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2018年度 異文化言語教育評価論 |
n Introduction
・本章では、メタ認知の概念をより明確にし、L2リスニングタスクにおいてどのように実行すべきかを検討する
・メタ認知プロセス:planning/ monitoring/ problem-solving/ evaluation
・これらのプロセスが、教育的なリスニングタスクにどのように組み込まれているかを述べる
→メタ認知能力を発達させるいくつかのリスニングタスクを紹介
・本章で取り上げるメタ認知のアプローチを用いた研究について議論する
n Metacognitive Processes
・L2リスニングにおけるメタ認知の教示 = リスニングプロセスを意識させる教育方法
・メタ認知の教示は、次の過程を発達させる:①活動の計画、②理解のモニター、③問題解決、④アプローチと結果の評価(図6.1. 各過程の関係)
①Planning for the
Listening Activity
・リスニングの事前準備(proactive)の段階
→proactive listenerは「何を聞けばよいか」が分かる。
・リスニング活動を成功させるために行われていること
>トピックに関する背景知識を意識
>テキストジャンルを分析し、その情報構造を想起
>どのような単語や考えを聞くことになるか予想
>どこに注意を向けるか、どの程度詳しく聞くか、リスニングの目的に基づき決定 etc…
②Monitoring
Comprehension
・リスニング中、理解をモニターし、予測を考慮して理解を修正する
>理解レベルや内容の評価
>予測が正しいか検証し、すべての単語を理解する必要がないということを理解
>必要な情報や詳細についての理解の進行度合いを確かめる
>テキスト理解のアプローチが機能しているかを明らかにする etc…
③Solving
Comprehension Problems
・理解過程で問題が発生したときの対処
>リスニングアプローチを修正する:予想の修正、新たな可能性の推論
>理解できた情報から演繹的に、理解できなかったチャンクの意味を推論
>明確化質問をする(できるタスクは)
④Evaluating the
Approach and Outcomes
・リスニング終了後、リスニング方略などについて評価をする必要がある
>困難点、間違ったこと、その理由の考察
>テキストの転写による理解確認
>問題解決方略の考察
・これら①~④の過程は、多様に相互作用しながら展開される(各過程の行き来が、L2リスニング能力に応じて自動的に行われる)。
n Metacognitive Pedagogical
Sequence
・メタ認知の教示は以下の3要素を学習者に習得させる
①聞き手としての自己に関する知識
②タスクに関する知識(L2リスニング固有の複雑さ)
③リスニング方略についての知識
・メタ認知の教示を目的としたタスクの例(Activity 1~3)
Ø Activity 1 (Table 6.1:
p.110)
・トピック情報、テキストジャンル、関連情報などの文脈を提供することから活動が始まる
・聞き手は、①テキスト知識・②トピック知識を用いて、リスニング内容の予測を行う
・聞き手が論理的予測を行うために背景知識が必要であり、テキストは聞き手の年齢や人生経験に適したものを選ぶ必要がある
ü Pre-Listening-Planning/ Predicting
Stage
・主に教員主導でブレインストーミングを行う
・リスニング内容についてのキーワードを箇条書きにする。リスニングと予測検証の際に役立つ。
・教員の介入度合いは徐々に減少させていく(学習者同士でのペアワークで行わせるなど)。
ü First listen-First Verification Stage
・予測に成功した情報の確認と新情報の追加を行い、2回目のリスニングに備える
・ペアでリスニング結果を確認し、(不一致点などについて)2度目のリスニングの注意深いモニターを促す(不一致度合いが大きいほど、モニターが活性化する)
ü Second listen-Second Verification
Stage
・メモの修正、情報の追加を行う。
・教員は、聞き手が理解の更新を行った後に、教室全体での要点整理に移る
ü Third listen-Final Verification
Stage
・議論の中で浮き彫りになった、これまで分からなかった点を聞く。
・この段階で、sound-symbolの関係などの理解のために、テキストのスクリプトを配布することも可能
ü Reflection and
Goal-Setting Stage
・教員は聞き手に、リスニング方法・直面した困難・それへの対処法などを評価するよう指示
・今後のリスニング目標を設定する
Ø Activity 2
・図6.3.のリスニングガイドはあらゆるリスニング活動で使用可能。
・聞き手にリスニングのプロセスを意識させる。
・文脈を与えるところから活動を始める。(例.
校内暴力についてのドキュメンタリーなど)
・クラスでの議論や、同じトピックに関するリーディングをリスニング前に行う
→基礎的な背景知識を与え、リスニング内容についての予測を可能にする
Ø Activity 3
・聞き手にとって馴染みのない語彙や、速度で行われ、書き言葉の情報なしには理解が難しいリスニングをサポートする活動
・ストーリー中の出来事の流れを理解することに焦点化したタスク構造
・ワークシートには、各出来事を要約した文が書かれており、聞き手はリスニング前に目を通す。リスニング後に、それらの記述を出来事が起こった順に並べ直す
・教示段階と、各段階におけるメタ認知プロセス (Table 6.2: 115)
ü Pre-Listening-Planning/ Predicting
Stage
・出来事がどの順で起こりそうか予測を立て、ワークシートに記入
ü First Verification Stage
・一回目のリスニング活動。出来事の順序の予測と、実際に聞いた順序の比較・確認。
・ペアでリスニング結果の比較
・ペアワーク後、2度目のリスニングでより注意を向けるべき内容を明確にする(出来事順の修正)
ü Second Verification Stage
・一度目のリスニングでの問題点の解決と、出来事順の確認を行う
・教員がクラス議論で、正しい順序を提示
・リスニングストラテジーの確認&スクリプトの配布
ü Final Verification Stage
・この段階は必要であれば行う
ü Reflection and
Goal-Setting Stage
・リスニング中の困難点や、今後の同様な活動に向けた対策などの議論
Ø Listening Activities:
Concluding Comments
・上記3つのアクティビティにおいて、聞き手は内容を予測し、聞いた内容との比較を行う。
・各アクティビティの根底にあるpedagogical
sequenceとしては、L2リスニング能力獲得を促進し、聞き手がリスニングスキルの発達をコントロールできるようになることが挙げられる。
・リスニングの結果が評価されることについて、不安を抱く聞き手はワーキングメモリをフル活用できない。→評価なしに練習をすることで聞き手がより効果的にリスニングを行うことができる
・各タイプのリスニング活動は、top-down/bottom-upの両方のリスニング能力を発達させる
・最初の段階では、学習者への教示が教員の主な役割となるが、学習者がself-regulateできるようになるために、徐々に明示的教示を減らす必要がある
n Research on the Use of the Metacognitive Pedagogical Sequence
・リスニングへの教示が、L2リスニング成功の根底にあるメタ認知処理への気付きを発達させるか
・このような教示が、よりよいリスニング結果につながるか…etc.
Ø Developing Metacognitive
Knowledge about L2 Listening
・上記のタスクを実践した質的研究と生徒(学習者)の反応
(例)core French
learnersを対象とした質的研究では、タスク3に相当する活動を実施。
→①学んだこと、②自身のフランス語能力について気付いたこと、③今後のパフォーマンス向上のためにできることの3点をクラスで振り返る
・上記のリスニングタスクが、学習者のリスニング処理に対する知覚と気付きにどのように影響したか
→理解が深まった・動機が向上した・理解しやすくなった、などの反応が多い。また、L2リスニングに対するメタ認知知識が増加したとの反応も多かった。
◎リスニングで要求されることによりよく対処できるようになったと実感し、同時にself-efficacyも向上している:「…リスニングをする際に、自分が考えていることをより意識できるようになった。」
・協同タスクにより、リスニング内容に関する最初の予想の確認・向上につながり、2, 3回目のリスニングへの予測を発展させる(不明点についても、相手の言葉が次の活動段階のキーワード・ヒントになり得る)
→self-regulated な学習者は、社会的・協同的タスクにより育成される
・L2リスニングの根底にある処理への気付きが促され、学習者は、①activity
knowledge ②person knowledge ③strategy knowledgeの3点に意識が向くようになる
à上記タスクを通して学習者がL2リスニング能力を向上させることができるかについての、実験的な証拠も必要(次節)
Ø Impact of the Pedagogical
Sequence on Listening Performance
・メタ認知が、動機付けやself-efficacyと肯定的なつながりを持つことが指摘され(e.g. Paris & Winograd, 1990)、学習者の理解のコントロールを手助けするとされる(Pressley, 2002)。
Ø Civil Servants in Language
Training in Canada
・Mareschal (2007):low-intermediate
(low-achievers)とlow-advanced (high-achievers)の2群の学習者について調査
→教育的アプローチに肯定的に反応。メタ認知的気付き・ストラテジー使用・L2リスニングへの自信と興味にプラスに影響。
・特に熟達度上位群では、メタ認知教示のうち、ペアワークについて肯定的反応が多かった
Ø Adult Learners of English
in Japan
・Cross (2009):advancedレベルの日本人英語学習者対象の研究。実験群は、非明示的でactivity/process basedな教示に加え、明示的ストラテジートレーニングを行った。
→統制群・実験群ともにリスニング後理解テストで好成績。互いの条件間で有意差は無し。
→pedagogical sequenceによってメタ認知プロセスの活性化が促された
・ストラテジーが内包された活動(例:Activity 1~3)によって、学習者のリスニング能力を向上できる
Ø University Learners
Learning French in Canada
・Vandergrift & Tafaghodtari (2010):大学生学習者を対象にした研究。熟達度上位群、中位・下位群が、Activity 1を13週にわたって行った。
・もとのリスニング能力が低い学習者は、guided listening practiceがより有効に影響することが示唆された
n Summary
・教員が、リスニングの根底にある認知プロセスを理解し、リスニングの複雑さに注意を向けさせ、最適なリスニング練習の機会を与えることがsuccessful listenerを育成するカギ
・本章では、planning, monitoring, problem-solving, evaluationの4つのメタ認知プロセスが教育的なタスクにどのように組み込まれているかを示した
・上記のリスニングタスクが、学習者のメタ認知能力やL2リスニングの成功に肯定的に寄与することを、実際の研究をもとに提示した
n Discussion Questions and
Tasks : 3
1. Ch.1 suggested that metacognitive instruction,
applied as a pedagogical sequence in this chapter, is more holistic than other
approaches to the teaching of L2 listening.
Why is it more holistic and why is this important in listening
development?
à メタ認知プロセスは、リスニング活動全体に関わる(根底にある)要因であるため、メタ認知教示はより全体論的になる。リスニング能力の発達においては、メタ認知能力を向上させることで、タスクに組み込まれたplanning, monitoring, problem-solving, evaluationや、学習者の動機付けやself-efficacyの向上などが期待されるため、重要な要因である。
2. What does it mean that learners need to learn to
regulate or control their listening processes?
Why is this important?
à学習者が、リスニングを通した自身の理解をモニターすることや、リスニング内容の予測と実際の内容を照らし合わせながら理解を構築・更新していくことができること、つまり、客観的観点からリスニング活動に臨めるようになることを意味する。自らのリスニングプロセスをモニターし、コントロールすることで、リスニング能力の向上を図れるため、重要である。
3. Is there room for
explicit strategy instruction in the classroom? Under what circumstances and how?
・Group A:明示的なストラテジー教示は必要である。特にタスクが複雑で困難な時や、ペアワークをさせていて何をしている時間なのか理解できてなさそうな時などに重要な役割を果たす。具体的には、ヒントを与えて具体性を持たせたり、机間巡視を行って理解度を見るなどの対策が考えられる。
・Group B:リスニング活動の現状として、「リスニング→答え合わせ」の後にスクリプトの確認をして完結する形式が主流である。しかしメタ認知能力を育むためには、リスニング初心者のみならず上級者についてもストラテジー教示を行うことが重要である。特に、初心者については、明示的ストラテジー教示は必須である。
・Group C:特に熟達度の低い学習者については、「どのようにして聞くのか」、「リスニング内容の要点は何か」などについての教示や、キーワードに着目させるなどの明示的教示が必要であると考えられる。中でも、教示を与える段階が重要であり、1回目のリスニングを終えた段階で、2回目のリスニングに備えて教示を与えるのが有効ではないかと考えられる。
4. Take a listening text from your course materials and
use an approach similar to Activity 1 in presentation to your class. What
happened? How did learners respond to the activity? How did they respond to the
process during the reflection stage?
5. Examine Figure 6.3 for Activity 2 and explain how it
guides learners through the process of listening by (1) indicating where the
stages delineated in Table 6.1 occur, and (2) how the different metacognitive
processes at each stage are developed. Is it exactly the same as in Activity 1?
à(1) A,
B (Figure 6.3.)は1. pre-listening taskに、Cは2. First listenに、Dは3. Second listen、Eは4. Third listenに相当する。(2) それぞれにおいて、メタ認知処理が異なる方法で発達する。たとえば、pre-listeningの段階ではplanningの過程が、first-listen後のペアワークではproblem-solvingが、その後のリスニングではmonitoringの過程が主に活性化されると考えられる。また、Activity1は様々な活動に汎用性のあるより一般化された活動であるのに対し、Activity 2はより具体性が高い。そのためほぼ同様な活動ではあるが、厳密に同じというわけではない。