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2018年度 異文化言語教育評価論 |
1. Write summary and comments on the textbook in about 2-3 pages. What are
the important points of this book and what did you learn and think from the
book?
リスニングをしているとき,人間の内部ではどのようなことが起きているのかを先行研究の結果をもとに詳細にまとめ上げている点が,この本の非常に良い点である。また,この本の中で学んだ点は,リスニング理解には様々な要因が関わっていること,そしてそれらを自分でコントロールする方法,つまりメタ認知ストラテジーを育成することが必要であるということである。これらの重要な点をまとめることは,非常勤で実際に指導する時や,自分自身のリスニング学習において有効である。よって,以下では,リスニング理解の全体像をまとめ,把握すること目的とする。
Figure 4.1. は,リスニング理解に与える要因をまとめたものである。
この表によると,リスニング理解に与える要因は大きく分けて2つある。1つ目は学習者要因である。またさらに,学習者要因は認知的要因と情意的要因の2つに下位分類される。認知的要因の中では,学習者がもつ言語知識からL1のリスニング能力まで幅広くカバーしており,個人内だけでも様々な認知的要因が交絡していることが伺える。
例えば,リスニングにおける語彙の影響を調査した研究がある。L2 リスニングの成功は語彙知識が重要であると考えるL2学習者は多いが,実際に語彙知識の重要性を検証した研究は少ないとされる。この限界点から,リスニングにおける語彙知識の影響を調査した研究がいくつかある。Mecartty (2000) は,スペイン語の学習者を対象に,語彙知識がリスニングとリーディングにおける内容理解に与える影響を調査したところ,語彙知識はリスニングにおける内容理解のうち14%を,リーディングにおける内容理解のうち25%を予測していたと報告している。
また,認知的要因に加え,情意的要因もリスニング理解に大きな影響を与えることが先行研究から示唆されている。例えば,Elkhafaifi (2005) は,一般的なL2教室における不安とリスニングにおける不安を区別してリスニング用の不安尺度を作成し,リスニングにおける不安の度合いとリスニングの最終的な成績との間に負の相関があることを報告した。この研究と同様に,Mills, Pajares, and Herron (2006) もリスニングにおける不安の度合いとリスニングの熟達度テストとの間に負の相関があることを示したとしている。これらのことから,リスニング指導を行う際は,認知的要因に加え学習者の情意面まで配慮する必要がある。
2つ目の要因は,リスニングの文脈である。相手が目の前にいる状況で理解に問題が生じると,リスクテイキング,面子,自己主張,動機づけなどの情意的な要因によってリスニング能力が影響を受けると考えられている。また,ubillos, Chieffo, and Fan (2008) は,5週間留学を経験した参加者と大学内で学習した参加者のリスニングテストの成績を比較したところ,予想と反して,5週間留学を経験した参加者は大学内で学習した参加者よりも高い成績を収めていなかったと報告している。この結果は,リスニングテストの内容が留学先の状況に近いinteractive listeningではなかったためだと考察している。リスニングで聞く内容がどのような文脈で行われているのかもリスニング理解に影響を与えることがこのような先行研究から知ることができる。
〜メタ認知ストラテジーの育成とその利点〜
以上のように,リスニング理解には様々な要因が絡んでいる。そのため,学習者はそのような要因と向き合いながらリスニングを行わなければならない。Hacker et al (2009) によると,そのような状況において,メタ認知を使用することで,学習者は課題解決のプロセスを通じて自身の学習をコントロールすることができるようになり、自分が学習の主役という感覚 (a sense of agency)を身につけることができるようになるとしている。ゆえに,授業内でメタ認知ストラテジーを育成することは重要である。
Mareschal (2007) は,low-intermediate
(low-achievers)とlow-advanced (high-achievers) の2群の学習者wを対象に,メタ認知教示に関する調査を行った。結果として,両群ともに実験内で使用した教育的アプローチに肯定的に反応したと示している。また,メタ認知的気付き・ストラテジー使用・L2リスニングへの自信と興味にプラスに影響することがわかった。さらに,特に熟達度上位群では、メタ認知教示のうち、ペアワークについて肯定的反応が多かったとしている。
メタ認知ストラテジーを育成する活動は様々あるが,例えば,授業内でリスニング問題を提示したのち,教師はリスニング前にプランニングの時間をとることで,これからどのような内容が流れるのかを学習者と予想することができる。このような活動を通して,学習者はリスニングの内容をある程度予測するというストラテジーを訓練することができるだろう。また,リスニングが終了した後には,どのようなメタ認知ストラテジーを使用したのかを学習者同士や教師と確認することが可能となる。このような活動を通して,学習者は様々なメタ認知ストラテジーを使用することができるようになり,リスニング理解もよくなることが予想される。
以上では,リスニング理解の全体像をまとめ,把握すること目的とし,リスニング理解に与える要因の列挙とメタ認知ストラテジーの育成の重要性を整理した。この本の中でもまだまだ研究が不足していることが述べられている。また,日本人英語学習者を対象とした研究例も少ない。ゆえに,日本人を対象とした研究を積極的に行うことが,彼らのリスニング力を上げるために必要である。
2. Report a paper related to the topic you presented in
class or another listening topic that interest you. Find a recent article from
the major journals. At the final page, you can discuss this topic, including
other papers. A report should be about 3 to 5 pages long.
Kim,
Y. S., & Phillips, B. (2014). Cognitive correlates of listening
comprehension. Reading Research Quarterly, 49(3),
269-281.
Abstract
リスニング理解のような口頭による言語の理解に関係している認知的基礎
(cognitive foundations) を理解するために,本研究はinhibitory
control,theory of
mind (ToM),そしてcomprehension
monitoringがどのようにリスニング理解および語彙と年齢に関係しているのかを調査することを目的とする。幼稚園生と貧困層の小学校に通う小学1年生合わせて156名を対象に実験が行われた。構造方程式モデリングを使用した結果,3つの認知的スキル全てがリスニング理解,語彙,年齢に関係していることが判明した。そして,inhibitory
control はリスニング理解に直接的に関係している重要な要素であることも判明した。
先行研究
n リーディングに対するシンプルな見方を主張する研究では (Hoover & Gough, 1990),口頭による言語の理解
(oral language comprehension) は,リーディング理解に必要なスキルの一つであることが指摘されている。
n そして,テキスト理解を成功させるためには一貫した心的表象を作り上げ,先行知識とテキスト内容を統合させなければならい (Gernsbacher, 1994; Kintsch, 1988, 1998)。
n また,推論
(inference) のような高次のスキルがテキスト理解に必要であることも言われている。
n このようにリーディング理解における認知的スキルの関係性は豊富に研究されているが,リスニング理解に関しては研究が蓄積されていない。よって本研究は,inhibitory control,theory of
mind (ToM),そしてcomprehension monitoringがリスニング理解 (特に物語の理解) にどのように関係しているのかを調査する。
【本研究で扱われる認知的スキルのまとめ】
|
定義 |
リスニングとの関わり |
Inhibitory
control |
the ability
to suppress a dominant response and initiate a subdominant response |
リスニング活動中に聞こえてきた情報を取捨選択し,必要な情報に注意を向ける。 |
The theory
of mid (ToM) |
the ability
to infer others’ mental states and perspectives and predict behaviors |
物語の登場人物の感情や,リスニングでは述べられていない意味を理解する。 |
Comprehension
monitoring |
the ability
to reflect on and evaluate one’s own comprehension of text. |
聞こえてきた内容の心的表象が適切に作られているかを自分で確認する。 |
研究課題
1. comprehension monitoringとToMは,物語テキストのリスニング理解とどのように関係しているのか。
2. inhibitory controlは,リスニング理解とどのように関係しているのか。
n 以上のような研究課題を設置したのち,本研究は先行研究の結果に基づき,以下の3つのモデルを仮定した (Figure 1)。
方法
参加者
n 幼稚園生と貧困層の小学校に通う小学1年生合わせて156名
n 参加者の民族的背景の内訳は,white
(65人),African American (59人),Hispanic
(7人),multiracial (22人),その他 (4人) であった。
測定
Listening
comprehension
n リスニング理解を測定するために,4つのテストが使用された。
テスト |
内容 |
the Listening Comprehension Scale of the
Oral and Written Language Scale (OWLS) |
あるセンテンスを聞いたのち,提示された絵の中でそのセンテンスの内容を一番表しているのはどれかを選択する。 |
the Test of Narrative Language (TNL) |
物語を聞いて,その内容に関する問題に答える。 |
two experimental narrative listening
comprehension tasks |
あるテキストを聞いたのち,登場人物やイベント,問題,解決などに関係する質問に答える
(本研究で自作された) |
Inhibitory
Control
n inhibitory
control を測定するために, day/night
taskが使用された。
n このテストは,子供たちが行動しようとすることを止め,その反対のことをするように求められるものである。また,day/night,boy/girl,snow/greenという3つトピックがある。
n 例えば,男の子と女の子の姿ある絵を子供に見せたのち,調査者が言った方 (e.g., 男の子)と反対の絵
(e.g., 女の子)を指すというものである
ToM
n ToMは,false-belief tasksによって測定された。このテストでは,物語を絵で描いたもの示したのち,登場人物が抱いていることや心情について質問し,子供はそれに答えるというものである。
Comprehension
Monitoring
n
Comprehension
monitoringを測定するために,inconsistency detection taskを採用した。これは,ある程度長さを持った簡単なパッセージを読んで,矛盾しているところを指摘するタスクである。
Vocabulary
n
語彙を測定するために,the Picture Vocabulary subtest of the Woodcock-Johnson Ⅲを使用した。
結果
Descriptive
Statistics and Preliminary Analysis
Relationships
of Cognitive Skills to Listening Comprehension
Discussion
n リスニング理解では,大量の言語的情報を処理しなければならないため,余計な情報を取捨する能力
(e.g., inhibitory control) が必要であると仮定した。分析の結果は,その仮定を裏付けることとなった。
n inhibitory
control は,リスニング理解に直接的に影響を与えていることが明らかとなった。このことから,余計な情報を捨てるという能力はリスニング理解に必要であること
n また,分析結果から,ToMもリスニング理解を促進することが明らかとなった。これは,リスニング理解に成功するためには,字義通りの意味を超えた意味を捉えることが求められるため,ToMのような能力が物語テキストのリスニング理解に寄与すると考えられる。
n さらに,comprehension monitoringもリスニング理解と関係していた。これは,よく構成された命題を得るためには,命題間のつながりや一貫した状況モデルを構築するための評価プロセスを通過する必要があるという仮説を支持することとなった。
3. Prepare an actual lesson plan and materials to raise
metacognition.
教科書にある実際の問題例をここに
n 目的は,リスニング問題に答えることではなく,自分がリスニングをしている時にどのようなことに注意しているのかを自覚することである。そして,他の学習者はどのようなことに注意して聞いているのかを知り,リスニングにおけるメタ認知的知識を増やすことである。