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2018年度 異文化言語教育評価論 |
Introduction
n リスニング能力を向上させたいと考えている学習者は,教室の外で話し言葉と接する機会を持つ。
n 教室外で行うリスニングの練習を多聴 (extensive
listening)と呼ぶ。
n 多聴は学習者と教師からその重要性が認められているにもかかわらず,全ての学習者が等しく効果を得られる訳ではない。
n 目標言語を楽しみながら聴ける学習者も存在すれば,退屈さを覚える学習者も存在する。
n 話者のアクセントが問題で教材が見つかりにくいこともある。
n これらの問題は,多聴を行うためのガイダンス等が少ないことが原因であることが多い。
n 結果として,多くの学習者はpre-listening段階で抱えている問題に多聴中も苦しむことになる。
n 118人のESL学習者を対象にした研究 (Goh, 2002c) では,全ての学習者が教室外で行うリスニングの学習計画を立てていたが,計画通りに行えたのはわずか18%の学生であった。
n 参加者の多くは,流暢な英語話者と会話することでリスニングを練習すると言っていたが,この練習を頻繁に行えていた参加者はわずか16%であった。
n 学習者は特定の技能に焦点を当てることはせず,さらには,テクストの言語的特徴に焦点を当てていた参加者は半数にも満たなかった。
n これは,リスニングストラテジーを使用する機会を逃してしまっていることを意味する。
n 多くの学習者は,自身のリスニング能力向上のために努力するが,目に見える結果がなく,やる気を失ってしまうことがあるという。
n 多くのリスニング教材を用いて多聴を行うことは良いことだが,それだけでは十分ではなく,教員がサポートできることは多くある。
Principles for Planning Extensive Listening Projects
n 多聴には2種類存在する。
n 1つは典型的な個人練習であり,話し言葉のインプットを補足するために学習者は様々なマテリアルを手にする。
n 2つめは,リスニング学習にメタ認知指導の要素を統合したプロジェクトである。
n プロジェクトは,決められた成果 (outcome) に向けて他者と協力しながら行うタスクから構成される。
n また,プロジェクトは多様性・頻度・繰り返しの3つのprincipleに基づいて行われる。
Variety
n 学習者はできるだけ様々なテーマ・トピックのauthenticなテクストを聴く。
n テクストのタイプはナラティブ・物語・情報 (information)・報告・説明・手順 (procedural)を示すものや,主張・会話などを含む。
n 様々な種類のテクストを聞くことで,それらが持つテクスト構造に慣れることができる。テキスト構造に関する知識は現実世界で似た構造を持つテクストを聴くための助けとなる。
n 様々なテーマ・トピックのテクストを聴くことで,異なる内容を聞きながら語彙を習得することができる。
n コンフォートゾーンの外側にある教材を選ばないことは,長期的に学習者のためにならない。
Frequency
n 他の技能と同様に,リスニングの上達には練習が必要である。
n 学習者は毎日または毎週,5分から1時間程度の決まった時間をリスニングの練習に当てると良い。
n 多くの学習者にとって問題となるのは,モチベーションの低下によって日々の勉強時間にムラが出てしまうことだ。
n この問題を対処するためにも,教師は学習者が進歩を把握できるようにすることや,学習者の目標を妥協しすぎずに学習計画を立てる援助をする必要がある。
Repetition
n リスニング学習を1人で行う際の大きな問題は,学習者が同じテクストを聞き返す機会が少ないということである。
n 今までは,ラジオなどが主なマテリアルとして使用され聞き返すことが難しかったが,現在ではポッドキャストが利用できるため何度でも聞き返すことができる。
n 同じマテリアルを聞き返すことで,学習者はテクストの内容・語彙・構造になれることができ,認知的なアドバンテージを得ることができる。
n 聞き返すたびに認知負荷を減らすことができ,テクストの様々な側面に注意を向けることが可能となる。
n 繰り返し聴く中でリスニングの処理が自動化させていくことがリスニング力向上の鍵となる。
n 1度だけ聴く場合に比べ,学習者は不安を感じにくいというメリットも存在する。
Projects
for Extensive Listening
n Figure 10.1は,学習者がone-wayとinteractiveなリスニングを行い,ストラテジーを使用することができるタスクを4つあげている。
n 全てのタスクは達成するまでに最低2週間かかる。
n プロジェクトを行う際は可能な限り最後まで実施することを勧めるが,教師は目的によって規模を小さくしても良い。
n 全てのプロジェクトは成人向けのものだが,最初のものを除けば,タスクの難易度を下げ教師がサポートすることで学校等でも実施することが可能。
n プロジェクトに参加する中で学習者のリスニングプロセスへの意識
(awareness) が向上する。
n 学習者は他の学習者と共同的・想像的に活動する機会を得ることができる。
Peer Listening Tasks
n リスニングに関するメタ認知の知識は,学習者がタスクを達成する中で自分に必要なスキルについて考えることで発達する。
n このプロジェクトでは,学習者はペアで適切なリスニング教材を選びだし,リスニング活動を計画する。
n このプロジェクトはFigure 10.2に基づいて進めると良い。
n このプロジェクトの目標は,学習者のリスニングプロセスに対する理解が向上することと,リスニングのための資源 (resource) を作り出すことである。
n タスクを計画するために,学習者は自分のペアが興味を持つようなリスニング教材と活動を考える必要がある。
n これらを決定する中で,学習者はメタ認知に関する知識を使用することになる。
n 例えば,ペアの先行知識を考慮する場合,学習者はリスニングが情報を受け取る以上の行為であることを理解するだろう。
n このプロジェクトは Liu (2005) が提案した「学習者が教師役になりリスニングの授業を考える」というアイデアに基づいている。
n 学習者は,教師役をする中で今までどのような授業が行われ,それがどのような目的だったのかを振り返ることになり,その過程の中でメタ認知知識が発達する。
n この活動を行うことで,学習者がリスニングプロセスをどのように,またはどの程度理解しているかを教師は確認できる。
n 筆者らが追加したステージは2つ,“Experience the task yourself first”と“Ask
your teacher to review the task”である。
n “Experience the task yourself first”では,タスクが本当に機能するかを確認することができ,“Ask your
teacher to review the task”では,学習者は自分の想定していることに対して教師からFeedbackを得ることができる.
n プロジェクトを行う中で,学習者はリスニングプロセスに対する誤解に気づくことができ,教材を選ぶ際には幅広い種類の教材に触れることも可能となる。
Facilitated Independent Listening
n Facilitated independent listeningは教師が学習者の教室外でのリスニングを促す一つの手段である。
n 教師がリスニングパッケージ[1]を作成することで,学習者が使用するリスニング教材の細かい部分まで考慮することができる。
n パッケージを作成する過程で教師自身もインプットを増やすことが可能となる。
n パッケージにはCDやビデオなどを含む。
n このプロジェクトの中で,学習者は自分が何を聴いたか,どのように聴いたかを日誌として記録することができる。
n Figure 10.3にこのプロジェクトの進め方と教師が行うことを記す。
n 教師は,準備段階で学習者のニーズ・興味・学習したストラテジーを特定しなければならない。
n 必要に応じてストラテジーを追加で教え,教材を変更することになるだろう。
n 教師は,ガイダンスや日誌を書くためのガイド,学習計画,学習者同士で情報を共有する場を用意する必要もある。
n プロジェクト終了時には,教師が学習者からコメントやfeedbackをもらうことで,選んだ教材を評価することが可能である。
n Appendix Cにこのプロジェクトで使用できるresourceを記載する。
n 学習者のモチベーションを向上させるため,プロジェクト中に学習者同士で学習中に気づいたことを共有する機会が必要である (Figure 10.4)。
Listening Buddies
n このプロジェクトでは,学習者はペアで個人の学習計画を立て,お互いに助け合いながらリスニングの練習を行う。
n Figure 10.5は個人のリスニング練習計画の例である。
n これには,ペアの計画や聴いているもの,再生機器などを詳細に記録する。
n 教室内の様々な人とペアになることで他者から学ぶ機会が増え,ペアに影響されることで多様なテクストを聞くようになるといった利点がある。
Authentic Interview
n このプロジェクトは,学習者と言語能力の高い英語話者による活動である。
n インタビューという構造が,学習者が聞くことになる言葉の不確実性を減らしてくれることで,リスニングへの自信にもつながる。
n Figure 10.6はプロジェクトの3つの段階を示している。
Planning interview
n 学習者は 4人グループになり,自分たちが興味のあるトピックを決めてインタビューの準備を行う。
n 質問リストを作成し,トピックについての本を読ませる。本を読むことで,実際のインタビュー中にtop-down処理をする助けとなる。
Rehearsing the interview
n 質問のリストを作成したら,学生はロールプレイ形式でリハーサルを行う。
n リハーサルを行うことで,トピックに関するunfamiliar wordsの存在に気づくことができ,さらなるリサーチにつながる。
n 質問が理解しやすいかを教員が確認し,必要に応じて文法と表現を修正する。
n 学習者は聴き手としてのストラテジー(e.g., 明確化要求,繰り返しの要求)を習得する必要もある。
Conducting the
Interview and Reporting the Results
n 準備ができたら,実際にインタビューを行う。
n インタビューはペアで行い,1人が質問をして,もう1人は答えをノートに書き写す。
n インタビューを終えたら,回答者が言ったことを理解できているかペアで確かめる。
n 2人ともインタビューを終えたら,発見したことを整理し,報告書を作成する。
n 可能であれば,最後にプレゼンテーションを行う機会を設けることも考えられる。
n インタビューはオンライン上で行うことも可能だろう。
Projects for Extensive Listening: Closing Remarks
n リスニング学習でよく言われることは,理解可能で,面白く,意味のある話し言葉を聞く時間を増やすことが重要だということで (Renadya & Farrell, 2011),ストラテジーを教える重要さを指摘するものは少ない。
n リスニングの練習を頻繁に行うことは良いことだが,それが行われるのは主に教室の外である。
そのため,教室内のリスニング学習は「聴くために学ぶ (Learn to
listen)」ことに時間を使うべきである。
n ストラテジー指導とリスニング学習は対立するものではなく,メタ認知の指導を行うことがタスクや教室外でのリスニング活動の助けとなる。
n 多聴をメタ認知的アプローチで行うことで,教室を超えた日常生活で第二言語習得が続いていくことを保証できるのである (Field, 2007)。
Summary
n 教室外での多聴は言語学習に有益であるにも関わらず,学習者は学習機会の多くを逃しており,教師もそのサポートを行えていないことが多い。
n 本章では,多聴を行うためのプロジェクトを4つ紹介した。
n プロジェクトの焦点はリスニングに置かれているが,その中にあるタスクで学習者は幅広い言語知識を身につけることができる。
n 多聴を通して発達した技能や思考過程は,リスニングをさらに効率的にする。
Discussion
Question
How much do you think learners
should decide for themselves what they do for extensive listening. How often do
you think listening projects should be used? Why?
n 教師が介入していく段階を作成する。
最初はFacilitatedを行うと良いのではないか。
次にBuddyを行うことでメタ認知知識を獲得できる
また,Interviewを行う際,自然な英語は中学生には難しいので,ALTを使って生徒が聴く英語をコントロールできる。
Peerでは多くのものを学習者が決めることができるため,最後に持ってくることができる。
n 熟達度による
トピックは学習者に決めさせると良い。
興味が大切。
ただ,偏りが出ないようにすることが必要。
n 実施するのに1番難しいのは?
Interview
人と話すのが良い
Peer
自分のではなく,相手の教材を選ぶのが楽しい。
1. Read the following
listening diary entry of Susi, a 20-year-old college student. Which project
could she be referring to? Comment on Susi’s attitude to learning to listen and
how the project could be helpful to her.
I met Min in our college
cafeteria to plan our next assignment for the listening class. Ms Lee has asked
us to plan a listening activity for the class in a fortnight’s time. We tried
to select two short video clips from YouTube but we kept getting distracted by
what we came across. It wasn’t so bad because we also practised our listening
when we watched all the different videos. Ha! Ha! Maybe this is just an excuse!
Anyway, after 2 hours of watching and laughing at some silly ones, we finally
found two videos. We think our friends in class will like them. Each recording
is about 5 minutes long. In one of them, a woman is talking about why it is
important to eat lots of fruit and vegetables. Good reminder! ☺ In the other
recording, a man is talking about how he changed his diet after he suffered
from a heart attack. We think we can use this to get our friends to do a
jig-saw listening, like what Ms Lee did with us last week. But I think ours are
better!!! Tomorrow I will meet Min again and we will have to plan a listening
lesson. I think it’s going to be quite fun. We will have to think of how to
teach listening like what Ms Lee does. Min says Ms Lee is lazy because she
asked us to prepare the lessons. That way she doesn’t have to prepare them. I
don’t think so. I believe Ms Lee when she said this task will help us
understand listening better. I hope that after this activity, I will be able to
understand how my friends listen, especially Vincente. He’s so good. Maybe I
can learn from him, too. I think we should make the task really hard for the
class!!
ð Peer Listening Taskを行なっている。
3. The listening
projects in this chapter may need to be scaled down for learners in some
language programs because of a lack of time or other circumstances. Select one
of the projects and modify it so that it can be used for a specific group of
learners you have in mind. As a start, consider how the task demands can be
simplified and the duration of the entire project shortened. Share your
modified project plan with some colleagues and explain the rationale for your
modifications. Include other considerations that may have guided your plan.
ð 中学高校で行う場合はPeer Listening taskで学習計画の修正を頻繁に行う必要があるため実施期間は1週間とする。負荷を減らす工夫として,学習者に0から教材や活動を選ばせるのではなく,VOAなど学習者用の教材が手に入るWebサイトを教える(Facilitated Independent Listeningよりは選択肢が広いが0から選ぶ必要がない状態にする)。
初学者には,簡単なものを選ばせる。
上級者には難しいものを。
月1回行う。成果を共有したりする必要があるため。