Developing Second Language Oral Competence Through an Integrated Discursive Approach: The Conceptual Framework of the Project and Results of a Pilot Study

Joanna Gorecka, Weronika Wilczynska and Bernadeta Wojciechowska

発話行為論発話には必ず発話者の意図・目的が存在しているという考え

形式会話の様態のことであり、明示的・暗示的レベルで発話行為を示す

メディアラジオやテレビなどの情報を提供する媒体

  ex.メディアを活用した英語学習=インターネットで講義動画を見る

【概要】

本論文の目的は上級者向けの口頭の(スピーキング・リスニング)コミュニケーション能力を向上させる指導計画を提案することである。Integrated Approach(統合アプローチ; 4技能を組み合わせた指導)の指導法をヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Language: CEFRL)B2/C1(上級学習者)に向けて開発することを、この計画では目標としている。これはもともと、3つの次元を統合して生徒の個人的な外国語の向上を目的としていた。その3つの次元は、(1)半公共のコミュニケーションの文脈における口頭の能力、(2)メディアにおける批判的・客観的評価能力、(3)学ぶ外国語が話されている国の社会・文化問題に関連した知識である。

【導入】

l   リスニングの学習では「方略」と定義されるタスクが用いられる。この「方略」は単に関連する情報の記憶、選択、再生なのではないかという批判がある。

l   リスニングの目標は、話者が会話に相互作用的に働いていることや会話の結果に影響を与えていることを無視しており、文化的内容や議論の進め方などを質問する余地を残している。

l   生徒は記事を書いたり、インターネット掲示板を使ったりするライティングを通してリスニングの準備をすることが求められている。

l   このような学習は関連する様々な知識を動員して行われるため、L2上級者はICT機器を活用するべきである。

l   ICT機器を用いた学習の問題点は、人間相互間のコミュニケーションやメディアを通したコミュニケーションの科学をどの分野で実行するかが問題である。(談話分析、言語学的系統、社会学etc.)

l   リスニング力を向上させるようなどの分野でも筋の通ったモデルを早急に構築することが求められている。

フランスのラジオを分析することで、理論的・経験的な研究を行う計画が立てられた


 

【計画の論理的な土台】

l   社会学・認知学の相互作用説学者によるダイアローグ的特徴を強調するアプローチは、会話分析を元にし、形式のような大きな枠組みを用いずに会話の最小活動に焦点を当てている。

l   口頭談話の形式を取り巻く要因(指導者、指導者の談話の与え方etc.)を強調するアプトーチは、文体論や修辞学を元にし、テキストの著者や相互作用を行なっているペアよりも受け手の再生に焦点を当てている。

l   これら二つのアプローチは相互排他的ではなく、相互依存的に発展してきた。

l   これらのアプローチは、情報交換や意味を読解する機械的な理論よりもスピーキングの過程に効果的である。

【相互作用・対話的口頭談話の本質】

l   どんな口頭による活動も誰かに向けて社会的地位や精神状態を考慮に入れているため、相互作用であると一般的に言われている。

l   相互作用が働くのは顔を突き合わせたコミュニケーションに限定するべきである。
(Kerbrat-Orecchioni, 2005)

l   この定義によると、相互作用的・対話的口頭談話である「交渉」という発話行為を行う際には、@談話の組み立て(発話権の交代、会話構造の順番)A対人関係(交渉の立場、役割、身分)B意味論的意味(交渉の話題、意図、目的、価値etc.)3つのレベルが相互依存的に関係している。

l   コミュニケーションの本質は、相互行為としての会話の中に存在する「目的」を遂行することである。(Taylor, 2010)

l   相互行為的な発話の特徴を考慮に入れないと、上級者レベルのコミュニケーション能力の発展を阻害する可能性があるため、与えられた問題に関する様々な観点を考慮した形式を理解・練習する必要である。

【相互作用力 口頭形式の特徴】

l   「形式」を定義づける際に、対話参加者の弁証法的な相互行為にすべての「形式」が基づいているという考え(Bachtin, 1986)を考慮する必要がある。

l   「形式」には高度に含意されたパターンと、言葉で現れるパターンが存在する。

l   交渉は言葉で行うため「会話の形式」(言葉で現れるパターン)であるが、必要最低限の言葉しか使われない「儀式的形式」(高度に含意されたパターン)である。

l   メディアの形式は高度に含意されたパターンであり、学習者が意味交渉タスクなどに集中することができる。

l   その特徴に合わせた形式を用いることが求められる。


 

【メディア形式とそれらのモデルとしての価値】

l   生徒が文化に与えられた典型的な形式(社会言語学的・語用論的知識)を学習できるように、学校教育における口頭活動は実生活で行われている具体的なコミュニケーションをモデルとするべきである。

l   生徒が社会人になった時にICT機器を活用できるように、メディア形式を取り入れるメリットは大きい。

【上級L2学習者の口頭能力を向上させること:この計画の仮定と目的】

上級L2学習者の口頭能力を向上させるために必要なこと

l   口頭によるL2の理解に基づいて練習活動を行うこと

l   社会文化的文脈を考慮に入れるだけでなく、十分に形式に応じ、適切にその形式を理解すること

l   非公式の場面におけるコミュニケーションを観察することで、それぞれの形式を理解すること

l   与えられた形式で、発話がどのような影響を持つのかに気づくこと

l   含意された文化的・認知的内容を解釈すること

l   上級学習者である大学生はインターネットを介して学術的なやりとりを行う

l   情報リテラシーを高める

l   社会的・文化的問題に幅広く知識を持ち、批判的に発信する能力を目標とする

【目標と研究デザイン】

《目的》

生徒の口頭コミュニケーション(OC)能力を向上させるため、はじめは理論的に、後で経験的に談話能力と情報リテラシーを高める。

《研究デザイン》

(1)  携帯に入っているような簡単に手に入るフランス語とポーランド語の対話的なラジオ番組を用いる

(2)  意見や見解を表現することを目的とした議論活動に参加するための生徒の準備を目的としたコミュニケーションの効率を測定する

RQ

l   比較的生徒の気づきを高める可能性のある指導的なラジオ番組を選択し、L2(フランス語)OCを刺激する要因を見る(間接的にL1であるポーランド語も刺激する可能性がある)、すなわち半公的なコミュニケーションにおける相互作用的・議論的手続きを獲得する

l   さらに上級のレベルに到達するために電子機器を用い、タスクに基づいたアプローチで自己研鑽する


 

《より具体的なRQ

l   上級学習者のOCを育成する際に、学習者のその後に続く教育的メディア形式の可能性は何か。

l   上級学習者にとってメディア形式は談話モデルをどの程度与えられるか。

l   複雑な内容の全貌を掴むためにはどの能力が基本的なのか。

l   否定的要因の様々な種類はどの程度談話・形式に対する気づきを妨げるか

l   社会文化的文脈に関連して、潜在的な議論的能力の発達は何か。

フランスの文献学を専攻するMAの生徒(1, 2年生)20名を対象に実験を行なった。

【ポッドキャストを用いたOCの発達:選択基準】

フランスの公的ラジオであるRadio Franceより、携帯に入るメディア形式のポッヂキャストを最初の実験では用いた。実験はラジオの生放送で相互作用の形をとる議論を用いた。議論的な特徴づけは別にして、この放送内容は学習者の文化的な知識を発達させるものであった。このような種類の中身は現代的で複雑であり、しばしば目標言語の社会で議論の対象となる問題である。

メディア形式の教材を選択する際にはコミュニケーションを取り、知的な活動をするような生徒の気づきを刺激するものでなければならない。また、生徒が将来、現代の学術的なコミュニケーションや職業的な相互作用で難題に出会った時の準備となるようなものであるべきである。これらのことを踏まえて以下の基準を提唱する。

l   言語学的使用域:注意深く、かなり公式であるか。「モデルのような多様性」があり、「安全」である語彙を用いているか。

l   現代的な問題・話題:教師と生徒の間の興味のギャップを埋めることができるか。

l   様々な観点・アプローチ:生徒の知識だけでなく、批判的思考力を発達させるか。

l   相互作用の質:学習者の気づきを高める事実か。例:社会的表象・知的流行・文化に対する適切な態度

l   談話計画の注意深い観察の機会と特定の形式・談話の種類の特徴:教育的な内容だけでなく、高いレベルを学ぶことができるか。

l   知的な質:番組選択には少なくとも中等教育を受けたレベル以上の視聴者を対象としているか。

l   二言語の放送で比較・類似の構成を取っているか。

l   どこでも、いつでもポッドキャストにアクセスできるか。

生放送中の議論を教材にすることは様々な利点が存在するが、これらの基準を完全に満たし、上級L2学習者の公式の教材となるものはかなり少ない。


 

【予備研究の結果】

予備実験の主な目的は、教材として選ばれた放送に由来する談話モデルや議論の手続きの可能性を決定することである。さらに、この計画の準備段階では、学習者が使う学習方略を明らかにすることに焦点を当てていた。同時に、主に文化的文脈において、含意に関して学習者が使う学習方略を評価した。

3週間、学習者は自主的に35?45分間、興味のある内容を放送で勉強した。勉強した彼らのタスクは指導者によって作られた質問事項を埋めることであった。それぞれの質問事項はリスニングタスクの3段階に関して13の質問が含まれている。

l   前リスニング段階では3-4の質問に焦点があり、放送で議論される問題の導入を目的としている。学習者が放送の中身について考えることを奨励しているが、学習者の知識を体系化し、拡張することも目的としている。

l   理解を確かめるために放送の内容をより詳しく語るリスニングの段階では5-6の質問がなされ、一方で内容の訳と評価が与えられる。

l   生徒が選んだ放送の理解度を測定するための対話方式のポストリスニングの段階では2-3の質問がなされ、社会文化的知識を身につけることと放送の会話を聞くことでコミュニケーション能力を養成することが目的とされる。

3週間の学習が終了し、続く2週間ではクラスで学んだことについて議論を行った。

結果、生徒は口頭コミュニケーションの技術が上達し、interactive(会話参加者が共同で意味を形成していく。その際に会話参加者のコミュニケーション能力に対する自信や与えられた議論に対する自分の考えや地位が影響を与えている。) discursive (会話参加者の形式的規範に対する熟達や能力が社会的・談話的身分や相互関係に影響を与えている。) という二つの手続きが存在した。

【広い理解の発達】

13のリスニング課題は生徒が10?40分の放送に忍耐強く聞き続けることができることを目標としていた。また、この実験では生徒に議論的な対話の形式に目を向けてもらった。実験の第1週ではフランスの半公式の議論の形式を経験した。様々な形式と内容を聞くことで、生徒は以下の能力を習得した。

l   議論の形式で、話し手の次の発話を予期し発話を遮る能力

l   ジャーナリストの形式で、話題転換のために議論の主題を明らかにする能力

l   相互作用の観点から社会的文脈に近づく能力

(例:どこの方言か分からない発話を聞いた際に、会話参加者の出身を明らかにする)

l   一貫性があるか等の基準に基づいて発話を批判的に評価する能力

l   その放送が聞く価値があるかどうかを確かめる能力


 

【予備研究の結論】

予備実験の目標は大きく2つあった。

(1)  様々な社会文化的問題を扱った10?40分の長いラジオでの議論を聞く際に、学習者が取る理解のための最初の方略は何かを決定すること

(2)  4技能を統合した統合アプローチを適用することによって、これらの方略を発達させること

実験に参加した学習者は長時間ラジオを聞く経験と口頭コミュニケーション能力を向上させるためにラジオを使用したことがなかった。ラジオを使用する経験がなかったため、放送を選択することに困難を感じ、意見形成をする能力に影響を与えてしまった。また、生徒のリスニング方略が教育的な志向性を持ったままであった。このことは放送の質問に特徴付けられている。つまり、生徒はリスニングに答えることを目標とし、自分の意見を形成することまで至らなかった。

学習者が放送に慣れると(1)に対する結果が見えてきた。学習者が主に取る方略はアクティブラーニングと呼ばれるものであり、学習者個人の疑問や疑い等が関係している。また、学習者は文脈に含意された内容を把握する際に困難を感じることがわかった。つまり、発話者の発話に含まれていない社会的表彰を理解することは難しい。

実験は長期間にわたるものであったため、学習者は次第に発話に含意されていることにも理解が及ぶようになった。また、学習者は常時ポッドキャストで学習を続けることでスピーキング・リスニング能力が向上した点、ディベートの際に社会問題など対する知識を深めることができた点を指摘している

以下、本論文に対する敲者のコメントである。

論文内ではメディアと口頭によるコミュニケーション能力に限定されていたが、より広い視点でのコミュニケーション能力とコミュニケーション能力に必要な社会言語能力についてポライトネスを中心に考察する。

まず、コミュニケーションは「2人以上の人間が何らかのメッセージを交換して意思疎通すること」と定義づけられるだろう。また、コミュニケーションにはメッセージの受信行動(decoding)と発信行動(encoding)が含まれ、伝達する媒体や内容などは多岐にわたる。さらに発信者と受信者の文化が共有されているか否かでコミュニケーションの形態に影響がある。この定義に従うと英語の授業における口頭の構文練習や暗誦などの練習はコミュニケーションの準備練習にはなるが、コミュニケーションそのものではない。従来の英語のコミュニケーション活動は、例えば教室外の天気のように、疑問を発する教師もそれに応える生徒もすでに答えを知っている問いかけである事実疑問文を使った擬似コミュニケーション活動であった。コミュニケーションを成立させるためには、言語を効果的に使うための知識やそれを実際に使える能力が必要であり、これをコミュニケーション能力と呼ぶ。Canal(1983)は、コミュニケーション能力を文法能力、社会言語能力、談話能力、方略的能力の4つに分類した。

第二言語を使って異文化を持つ人々と交流する際に、社会的・文化的要因が第二言語習得に及ぼす影響を無視することはできない。文化的要因の一つにポライトネス・システムがあげられる。ポライトネスとは、相手とのコミュニケーションを保つために、話者が相手に示す配慮のことである。母語の文化的知識に関しては母語の干渉が大きく、それゆえ第二言語でポライトネスを適切に表現することは難しい。ポライトネスに関連する物事の負荷、社会的距離、人間関係などは社会文化的に決められるものであり、目標言語の社会・文化において、これら3つがどのように認識・評価されるのかを理解するまでには時間がかかる。例えば、日本人は褒められた際に「いえいえ、とんでもないです」と言って否定する傾向があるが、アメリカでは褒められた際にそれを受け入れるのが普通である。逆に日本語を学ぶアメリカ人は「日本語、上手ですね」と褒められた時には「いえいえまだまだです」と応えることがよいとされている。このような文化的背景に根ざした言語転移の問題は「語用論的転移」「社会言語学的転移」と呼ばれ、これらの転移には文化的知識が大きく関係している。

また、アメリカの買い物の場合、店員さんは気さくに話しかけるが、日本の店員さんは「いらっしゃいませ」以外の挨拶は客とコミュニケーションを取ろうとしない。ポライトネスの観点から考えると、日本人が日本のスタイルでアメリカで買い物をするとアメリカ人の店員さんはポジティブポライトネスを、客である日本人はネガティブポライトネスをそれぞれ侵害されてしまう。このように第二言語学習者が母語のポライトネス・システムを、目標言語を使う際に持ち込んでしまうと、対話者間で誤解が生じることがある。さらに、第二言語学習者がポライトネスを重視しすぎることで逆効果を生んでしまう場合もある。上司に対してI would you like to と使う際に、依頼する事柄が相手に与える負担の重さによっては、相手のネガティブポライトネスを侵害して「何と横暴なやつだ」という誤った印象を与えてしまう可能性がある。またそれとは逆に、友人に対して相手がたやすくできることを丁寧すぎる形式で依頼した場合、友達だと思っていた相手のポジティブポライトネスを侵害して「そんなに遠い関係だったのか」「なんて水臭いんだ」という誤った印象を与えてしまう可能性がある。

以上のような文化的知識は意図的な学習が必要であるが、学習者にこのような文化的知識を教える際に学習者に母語話者の文化を押し付けることになるという問題点がある。しかし、文化的知識であるポライトネス・システムを知らずに、母語に基づいた言語的・文化的行動をしてしまったために学習者が損をすることは避けなければならない。教師はこのようなことを考えて生徒を指導する必要がある。

 

参考文献

「外国語学習の科学?第二言語習得論とは何か」白井恭弘(2011) pp.21-24

「第二言語習得研究から見た効果的な英語学習法・指導法」村野井仁(2012) pp.135-151

「新学習指導要領にもとづく英語科教育法」望月昭彦, 久保田章, 磐崎弘貞, 卯城裕司(2016) pp102-111