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2018年度 異文化言語教育評価論 |
Cadime, I., Rodrigues, B., Santos, S.,
Viana, F. L., Chaves-Sousa, S., do Céu Cosme, M., & Ribeiro, I. (2017).
The role of word recognition, oral reading fluency and listening
comprehension in the simple view of reading: a study in an intermediate depth
orthography. Reading and Writing, 30, 591-611. |
【Abstract】
・本研究は単語認知能力、音読の流暢性、リスニング理解が読解に与える影響を調査するとともに、読解における単語認知と聴解の間にある間接的な影響の実在性を調査した。
・264名の2年生の生徒に対して2年生から4年生にかけての長期横断型の研究を行なった。
・結果として前述の3つの項目は読解に影響を与えることがわかった。また、2年生の段階での3つの項目における数値は4年生の段階の読解を予測することができることも示された。
【Introduction】
・読解は書いてある言語との接触や関与を通して情報の統合や推論の生成、意味の構築などを行うことから複雑な能力としても知られている。
・リーディングにおける単純な視点によると、読解は単語認知と聴解の2つのスキルに依存するとされている。
・単語認知は分離された単語を読むための能力として広く定義されており、単語を速く読むことと正確に読む技術いずれも兼ね備えているとされている。
・しかし実際には正確さの方に重点が置かれ、実験などに用いられる際も正確性を測定するための指標として用いられることが多い。
・聴解の技術は個人が話し言葉に集中したり、文から意味を構築したりするため、活性化処理として知られている。
・さらにこれらの研究分野では主に英語の読み手によって実験が行われてきたが、現在では英語以外の言語(スペイン語や中国語)が増加傾向にある。
・また、長期横断型の研究では、とりわけ小学校では単語認知と聴解はおよそ2年後の読解能力を予測することができるとされている。
・近年ではリーディングに対する第3の視点として音読の流暢性に焦点が当てられており、読解能力との強い関係性があることも示されている。
・いくつかの先行研究では読解において、読みの流暢性を介した単語認知の影響が出ると示しているが、学習の初期段階においてはその影響が現れないとされている。
・学習者によっては高度な正書表記技術を持っており、その結果はより透明化するために一般化されることはないとされている。
・さらに、読解能力における単語認知、流暢性、聴解能力の相対的な寄与は読解の発達段階だけでなく正書法の深さによるとされている。
・一般的には単語認知が正書法表記の深さに対する関連性の高い数値であるが、読みの流暢さや聴解の能力も関係性があるとされる。
【The present study】
・本研究は以下の3点について検証を行う。
(1)
単語認知、音読の流暢性、聴解の技術は初期やより発達した学年でのリーディング指導において等しく読解能力を予測することができるのか
à仮説として3つの変数は直接的に読解能力に影響するが、中でも聴解については2年生において最も強く影響すると考えられる。
(2)
上記3点の観点は高学年の読解能力の初期段階の読解能力を予測することができるのか
à仮説としては3つの変数は2年後の読解技術を予測することができると考える
(3)
音読の流暢性は単語認知と読解能力、並びに聴解と読解能力の間の関係性に関係する変数なのか
à仮説として、流暢性は直接的にも影響する他、他の2つを介しても間接的に影響があると考える。
【Method】
・実験開始段階では325名の2年生からデータを得たが、2年後の再調査を経て様々なデータが除外され、最終的に264名のデータが調査の対象となった。
・単語認知の課題についてはTeste de Leitura de Paravras (TLP) が採用された。この課題は学年によって異なり、コンピュータを通して30個の単語を音読し、その単語が正しいかどうかを判定する。
・読みの流暢性を測るテストは、3分の制限時間の間に281語のテキストを音読するものである。
・物語文並びに説明文における聴解テストは学年とテキストのジャンルにより4つに区別された。それぞれのテスト形式は4つのテキストと30項目で構成され、テキストは40〜195語で構成された。
・生徒はテキストを聞き多肢選択課題の項目を聞いて答える。答えは口頭で発話するとともにスクリーン上で選択する。
・物語文並びに説明文における読解能力を測るテストはペーパーベースで行われ、紙に書かれたテキストを黙読し、それについて問われた多肢選択式課題に紙で回答した。
・物語文の読解テストは27項目、説明文の読解テストは33項目で構成され、内容が正しいか正しくないかで回答する形式をとった。
・実験は連続した2日間で実施され、1日目の午前に聴解に関するテストが実施され、2日目の午前に読解能力に関するテストが約1時間半に渡って実施された。その後TLP並びに読みの流暢さを測るテストが実施された。後半の2つのテキストはそれぞれ10分から15分で実施された。
・データ分析ではピアソンの相関分析のほか、構造方程式モデリングと最尤推定、カイ2乗検定が用いられた。
・ピアソンの相関分析では3つの変数間の関係性を調査した。
・構造方程式モデリングでは (1) 各学年における読解能力に対する単語認知、音読の流暢性、聴解の直接的な影響 (2) 2年生における3つの変数は4年での読解能力を予測することができるか (3) 音読の流暢性を介した読解能力に対する単語認知と聴解の間接的な影響
の3つのモデルが用いられた。
・今回の実験ではデータの欠損が見られたため、最尤検定が用いられ、その結果261のデータが構造方程式モデリングに用いられた。
【Result】
・相関分析の結果、全ての係数は統計的に有意であり、読解と3つの変数間で中程度の正の相関関係が見られた。
・model 1 ではいずれの学年においても3つの変数が読解能力を予測するものであることが示された。中でも聴解の変数がもっとも読解能力に対して強い影響を与えていた。
・model 2 では2年生で測定された3つの変数は4年生の読解能力の74.6%を説明することができることが示された。中でも聴解が2年後の読解能力にもっとも大きく貢献することも明らかになった。
・model 3では一般化係数などをもとにして、3つの変数が読解能力に影響していることがあらためて確認された。
・音読の流暢性に関して、聴解に対していずれの学年でも直接的な有意な関係性は見られず、また読解能力に対する間接的な影響についても見られなかった。
・一方で単語認知についてはいずれの学年においても直接的な影響だけでなく間接的な影響についても有意であったことが明らかになった。
【Discussion】
・RQ1に対する仮説として全ての変数は読解能力を予測するということを立てていたが、今回の結果から全て条件が満たされ仮説が立証された。
・先行研究に基づく3つの変数の関係性から、3つの変数はいずれも同じような影響を読解能力に与えていたことが示唆された。
・単語認知について、ヨーロッパ系ポルトガル人は4年間の指導後についても読解能力に影響を与えていることがわかったほか、その影響は減ることがないことも明らかになった。
・先行研究において単語認知が初期の学習者に対して最も強い影響を与えることが示されていたが、これらが読解を成功に導く決定的な要因であることが示唆された。
・しかし今回測定したのは単語の流暢性ではなく単語を読む際の正確性であるため、今後の研究では流暢性が異なる結果を導くかを検証する必要があると考える。
・音読の流暢性はいずれの学年においても読解能力に対して有意な影響を与えることが示され、流暢性に関する要素がSVRの中に含まれるという仮説を補足するものとなった。
・先行研究の中には読解における流暢性は独自の影響を持たないという記述を見つけたが、結果の差異は流暢性を測定するための指標の違いに基づくものであった。
・RQ2に対する結果として2年生時の3つの変数は2年後の読解能力を予測するものとなった。
・今回の調査で用いた手順が先行研究と似ていたが、今回の手順では聴解のテストを読解のテストと同様な形式にした。
・テキスト読解については、意味構築の能力を見るために記述や口頭による提示であったが、localな方法だけでなくglobalな段階あることも示唆された。
・全体の結果として、ヨーロッパ系ポルトガル人の読み手に対して、聴解の能力がその時の読解能力のレベルを予測するだけでなく小学校を卒業する段階での能力まで予測できることが示唆された。
・さらに、読解を促進するための評価や介入は言語能力の産出において特に注目される点であることを意味する。
・生徒の学習時間と指導時間に関する先行研究では聴解の活動時間と読解の活動時間を区別していなかったため、聴解の活動活動がどれくらい頻繁に行われていたのかは確かでない。
・ポルトガルの教師は言語能力を伸ばすための活動を無視している可能性も否定できないため、今後の研究ではリーディングの指導方法などについても明らかにする必要があると考える。
・RQ3における仮説に対する結果としては、単語認知の読みの流暢性に対する間接的な影響のみ有意な結果が出た。加えて、間接的な影響についてはごく一部のみに対してであり、読解に対しては直接的な影響が大きいことがうかがえる。
・読みの流暢性はリスニングとリーディングにおける理解の間の関係性に関与していない上に、聴解能力は読みの流暢性に対して直接影響しているとは限らない。
・4年生や中級程度の正書法表記の深さであれば読みの流暢性とされる文脈などから想起される少数の意味関連処理が可能となる。
【Limitation and guidelines for future research】
・限界点の一つとして変数の測定方法がある。今回は単語認知と読みの流暢性に関する数値のみを採用した。今後の調査では他の数値の測定を含めて検討するべきである。
・今回の調査の特徴として長期横断型という形式をとっており、多くの生徒が2年間の課題を完遂することができなかった。そのためサンプルの数としては多くとも、サイズとしては縮小してしまった。
・その他の限界点としてmodel 2がある。このモデルの結果が仮説の通りに結果は出たが、数値に多少の問題があった。
【Conclusion】
・一般的に読解の分散においては高確率で単語認知によって説明され、流暢性と聴解の割合はほぼ同じ程度である。
・SVRに関しては流暢性の観点を含み、中級の正書法表記の学習者間での読解の違いについて説明する際に有効な枠組みであることが改めて明らかになった。
・3つの予測変数から得られた結果は、聴解が主たる予測変数となった他の先行研究と同様であることも示唆された。
・リーディング指導の際には読む速度や正確性を生み出すことに注目するだけでなく、口頭の言語で意味の構築を行う容量まで気を配れるようになると良い。
【本研究に対する考察】
本研究は読解に対して単語認知、流暢性、リスニングによる理解という3つの観点からその関係性と影響を検証したものである。
単語認知や音読の流暢性についてはリーディングを構成する要素として存在しているが、聴解については技能を横断した形での影響となり、技能統合型学習などの観点からも参考になる論文であった。
音読の流暢性について、本研究では読解能力に直接的に影響を与えていると示唆されたが、他の先行研究においても同様な結果が示されている。流暢性についてはShimizu (2009) においてリーディングにおける流暢性の評価に関する研究がなされたが、構成要素の中でも発音やイントネーションなどとは別の枠で流暢性が図られていることから、重要な構成要素であることは先行研究からも見て取れる。
今回の研究ではlistening comprehensionが採用されており、リスニングにおける能力が重視されたが、アクティビティとしてはreading while listeningも存在する。本研究でも技能を横断した形での研究を行なっていることから、reading while listeningを行う中でどのような影響を与えるのかを考えたい。
限界点として指摘されている評価の方法についても、本研究で用いたマテリアルなどがポルトガル人向けのものであるように見て取れたため、世界共通の外部試験などをもとに作成することや、評価基準などを統一することでより一層信頼性の高い研究になることが期待できる。
また、近年では英語教育界ではCAF(complexity,
accuracy, fluency)の観点を取り入れた研究が多くなっていることから、このような分野でも活用を視野に入れるとより発展した知見が得られると考える。
【参考文献】
Shimizu, M. (2009). An examination of
reliability of an oral reading test for EFL learners using generalizability
theory. ARELE (Annual Review of English
Language Education in Japan), 20,
181–190.