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2018年度 異文化言語教育評価論 |
Summary
リスニングは,一般的に受動的な活動だと考えられているが,様々な認知処理や,心的努力を必要とする能動的な活動である。リスニングの認知処理プロセスは大きく分けて (a) ボトムアップ処理と (b) トップダウン処理に分けることができる。ボトムアップ処理では,聞き手は自身が持つ言語学的知識を用いて意味のある音のまとまりに分割し,音素,語,句などの小さい単位から大きい単位へと理解していく。一方トップダウン処理は聴解を行う際に聞き手の様々な知識を使用するものである。ここでいう知識は,先行知識,語用論的知識,文化的知識,テキストタイプに関する知識が含まれる。リスニングのプロセスで重要だとされ,本書でもメインで扱っているのがメタ認知である。メタ認知とは,理解に関わる認知処理に関する聞き手の気づきやこれらの処理を監督・統制・指示をする能力である。また,メタ認知には町会を公立的に行うためのプランニング,モニタリング,問題解決などの認知処理の使用も関わっている。インタラクションのないone-wayリスニングとインタラクションのあるinteractiveリスニングでは,認知処理は大きく変わらないものの,何点か異なる部分が存在する。interactive リスニングでは,コミュニケーションの中でリスニングを行っているため,発話を理解するための様々な資源(知識や経験)が共有されている。そのため,発話の理解に必要な認知負荷が下がったり,状況によっては上がることもある。
多くのリスニングの指導は,テクストを学習者に聴かせて,理解できたかを確認するために何かしら課題を出すことが多い。そのため,学習者は自分がどのような処理をリスニング中に行っているかに意識が向かない。リスニングプロセスのモデルは様々なものが存在するが,本書ではLeveltが提案するスピーキングのプロセスを反映したモデルが紹介されていた。そのモデルでは,まず,音声知覚から始まり,統語解析,そして長期記憶の知識の使用が含まれている。これらのプロセスは線形に起きるのではなく,同時並行的に行われるとされる。また,これらのプロセスに影響を与える要因も存在する。学習者不安や資格情報,聴き手のL1は影響力が大きいとされる要因である。これらの要因も,必ずしも聴解力を下げる訳ではなく,条件によっては聴解を促進することもある。
リスニングプロセスを理解することや,メタ認知的知識は,授業外の自立的学習に効果があると考えられる。授業外のリスニングはリスニング能力の向上に効果があるが,多くの場合は運に任せになってしまっていることが多い。学習者のリスニング能力向上を支援するため,プロジェクト型のリスニング活動を行い学習者に多聴をさせるとよい。本書では,4つのタスクから構成されるプロジェクトを紹介されている。このプロジェクトに参加する中で学習者は自身のリスニングプロセスへの意識が向上するという。近年では,様々なメディアが発達してきたため,学習者がアクセスできるマテリアルも増えてきている。また,電子機器の発達により,リスニングのみではなく,視覚的な補助と組み合わせるというようなことが簡単にできるようになってきている。また,マルチメディアを使用することは,学習者にポジティブな感情を持たせることがわかっている。最後に,リスニング力の向上は学習者にとってわかりにくいため,定期的に評価(測定)する必要がある。学習者の成長プロセスを重要視するには,ポートフォリオなどの形成的評価が効果的だとされる。
感想
本書全体を通して,学習者と教師ともに,リスニングのプロセスを知ることが重要であるように感じた。教師としての立場では,リスニングを指導する際にただ聴かせるだけのリスニングと,プロセスを意識しながらリスニングを行うことには大きな差が存在するように思う。しかしながら,プロセスを意識するためには,注意を向けるだけの認知資源が必要となる。そのため,初学者にはどのように対応するかを自分自身でさらに考える必要があると感じた。学習者の立場としては,プロセスを意識するあまり,練習自体の量が減ってしまうことに気をつけたいと思った。なんとなく聴くことや,無意識的に聴くこともリスニングの上達には必要だと感じるため,必ずしもメタ認知を意識する必要もないように思う。
1.
目標
n メタ認知とは何かを理解し,実際にリスニング活動を行う中で自分の聴解プロセスを意識することで自身が持つ聴解の課題を明らかにすること。
n 最後に,グループでメタ認知について簡単な説明を英語で書くことができること。
2.
対象
高校2年生
3.
マテリアル
YouTube上のビデオを使用
(https://www.youtube.com/watch?v=HZrUWvfU6VU)
4.
指導計画
時間(分) |
活動 |
教員がすること |
生徒の活動 |
2 |
greeting |
n 挨拶をする n 生徒と簡単なやりとりを行う |
n 挨拶をする n 質問に答えたり,質問をする |
3 |
Introduction |
n メタ認知というキーワードの導入 n メタ認知についてブレインストーミングを行う n 生徒があげた語を黒板にまとめていく n 本時の目標が「メタ認知について理解し,グループで簡単な説明を書くこと」であることを告げる |
n 教員の説明を聞き,質問に答える n メタ認知について知っている語をあげる |
5 |
Pre
listening Activity |
n これからメタ認知に関する動画をプロジェクターで視聴することを伝え,動画視聴後に気づいたことを単語のみでも良いので発表してもらうことを伝える。 |
n 教員の説明を聞く n 聞くための準備をする n 動画視聴中はメモなどをとっても良いが,相談は禁止 |
6 |
1st
Listening |
n 動画視聴中の生徒の様子を観察し,理解に重点をおいてメモ等は取らない生徒や,メモを言葉でとる生徒,簡単な絵などを描く生徒など,様々な聴き方をする生徒を見つける |
n 動画を視聴する |
7 |
conference |
n 聴きながら様々な工夫をしている生徒がいることを伝える n タブレット端末を渡し,各グループでもう一度視聴させる n また,理解するためにyoutubeにある機能(再生速度の調整,字幕の有無,巻き戻りなど)は自由に使って良いことを伝える |
n 4~5人のグループを作らせ,気づいたことを共有する。 n 2回目の視聴時,どのような機能を使用したかを,なぜその機能を使用したかを理由付きでメモする |
8 |
2nd
listening |
n それぞれのグループで自由に動画を視聴させ,単語ではなく文章でまとめて見るように促す n また,小さなことでも良い(e.g.,
知らない単語があったが文脈から想像してみた。動画中のどこを聞くかをみんなで分担して聴いた)ので,理解するための工夫したことをメモさせる |
n 動画を視聴しながらメタ認知についての説明文を書く n 理解するためにした工夫をメモする |
8 |
conference |
n 各グループのメタ認知の説明,使用した機能,使用した理由,理解するための工夫を発表させる |
n 自分たちのグループでは気づけなかった工夫や,メタ認知に関する説明などをまとめる |
5 |
reflection |
n リスニングと言っても聴き方には様々な方法があること,また工夫できる点が多くあることを伝える。 n 生徒からあがらなかった方法などがあれば補足する n 最後に,挨拶をする |
|