12.1 ディスカッションの準備活動

12.1.1 グループ内英語発話練習(Intergroup Utterance Practice)

・最初から本格的なディスカッションを英語で行うのは困難。

・そこで、帯学習としてグループ内での「英語発話練習」に取り組み、ディスカッションの準備活動を始める。

具体例

A)「テーマトーク」(Theme Talk in English)

・あるテーマについて英語のおしゃべりタイム(「テーマトーク」)を授業で約5分間行う。その時々のテーマを与え、英語で自由に話させる。

・始める前に、司会と記録係を最低決め、終わったら記録用紙を回収する。

 

B)2枚の絵の違い探し(Spot the Differences)

・間違い探しの絵を2枚用意し、違う箇所を自由に言わせる活動。

・発言せずに聞き役になってしまう生徒を作らないように、グループ全員が発言できるようなルールを決めておく。

 

C)「もし無人島に行ったら」(If you had to stay on a desert island for a month, what one thing would you take with you?)

・こういったテーマで自由に意見交換させる。その際、必ず理由を含めるように指示する。

 

D)「もしタイムトラベルができたら」(If I could travel through time, I would…)

・これもこのテーマで自由に意見交換させる。

 

A)D)における注意点

・実際にこのような活動を行っても、口をつぐんでしまう生徒や、良い雰囲気で行わないグループが出てくる可能性がある。

・このようなときは、「発言した文の数を記録して提出させその点数を平常点として評価にいれる」というような、評価を可視化する方法を取り入れると良い。

・そうすることで生徒はより積極的に英語を話そうとするようになることが多い。

 

12.1.2 ディスカッション練習としての「ディクトグロス(Dictogloss)

(1)英語での協同学習の困難性

・英語は協同学習が最も難しい科目であると言われており、英語授業では、生徒の熟達度に大きな差があり、全員の生徒に適した「背伸びとジャンプ」の課題を設定するのが非常に難しい。

・しかし、ディスカッションなどの音声でのアウトプットの活動においては学力差がそれほど目立たないため、協同学習を取り入れ、「背伸びとジャンプ」の課題に挑戦させることは十分可能。

・アウトプットの活動を一人でやらせるより、協同学習を取り入れることにより情意フィルターを下げ、取り組ませやすくすることができる。

 

(2)協同学習を成立させる条件

・協同学習を効果的に進めるためには次の5つの基本的構成要素を組み込む必要がある。

 1.互恵的な協力関係(positive interdependence)

 2.個人の責任(individual accountability)

 3.グループの改善手続き(group processing)

 4.社会的スキル(social skills)

 5.対面しての相互作用(face-to-face interaction)

・つまり、メンバーが互恵的な協力関係にあることを理解しており、自分の役割に対する責任を持ち、学びと成功を援助し合い、協同学習に必要な対人関係技能やスモール・グループの技能を適切に用いて、いかに効果的に協力できるかについてグループとして常に改善を図る、という5つの要素が不可欠。

 

(3)ディクトグロスを用いた協同学習とディスカッション

・ディクトグロスは、協同学習を含む活動で、英語授業で比較的容易に取り入れられる。

手順

1)    テキストのトピックの短い導入

2)新出語や綴りの難しい単語の導入

3)教師によるテキストの音読(生徒は聞くだけ)

4)教師によるテキストの音読(生徒は内容語のみメモを取る)

5)メモを基に英文を再構築(個人学習)

6)メモを基に英文を再構築(協同学習)

7)音読した英文を配布、確認

次の時間に

8)各グループの再構築した英文を配布し、クラス全体で英文を分析

 

・この活動は協同学習の座席(できれば男女2名ずつ)で行い、生徒は必ず全員役割をもたせる。

・テキストは45文からなる物を用いるのがよい。

6)の協同学習を行う際にお互いが再構築した英文を材料に、英語でディスカッションしながら元の英文の内容に最も近い英文をグループとして完成させる。

・文法的に正しければ元の英文と異なる文構造、語句を用いていても問題ない。

 

12.2 ディスカッション指導の一連の流れ(テーマの決定からまとめまで)

(1)ディスカッションとは何かについての導入

・ディスカッションの意味や手順、ルール、目的を説明する。

 

(2)ディスカッションで用いる表現の導入

・ディスカッション中で用いる表現、司会・進行役のための表現の導入を行う。

・その表現の意味を理解し、発音練習させたり、実際のディスカッションの実況中継のスクリプトを配布し役割音読をさせたりする。

YouTubeなどで公開されている英語のディスカッションをモデルとして視聴させるのも参考になる。

 

(3)テーマの決定

・生徒が話したいテーマを選ばせることが大切であるため、全員にディスカッションしたいテーマを英語で出させる。その中で相談しディスカッションに適したテーマを絞り込む。

 

(4)グループの決定(役割の決定)

・極力4人ずつのグループを作るようにする。

・グループが決定したらその中での役割分担(司会・進行、記録、準備、盛り上げ)をさせる。

 

 

◎ディスカッションポイント

実際にディスカッションやディクトグロスを英語の授業内で行うとなるとかなりの時間を要すると考えられ、教科書を用いた通常の授業がなかなか進まないことが伺えるが、中学高校の英語の授業でこのようなアウトプットの必要性はどれほどのものなのか。

・アウトプットは必要である。このような活動を行うことで英語になじむことができる。また、ディクトグロスのように聞いた内容を書き取ることで総合的な英語力が身につくと考えられる。「さらに英語を上手く書けた」という自信がつくことも考えられる。

・教科書を用いた通常の授業を阻害しない程度に、空いた時間などを利用してミニ・アクティビティとしてこのような活動を導入するとよい。あるいは、なるべく早く、進めなければならないところまで教科書を進めておき、こういった活動を行うのもよい。