筑波大学 人文社会科学研究科                                                現代語・現代文化専攻                                           平井 明代研究室



2018年度  異文化言語教育評価論


 

1. Write summary and comments on the textbook in about 2-3 pages. What are the important points of this book and what did you learn and think from the book? 

 

u  メタ認知的な視点から見たリスニング指導、教育について本論文ではまとめている。

u  各章では、メタ認知的視点の中でもより多面的な角度から見た、教授法、タスク、学習者、モチベーション等について論じられている。

 

リスニング方略

n  様々なリスニング方略がある中で、各チャプターで具体例が挙げられていた。

n  One-way listening: 聞き手が参加しない,一方向のリスニングが使用されている。この活動では,情報を得ることが目的であり,確認するための介入の機会がない。しかしながら、学習者が「情報を得る」ことを目的に行うタスク (e.g., CDでのリスニング)はその使用法によって効果的であると考えられる。

n  Interactive listening: 会話など社会的場面での会話の達成を目標とした、話し手と聞き手の目的意識を共有した活動で、分脈や経験を両者が共有することで情報を得るエイスニング(e.g., face to faceの場面で表情やジェスチャーなどの非言語的側面からも情報を得たり、聞き手は、話し手にゆっくり話すようにお願いすることで認知負荷を下げたりする。)

>>> 自分自身で会話の状況や自身の理解をモニターし、認知処理を行っていく。

n  ボトムアップ処理(メッセージを理解するために音のまとまりを意味のある単位に分割する)トップダウン処理(メッセージを理解するために文脈や先行知識を適用する。聞き手は様々な種類の知識を使用する)のプロセスを利用し、学習者の心的表象を構築していく流れを教師は理解し、目的によってプロセスを使い分ける必要があり,L2学習者は目的や自身の特徴 (e.g., 熟達度,ワーキングメモリ容量,年齢),リスニングをする文脈に応じた使い分けを学習する必要がある。

・特にボトムアップに焦点を当てた活動を行う際は,意味に焦点が全く置かれない活動になってしまうことに関して教員は留意する必要がある。

n  リスニングには当然ながら語彙知識が必要であり、リスニング活動を通して語彙認識を高めるためには、pre-taskとしてテーマに関するディスカッションを行うことで、音と形式との結びつきを理解させたり、post-taskを通して、音韻ルールや発音知識を習得させたりなどの言語形式に特化した活動を行うこともリスニングスキルの工場に貢献すると考えられる。

n  リスニングをより意味のある活動にするために、教師はリスニング活動のコンテンツをよりオーセンティックなものを選び、学習者にとって親密度の高さ。低さを場面や目的に応じて使い分ける必要がある。

 

学習者

n  L2 listening comprehensionには,個人と環境の要因が重要な役割を果たしている。

n  学習習慣や、情意的側面,言語活動の経験など様々な要因が、学習者の認知過程とリスニングのパフォーマンスに影響されると考えられている。

n  認知的過程は,L2の語彙やL1のリスニング能力がlistening outcomeに影響していると考えられる。

n  個人的な要因や情意的な要因 (性格、気分等)に影響する。

>>>情意面に関して、ポジティブな心持ちであることは、会話へのモチベーションや、相手の話す内容への意識の高まり、内容に関して背景知識(スキーマ)を利用しながら聞くことでさらなる理解に促進をもたらすと考えられる。

一方で、リスニングに対する不安(リスニングは難しいという認識、正確に理解しなければいけないという重圧)なども非常にリスニングパフォーマンスに影響することがわかっており、教師は学習者の情意フィルターがなるべく下がるように意識しながら指導する必要がある。

n  学習者の、リスニング内容への意識の向上 (awareness raising)を促進させることで、リスニング内容やリスニングそれ自体への関心の高まりやリスニング理解に好影響をもたらすと言われている。

n  学習者がリスニングプロセスを認識することで、ただリスニングをするのではなく、既存の知識と統合し、状況モデルを構築しながらよりsuccessfulな学習者となっていくと考えられている。

 

タスク・活動

n  タスクを使用する目的として、リスニング教授を促進し、学習者による奇妙な内容理解を避け、言語活動を通して、既存の知識との言語統合を行うことである。

n  従来の多くのリスニングの授業はメタ認知を無視していると言われている中で、planning (「何を聞けばよいか」が分かる), monitoring(理解をモニターし、予測を考慮して理解を修正), problem-solving(理解過程で問題が発生したときの対処), evaluation(リスニング方略などについて評価)の4つのメタ認知プロセスをリスニングタスクに組み込むことで、productive listenerへ学習者を成長させる。

>>>リスニング内容の背景知識を活性化させる活動であったり、学習者自身がモニタリングできるような指示や活動を組み込んだり、listener同士で評価し合うような場面設定などを考慮する必要がある。

n  他言語のリスニング学習のプロセスについてのよりよいメタ認知を成長させるためのいくつかの活動を導入した。

>>>The integrated experiential listening tasks (e.g., Metacognitive Pedagogical Sequence)guided reflection activitiese.g., リスニング日記、Emotional Temperature Charts)は、Metacognitive Instructional Activitiesにおける、メタ認知活動の目標と目的を満たすような活動であり、これらを組み合わせることで、学習者のリスニングにおける背景知識を引き出し、さらにはsocial-affectiveな経験を通してリスニング活動を行うことができる。

n  また、リスニング活動の一例として「多聴」(Extensive Listening)も挙げられている。

 

n  多聴を行うことで、リスニングに多く触れることができるため、学習者は、語彙などの言語知識はもちろんのこと、幅広い一般知識や経験を身につけることができ、多聴を通して発達した技能や思考過程は,リスニングをさらに効率的にする。

授業外での多聴は、学習習慣を身につけさせるという意味で学習者にとってポジティブだが、そのやり方等での指導によっては身につかないこともあるので、授業内で徹底した指導やメタ認知ツールを用いた指導を教師は心掛けないといけない。

 

n  マルチメディアを使用したリスニング活動も例示されており、使い方や目的を考慮しながら使用することで非常に効果的であるとされる。

n  この際には、学習者に対し、教員によるmeta-technicalの指導 (e.g., 機器の使用、目的。意識の置き方)が必要で、これを行うことによってマルチメディアを最大限活かすことができる。

 

 

n  このように、リスニング活動を通しては非常に多くの側面いついて考慮すべきことがあり、教師はそれらを統合して授業構成を練る必要がある。

n  個人的に気になったのは、Reading While Listening (RWL)の活動で、読解理解だけでなく、語彙認知も高まる点で非常に有用な活動であると感じた。

n  また、評価の観点では、教師による評価と学習者による評価、どちらとも重要なリスニング活動の一部であり、CEFRや言語パスポートを用いた評価例は広く、そしてわかりやすい評価法であると感じた。

 

 

Abstract

n  本研究では、EFL学習者に対する付随的語彙学習を行う際に、reading-while listening (RWL)条件とReading-only (RO)条件とで、語彙知識の4つの次元 (語句形式認知(スペリング)、文法認知、意味再生、コロケーション認知)に関する比較を行うことを目的として、24語を対象語に、60人のEFL中国人学習者に対して実験を行なった。

n  結果として、どちらの条件であっても語彙学習が行われたが、RWL条件においてより語彙学習がなされた。

n  語句形式認知と文法認知に関しては付随的語彙学習に関する有意な効果が見られたが、意味とコロケーションに関しては見られなかった。

n  RWL条件は確かに付随的語彙学習により効果的ではあったが、どちらの条件も付随的語彙学習の言語資源として価値があった。

 

Introduction

n  付随的語彙学習は、読解等他の目的を達成することによって、直接的な形式的な語彙学習を避けることで語彙習得を図るものであり、NSにとって、多読のようなより効果的な語彙学習へのアプローチを長期的な視点で研究することが求められている。

n  語彙習得の方法として、RWLが挙げられるが、先行研究ではその効果が述べられている一方で、この活動は形式と意味にしか焦点を当てていないとの指摘がなされているため、RWLでの付随的語彙学習に関しては評価が分かれている。

n  本研究では、RWLRO条件での付随的語彙学習の結果を、語彙知識の4つの次元 (語句形式認知、文法認知、意味再生、コロケーション認知)に関して比較を行った。

 

Literature review

Incidental vocabulary acquisition from reading

n  複数の先行研究において、読解は語彙学習を促進することが言われており、これは、読解中、意味のある文脈において未知語に複数回出会うことが要因の一つと考えられている。

n  未知語に遭遇する機会が多ければ多いほど語彙学習が促進され、また繰り返し未知語遭遇することは、受容語彙より発表語彙を増加させたという報告もある (Webb, 2007)

n  多くのRWL条件での付随的語彙学習の結果が示されているものの、そのプロセスは複雑であるため、語彙の頻度に関する視点からの研究が必要である。

 

Incidental vocabulary acquisition from reading-while-listening and how it compares to that achieved from reading?

n  Brown et al. (2008): 28語の未知語を対象に、RWLROLO条件で付随的語彙学習を行い、多肢選択式の意味を聞くテストと翻訳テストを行った結果、RWL条件で有意に語彙学習が促進され (RWL>RO>LO)、どの条件でも、出会う頻度が高い対象語ほど学習が促進された。

n  RWL条件では、読解のみの場合よりより語彙学習の効果が現れ、これは、aural-writtenの修正過程が、学習者の聴覚判別能力を向上させ、語彙認知を洗練し、語句の意味と形式のつながりの意識を向上させた。

n  一方で、RO条件では、語彙習得の際に読解中、文をincoherentな部分で区切るなどの行動を引き起こさせ、テキスト内の情報を統合出来ず理解が阻害させた。

 

Gaps in literature

n  付随的語彙学習を評価することは語句の形式や意味だけではなく、文法機能やコロケーションにも焦点を当てなければならず、複雑で困難なものであり、したがって、多次元でのアプローチが必要である。

n  本研究では、RWLRO条件での付随的語彙学習の結果を、語彙知識の4つの次元 (語句形式認知、文法認知、意味再生、コロケーション認知)に関して比較を行った。

n  RQsは以下の通りである。

(1)  それぞれの条件下で、語彙知識の4次元はそれぞれどの程度学習が促進されるのか。

(2)  RWLROのどちらが語彙学習を促進するか。

(3)  それぞれの条件下で、語の出現頻度によって語彙知識の4次元の語彙学習はどの程度促進されるのか。

 

Method

Participants

n  商学を専攻している60人の中国人EFL学習者で、英語を7年以上学習している人で、語彙熟達度は同程度の学習者を対象とした。

n  語彙熟達度(語彙サイズ)を測定するのには、Nation (2007)VST (Vocabulary Size Test)を採用した。

 

Reading Materials

n  Graded reader (シンプルで高頻度の語句を選定して使用している)の中で、学習者に取ってより適切なものを選定して使用することが重要であるということが先行研究 (e.g., Hill, 2013)でも言われている。

 

Target items

n  異なる2テキストを使用し、24語の対象語のうち、3.4%を存在しない擬似語に置き換えて使用した。

n  RQ3に言及するために、対象語を頻度別に分けた4グループ (1-2回・4-5回・9-10回・14-16)に分類した。

n  先行研究 (Webb, 2005)にしたがって、それぞれのグループから6単語選ばれ、その内訳は名詞、動詞、形容詞それぞれ2語ずつである。

 

Measurements instruments

Test 1 (Form recognition)

n  語句形式を問う問題では、多肢選択式問題を採用し、対象語の正しいスペリングの選択肢を一つ選び答えさせた。

 

Test 2 (Grammar recognition)

n  対象語の文法機能について問う問題では、対象語を含む文がそれぞれ選択肢として提示され、正しい使われ方がなされているものを選ぶ問題になっている。

 

Test 3 (Recall of word meaning)

n  対象語の意味について、記述で答えさせる問題で、多くの先行研究から単語の意味単独で提示されるよりも文脈の中で単語を認知する方がより易しいことがわかっているので、文中での提示に対する意味を再生させた。

 

Test 4 (Recognition of collocation)

n  対象語と意味的なコロケーションがある語を選択肢から選ばせる問題を行わせた。

 

※それぞれのテストには「わからない」等の選択肢を含めている。

 

Scoring system

n  Test3を除いて、全ての問題で正解ならば1点、不正解ならば0点とした。Test3では、正答ならば1点、許容できる回答ならば0.5点とした。

Procedure

n  RWL条件では、読解中英語のネイティブスピーカーにマテリアルを読んでもらい (90 words/m)RO条件でもRWL条件でも読解時間は70分とした。

n  学習者に対し、未知語はテキスト内でその意味を理解するように努めてほしいことを指示した。

 

Data analysis

n  4つの独立変数であるテストのスコアをFriedman testsにかけ、Wilcoxonでそれぞれ4つのテストに関するパフォーマンス評価を行なった。

 

Results

n  結果は以下の通りになった (Table 1)

 

n  全てのテストに関してROよりRWLの平均スコアが高かった。

n  学習者は、4つのタイプの語彙知識の学習において異なるレベルの困難に遭遇していたことが示唆される。

n  Wilcoxonの順位検定によって、どのタイプの語彙知識が最初に学習されたかを決定づけている (Table 2)

 

n  RORWLも結果としてForm > Grammar > Meaning = collocationとなった。

n  語彙の出現頻度に関して、4つのテストのスコアにどのように影響するかについて調査した (Table 5)

 

n  また、形式と文法に関して、出現頻度が4-5回よりも9-10回の方が。有意に平均スコアが高かった一方で、意味とコロケーションに関しては、平均スコアは高かったが有意ではなかった (Table 6,7)

 

 

Discussion and conclusion

n  RWL条件とRO条件における付随的語彙学習に関して4次元での考察を行った。

n  本研究では、RO条件ではコロケーションの習得は他の3次元の習得よりもより困難であるということが示されていたが、これは先行研究 (e.g., Webb et al (2013))での結果と一致した。

n  本研究では語句の出現頻度に焦点を当て、付随的語彙学習との関連を調査し、結果として出現頻度は形式と文法の2つの語彙知識と明らかな相関があったことがわかった。しかしながら、学習右車が構築できる語の形式に関する知識の正確な数については本研究では明らかになっていない。

n  本研究の教育的示唆として、教師が語彙習得学習を行わせる際に、未知語の頻度に注目すべきということと、EFL学習者は、語句を学習する際にどのように文脈から意味を推測するかということに関する指示を受けるべきであることが挙げられる。

 

Limitations and future directions

n  限界点として、

①中国人EFL学習者のみが対象であったこと

②学習者が語の意味を推測できる文脈を完全にはコントロールできず、変数に影響を与えてしまったこと

③精緻化された語句処理の効果について考慮していなかったこと

が挙げられた。

 

 

 

 

 

My discussion

n  本論文では、読解中のリスニングが付随的語彙学習に影響を与えるのかを4つの次元を観点として調査・考察しているが、ポイントとして語彙の出現頻度が挙げられていた。

n  語彙の出現頻度に関しては、先行研究 (e.g., Laufer, 2003)でも多く述べられていることであるがその頻度が多いほど語彙学習の対象語へのexposureが増えるため、語彙学習を促進するということが述べられている。

n  授業で私が文献発表として紹介したChang (2018)でも多聴、つまりインプット量。回数によって学習者は正しい文法性や発音のストラテジーを獲得し、リスニング理解につなげることができると述べている。

n  Chang (2018)は主にRWL条件での読解理解であり、本論文はRWL条件での付随的語彙学習について述べているがどちらの研究結果もそれぞれRO条件よりも有意に学習が促進されたことがわかっており、RWLの有用性がわかった。

n  本論文の限界点として、語句処理の効果を考慮しなかったことが挙げられていたが、それについて考慮するために語彙サイズだけでなく、読解熟達度についても考慮し、協力者を上下群の2群に分けて4 (形式、文法、意味、コロケーション)×2 (熟達度上位群、下位群)での比較を、学習者間比較で行うデザインで行ってみてはどうかと考えた。

n  本論文では、語彙サイズについて考慮していたが、論文中でも述べているように道後の意味を推測するにはやはり文脈情報と形態素情報から読み取ることが必要で (Nation, 2009)、その点を考慮する際には文章の読解理解について考慮すべきである。

 

参考文献

Laufer, B. (2003). Vocabulary acquisition in a second language: Do learners really acquire most vocabulary by reading? Some empirical evidence. Canadian modern language review59, 567-587.

Nation, I. S.P. (2009). Teaching vocabulary: Strategies and techniques. Cambridge University Press.

Teng, F. (2018). Incidental vocabulary acquisition from reading-only and reading-while-listening: a multi-dimensional approach. Innovation in Language Learning and Teaching12, 274-288.