応用言語学特講 期末課題

Correlates and Predictors of L2 Willingness to Communicate in Polish Adolescents

人文学類3 Y.N.

 

Abstract

  L2におけるWTCの概念は、「L2を用いて特定の人と特定の時間に談話に入る準備ができている」というものである。

  本研究の基本的な目的は、ポーランドの英語学習者である青年の中等文法学校でのL2 WTCを形成する予測変数の役割を調査することである。

 

Introduction

本稿の目的は、生態学的枠組みの観点から見たポーランドの外国語教室の状況におけるWTCの現象を分析することである。

 

Willingness to Communicate

言語の使用は、話す行為の個人の好み、コミュニケーション状況へアプローチするまたは避けるという一般的な傾向によって誘発される。しかし、L2学習は積極的に言語を使用することを要求されるため、学習を複雑化させる。現在のコミュニケーション研究の主要な調査の1つは、このような強制によって生じるコミュニケーションの不安と回避の形に関連している。

 

Study

  本論文の基本的な目的は、ポーランドの中等文法学校の環境において、L2におけるコミュニケーションの意欲とその相関関係と予測変数を中心に、経験的研究の結果を提示することであり、学習者の生体システムを取り巻くさまざまに形成されたシステムに由来するL2 WTCの最も重要な相関と予測変数を調査する。

  変数となるモデルの中心の特性

→、性別、居住場所、学習の指向性(職業、旅行、友情、知識)、教師の支援、成績、言語不安、FLスキルの自己認識レベル

  この観点から、以下の仮説を提唱する。

HWTCの最も強い予測因子は、自覚的なFLスキルと言語不安レベルである」

 

Method

◯実験参加者

この研究の参加群は、ポーランドの中等文法学校の621人(236人の女児と225人の男子)の生徒で構成された。平均年齢は16.5歳であり、英語能力は初級から中級レベルである。都市部学生408人(都市から286人、近隣の町から122人)と、農村地帯から213人で構成されている。

◯マテリアル

  年齢、性別(1-男性、2-女性)、居住地(1-:最大2500人、2-:2500~50000人、3-都市部:50000人以上)を変数としたアンケートを用いた。

  4つのスキル分野(speaking,reading,writing,listenig)の中で授業中にコミュニケーションを開始する意欲、教室外でコミュニケートする意欲、言語学習の志向、教室での外国語不安、教師の支援、外部(成績)と内部(外国語能力の自己評価)の2種類の評価、FLのスキル(すなわち、聞き取り、書く、読む)の自己認識レベルを見積もるスケールなどの変数をリッカート尺度等を用いて調べた。

◯手順

この研究では、2種類の変数が同定されており、従属変数は、教室内外のWTC測定値(WTCIおよびWTCO)の集計値である。独立変数は、性別、居住地、言語学習の指向性、教師の支援、言語不安、FLスキルの自己認識レベル、成績によって構成されていた。

 

Results

WTCスコアを独立変数の結果と相関させ、結果は、すべての変数がWTCと統計的に有意な相関関係にあることを明確に示した。また、WTCレベルを評価するための独立変数の予測値を計算するために、段階的重回帰分析を行った。

Discussion

◯変数の相関に関して

実験のために選択されたすべての変数が学習状況に根ざしているため、L2 WTCと有意に相関していることを示した。

◯仮説に対する検証

  実験の結果、L2 WTCレベルの最良の予測変数は、FLスキルおよび言語不安スコアの自己認識レベルであることを証明した

→学生が自分の言語能力を高いレベルで評価した場合、WTCレベルも高くなることを予測することができ、そのような学習者は教室の内外で外国語でのコミュニケーションを開始することに熱心である可能性が高いと推測することができる。

→言語スコアに不安を覚える学生は、語学クラスや話す活動を避けたり、話すことを躊躇することを余儀なくされるかもしれない。

  教師のサポートは、L2 WTCの若干弱い予測変数であると思われる。

→理解、共感、一貫性を示すことからなる教師の支持行動は、語学学習プロセスにおける否定的な感情に対処するためのアイデンティティーを形成するのに役立つ。

  言語学習の指向性は、より弱いL2 WTCの予測変数を構成する。

→有効的な指向性:英語を話す友人を持つ、より多くの知識を知ろうとする

  学習者の性別と住居の人口特性は、L2 WTCの非常に弱い予測変数であった。

L2 WTCを形成する予測変数

  最も強いものは、自己認識されたFLスキルと言語不安レベル

  次いで、最終的な成績と教師の支持

  最後に、「英語を話す友人がいて、もっと知識を獲得したい」という言語学習の指向性

→これらの変数はすべて、学生の学校のマイクロシステムに由来しており、ポーランドの青年のWTCは主に、学校外で外国語を使用する機会がほとんどないため、教室の状況によって形成されているという事実によって説明可能である。

 

Conclusions

  高いWTCレベルは、学校、組織、社会的接触など、さまざまな状況でより良い評価と相関している。このため、現在WTCは第二言語教育の主要な目標であると考えられている(MacIntyre et al.2003)。また、教師は、指導と支援がコミュニケーションへの不安を減らし、コミュニケーションに対する信頼を築くことの鍵となる。したがって、外国語を教えながらより高いWTCレベルを誘導する行動を実行することが最も重要である。

  コミュニケーションは人生の重要な側面である。実際に、この調査の結果が示唆するように、学習者のコミュニケーション意欲は、主に彼らの自己認識されるFLスキルおよび言語不安のレベルに基づいて予測することができるが、FLの教育者は、学習者の自信を高め、言語の不安を軽減する新しい方法を発見する必要がある。

 


考察・感想

 研究結果は、外国語能力の自己認識と言語不安のレベルがL2 WTCの最も強力な予測で変数であることを示しており、二次的に重要な変数は、最終的な成績と教師のサポートだけでなく、知識や友人への志向であった。対して、性別、場所または住居は非常に弱い変数を示した。

 外国語能力の自己認識と言語不安のレベルがL2WTCの予測変数として大きな役割を果たすことは自分の感覚からも理解しやすいが、WTCを形成する変数として考慮に値しないものに性別が入ることが、感想としては意外に思われた。中高校生あたりの年齢で考えると、男子であればあえて反抗的な態度をとったり、積極的に物事に取り組む姿勢を周囲に見られるのを恥ずかしがり消極的であったりする、といったイメージを。対して、女子では男子よりも比較的素直に物事に取り組んだり、堂々と取り組んだりするといったイメージを持っていた。ともにジェンダーステレオタイプであるが、そのようなイメージのために、性別は第二言語コミュニケーションの意欲に関わる変数として、それなり大きな役割を果たすという思い込みをしていた。

 外国語能力の自己認識と言語不安のレベルがL2WTCの最も強力な要因になるという結果から、日本の英語教育に焦点をあてて考察する。日本人の第二言語学習者も自己の能力の認識と言語不安のレベルでコミュニケーションの意欲が大きく変わると思われる。そのため、会話のツールとして外国語を習得する際に重要なのは、学校の学習環境であるだろう。講義で取り扱ったディスカッションポイントでも、スピーキング活動を行う際に生徒が英語を用いることに抵抗感や拒絶感を覚えないかどうかといった話が度々出ていたため、日本人が英語学習で気にするポイントは自身の英語能力が低くないか、通じるかといったスキルのレベルや言語不安である。それらを考えると、本論文の結論でも述べられていた通り、教師が作り上げる教室の雰囲気や教師の支援が学習者の意欲に大きく影響するため、コミュニケーションに対する信頼を築く鍵として、人と人とのコミュニケーションそのものに楽しさを見いだせる場を提供すること、コミュニケーションを創出する空間を生み出す力量が教育現場の教師に求められていると考える。

 

ディスカッションポイント

◯性別がL2WTCの大きな変数であると思うことはないか

・女子の方が、積極的に発言をおこなったりするイメージによって、性別による差異があると思われなくもないが、あくまでクラスの雰囲気や個人のキャラによるイメージ、またジェンダーステレオタイプが強く働いているだけで、全体をひとつひとつ見ていくと大きな因子になるほど明確に差があるわけではないだろう。