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2018年度 異文化言語教育評価論 |
Introduction
・第1章で取り上げたtext-oriented、communication
oriented、learner
oriented のリスニング指導のうち、learner
oriented approachから得られるものが多くある。
・実際のリスニング活動時に学習者が自身の学習を@計画し、Aモニターし、そしてそれに対してのB評価をすること(metacognition)で、リスニング能力の向上を継続的に行うことができる。
・リスニング時のメタ認知をどのように活用するか知る必要性がある。
メタ認知ができる学習者とは
1. 第二言語でのリスニングの課題が理解できる
2. 学習について、個人または協働で考えることができる
3. 習慣的に自身のリスニングを自己管理できる
4. 高い自己有用性とモチベーションを持つことができる
5. リスニング能力を高め、それをアウトプットし、やり取りを行うことができる
・つまりメタ認知ができる学習者はself-regulated
learnersである。
What is Metacognition?
メタ認知
・自分自身の考えていることや、「認知」について考えることができる能力であり、目的に応じて、どのように情報を処理し、それをどのように管理・調整するかについて考えることができる能力である。
学習者にとってのメタ認知の役割
・メタ認知を活用する学習者は課題解決のプロセスを通じて自身の学習をコントロールすることができるようになり、自分が学習の主役という感覚 (a
sense of agency)を身につけることができるようになる。
・このa sense of agencyが学習動機を高め、学習の効果を高める。
・自身の学習を調整することができ、学習内容についてより深く理解することができる。
(Hacker
et al., 2009)
言語習得においてのメタ認知
・Wenden (1987)は、メタ認知は学習者の自律性に関係するものとし、学習者間で認知処理のプロセスに違いがあると考えた。
・Wenden (1991)は、good
language learnerはメタ認知ができている学習者で、学習に対して自律性があり、学習の手順などを自分に組みたてることができると主張した。
言語習得でのメタ認知のフレームワーク
1. Self-appraisal 認知処理についての知識
・自身の能力について振り返り、認知処理をどのように行うかを考えることによって得られる能力
2. Self-management 認知の管理・調整
・実際に問題に対して、どのように認知を活用するかを調整する役割
メタ認知のフレームワークの構成
1. Metacognitive
Experience (self-appraisal)
2. Metacognitive
Knowledge
3. Strategies
(self-management)
Metacognitive Experience
・問題に直面した時に過去にどのように、それを解決したか、経験したことのある認知の仕方や学習方略について考えること。
・直面した問題に対して深く考えないでいると、Metacognitive
Experienceは発達しない。
・学習方略を効果的に活用できたり、行われているタスクについて理解を深めたり、自分の能力を認知することに繋がる。
・Metacognitive
KnowledgeとStrategyに影響を与える要素である。
Metacognitive Knowledge
1. Person
Knowledge 学習者としての自分についての知識
・自分はどのような要因で学習が促進されるのか(あるいは失敗するのか)。
2. Task Knowledge
タスクの目的や性質、そしてそのタスクが求めていることについての知識
・リスニングの場合には、話の展開方法や文法形式、語や表現の音韻的特徴を含む。
3. Strategy
Knowledge どの方略
(strategy)を使うことがタスク達成に有効かについての知識
・Strategy Useとは違い、Strategy
Knowledge は方略を知っているという部分に限定され、それを活用できるというわけではない。
Learner Beliefについて
Learner BeliefはMetacognitive
Knowledgeの一部として扱われる。例えば、Person
Knowledgeにおいて「リスニングに対して不安を感じる」というのは学習者としての自分に対する信念
(belief)で、それを変えるには多大な時間と努力を要する。
Strategy Use
・タスクを達成するための適切な方略
(strategy)を使う能力
・Strategyを使うことができるようになると、学習がより容易になり、より楽しくなり、より自己調整ができるようになり、より効果的になり、別の新しい状況に応用することができるようになる
・どの方略 (strategy)をいつ、どのように使うか分かるということも含まれている。
Listening
Strategies の種類について(see Appendix A)
1.
Planning (Advance organization, Self-management)
タスクを達成するために必要なことを計画する
2.
Focusing attention (Directed attention,
Selective attention)
注意を向け、妨害するものを避ける
3.
Monitoring (Comprehension monitoring,
Double-check monitoring)
リスニングの結果を確認し、合っているかどうか立証する
4.
Evaluation (Performance evaluation, Strategy
evaluation, Problem identification, Substitution)
リスニングの結果に対して自身で評価する
5.
Inferencing (Linguistic inferencing, Voice and
paralinguistic inferencing, Kinesic inferencing, Extralinguistic inferencing,
Between parts inferencing)
分からない語や表現について、文脈や会話の流れから予測する
6.
Elaboration (Personal elaboration, World
elaboration, Academic elaboration, Questioning elaboration, Creative
elaboration, Visual elaboration)
文脈外の知識を使い、解釈したものに情報などを付け加える
7.
Prediction (Global prediction, Local prediction)
リスニングで得られない情報以外の情報から、次にどのような話になるかを予測する
8.
Contextualization (Linguistic contextualization,
Schematic contextualization)
語や表現が別の文脈でどのように使われるかを考え、理解の補助をする
9.
Reorganizing (Summarization, Repetition,
Grouping, Note taking)
要約やメモを取ることで理解を促進させ、記憶に定着させやすくする
10.
Using linguistic and learning resources
(Translation, Transfer, Deduction/induction,
Resourcing)
母語の知識を頼り、理解できるにようにする
11.
Cooperation (Seeking clarification, Joint task
construction)
他者と協働的に活動し、理解の深化をはかる
12.
Managing emotions (Lowering anxiety,
Self-encouragement, Taking emotional temperature)
負の感情が理解に悪影響を与えないように感情をコントロールする
Listening SkillsとListening Strategiesの違い
Skills 自動的に情報を処理する
Strategies
目的を達成するために意識的に行う
(Goal Directedness
という点においては共通点がある)
Goal→リスニングの内容を理解すること、リスニングによって得られた情報を活用すること。そもそも人間は何か目的があってリスニングを行い、この目的が理解を促進させる。
Metacognition
in Action
Learning as an individual cognitive
enterprise
・学習者は自分の認知や、学習について考えるだけでなく、考えたことに対して行動しなくてはならない。
・理解に不足があると気づき、学習方略を用いて、その穴を埋めようとする時にMetacognition
in Actionが見られる。
Learning as a social enterprise
(Socio-cultural perspective on learning)
・口頭でのやり取りの際に難しさを感じた場合には、他の人も巻き込んで助けてもらうという方略を取ることもある (e.g.,
発話を繰り返してもらうように要求する、相槌をして会話を促進させる)。
・学習者は学習方略について探求するために他と話し合い、意見を共有することで、認知的にも情緒的にも良い効果がある。
(Hancock, 2004)
L2
Listener Metacognitive Knowledge
・学習者によってどの程度のMetacognitive
Knowledgeを持っているかの違いがある。
・Metacognitive
Knowledgeは教室での指導で増やすことができる。
・リスニングが苦手な学習者ほどMetacognitive
Knowledgeによって熟達度を増すことができる。
(Cross, 2009; Liu
& Goh, 2006; Mareschal, 2007; Nathan, 2008; Vandergrift, 2002, 2003)
・Metacognitive
Knowledgeはアンケートやチェックリスト(The
Metacognitive Awareness Listening Questionnaire)で測ることができる。
Metacognitive
Instruction
Metacognitive Instructionとは
・リスニング指導時にどのようにしてMetacognitive
Approachを活用するかという視点。
・学習者としての自分、リスニング活動の性質や、リスニングの学習方略についてのMetacognitive
Knowledgeを身につけさせるための指導。
なぜMetacognitive Instructionが効果的なのか
・Metacognitive
Instructionはlearner-orientedであり、学習者が、綿密に計画された授業によって、より多くのMetacognitive
Knowledgeを得ることができるようにする。
良いMetacognitive Instruction の条件
1.授業で扱っている内容の中にMetacognitive
Instructionが埋め込まれていること
2.Metacognitive
Activityの有効性を示すことで、いつもより努力するように促すことができること
3.Metacognitive
Activityが持続するように、練習を継続させること
Objective
of Metacognitive Instruction
・なぜMetacognitive
Instructionを行うのかについて、教師が分かっていないと、効果的ではなくなる。
・Metacognitive
Activityは学習者が教師からサポートやフィードバックを得ることで、学習に足場掛け (scaffold)ができるようになる。
・他人と自身のリスニング時の認知的プロセスを明示的に話し合い、共有し、そして評価することでMetacognitive
Processを使用することのメリットが分かるようになり、次のリスニングの時にも使用したいと思うようになる。
・Metacognitive
Instructionは学習者をself-regulated
learnerにすることができる。
Summary
・メタ認知のフレームワークには@Metacognitive
ExperienceAMetacognitive
KnowledgeBMetacognitive
Strategyがあり、AとBはMetacognitive
Instructionによって教授可能である。
・Metacognitive
Approachによって、より効果的なリスニングができるようになり、学習動機や自信を高めることができる。
・メタ認知のプロセス自体は個人の認知の中で起こるものだが、協働的に行うべきである。他との共有を通じて知識や学習方略を分析し、評価することができる。
Discussion
Questions
(4)
Consider the list of strategies in the table in Appendix A. Which of these
strategies might be easy to teach and learn? Which might be more difficult? Explain
why.
(各グループ、担当のstrategyの中から教えやすいもの、教えにくいものを考慮した上で、strategyを1つ選び、それを、リスニング活動の中にどのようにMetacognitive
Instructionとして取り入れるか検討する。その際には、@どのような教材、題材、場面のリスニングなのか、Aどのタイミングで指導するのか、BどのようなInstructionを与えるのかを考える。)
授業でのディスカッションのまとめ
1.4.
Evaluationについては、学習者は評価するという行為に慣れていないことが多く、どのような基準で、自分のリスニングを評価するべきかを教える必要がある。そのため、教えるのは難しい。教える際には明示的に評価の観点やどのような部分を評価する教える必要がある。
2.5.
Inferencing を教える際には語彙の特徴や、paralinguisticなどについても明示的に教えることで、そのような情報に関して気づきを促すことができるのではないか。教えるのは大変であるが、有益な方略である。
3.12.
Managing Emotions はリスニング時のAnxietyを軽減させる効果が期待されるので、積極的に教えるべきである。リスニングの際には過度の緊張を与えるべきでなく、リラックスする方法を示すと同時に指導の際には、プレッシャーを与えないように留意するべきである。
Discussion
Questionに対する考え
(1) Based
on your reading of this chapter, what is your understanding of a metacognitive
approach to teaching listening? Discuss what you see as the relationship
between metacognitive awareness raising and strategy use.
→Metacognitive
Approachを行うことによって、リスニング活動を「テスト」としてではなく、自身の認知プロセスを振り返り、評価し、その経験を知識や学習方略としてリスニングをより効果的に行うことができるようになる。また、self-regulated-learnerとして、自律して学習に取り組むことができ、学習動機を高めることができる。
リスニングのStrategyがMetacognitive
Instructionを通じて分かるようになると、学習動機が高まり、次第にself-regulated-learnerになることで、自身のメタ認知について自律して考えるようになり、Metacognitive
Awarenessも高まる。
(2) Select
a language teaching course book along with all its accompanying resources for
listening. Examine the activities in two units of the book. Are any features of
metacognitive instruction described in these chapters? How can you incorporate
some features of metacognitive instruction into the unit, if they are not
present? What added benefits do you think learners will get from the new
activities you have included?
(3) How
important is a language learner’s self-concept? Do you think self-concept can
change with time? If so, what do you think will lead to changes and development
in a learner’s self-concept as an L2 listener? You might want to refer to
Chapter 4 to review the cognitive and social variables that could influence
listening, motivation, and self-concept.
→Self-conceptは、learner
beliefと近いものがあり、beliefについては変えることは難しいとされている。ただ、変えるための手立てとしては、self-efficacyを向上させ、学習動機を高めるために学習がうまくできたという成功体験をさせる。成功体験をさせるためには、リスニング活動においては、Comprehension
Processつまりメタ認知についてInstructionを通じて教えることで、「できる」という感覚を与え、学習動機を高めるようにする。
また、一人でMetacognitive
Strategyについて考えるのではなく、教師からのフィードバックやクラスメイトとの協働を通じて、Scaffoldを形成し、一人ではできなかったことができるようにしていく(最近接発達領域
Vygotsky 1978の考え)。そうすることでself-conceptをポジティブなものに変えることができるかもしれない。
(4) Consider
the list of strategies in the table in Appendix A. Which of these strategies
might be easy to teach and learn? Which might be more difficult? Explain why.