応用言語学特講Ta

人文学類3年 K.S.

3.  本文の内容理解を進める:中学校

 

 ただ和訳を与えるのではなく、生徒が教科書の内容を深く理解し味わう段階へ持っていくことが大きな課題。そのために、自ら考えながら発話させるQ&Aやオーラル・インタープリテーションを通して、内容を生徒の心にしみ込ませる活動が有効。

 

3.1  背景知識を豊かにするためのQ&A(一斉)

 教科書で扱われる題材が難解な時こそQ&Aを通したインタラクションが効果的。その際は、比較的易しい表現や、単語のみでも答えられる質問にとどめ、英語より内容に注意を向けさせる。

 

3.1.1  教科書にある質問を利用した指導例

 「キング牧師のスピーチを聴くためにリンカーン記念堂の前に集まった群衆の写真」とともに、最初に掲載されていた2つの質問

 Q1. What do you see in this picture?

  Q2. Do you know anything about the history of the United States? 

→日本語で答えてもよい

〇教科書で省略された部分を補ったり膨らませたりすることができる。

 

3.1.2  教科書の対話文を利用した質問と指導例

 「1962年当時の水飲み場の写真」とともに出てくる対話文、それを簡単にしたQ&Aを与える。

  Q3. What is the man doing?   (A. He’s drinking water.)

  Q4. What does the plate say?  (A. For colored only.)

・教科書は使わず、その写真のみを見せながらQ3,Q4を質問する。

・バスの座席や公園など、肌の色で分けられていたことを示す当時の写真も追加して見せる。

〇生徒自身に考えさせ、関心をつかむ。

 

3.1.3  ピクチャーカード・映像を使った質問と指導例

 プラスアルファで、リンカーンの写真と以下のような質問を用意する。

  Q5. Do you know the man’s name?   (A. Lincoln.)

  Q6. Who is Lincoln? What did he do?   (A. President. 奴隷解放。)

・キング牧師・オバマ大統領の写真も順に見せながら同様の質問し、リンカーン、キング牧師、オバマ大統領とつながる歴史の流れを概観する。

・ニュースやインタビューの映像を見せたり、そのスピーチをCDか教師の音読で聞かせる。

<留意点>

・生徒がわからない単語のフラッシュカードを使う。 例) 大統領-President

・英語だけでやりとりする流れを断ち切らないことが大切。

 

3.1.4  生徒の心を動かす質問と指導例

 最後に以下のような質問をする。

Q7. Are we colored? Are Japanese people colored?

 この質問によって、今まで学習してきた「人種差別」というテーマが生徒にとって人ごとではなくなる。

 

3.2  理解の確認のためのQ&A(ペアワーク)

 背景知識を豊かにするためのQ&Aは、簡単な質問を用意したが、理解の確認のためには、教科書の進出単語や文法項目を「正確に」アウトプットさせる必要がある。

 自信がない生徒(ほとんどの生徒が該当)は一気に消極的になるため、全体の前での発話でなく、ペアワークを取り入れる。

・教材から、難易度の高くない質問が書いてあるワークシートを用意する。

・しかし、Q6だけは、答えが1つではなく、さらに答えが教科書に書いてあるわけではないオープンエンドの質問である。

  Q6. Why was the boycott successful?

→黒人がバスを利用しないというボイコットが成功したのはなぜか生徒自らに考えさせる。

・このようなオープンエンドの質問は、背景知識や物語の内容を真に理解していなければ答えられない。

・「意味を乗せた発話」に、英語と日本語の区別を感じさせず入っていく、そして教科書の文と即興のスピーキングとの境界をなくしていくための指導。

→教科書にとらわれず、自分の考えを英語で表現する能力が身につく

 

3.3 コンテキストを発展させるためのQ&A(一斉)

 コンテキストを発展させる段階では、再度正確さより内容に意識を向けさせたいため、ペアワークから一斉へ戻す。

・オバマ大統領の就任演説の映像やキング牧師のスピーチを原稿とともに聞かせる。

・そのスピーチに関するQ&Aを行い、理解を深める。

<留意点>

・実際の音声は聞き取りにくいので、教師が音読したり、ネイティブスピーカーによる録音CDを使ってもよい。ただ、迫力と観客の熱狂は本物の映像で味わわせたい。

・難しい語彙があっても原稿を見て内容を類推しながら答えられるような質問にする。Q&Aをする中で自然と大意が把握できることが望ましい。

・英語だけではなく、日本語でも討論を展開し、生徒たちの思考を深めさせる。

 

3.4  インテイクのための音読・暗唱

 今までのQ&Aによる指導を通し、教科書の内容を理解させた上で、最後に挑戦させたいのがインテイクのための音読・暗唱。

 

インテイク・・・明示的知識やさまざまな学習活動によって気づき、理解されたインプットのこと

・迫力あるスピーチや演説の内容への共感は、提示された英語表現の正確な知識理解と意

味の双方を身体に沈めることに直結する。

 

3.4.1  スピーチ音読指導例(グループ)

〇音読発表 例)キング牧師のスピーチの一部

・正確かつ情感豊かに読めるよう、教師自身のオーラル・インタープリテーションをモ

デルに一斉音読させ、続いて個別練習、個別指導をする。

・予告した日に、4〜5人のグループ内で音読発表会をし、発音・声の大きさ・情感

の豊かさなどを評価用紙によって相互評価させる。

 

3.4.2  スピーチ暗唱指導例(個人)

・キング牧師、リンカーン、オバマ大統領らのスピーチから、自分で暗唱したいスピーチ 

 (及びその箇所)を自由に選ばせる。

・暗記できた生徒は、休み時間や放課後に直接教師のところへ来て暗唱する。

 

 

◎ディスカッションポイント

1.背景知識を豊かにするためのQ&Aや、理解の確認のためのQ&Aなど様々なQ&Aを繰り返すことは、生徒の内容理解にどのように役立っているか。

2.生徒の心を動かす質問や、答えが教科書に載っていない質問をすることで、どのような効果が期待されるか。

 

 

 

◎ディスカッションポイント-まとめ

1.背景知識を豊かにするためのQ&Aや、理解の確認のためのQ&Aなど様々なQ&Aを繰り返すことは、生徒の内容理解にどのように役立っているか。

 

Q&Aがあることで、生徒はその答えを見つけ出そうと、本文の内容をしっかりと理解

しながら読む。

  ---実体験として、Q&Aがない場合、内容を理解しないまま、ただ英文を読んでしまうことがある。Q&Aがあると、「答えを見つける」という目的が明確にあるため、集中して本文を読むことができる。

Q&Aがあることで、本文の拾い読みを行ったり、何回も繰り返し読み、文章の前後関

係や論理を理解する力、背景知識を結びつける力が身につく。

Q&Aを繰り返し行い、答えを導き出すことで、生徒はその本文の文章の大意を自然と

把握することができる。

  ---どのようなQ&Aを生徒に行わせるか考えることが教師にとって重要。

   生徒がQ&Aを通して、本文の要点を理解できるようなQ&Aにしなければならない。

 

2.生徒の心を動かす質問や、答えが教科書に載っていない質問をすることで、どのような効果が期待されるか。

・本文の内容を理解した上で、生徒自身に自ら考えさせることによって、アウトプットが

進み、より知識が身につく。

 ---実体験として、ただ教師が話したことを聞いて得た知識よりも、自分自身で一生懸命考えて得た知識のほうが何倍も記憶に残りやすい。

・このような質問をすることで、学習した本文のテーマを生徒に身近に感じてもらうこと  

 ができる。

→生徒の興味・関心を引き出す

→生徒の興味・関心を引き出すことができれば、生徒の能動的な学習姿勢を維持することができる。

→生徒が能動的に学習すればするほど、生徒が自分自身で考えるようになるため、より知識が身につきやすくなる。

→〇プラスのサイクルが定着する。

・考えたことを英語で表現する能力を向上させることができる。。

・自ら想像をふくらませることで、行間を読んだり、自身で考える力が身につく。

・自分の知識と本文を結びつけることができる。

 

 今回の授業を通して、教師の立場になってみて、生徒の反応を見ながら授業を進めることは難しいことなのだと改めて感じた。この生徒が中学生と考えるとなおさら難しいだろう。教師は、生徒が本文の内容をしっかり理解できるように授業の流れを考えるだけでなく、実際にスムーズにその流れに沿って授業を進められるように、細部にわたる工夫や準備が必要だと感じた。加えて、1つ1つのQ&Aも、ただ質問するだけでなく、“生徒にこのように理解してほしい、このように読んでほしい”という意図がなければ、そのQ&Aも意味がないものになってしまうと感じた。生徒の本文の内容理解を深めることだけでなく、そこから発展させて、自分自身で考えさせることはアウトプットやインテイクの点でも非常に効果的である。先ほどまとめたように、生徒の興味・関心を引き出し、学習意欲を向上させて、楽しく能動的に生徒が学ぶことができるプラスのサイクルを生産することが中学生の本文の内容理解を深めるために最も重要なのではないだろうかとこの第3章を担当してみて感じた。

  これからも続く英語指導の学習を通して、自分なりにどのような指導が効果的で、それは生徒にとってどのように役に立つか考えていきたい。