応用言語学特講 期末課題 人文学類3年 R.T.
The Effect of Dacritics on Kinetic Tone
Direction and Placement
Introduction
イントネーションは会話において、情報を得るうえでとても重要な役割を果たしている。L2
学習者にとって正確なイントネーションを身に付けるのは簡単ではないが、イントネーシ
ョンは学習者がネイティブスピーカーの発音に近づくために不可欠なものである。しかし、
正確なイントネーションを身に付けるのにはいくつかの障壁がある。ネイティブスピーカ
ーによると、外国人のティーチャーアシスタントの発音はポーズやイントネーションを大
げさにやりすぎて、でたらめになっていると感じられるらしい。
そこで本研究では、学習者が方向・配置の運動音の正確な選択をできるようになる方法を
探ることが狙いである。
〇先行研究における結論:音の標識付けによって話者は速度の限定された、欠陥のある発話手順を強制されることになる
〇Method
RQ
1、生徒の運動音の方向の選択において音の高低記号を用いることによる影響はどのようなものがあるか。
2、生徒の運動音の配置の選択において音の高低記号を用いることによる影響はどのようなものがあるか。
Subjects
52人の英語科に所属しているプリンセスノラ大学の2年生。平均年齢は20歳。分節、超分
節を扱う4つの音声学のコースに所属している(1つにつき1週間3時間)。2つの異なる
参加者のグループが2つの異なる文のリストを読む。グループ1がSet1をよみ、グループ
2がSet2を読む。
Material
データは学習者の普段使っているようなマテリアルの一部。それぞれのグループに下降と
上昇の音が両方ある文のセット1つずつから成り立つ。ある発話は高低の付加記号で標識
付けされており、またある発話は短い文脈手掛かりによって明確にされている。
文の例:
Set1 He looked kind of young.(fall1)(unmarked)
What a
lovely rose!(fall2)(marked)
Have you
seen him yet? (rise1)(marked)
What’s your
name again? (rise2)(unmarked)
Set2 I worked
hard. (fall1)(unmarked)
Come over
here! (fall2)(marked)
Will you?
(rise)(marked)
How was the
weather? (rise29(unmarked)
Procedure
生徒の成果は大学の研究所において記録された。生徒はマテリアルを読むのに2,3分与え
られ、文脈手掛かりと標識付けされた高低の付加記号に注意して発話を通常の速度で読む
よう指示された。音の上昇を示す記号はテキストの一番上に、音の下降を示す記号は一番下
に配置された。
Data Analysis
運動音の方向と配置を調べるための音の高低のしるしやスペクトル写真はロンドン大学ユ
ニバーシティのSFS/WASPバージョン103を使って音響的に描写された。聴覚評価もま
た用いられた。
〇Results
運動音の方向
この聴覚的分析は生徒のピッチの方向について異なる結果を生み出した。この結果
はRQ1に示唆を与えた。下の表を参照しよう。無標の下降音の場合の結果は91%となり、有標のもの(85%)よりも優れていた。上昇音においては、G1では両方において同じ結果だが、G2では有標のもの、無標のものの両方においてG1よりも優れていた。まとめると、両方のグループの上昇音の結果の平均は79%となった。
全体的に見て、G2の参加者の方が有標の運動音の方向の選択においてG1よりも優れ
ている。また、無標のものについても同様である。よって、すべての参加者のパフォーマンスとしては、上昇と下降の両方において無標の例の85%は有標の82%よりも優れている。
|
Marked(%) |
Unmarked(%) |
G1
Fall |
81 |
85 |
G1
Rise |
77 |
77 |
G2
Fall |
89 |
96 |
G2
Rise |
81 |
81 |
表1
運動音の配置
この運動音の配置の聴覚的側面の分析はRQ2に関連する。有標の発話を調べると、異なる
パターンが生み出された。表の結果において、下降音の平均は29%ととても低いが、対し
て上昇音は84%ととても高いものになった。別の視点でこの結果を見ると、G1の参加者
は運動音の配置において、無標の例全体の結果(100%)はG2の89%よりも優れてい
る。
参加者の聴覚的結果を、ネイティブスピーカーと比較した無標音の配置の例で調査する
とき、目立った違いが見えてくる。結果は下の表にある。G1の上昇音では100%とい
う結果が出ているが、G2は14%である。グループごとに見ると、G1有標の例におい
て、75%とG2の21%よりも大幅に優れている。
結果から、無標のトークンで、下降音の配置ではG1はすべての参加者が、G2ではそ
の96%が正しく選択していた。同様に、上昇音において、G1ではすべての参加者が正
しかったが、G2では81%の参加者だけだった。全体的に、下降音において98%、上
昇音において91%の正答がみられた。下降上昇の両方において、無標の例は94%と有
標の56%よりもかなり優れている。
|
Marked(%) |
Unmarked(%) |
Unmarked
tone placement as compared to native speakers(%) |
G1
Fall |
14 |
100 |
50 |
G1
Rise |
100 |
100 |
100 |
G2
Fall |
44 |
96 |
28 |
G2
Rise |
67 |
81 |
14 |
表2
Discussion
実験によるデータから、高低音の付加記号は、無標の下降音の場合、有標の時よりも6
%優れているということから負の影響を、また、付加記号に関わらず、上昇音の方向において79%であったということからニュートラルな影響を与えることがわかった。同様に、運動音の正しい場所を選ぶ時の学習者のパフォーマンスの中で48%の参加者が運動音の配置において付加記号によって正しい語のシグナルを選択できなかったことから、付加記号は学習者を混乱させかねないことがわかった。この観察は、G1にでは44%、G2では61%の参加者が正しい語を選択できなかったことから、両方のグループにおいて負の結果をもたらしていると確認できた。
したがって、この研究結果は音の標識付けは話者に遅く、欠陥のある発話手順を強制する
ことになるという先行研究の結果と一致する。普段使うマテリアルを読むときに付加記号の効果に関心を向けないと、おかしな読みを生んでしまう。明らかに上昇の付加記号のついている疑問文でも、ネイティブスピーカーは正しい読みをすることができるが、L2学習者は欠陥的な読みによって上昇するはずのところで下降してしまうことがある。
Conclusion
本分析では, 学習者のジレンマは文に与えられた発音記号を覚えることよりも、むしろ生成される彼らの声をコントロールできないというところにあることが分かった。また、無標でなおかつ短い文脈手がかりにより補完すること、音の方向と配置を示す付加符号を使用するよりも実際に優れていたことが示唆された。文脈化されたデータをみるとき、発音区別の解釈に関する広範なトレーニングを行う必要がある。
教育の場においては、イントネーションのルールを複雑に教えてしまうことによって、人工的な発音を定着させてしまいかねない。より効率的にスキルを身に付けさせるためには、言語文脈において細かい部分の音素のつながりを意識する必要がある。
本研究では, 学習者の会話生成における発音の付加記号の影響について考察を行い、外国語教育を形作るうえで価値のある心的表象の影響に焦点を当てることを試みた。しかしこの調査の結果は、付加記号の影響に限定されており、ピッチ範囲や会話解析に関しては踏み込んでいない。したがって、どのコンディションが音の方向、配置を教えるのに最も効果的であるかを明らかにするためのさらなる研究が必要だ。
考察
わたしが英語の文を読んだり、英語でスピーチをする際、英語のイントネーションがわからず、後で録音して聞いてみるととてもちぐはぐで聞き取りにくい発話になってしまうことが多い。本論文で行われた研究において、英文を読む際に高低の付加記号を付けることは発話者に負の影響、もしくはニュートラルな影響を与えるということが明らかになった。確かに、単語に発音記号がつくことでそこだけに意識がいってしまい、語と語のつながりや文脈といった要素の意識があいまいになり、結果的にちぐはぐな発話になってしまう現象が起こることが考えられる。しかし、英文を読む際にイントネーションをなおざりにしてしまっては、ネイティブスピーカーと会話をするときにうまく伝わらない場面が出てくるだろう。それでは、ネイティブスピーカーの発音に少しでも近づくにはどのような方法があるだろうか。ここにいくつかの英語教育における示唆を与えよう。
・ネイティブスピーカーの発音を多く聞き、彼らの発話を耳に慣れさせる。
・単語を覚える際、綴りや意味だけを意識して覚えるのではなく、単語のイントネーションも意識して同時に覚える。
・発音記号が付加された英文を読む際に、音素のつながりを意識するようにトレーニングを行う。
現在の小・中・高校の英語教育を見直すと、授業の内容やテストで問われる問題において、文法・単語の意味や、長文の文脈理解に特化しすぎている傾向があるように思われる。確かに、一般的な学校の定期テストや各カテゴリーの試験において、生徒の発話が問われる場面はあまりない。しかし、イントネーションのようにある程度「慣れ」が大切になってくる要素においては、なるべく初期の段階からネイティブなものに触れさせていく必要がある。これからの英語教育においては、普段の授業において積極的に生徒の発音の正確さを意識したトレーニングを行うべきだと考える。