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2018年度 異文化言語教育評価論 |
Summary and Comments of Teaching and Learning Second Language Listening: Metacognition in
Action by Vandergrift L., & Goh, C. C. M. (2012).
Summary
The Process of Listening
■リスニングには以下の4つの認知処理が関わっており,複雑な処理である。
①トップダウンとボトムアップ処理:音素→語→より大きい意味の単位と徐々に意味を構築していくボトムアップ処理とテキストを理解するために文脈や先行知識を利用するトップダウン処理。
②制御されたもしくは自動化された処理:聞いたものを自動的に処理するか,意識的に処理するか。
③知覚,解析,利用:音素等を認識する知覚,音韻表彰の構文解析を行う解析,意味のかたまりを先行知識と関連付ける利用。
④メタ認知:理解に関する聞き手の気付きや処理を監督・統制・指示する能力。
■以上の処理は順番通りに起こるのではなく,行き来したり,複雑に絡み合う。リスニングは能動的な活動である。
■聴覚からの情報処理プロセスとリスニングプロセスの枠組みには,以下の3つのステージがある。
①Person factors:認知的要因 (e.g., 言語的 / 統語的知識) と情意的要因 (e.g., 不安,動機づけ)。
②Listening contexts:インフォーマル,フォーマル,相互的リスニング
③Listening results:量的結果 (理解や学習) と質的結果 (関係性,動機づけ,自己効力感)
■様々な要因が学習者の認知プロセスとlistening outcomeの質に影響している。
The Role of Metacognition in Listening Development
■メタ認知とは,目的に応じて,どのように情報を処理し,管理,調整するかについて考える能力である。
→メタ認知が活用できる学習者は自信の学習をコントロールし,効果を高めることができる。
■メタ認知の枠組みとして以下の3つがあげられる。
①メタ認知的経験:過去に問題に直面したときにどのようにそれを解決したか考えること。
②メタ認知的知識:学習者としての自分に関する知識やタスクに関する知識,方略に関する知識。
③ストラテジー:タスクを達成するための適切な方略を使う能力。
→これらは考えるだけでなく,行動しなければならない。
■メタ認知的アプローチによって,より効果的なリスニングができるようになり,動機づけや自信を高めることができる。他の人と協同的に行うことでより効果を上げることができる。
How to Teach Listening More Effectively
■メタ認知の指導により以下の4つの能力を発達させることができる。
①Planning:関連する背景知識を活性化したり,リスニングに対し事前準備を行う。
②Monitoring:リスニング中に,理解をモニターし,予測を考慮して理解を修正する。
③Problem-solving:理解プロセスで生じた問題に対処する。
④Evaluation:リスニング終了後,自信が使用したリスニング方略について評価する。
■メタ認知的指導の活動には以下の2種類ある。従来のリスニング授業はメタ認知を無視している。
①Integrated experimental listening tasks:メタ認知的意識向上活動と聴解活動を組み合わせたもの。
②Guided reflections for listening:学習者が自信のリスニングを計画し,評価することをサポートする。
■ボトムアップに重視した活動を行う際は意味に焦点が全くおかれない活動になってしまう。
■リスニング能力の向上のためには,意味ベースの活動を行う必要がある。
■タスクをもとにしたリスニング授業では,メタ認知的指導が組み込まれる。
■また近年,多聴が注目を浴びている。多聴を通して発達した技能や思考プロセスはリスニングを効率的にすることができる。
■テクノロジーの発展によって,ビデオや字幕やポッドキャスト等がリスニング指導に使用できる。
■メタ認知的アプローチに基づくリスニング指導の目的は,自律的な学習者を育てることだが,それが達成されたか知るには定期的に評価を行う必要性がある。
■評価の目的は以下の3つである。
①学習者・教師・保護者に学習の成果を伝えること
②クラス分けなどのために,学習者のレベルを把握すること
③カリキュラムの有効性を知るため
■リスニングのプロセスとプロダクトの両方に重きを置きながら評価を行うことにより,学習は促進される。
Comments by SASAKI Yamato
この文献では,リスニングのプロセス,メタ認知の役割,リスニングの効果的な指導法をわかりやすく説明している。特に強調されているのはタイトルにも入っている通り,メタ認知 (metacognition) である。日本の英語教育においても,リスニングは「ただテキストを聞かせて,問題を解かせる」といったような授業が多く,リスニングの授業自体がテストのようであり,リスニングに対する緊張感や不安が大きすぎると批判されている。この現状に対して,この本はリスニング指導に関して示唆に富んだ文献であると考える。
この文献において,重要なのは,教師がリスニングは複雑で能動的な処理であるということを認識し,指導を行う必要があるという記述である。教師はしっかりとリスニングの理解プロセスに関する理論的背景を頭にいれ,生徒のリスニング指導にあたる必要がある。授業は踏襲制であるといった言葉もあるように,教師は自分が学校で習った方法で授業を行いがちである。ただ,真似をするだけではなく,理論的背景も踏まえ,より効果的な指導を目指す必要性があると感じた。また,自身が実践している指導方法に自信がない教師も多いと感じる。自分が実際に行っていた指導法が,理論的背景に裏打ちされた実践であると知ることができれば,より自身の英語指導に自信を持って臨めるのではないかと思った。その点,この文献では,理論的背景から具体的な実践方法まで幅広く扱っており,とても有益ではないかと思う。
また,メタ認知がキーワードとして何度も登場したが,メタ認知的ストラテジーというのは近年脚光を浴びてきている。リスニング力の向上に良い効果を与えたと示している先行研究も多く,また,先行研究で使用されている指導手順も具体的であるため,教師も実践に移しやすいのではないかと感じた。日本で実際に行っているという実践報告は聞いたことはないが,自分が教育現場で働くことになるのであれば,この文献で紹介されている手順や活動を実践してみたいと思う。
メタ認知的アプローチやメタ認知的ストラテジーはホットなトピックであると感じた。この本だけでなく,関連する論文を読んで,リスニングだけでなく,リーディング力への影響などもっと知っていきたいと思う。
※わかりやすさのため,適宜,章立てを行った。
Abstract
■目的:メタ認知的なprocess-based approachのL2リスニング指導 (1学期間) への効果を検証した。
■協力者:第二言語としてフランス語を学ぶ (French as a second language; FSL) 学習者106名だった。
■実験群 (59名):メタ認知的プロセス (prediction/planning, monitoring,
evaluating, problem solving) を使用する方法を使用してテキストを聴いた。
■統制群 (47名):実験群と同じテキストを同様の回数聴いた (教師も同じだった)。しかし,プロセスへの注意を払うような指導はしなかった。
■方法:L2リスニングに関するメタ認知の発達をMetacognitive Awareness Listening
Questionnaire (MALQ) を使用して,事前,中間,事後に測定した。
■結果:①仮説どおり,最後の理解測定で実験群が統制群を優位に上回った。
②実験群のless skilled listenersはmore skilled listenersよりもgainsが大きかった。
③再生の書き起こしデータからも,学習者のメタ認知プロセスの向上が見られた。
Introduction
■リスニングストラテジー指導の必要性が唱えられているにも関わらず,L2リスニングにおける体系的な実践にあまり焦点が当てられてこなかった (see DeKeyser, 2007)。
Research on Facilitating L2 Listening
■L2 listenersはoral textsの理解を促進するたくさんのキュー (e.g., 背景知識,プレリスニング活動,テクノロジー) を使用するように指導される可能性がある。
■現在,ストラテジーを指導することがL2リスニング指導において必要不可欠であると認識されている。
■これまでのストラテジー使用の研究では,1, 2つのストラテジーを指導した効果を見る研究が多く (e.g., Carrier, 2003),ストラテジー指導の長期間の効果をみた研究は少ない (Chamot, 1995)。
■skilled L2 listenersはリスニングプロセスを統制するために,様々なレパートリーのストラテジーを使用していることが示されている (e.g., Goh, 2000)。
■リスニングの根底にある認知的,メタ認知的プロセスを調整することがL2リスニングの成功に決定的である。
Metacognition and Learning
■メタ認知には認知プロセスの知識とこれらのプロセスをモニター,調整,利用する能力の両方が含まれる (Flavell, 1976)。
■学習者のメタ認知が学習のプロセスや結果に直接影響する証拠が多くあり (e.g., Goh, 2008),動機づけや自己効力感に良い影響を与えたり,自信の理解を調整する手助けをする。
■メタ認知的知識を体系的に引き出す研究は比較的最近発展している (e.g.,日記,アンケート,ディスカッション)。
■しかし,指導の効果に関する実証研究の数は少なく,証明される必要がある。
■本研究では,一度に単独のストラテジーを教えるのではなく,1学期を通して,複数のストラテジーを指導するようにした。
■本研究の仮説は以下の通りである;
①指導を受けた実験群は聴解の最終テストで統制群のパフォーマンスを上回る。
②実験群のless skilled listenersは聴解において多大な向上を示す。
③実験群のless skilled listenersはMALQ (Vandergrift et al., 2006) で測定されるリスニングのメタ認知意識 (metacognitive awareness) において多大な成長を示す。
Methodology
Participants
■協力者は106名のFSL (French as a second language) の大学生で,統制群 (47名) と実験群 (59名) にランダムに振り分けられた。
■また,リスニングの事前テストをもとに中央値 (14点) でlessとmore skilled listenersに分けられた。
Instruments
■リスニング能力:大学のFSLプレイスメントテスト。
■リスニングに関するメタ認知的知識の変化:MALQ (Vandergrift et al., 2006) → 21項目で構成されるアンケート。聴解に関する5つの要因に関するストラテジーとプロセスの使用を測定する。
①Planning and Evaluation:聞き手はリスニングのためにどのように準備をしたり,リスニングに対する努力の結果をどのように評価するか。
②Problem Solving:理解していないことを推測し,この推測をモニターすること。
③Directed Attention:どのように聞き手はタスクに集中し,リスニングに対する努力に焦点をあわせるか。
④Mental Translation:心内要約を倹約して使用する能力
⑤Person Knowledge:どのようにベストに学習するかに関する気付きやL2リスニングによって提示された難しさ,L2リスニングにおける自己効力感。
Procedure
■リスニングテストは,研究の事前と事後,MALQは実験の事前,中間,事後にリスニング活動のあとにすぐ行われた。
■また,実験群から6名の生徒に2回 (中間,事後) の刺激再生を行わせた。1回目は,事前と中間のMALQの結果をみて,その差異を話させた。2回目は最後のMALQをもとに差異を議論した。
Experimental Group Treatment
①テキストの新しいページに入り,トピックが与えられる。
②トピックやテキストに関する知識をもとに,ブレインストーミングを行い,語彙や情報の予測を行う。
③この予測のあと,初めてテキストを聞く。その際,先程予測した語彙や情報をチェックする。
④ペアで予測やこれまで理解した情報の確認を行う。わからなかった部分等を議論する。
⑤テキストをもう一度聞く (2度目)。先程確認した難しかったところを確認する。また,新しい情報を記入する。その後,クラスでディスカッションを行い,理解の確認をし,理解が成功しているかを共有する。
⑥聞き逃したところを確認するため,もう一度テキストを聞く (3度目)。
⑦それぞれの生徒が反省を行い,使用したであろうストラテジーを示させる。
Control Group Treatment
①実験群と同様,トピックが与えられる。
②予測する機会もなく,また,クラスメートと議論したり,予測したり,理解をモニターする機会もない。
③3回テキストを聞いたあと,理解の確認を行う。その後,反省等は行わない。
Results
■上述した①と②の仮説を検証するために,二要因ANCOVAを行った。独立変数は群 (実験 vs. 統制) とリスニング力のレベル (less skilled vs. more skilled) である。
■最後のリスニングテストのスコアで群間で有意差が見られた。よって,仮説①は支持された。さらに効果量も大きかった。
■群×リスニングレベルの主効果が見られたため,指導のL2リスニングパフォーマンスへの効果は協力者のリスニング力に依存することが示唆された。
■したがって,一対比較を行った。結果より,実験群のless skilled listenersが統制群のless skilled listenersを上回った。
■加えて,実験群のless skilled listenersの向上は統制群のless skilled listenersよりも大きかった。
■仮説③を検証するために,4 (less skilled experimental, more skilled
experimental, less skilled control, more skilled control) ×2 (mid study metacognitive knowledge, poststudy
metacognitive knowledge) のMANOVAを行った。
■Wilksのラムダより,TimeとGroupの主効果が見られた。よって,どの群の協力者もメタ認知的知識の5つの要素におけるパフォーマンスの何かしらの変化が見られることを示している。
■しかし,Time×Groupの交互作用が有意だったため,協力者のパフォーマンスが異なるパターンを示していることを示している。
■ANOVAの結果より,Planning and EvaluationとPerson KnowledgeにおいてTimeの効果が見られた。
■Time×Groupの交互作用はProblem SolvingとMental Translationでのみ有意だった。
■さらなる証拠を得るために,刺激再生のデータの分析を行った。
■協力者はL2リスニングの根底にあるプロセスへ注意がどんどん向いていき,このメタ認知的知識をどのように使用していくかに気づいていた。
Discussion
■仮説①指導を受けた実験群は聴解の最終テストで統制群のパフォーマンスを上回る。
・このアプローチによって,L2リスニングの成功が向上された。
・この結果はプロセスに焦点を当てたリスニング練習にメリットがあると示す先行研究 (e.g., Goh, 2002) にさらなる証拠を与えた。
・先行研究では明示的に1つや2つのストラテジー指導を行っていたが,本研究では,繰り返しのリスニングによって,暗示的にストラテジーを身につけていったと考えられる。
■仮説②実験群のless skilled listenersは聴解において多大な向上を示す。
・less skilled listenersはnatural approachをL1からL2に転移させることができないため,メタ認知的指導からより効果を得ることができたと考えられる (Goh & Taib, 2006)。
・リスニングプロセスのメタ認知意識が上がったことで,自信の理解をより調整することができ (Pressley, 2002),学習の成果に影響を与えた (e.g., Goh, 2008)。
■仮説③実験群のless skilled listenersはMALQ
(Vandergrift et al., 2006) で測定されるリスニングのメタ認知意識
(metacognitive awareness) において多大な成長を示す。
・結果は混ざっていた。特にless skilled listenersにおいて,Problem SolvingとMental Translationのみ向上が見られた。
・Problem Solvingに関してはタスクを通した暗示的学習のモデルで説明できるが,Mental Translationに関しては直感に反する。
・一字一句訳することにとらわれなくなることで,よりmonitoringはproblem solvingといったメタ認知的プロセスに注意を払うことができる (Goh, 2000; Vandergrift, 2003a)。
・刺激再生のプロトコルより,語彙の意味を特定する能力が向上したことが推測される。
Conclusions and Implications
■less skilled listenersがもっともprocess-based approachから利益を得ることができる。
■他の種類のメタ認知的活動の効果も見る必要があるだろう。
■また,最後の段階でbottom-upの要素を加えることでより活動が豊かになるだろう。
■今回のアプローチはいつも同じように実行されると飽きてしまうため,工夫が必要である。
Discussion by SASAKI Yamato
本研究はリスニングに関するメタ認知を向上させる長期的な指導が学習者の聴解力とメタ認知的知識の向上に与える影響について研究している。新規性としては,先行研究では1つ,もしくは2つのストラテジーのみを指導し,効果を見る研究が多いが,複数のストラテジーを指導し,効果を検証している点である。さらに,先行研究では短期間で効果を検証する研究が多いが,長期的な指導の効果を検証している点である。本研究はFSL環境であるものの,第二言語学習において有益な論文であると考える。今回は本研究に挙げられている3つの仮説に関して,さらに考察を加える。
仮説① 指導を受けた実験群は聴解の最終テストで統制群のパフォーマンスを上回る。
ストラテジー指導は言語習得に効果的であると主張され,その指導の効果は,リスニングのみならず,リーディングでも盛んに行われている。しかし,第二言語習得におけるストラテジー指導に関してメタ分析を行ったPlonsky (2011) では,ストラテジー指導は近年盛んに行われているが,結果がまとまっていないことを指摘している。本研究はストラテジー指導を受けた群は統制群よりも聴解力の向上を促すことが示唆されたが,他の指導法との効果を比較したり,レプリケーションできるのかなど研究を積み重ねていく必要性がある。
仮説② 実験群のless skilled listenersは聴解において多大な向上を示す。
本研究では,less skilled listenersに指導の効果が見られたが,more skilled listenersには見られなかった。しかし,この効果は実際は ”fragile” であるとされている (Cross, 2010)。本研究でも,ストラテジー指導の縦断的研究が少ないことが指摘されていたが,実験後の協力者の聴解力やメタ認知的知識を追跡したり,遅延テストを行い比較することで,ストラテジー指導の効果をより詳細に検証する必要性があると考える。熟達度はとても複雑な要素しっかり考慮して研究,考察を行うべきである。
仮説③ 実験群のless skilled listenersはリスニングのメタ認知意識 (metacognitive awareness) において多大な成長を示す。
メタ認知的ストラテジーは初めは意識的に行う必要があるが,その後,他の推論や理解に割く注意を増やすために,自動化させ,意識的なストラテジーから無意識的なスキルにする必要がある (DeKeyser, 2007)。メタ認知意識を向上させることはfirst stepとして,その後,繰り返しの指導や練習の中でどのようにストラテジーをスキルにしていくかという点が教育的示唆をより富んだものにするために必要であると考える。
現在の日本の英語教育において,リスニングは聞かせて問題を解かせるという方法がよく使用されており,リスニングストラテジーを指導している教師は少ない。今回の研究より,特に中学校や高校の初めの初学者にストラテジー指導を行っていく必要性を強く感じる。
References
Cross, J. (2010). Metacognitive instruction
for helping less-skilled listeners. ELT
Journal, 65, 408–416.
DeKeyser, R. (Ed.) (2007). Practice in a second language: Perspectives
from applied linguistics and cognitive psychology. Cambridge: Cambridge
University Press.
Plonsky, L. (2011) The effectiveness of
second language strategy instruction: A meta-analysis. Language Learning, 61,
993–1038.