力が関係していたことを報告している。

L1 のリスニング能力がL2のリスニング能力に転移するかどうかは重要な問題である。なぜなら,我々は無意識的にL2のリスニング能力を測定する際に誤ってL1リスニングを測定している可能性があるためである (Bernhardt & Kamil, 1995)L2のリスニング能力が低い言語学習者はL1のリスニング能力も同様に低い可能性があることを考慮に入れる必要がある。

 

Sound Discrimination Ability

L1からL2に転移したと考えられる全体的なリスニング能力の低下の原因として,音韻認識能力がないことが挙げられる。

■先行研究では,特に言語熟達度が初級レベルの子どもにおいて,音韻を記憶する能力がリスニング能力と語彙学習に影響を与えていることが報告されている (French, 2003)

■しかしながら,実際に音韻認識能力がL2リスニングにおいてどのような役割を持つのかについては現在もあまり調査が進んでいない。

 

Additional Factors: A Recent Study

Vandergrift (2010) は,L2 listening successに影響を及ぼすと考えられる要因について,L1 listening abilityとメタ認知能力,音韻認識能力,L2の語彙知識,L1の語彙知識,ワーキングメモリの容量を挙げている (Table 4.1)

 

 

 

■上記の分析結果より,L2の語彙知識 (i.e., French vocabulary) はどのグループにおいてもL2 listening comprehensionと強い相関があることが示された。また,L1の語彙知識 (i.e., English vocabulary) と音韻認識能力は2つのグループにおいてL2 listening comprehensionと関係していた。

 

Cognitive Factors: Summary

■音韻認識能力やワーキングメモリの容量,L1のリスニング能力,メタ認知能力,既有知識のような要因は聞き手の言語学習の過程で促進され,L2の語彙知識や統語的知識,談話に関する知識,語用論的知識のような要因は言語学習の結果として促進されるものである。

 

Affective Factors

Anxiety

■リスニングは評価されるというイメージが強いため (Mendelsohn, 1994)L2学習者にとって不安の度合いが高い技能だと考えられている。

Horwitz (e.g., Hor- witz, 1986; Horwitz & Young, 1991; Horwitz, Tallon, & Luo, 2009) は,L2の不安における因果関係と不安を測定する尺度について調査を進めている。

Elkhafaifi (2005) は,一般的なL2教室における不安とリスニングにおける不安を区別してリスニング用の不安尺度を作成し,リスニングにおける不安の度合いとリスニングの最終的な成績との間に負の相関があることを報告した。同様に,Mills, Pajares, and Herron (2006) もリスニングにおける不安の度合いとリスニングの熟達度テストとの間に負の相関があることを示した。

■リスニングについて不安を引き起こす原因としては,L2によるインプットに関連した問題点 (速い,理解しにくい,視覚的サポートがない) が挙げられている (Vogely, 1999)

■また,relaxation (深呼吸をする) や視覚的なサポート (聞き手として肯定的なself-imageを抱く) がリスニングにおける不安を軽減し,リスニングテストの得点を向上させたとする研究もある (Arnold, 2000)

■しかし,教師が不安を軽減するための取り組みについて言及している研究はあまり多くない。

 

Self-Efficacy

■自己効力感とは,学習者が自身の能力について抱く信念を指し,ここでは言語活動に問題なく取り組めるかどうかについて持つ自信度のことを示している。

Mills et al. (2006) は,L2 listening proficiencyにおける自己効力感の役割について調査したところ,女性の参加者は自身が認識する自己効力感がリスニング課題の成績やパフォーマンスに影響を及ぼしたが,リスニングテストの成績がより低い男性においてはそのような影響は見られなかったと報告している。

 

Motivation

L2学習における動機づけの研究はかなりされているが,L2 リスニングと言語学習に対する動機づけの関係性についてはほとんど検証されていない。

■動機づけ,リスニング過程におけるメタ認知的制御とcomprehension outcomesの関係性を調査したVandergrift (2005) は,リスニングテストの得点が動機づけとリスニング過程におけるメタ認知的制御の程度と相関していたことを報告している。

■また,3つのレベルの動機づけとリスニング過程におけるメタ認知的制御の関係性については,動機づけの項目値が高いほど効果的なリスニングストラテジーを使用しており,動機づけの項目値が低い学習者は認知的なストラテジーを使用しない傾向にあることが示された。

○まとめると,上記の3つの情意的な要因は,言語学習者がどのようにリスニングの課題を認識し,その課題に取り組み,listening comprehensionに成功しているかについて示唆を与えるものである。これら情意的な要因は相互に関係し合っており,自信度が高い学習者は動機づけも高く,不安も少なく,自己効力感も高いと考えられる。

 

Contextual Factors

Interactive Listening

■相手が目の前にいる状況で理解に問題が生じると,リスクテイキング,面子,自己主張,動機づけなどの情意的な要因によってリスニング能力が影響を受けると考えられている。

■また,どの程度影響があるかは相手 (interlocutors) との関係性に基づくとされる。例えば,年齢や性別,言語熟達度,力関係 (雇用者―被雇用者) による差が情意的な要因や内容理解に影響しうる。

 

Listening in Informal Learning Contexts

■非公式的な文脈としては,留学が例として挙げられる。

Cubillos, Chieffo, and Fan (2008) は,5週間留学を経験した参加者と大学内で学習した参加者のリスニングテストの成績を比較したところ,予想と反して,5週間留学を経験した参加者は大学内で学習した参加者よりも高い成績を収めていなかったと報告している。彼らはこの結果について,リスニングテストの内容が留学先の状況に近いinteractive listeningではなかったためだと考察している。

■また,Moyer (2006) は英語圏に住む母語話者と連絡をとっていた熟達度が高いドイツ語学習者について調査し,結果より言語によるコンタクトの質と量がリスニング能力とリスニングにおける自信度に影響していたことを報告している。

 

Listening in Formal Learning Contexts

■公式的な文脈としては,講義の内容を聞くといったacademic listeningが挙げられる。

Flowerdew and Miller (1996) は,講義を聞く際の問題点として,講義の速度,専門用語の難しさ,文化的な違い,ノートをとる能力などを挙げている。

■また,講義を問題なく聞くために学習者が取り組むべき行動について,以下のような例が示されている。

(1) 教科書を講義の前と後に読む

(2) 友人に助けを求める

(3) 教室内で質問する

(4) 懸命に聞くことに徹する

(5) 講義中にハンドアウトや教科書にメモを書き込む

■ジェスチャーや顔の表情,目つき,仕草,相手との距離感といったkinesicsに関連する行動 (Kellerman,1992) は,リスニングの文脈において重要である。こうしたkinesicsに関連する行動によって,字義的な意味が変化する可能性があるためである (Harris, 2003)

 

Summary

L2 listening comprehensionには,個人と環境の要因が重要な役割を果たしている。

Figure 4.1で示されているような様々な要因が,学習者の認知過程とlistening outcomeの質に影響しうる。

■認知的過程は,L2の語彙やL1のリスニング能力がlistening outcomeに影響していると考えられる。

■また,listening outcomeの質は,個人的な要因や情意的な要因に影響すると考えられる。

■この情意的な要因とは,例えば,相手のメッセージを継続して聴こうとする意識や,メッセージを解釈するために背景知識を用いようとする意識に影響する要因のことを指す。

 

Discussion Question

1. This chapter has discussed existing research on the factors related to L2 listening. What other cognitive or affective factors, not yet investigated, might also affect L2 listening performance? Given what you now know about L2 listening, why and how would these factors be relevant?

 

Cognitive factors

・マテリアル(課題,使用テキスト):課題やテキストの内容の違いによって背景知識や認知負荷の程度が異なると考えられるため.

L2の読解熟達度:読解と聴解は認知的な仕組みが似ており,どちらか一方が得意だともう一方も得意だというように,一定の関係性(正の相関)があると考えられるため.

・様々な英語の種類に触れた経験の多さ:様々な英語の種類に触れた経験が多いほど,英語の種類による違いに混乱せずに,単語認知やテキスト理解が容易になると考えられるため.

 

Affective factors

・話し手の性別:相手の話を聞こうと思う態度(willingness)に影響すると考えられるため.

・話し手の方言/アクセント:あまり馴染みがない方言を聞くときにはリスニングがしにくくなると考えられるため.

・話し手のトーン(高低):テキストの字義的な意味を超えた意味に影響を与えると考えられるため.

 

2. Two important studies on the “good language learner” by Rubin (1975) and Stern (1975) appeared in the 1970s. Rubin, for example, suggests that good language learners are open and willing to (1) guess and do so accurately; (2) communicate and express a strong desire to do so; (3) try, in spite of weaknesses in L2; (4) take risks, in that they are less inhibited; (5) pay attention to form; (6) monitor their speech and compare it with the native norm; (7) practice; and (8) attend to meaning in its social context. How many of these characteristics apply to listening? How so? What do these characteristics tell you about the relationship between listening success and language learning?

 

【リスニングに応用可能なもの】

(1) guess and do so accurately:話し手の意図を推測し,正確にテキストの意味を理解することと関係しているため.

(3) try, in spite of weaknesses in L2:英単語の意味がわからなくても,話し方や全体的な流れからテキストの意味を理解しようとすることと関係しているため.

(6) monitor their speech and compare it with the native norm:自分の発音の仕方とCDやネイティブの発話を比べて違いを見つけようとすることと関係しているため.

(7) practice:何度も英語の音声に触れることと関係しているため.

(8) attend to meaning in its social context→字義的な意味を超えた文脈における言葉の意味を理解することと関係しているため.

 

3. In the introduction to his edited volume on individual differences, Robinson (2002) states that the relative success of learning is a result of the interaction between learner characteristics and learning contexts. Explain how this would be true for the development of listening for:

(a) a child in a language immersion classroom;

(b) an international student living abroad and attending lectures in the target language; and

(c) an immigrant mother with young children negotiating everyday language tasks outside the home.

 

(a) 教師が通常の授業を第二言語で教えることによって,特に熟達度が低い学習者の不安が高まったり動機が下がったりする可能性が考えられる.そのため,リスニングを成功させるためにはこうした学習者要因を踏まえ,使用言語の速さ,理解しやすさ,視覚的サポート等を考慮する必要が出てくるだろう.

(b) 教師が目標語で授業をしても海外に住んでいた経験がある生徒のリスニングにはさほど問題は生じないと考えられるが,生徒が慣れ親しんでいる方言と講義で使用される方言との発音や文化の違いについては注意する必要がある.また,海外経験がある生徒でも専門用語は知らないことが多いため,海外経験の有無にかかわらず専門用語の背景や意味について十分説明することが求められると考えられる.さらに,海外で行われるリスニングの形式はinteractive型が多く,聞き手にも聞き返したり理解を確認したりする機会が与えられていたが,講義のようなmonologue型には慣れていない可能性も考えられるため,話の速度を調整したり質疑応答の時間を設けたりして,定期的に理解を確認する必要があると考えられる.

(c) 不自由なく生活するためには目標語を使いこなすことが重要となるため,言語学習への動機づけが高まり,その結果としてリスニングのパフォーマンスが向上すると考えられる

 

4. How might the purpose for listening interact with the factors discussed in this chapter? Discuss how these factors might affect listening in the following tasks:

(a) listening for changes in flight information as you are waiting in the airport;

(b) conducting an interview with a school principal in order to write a report in the school newspaper about a controversial administrative decision; and

(c) listening to a short video on the life cycle of the frog for a report to your study group.

 

(a) 空港の乗り換えのように,自分の今後の行動を決定する重要な情報を聴く際は,動機づけは高まるが,乗り換えの手順など談話に関する知識がリスニングの精度に影響すると考えられる.

(b) 学校新聞に書く記事を作成するために校長にインタビューをするなど,相手が目上の人の場合には,動機づけが高まり,リスニングのパフォーマンスが上がると考えられる.ただし,聞き返したり理解の確認をしたりといったストラテジーは目上の人に使いにくい場合があると考えられる.

(c) 研究グループのためのレポートを書くために短いビデオを見る場合,動機づけは高まるが,カエルについての背景知識がリスニングの精度に影響すると考えられる.